やまうちのなく頃に 作:おやまうちさま
「誰が1番おっぱいがでかいか賭けようぜ」
最初のプールで男子が盛り上がるネタだ。
俺も最初の時は、うっひょーとかやってたけど、目ぼしい人物は見学で、水着に着替えないことを知っている。
そのせいで、真面目君モードとは無関係に、イマイチ乗れないイベントになっちまった。
佐倉とか長谷部が参加してくれりゃ、うっひょーなんだけどな。
昼休みに午後のプールにむけて、博士主催で寛治や健を中心に盛り上がっている。
冷ややかに見たりはしねえけど、俺はちょっと距離を置いてる感じだ。
「松雄は参加しねえの?」
「そうだな。じゃあ、長谷部に一口乗っとこうか」
「おーーー、長谷部か。見る目あるなぁ」
寛治に声をかけられた松雄が、一口1000ポイントの投票を済ませた。
博士がタブレットで作成した自前の投票システムだ。
男子からの人気度に応じて、オッズが変動する優れもので、博士のガチっぷりが分かる。
「山内は投票しないのか?」
「うーん、やめとく。実際に優劣つけるのは難しいっしょ、後でどっちがデカいとかで揉めたくないじゃん」
「へー、山内って大人なんだな。けど、そうだな。盛り上がるのもいいけど、ほどほどにしとけよ。もし問題になったら女子から嫌われるからな」
松雄が俺の意見を取り入れて、寛治たちに軽く注意する。
「分かってるって、そんなヘマしねえっつーの」
「計画は万全でござる。拙者の測定に誤りはないでござるよ」
博士が言うとガチっぽいから困る。
それにしても、松雄は流石って感じだ。
男子が盛り上がっている場で、しっかりと自分も一口乗って参加する。
それも優勝候補の長谷部で、そういうノリというかしっかり見るべきところは見てるってのが分かる。その上で、締めるところは締めるつーか、上手く盛り上がりに水を差さないように、注意してんのがすげえ。
綾小路は、なんかあれだったもんな。
あいつには信念がねえよ。
だってあいつ、毎回投票する女子が変わるんだぜ。
女子に興味があったら、己が決めたおっぱいに一直線だろうが。そもそも女子のおっぱいと名前が一致してない感じで、そんなんで参加されてもノリが悪いのよ。
本人無自覚で気づいてなさそうな感じなのがな、松雄とは偉い違いだぜ。
平田は平田で冷めてる感じで、特に止めもしないけど参加もしない。
そんな感じだからいけ好かないやつッて、男子から思われてるんだよなぁ。
平田が急に「佐倉さんのおっぱいが1番だと思う」とか言い出しても、ビビりそうだけど。
もちろん結果は、優勝候補の佐倉も長谷部も授業は見学で、全員に返金されるというお馴染みのパターンだった。
場を用意した博士はドンマイだぜ。
それはそうとしてプールの授業だ。
「……お前、運動出来んのかよ」
「それなりにな」
体育の授業といえば、健の独壇場だ。
平田とか三宅とかそれなりに動けるやつもいるけど、健に並ぶやつはいねえ。
唯一例外があるとすれば、高円寺がいるっちゃーいるけど、あいつはそもそもやる気がないから健と張り合ったりとかしない。
偉そうにしてるだけで、健から逃げてるんだろうな、ダッセ―。
そんな健に待ったをかける男が現れたってわけ。
現れたってところで察してると思うが、松雄栄一郎だ。
健とか高円寺みたいにガタイがいいって感じじゃないが、水着になった松雄は見るだけで引き締まっているのが分かる。
なんだよー、顔がいい上に運動までいけるのかよ
「松雄君、かっこいーー」
「ありがとう、佐藤さん」
佐藤の目がハートマークになってやがる。
佐藤ってあんなに惚れやすかったっけ?
「松雄、50メートルで勝負しようぜ」
「分かった。やろうか」
そんな女子からの声援に対抗して、健が松雄に勝負を挑んだ。
既に注目度の高い松雄 VS ある意味一番目立ってる健
自由時間で遊んでいた生徒も、プールから上がって2人の勝負を見守る形になった。
「松雄くん、がんばってー」
「須藤、絶対勝てよーーー」
女子からは松雄、それに対抗して男子からは健を応援する声が上がる。
「山内くんは、どっちが勝つと思う?」
「く、櫛田ちゃん!? ……ど、どっちだろう、健じゃね」
「へー、山内くんは須藤くんを応援するんだね」
水着姿の櫛田ちゃんに話しかけられて、思わずどもっちまった。
前かがみになって、濡れた髪をかきあげてるのが可愛すぎる。
オマケで、ちょっと胸をアピールしてる感じになってるのがたまんねー。
もうどっちの勝ちでもいいや、櫛田ちゃんの勝ちじゃん。
「わ、タッチの差だったけど須藤くんが本当に勝っちゃった。山内くん、見る目があるんだね」
「任せとけって、俺にかかればこんなもんよ」
よかったー、適当に健の体力バカにかけといて。
櫛田ちゃんからの好感度も稼げて、水着姿も拝めたし、最高のプールだったぜ。
にしても、健って水泳も相当はええのに、その健とタッチの差って松雄もやばくないか。健のタイミングでスタートしたから、松雄は出遅れてたし。
もう一回やったらどっちが勝つか分かんねーぞ。
◇◇◇
5月。
「……ポイントが支給されてるじゃん。それも4万近く」
いやっほぉおおおおい。
毎度おなじみでほぼ消滅するDクラスのクラスポイント。
俺が何度も繰り返して、頑張りまくってどうにか残ったのが50くらいだっけ?
それが今回は、397ポイントも残すことに成功したらしい。
「すっげー、一気に何倍だよ」
俺すっげぇえええ、一気に伸ばすことに成功したぜ。
あ、あと松雄もまあまあ頑張ったと認めてやってもいいか。
みんなが新しい学校になれ初めて、授業が荒れ始めた日の話。
「静かにしようぜ」
って俺が先陣を切って注意をした。今回も頑張ったんだぜ。
その後、また荒れだしたタイミングだった。
「みんな聞いて欲しい。授業を真面目に受けろとは言わないけど、真面目に受けてる人の邪魔になるのはやめよう」
と、松雄が俺に続いて注意した。
こんな単純な注意なのに、効果は絶大だ。
「なんだよー、いいじゃんか別に。先生は注意しないし」
すぐに反発したのが寛治。
ここまでは俺が注意した時と一緒で、またこのパターン化って諦めていた。
が、
「男子、黙りなさいよ。松雄君の言う通りでしょ、授業の邪魔はしないでよ」
「そうよー、静かにして、さっきから煩い」
「は? お前らも喋ってたじゃん」
「もうやめたから、迷惑かけんなっつーの」
「なんだそれ……」
女子が松雄の注意を受けいれて、授業中は大人しくするようになった。
こうなってしまうと弱いのは男子だ。
女子から嫌われるのを覚悟の上で、授業の妨害を続けるのか、諦めて大人しくなるのか。
結局、寛治たちは女子からの視線を気にして大人しくなった。
こうして授業中の平和を手に入れたDクラスは、クラスポイントを大幅に残すことに成功したってわけ。
俺だけの力じゃないけど、先陣を切った俺と続いた松雄で半々くらいの活躍じゃん。
つーことは。200ポイントは俺のおかげだな。2万ポイント分感謝して欲しいくらいだぜ。
「あーあ、これじゃ寛治の山菜定食は見れないかなぁ」
前回でせっかく味を占めたのに、4万くらい支給されたらランチくらいは余裕っしょ。
ちょっと残念だけど、貧乏よりはマシだからいっか。
あ、そうだ。残念と言えばさ。
櫛田ちゃん。
櫛田ちゃんが残念ってわけじゃねえぞ。綾小路にあやかってさ、俺もラッキースケベ出来ねえかなって思って、知恵を働かせたわけよ。
操作ミスを装って、テレビ電話をかけたらさ、繋がらずに切られちまった。
『山内くん、テレビ電話になってたよ。出れなくてごめんね、ミスかな? 山内君が操作ミスって珍しいね』
で、櫛田ちゃんからってメッセージが届いたわけ。
『ごめんごめん、ボーっとしてたみたい。俺くらいになったらミスとか滅多にしないし』
『あはは、流石山内くん。で、何か用かな? かけた方がいい?』
『いや、大丈夫、ごめんね』
つーわけで、俺くらいのレベルになると、櫛田ちゃんに間違えてテレビ電話をかけたりしない。
ったく、綾小路のレベルの低さがラッキースケベに繋がるとかさ、ずるいっつーの。
綾小路は元気にやってんのかな。
知らないから仕方ないけど、綾小路が居ない方がDクラスが上手くいくってしったらショックだろうなぁ。
◇◇◇
中間テストに向けたミニテスト。
見慣れた上位陣、幸村とか堀北の名前の中に松雄の名前もあった。教科によっては1位を取っている。
運動は健並みに、コミュは寛治並みに、んで勉強は幸村並みに出来るらしい。
なにそのスーパー超人。
あーあと、俺並みの発想力も持ってるな。
そりゃ、佐藤もキャーキャー言うわな。
佐藤だけじゃない、軽井沢も結構松雄くん松雄くん言ってる。
もしかして平田が寝取られてる状態か!? ドンマイ平田。相手が悪かったな。
なんつーか、綾小路の代わりに平田がもう1人いると思ったら、平田の上位互換が居たって感じ?
すげえな、綾小路と松雄で0点が95点になるくらい違いがあるじゃん。
これ今回が大チャンスなんじゃね?
俺、櫛田ちゃん、平田に加えて松雄とか、もうCクラス通り越してBクラスとも戦えそうじゃん。他にも、堀北とかもいるし。
俺の計画だとクラスポイントを500残せれば、最初の時と同じ流れでAクラスに追いつくって計算だったはず。今回は400くらい残してるから、どっかの試験でプラス100点上乗せできれば、一気にAクラスじゃん。
いやー、松雄最高だな。
ポイントにも困らないし、クラスは上に行けそうだし。
「山内はテスト大丈夫?」
「任せとけって、中間テストは自信あるから」
松雄の声掛けには、胸を張って答えておいた。
前回は余裕ぶっこいたけど、Cクラスで櫛田ちゃんがいなくて失敗しちまっただけだ。
今回は櫛田ちゃんがいる。
ってことは、過去問が手に入る。
俺に死角がない。失敗ってもんを教えて欲しいくらいだぜ。
◇◇◇
試験前日。
「あれ、櫛田ちゃん」
「どうしたの山内くん」
「何かあるんじゃないか?」
「えっと……何かあったかな……あ、明日テストだし勉強頑張ろうね」
「もちろん任せとけって」
放課後、特に何もなく席を立とうとしていた櫛田ちゃんを捕まえることには成功した。
でも、過去問を貰うことには失敗していた。
どどどど、どういうこと。
櫛田ちゃん、過去問は?
なんでだよ。
くっそー、結局一夜漬けで挑むしかないのかよ。
結果はもちろんこうなった。
「山内、お前は退学だ」
「……櫛田ちゃんの裏切り者ぉおおおおお」
ん? 今「あぁん?」ってドスの利いた女の声が聞こえたような。
気のせいだろうな、バスの中だし。
あーあ、櫛田ちゃんのせいだよぉおおおお。
声優ラジオのウラオモテの最後を見届けるために、明日の更新休みを告げるやまうちのなく声だけが変わらず、
毎度、お馴染みの退学を告げていた。