やまうちのなく頃に 作:おやまうちさま
「綾小路かよ、外れ回じゃん」
何度目かのやり直し。
残念なことに、松雄というキーマンを失い、綾小路に戻っていた。
当然のように今回もDクラスだ。
くっそーーー、振り出しに戻ったって感じだぜ。
全部櫛田ちゃんが悪い。櫛田ちゃんが過去問を用意さえしてくれていれば、Aクラスに上がれたのに。なんでサボっちゃったのかな、櫛田ちゃん。
いや、俺だって分かってるよ。中間テストに向けて勉強しないのかってことだろ。
でもさー、俺が勉強するってことは、櫛田ちゃんを信用してないってことになるじゃん。
俺は1回の失敗で、櫛田ちゃんを疑ったりとかしたくないの。
そんな器のちっちゃい男とか、ダサいだろ。
だから俺は櫛田ちゃんが過去問を持ってきてくれるってことを信じて、中間テストまでは勉強しないって決めてるんだ。
その方がかっこよくね?
俺がクラスで一番櫛田ちゃんのことを信用してるってことに、櫛田ちゃんも気づいて欲しいぜ。
松雄がいなくなったのはきっついけど、頑張るか。
◇◇◇
「でさー」
「だよなー」
「そういえばさ、昨日のアレみた?」
よーし、順調に授業が荒れだしたな。これぞDクラスって感じだ。
これをどう食い止めるのかが、Dクラスのコツってやつよ。さすがにもう俺も分かってきてる。
つーか、松雄っていう最高のお手本があったんだから、それを真似しない手はねえよな。
静かにしろってだけだと反発を食らう。
えっと、なんだっけ。真面目ってのと、邪魔ってワードを使う。
オーケー、俺の出番だ。
松雄の力を引き継いだ、ニュー山内の力を見せてやるぜ。
「なぁ、真面目に邪魔をするのはやめようぜ」
「何言ってんだ、山内」
「真面目に邪魔をするって……ぷ」
「はーい、真面目には邪魔しませーん」
あーれー?
おかしいなぁ?
うーん、松雄と俺じゃ、顔が違うのか。くっそー、イケメンはこれだから嫌いだ。
俺一人だとこんなもんか。やっぱ俺と松雄の併せ技じゃないとだめなのか。
こういう時、平田とかが続いてくれたらいいんだけどさ。あいつは結局、クラスの顔色を見るから、あんま強い注意みたいなのはしないんだよなぁ。
使えそうで使えねえぇええええ。
ちょっとは残ってくれよ。クラスポイントさんよぉ。
◇◇◇
一気に飛んで、毎度おなじみの健の暴力事件が起きた。
これまでの流れは、だいたい同じだ。
俺は真面目君モードで、やや孤立気味。
クラスポイントは、5月に55残って、6月に6になった。
中間テストは、俺の信頼に応えてくれた櫛田ちゃんが、過去問と模範解答を用意してくれて、乗り切ることが出来た。これで7月からは、クラスポイントの100の大台が見えている。
にしても、健は毎回赤点回避に1点足りてないのに、突破するのずるくね?
赤毛だから赤点でもセーフとかあんのかな。
染めるのはちょっとこええし、似合いそうにないから無理だ。
ま、全員突破してるから良しとしよう。健がいないと寂しいしな。
牧場事件への対処だ。
とりあえず、目撃者を探す協力をする。
堀北が佐倉に言及したタイミングで、本堂を連れ出す。
これで佐倉のデジカメが壊れるのを阻止できるっつーわけ。
今回は綾小路がいるから、壊してしまって修理に付き合うパターンは封印だ。
あーあ、本当になんで綾小路なんだろう。松雄がよかったなぁ。
「目撃者探そうぜ」
よし、これで櫛田ちゃんや寛治たちと一緒に行動──
「俺も付き合う」
「ゴフゥ……拙者も付きそうでござるよ」
──本堂と博士かよ。なんでやねん。
結局、聞き込み調査に出たはずが、駄弁るだけで終わってしまった。
誰にも声をかけていない。聞き込みってなんだっけ。
いや、俺はいいのよ、佐倉だって知ってるから。無駄な行動を控えただけ。
本堂と博士はさ、少しは声かけたりしろよな。
参加してくれただけ嬉しいけどさ。
ほら、寛治とは微妙な仲じゃん?
だから本堂と話す機会がちょっと増えたっつーか、佐倉のデジカメを救うために、いつでも連れ出せる準備をしてたらこんなもんよ。
博士は知らん。いつもと変わらない感じだったはずなんだけどな。
◇◇◇
「本堂、飯食いに行こうぜ」
堀北が動き、櫛田ちゃんが佐倉に目撃者のことを聞きに行ったタイミングで、俺も動く。
本堂を捕まえて回避だ。
「別にいいけど、あ、ちょっと待った。教室に忘れ物が」
「行こうぜ、そんなもんいいじゃんか。奢るからよ」
「マジで? それならいっか」
行かせねえよ。
多少強引になってしまったが、鬼回避だ。
ふー、危なかったぜ。
教室を出る佐倉とぶつかったのは、忘れ物を取りに戻るためだったのか。
新しい発見と奢りで2000ポイントの支出と引き換えに、佐倉のデジカメが壊れる事件を回避した。
そして、健が停学になった。ペナルティーでクラスポイントは0だ。
佐倉が証言しなかったらしい。なんで?
「だからさ、佐倉ぁああああああ」
どういうことだよ。
うーん。なかなか全部が上手く待ってくれないもんだぜ。
◇◇◇
無人島上陸。
やり直しをはじめてからの最長記録に挑戦できる。
前回は、慌ててスポットを探しに行って、健がリタイアする羽目になったので、今回は落ち着いている。
名付けて、寛治に便乗しよう作戦だ。
いやさ、微妙な仲とはいえ、クラスの為のスポット探しなら断れないっしょ。
寛治と一緒にスポットを見つけて、クラスから賞賛されようぜって作戦だ。
ついでにどうにか健も連れ出して、停学で失ったクラスの信用を回復させてやろう。
ちょっと健が可哀そうだもんな。佐倉のせいで停学とかさ。
それにしても、佐倉はなんで証言しないんだろう。
佐倉の気まぐれに振り回されるとか、勘弁してくれよ。
やっぱ、信用できるのは櫛田ちゃんだけか。
櫛田ちゃんは過去問をくれる。そこは信用して間違いない。
試験が始まるまで分からないけど、佐倉と綾小路がどうなってるのかも注目している。
現状は親しそうに見えないし、デジカメの修理がやっぱりキーだったっぽい。
綾小路悪いな、佐倉との仲を引き裂いちまって。
あれ? でもよくよく考えてみたら、引き裂くだけで俺が佐倉と仲良くなってねえんだから、本堂を止めたのって意味あったのか? 2000ポイント損しただけじゃね。
そ、そんなわけないよな、佐倉のデジカメが壊れなかったんだから良いことじゃん。
イイコトして悪いとかねえって。家電屋のおっさん怖えし。
あ、長ったらしい説明が終わって、トイレをどうするとかで揉めだした。
その間にも、他のクラスが動き出してる。やっぱりDクラスってまとまりがねえんだよなぁ。
松雄がいてくれたら……考えても無駄だけど思っちまう。
「悪い、トイレ使わせてくれ」
で、健が簡易トイレを持って消えていった。
行動は残念だ。だが、これで健のリタイアフラグを潰すことが出来た。クラスからひそひそ言われてるけど、そこはしゃーない。
リタイアするよりマシだろうがって叫びたい気分だぜ。
あとは戻ってきた健と一緒に、寛治のスポット探しに便乗するだけっと。
「あーもう。ここで話し合ってても埒が明かねえ、俺はスポット探しに行ってくる。幸村、トイレだけは絶対阻止しろよ」
「任せろ、トイレなんかいらないからな」
そうそう、これよこれ。寛治と幸村のキセキのタッグ。
幸村ってたまに偉そうなんだよなぁ。なんつうの? ザ・正論くんってやつ。
それで行動が伴っていたらいいんだけどさ、勉強だけって感じなのがな。幸村の限界ってやつ?
って、幸村の評価してる場合じゃねえ。
「池、俺と須藤も行かせてくれ。3人なら安全だろ」
「いいけど……足、引っ張んなよ」
「任せとけって……そういうわけで、平田、後は任せた」
「必ず個人行動は避けること。お願いするね」
「おうよっと」
タイミングよく仮設トイレ(使用済み)を手にして戻ってきた健も捕まえて、寛治、俺、健のゴールデントリオで砂浜を出て森に入った。
「スポットってどんなのがあるんだろうな」
「つーか、見つけても分かるのかよ」
「それは分かんじゃね。占有がどうたらって言ってたし、どこがスポットか変わらなかったら、占有もくそもないじゃん」
寛治は、森の中を歩き慣れているらしく、サクサクと進む。
それに体力バカの健が並び、俺がやや遅れてその後ろを歩いていた。
こいつら俺のこと考えてねえな。
「水とか確保できねえかな、水は絶対に必要だろ」
どうにか追いついて、会話に交ざる。
さりげなく水源へと誘導だ。俺、ナイス。
「あ、それいい。水さえあれば大体のことは何とかなる」
「そうなのか?」
「料理の幅も広がるし、トイレの後で手を洗ったりとかって須藤は手を洗ったのかよ」
「簡易トイレにそんなもんあるか」
「うわ、ばっちぃ」
「あぁん? 喧嘩売ってるのかよ、服で拭いてやろうか?」
「うわぁ、やめろって……」
うへぇ、絶対に水が必要だ。トイレした後で手すら洗えねえとか無さ過ぎる。
俺が手を洗ったり水を飲む時は、絶対に健よりも上流にしよう。
健よりも下流で手を洗ったら……考えるだけでぞっとする話じゃん。
「あとは食料な、どっかに食べられるやつとかねえかな」
「あ、そっか。食料も自力でどうにかしないといけないのか。うーん、これくらい木が茂った森ならそこそこ見つかりそうだけどなぁ」
「そうなのかよ、池」
「森って、食い物の宝庫なんだぜ。どれが食えるか見分けるのが大変だけど……あ、ヘビイチゴじゃん。これはいけるやつ」
早速寛治が何かを発見していた。
草をかきわけて、ゴソゴソしたかと思ったら、手には赤い実が3つ載っている。
普段目にするものからしたら、かなり小さくて形が悪いイチゴだ。
「ほら、食ってみ。上手いって」
「けどよぉ」
寛治が差し出した苺を健が躊躇する。
そりゃそうか、見た目が悪いもんな。
実は、俺はこの苺を知っている、サバイバル動画の常連だから。
「貰うぜ。おお、酸っぱいけどいけるじゃん」
「だろ。俺もっと、うーん、この味この味」
中々酸味が利いてるけど、食えるっちゃー食えるくらいの味だ。
俺と寛治が食べているのを見て、健もようやく手を伸ばした。
「……本当に大丈夫なんだな」
「俺も山内も食ってるのに、ビビってるのかよ」
「別に、ビビってねえし、食えばいいんだろ、食えば……おお、ん、こんなもんか」
健はあんまりお気に召さなかったらしい。
美味しいってものでもないから、分からなくもない。
……健ってトイレの後、手を洗ってないって言ってたよな。
駄目だ、それ以上のことは考えるのをやめよう。
小休止を挟んで、再びスポット探しを再開。
今度は、やる気満々の寛治が先導して、俺と健がその後ろに続く。
スポットを探して、周囲をきょろきょろしながら寛治を見失わないように歩く。
「お……」
「スポットか?」
「いや、実がなってる」
木の枝に果物らしき何かがついているのを見つけた。
ひょい、とジャンプして一発でキャッチ。
サクランボっぽいけど、色は緑だ。
これもサバイバル動画で見覚えがあるな。
「これも多分食えるやつ、しかも甘かったはず」
そんな記憶があった。なんかドタバタしててちょっと動画漁れてないから記憶が曖昧だけど、まあ大丈夫だろ。特別試験中は、だいたいの実とかが食べれたはずだし。
「マジかよ、よこせ」
「分かってるって、山分け山分け。2個しかないから池には内緒な」
「おう、こっそりなこっそり」
2個のうち1個を健に渡すと、健は口の中に一口で放り込んだ。
「うぉっおおおおおおおおぇえええええええ」
そして、盛大に吐き気を催しだした。
「ど、どしたんだよ、2人とも」
健の大声を聞いて、慌てて寛治が駆け寄ってきた。
「それが須藤が急に気分が悪くなったみたいでさ」
「大丈夫か──って山内、それエゴノキじゃん」
目ざとく俺が手に持っていた木の実にも気づかれてしまった。
「エゴノキ?」
「それ食えないやつだぞ。須藤はまさかそれを食ったのか」
「オェェエエエ」
健は盛大に苦しんでいる。寛治はその健の背中をさすってみるも、状況は好転しない。
「あー、これはダメだ。緊急ボタン押そう」
「は? そしたらポイントが」
「命には別条ねえと思うけど、無理だろ。さっさと先生たち呼んだ方がいいって、えっと腕時計をどうするんだっけ」
健の腕時計をどうにかこうにか操作して、無事に健を先生に引き渡すことに成功した。
「……マジか」
ほ、ほら、健の食い意地が張ってるからこうなったわけで、健には食わないって選択肢もあったはず。
あーあ、結局、どうあがいても健はリタイアする運命なのかな。