やまうちのなく頃に   作:おやまうちさま

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ループ8回目その2 下着泥棒の犯人は

 ったく健の食い意地が、Dクラスにダメージを与えやがった。

 キャンプが始まったのに、スタートから不安じゃん。

 

 健のリタイアは痛いけど、終わってしまったもんはしゃーない。

 そのロスを除いたら、無事に川の水辺スポットを確保できたし、プラマイゼロくらいだと思う。

 

「え? 水なんか飲めるわけないでしょ」

「大丈夫だって、澄んでて美味そうじゃん」

 

 そういえば、水を飲む飲まない論争があったか。

 今回も川の水を飲みたい寛治と、嫌がる篠原のバトルが始まった。

 健がお腹を痛めるように、寛治と篠原は争う運命にあるらしい。

 

 ……前回は俺も参戦したけど、今回は見送ろっかな。

 結局、初日は水を買って、2日目以降は川の水でしのぐ流れは変わんなかったし、女子に嫌われるのは寛治だけでいいじゃん。

 冷静な判断だろ。

 

「それでお腹壊したらどうするの」

「そうよ、須藤君はそれでリタイアしたんでしょ」

「す、須藤は、エゴノキっていう食べられないものを食べたからで」

「水が飲めるって保障もないでしょ」

 

 あれ? なんかいつもより寛治が劣勢じゃね?

 

「それは……」

「ほら黙った。川の水なんか飲まないから、これ決定ね」

「さんせーい」

「ああもうわかった。勝手にしろよ」

 

 寛治? もうちょっと頑張れよ寛治。

 

 俺が様子見をしている間に、決定してしまった。

 反論したいけど、もうこの決まった流れを覆すのは無理じゃん。水って毎日買ってたら相当ポイント使うだろ。

 

 水は1食6ポイントだっけ。たしか、食料とセットなら10ポイントとかのはず。

 7日間だと水だけで42ポイントじゃん、やばくね!?

 

 健のやつ、プラマイゼロどころか大きなマイナスじゃねえか。

 あーあ、何やってんだか、健。

 

「気を取り直して、頑張るか」

 

 クラスの窮地を救えるのは、俺しかいない。

 とりあえず火起こしだ。寛治は、篠原達にやられていじけ中。

 俺が火起こしするチャンスってわけ。

 

「乾いたやつ、乾いたやつっと」

 

 さすがに3回目ともなれば、慣れたもんだ。

 適当に協力してもらった仲間とひょいひょいと枝を拾い集める。

 

 もちろん細い火のつきやすい枝も確保済みだ。

 今回は、絶対に伊吹ちゃんを拒否してみせるぜ。

 

「ちょっとあっちに何かあるのか回っていこうぜ」

「枝持ったままでか?」

「いいじゃん、行こうぜ」

 

 ちょっと渋られたけど、帰りは迂回ルートを選択。

 これで伊吹ちゃんが待ち構えている場所を回避することができた。

 

 慣れない道に苦戦しつつ、ベースキャンプに戻る。

 

「なんかいるし!?」

「枝を集めてきてくれたんだね、ありがとう山内くん」

「ひ、平田、あの子は?」

「ああ、彼女は伊吹さん。Cクラスを追い出されたんだって、池くんが連れてきてくれたんだ」

 

 寛治ぃ、そこは素直にふてくされとけよ。何連れてきてんだよぉ。

 俺が回避しても、誰かが連れてくるように出来てんのかよ。

 

 無事に、火をつけるという大仕事を担うことが出来たものの、なんかスッキリしねえ初日となってしまった。

 

 

   ◇◇◇

 

 

 2日目。

 今日も水を買った。ポイントがジワジワ削られていく。

 寛治は、川の水をゴクゴク飲んでたけど、白い目で見られたままだ。

 ペットボトルの水の方がやっぱうめえし、クラスポイントを考えないのならこっちがいいけどさ。一人だけ川の水を飲む寛治が、野蛮に見えて泣けてきた。

 

 で、今回のキャンプの方針。

 結局、伊吹ちゃんというスパイが入り込んだから、対策が必要になる。

 

 伊吹ちゃんが引き起こすのって、軽井沢のパンツ事件だよなぁ。

 伊吹ちゃんをとっ捕まえてつきだせば、クラスの英雄になれるし、スパイからリーダーを守ることが出来るはず。

 あれって4日目だっけ、5日目だっけ?

 朝起きたら事件が起きてたから、犯行は夜。ってことは寝ずの番が必要ってことか。

 

 前の時は、日中に付きっきりで見張ってたのが失敗だったってこと。夜寝てたし。

 よーし、俺も失敗から学べてる。

 

 あとは水と食料だけど、とりあえず前半は問題ないはずだし、ちょっと遊びに行ってくるか。

 前回は遊びたくても遊べなかったしさ。食料は俺がいなくてもなんとかなるっしょ。

 

 つーか、水6P、食料6P、セットで10Pだから水だけ買うのは勿体ないんだよなぁ。

 水を買うんだったら、チマチマ食料を集めるよりセットで買った方が合理的だし、正解だろ。

 1食あたりトータルで2P。1日2食と考えたら7日で14Pも得になる。

 釣り竿とか調味料のレンタル代もかからないし、悪くないんじゃないか。

 

「つーわけで、遊びに行こうぜ」

「いや、食料集めだろ」

 

 なんだよ、ノリが悪いなぁ。

 まあいいか。たまには一人で泳ぎにでも行こう。あんま海で泳ぐのって好きじゃないけど、全身動かすのも悪くないしな。

 

 

   ◇◇◇

 

 

 4日目。

 

「ふあーあ、眠い。悪い、ちょっとテントで寝とく」

 

 軽井沢パンツ事件の対策で、昨日の夜から寝ずの番だった。

 おかげで超眠い。

 相変わらず水は買い続けてる。食料は買ったり買わなかったりだけど、結局釣り竿はレンタルして、調味料は買った。

 キャンプポイントがあとどれくらい残ってるんだっけ。

 ま、いっか。

 堀北がリーダー当てるはずだし、健がリタイアした分がマイナスだったとしても、そこまで悪い結果にはならないっしょ。

 

 そんなことよりも今は寝とこう。

 日中に寝とかないと、伊吹が見張れないし。

 幸いというか、テントの奥の方ならそこまで光が入ってこないから、暑いのだけ我慢すれば寝れそうだ。

 

「……独り占めってのもいいじゃん」

 

 8人用テントに9人で寝ているせいで、夜はギュウギュウ詰めになる。最初の時は、これに健までいたんだからどうやって寝てたんだ。

 今は1人だ。大の字になっても余裕があるぜ。

 

 ふぁーあ、寝よう、おやすみ。

 

 こうして俺は眠りについた。

 

 

 夕方から行動を開始する。

 とりあえず飯をすませて、ついでに誰かが集めてきた果物もいくつか夜食用に拝借。

 これで準備万端だ。

 あとは、伊吹ちゃんが動くまでテント前で見張るだけっと。

 

「山内は寝ないのか?」

「悪い、昼寝ちまったからさ、もうしばらく起きてる」

「ほどほどにしとけよ」

 

 初日こそ、無人島生活の愚痴で盛り上がったりしたものの、日が経つにつれて消耗しているのか、就寝が早くなっていった。

 今は点呼後は、スポットを更新したら寝るって感じだ。

 

 だからこそ動きやすくなっているとも言えるし、注意しねえと。

 

「……暇すぎるってダメダメ、俺が伊吹ちゃんを見張らないと」

 

 みんなが寝静まったのを待って、顔を洗うためにテントから離れて川へと歩く。

 イビキなどが聞こえなくなると、喧騒が嘘のように静かになっていた。

 

 川の流れる音や、風の音、それが木を揺らす音など自然音だけの世界。

 月明りだけが頼りの夜の暗闇。

 

「なんとか見えてるからいけるか」

 

 かろうじてだが、視界は見えている。誰かが動けば分かるはずだよな。

 女子も男子も、テントは人数オーバーなせいで、荷物は外に置きっぱだ。

 だからこそ寛治の鞄に、勝手に盗んだ下着を入れたりとか起きたわけで、見張っとけば防げると思う。

 

「つめてっ」

 

 顔を何度か洗って眠気を飛ばして、近くの森へ。身を潜めて男女どちらのテントも見える位置に陣取って、木に隠れるようにして背中を預けた。

 あとはじっと待つだけ。あーあ、誰かを誘えればなぁ。

 つっても、パンツが盗まれるかもしれないから、見張ろうぜ、とか言えるわけねえし。

 

 昨日はまだ色々考えることがあったけど、2日目となるとさすがに考えることが無くなっちまった。2日続けて空振りだけは勘弁してくれよなぁ。

 出来るだけ早く伊吹ちゃんが動いてくれますようにっと。

 

 

 何度確認しても進みが遅い腕時計を、飽き足らずに確認した時だった。

 

「……ッ!?」

 

 今、物音が聞こえたような。

 じっと、ベースキャンプの方へと目を凝らす。

 ちょうど女子テントから人影が出てくるところが見えた。

 伊吹ちゃんだ。

 

 ど、どどどど、どうする!?

 いや、待て、まだ慌てるな。盗んだのを確認しないとスパイとは断言できない。

 

 お、落ちつけ、落ちつけ俺。こういう時、素数を数えるんだっけ?

 素数ってなんだ?

 駄目だ、分からん。

 

 って、あ、鞄を空けて何か探しだしたじゃん。

 しかもあの鞄は、うちのクラスの奴*1だよな。たぶん一番端に置いてあるのが伊吹のだ。ちょっと色が違うと思う。

 

 何かを抜き取るところまで遠目で見たところで、足音を出さないように気をつけて近づく。

 よーし、これでスパイを現行犯逮捕だ。

 

「何やってんだ」

「え?」

 

 声を掛けると伊吹ちゃんがこっちを見た。

 手には布のようなもの間違いない。やっぱり伊吹ちゃんはスパイだったんだ。

 

「キャーーーーーーー」

「え!?」

 

 俺の姿を見るや否や、伊吹ちゃんが大声を上げた。

 俺が戸惑った瞬間に、伊吹ちゃんが俺のポケットに手に持っていたものをねじ込んできやがった。

 

「な、なになに」

「どうしたの?」

「誰よ、こんな夜中に」

 

 伊吹ちゃんの大声が引き金となってテントから続々と女子生徒が出てくる。

 

「今、外で気配がして様子を見たら、コイツが鞄を漁ってた」

「は、はあ? そんなことしてねえし」

 

 伊吹ちゃんが俺のことを指さしながら、訴える。

 俺は慌てて否定するも、すぐに女子達に取り囲まれてしまった。

 

「鞄を漁ってたのは伊吹ちゃんだろ」

「は? 私がそんなことして何になるのよ」

「それは……」

 

 咄嗟に言葉が出てこない。

 

「怪しい。やっぱり山内くんが漁ってたんだ」

「待ってみんな、証拠もないのに犯人って決めつけちゃダメだよ」

 

 櫛田ちゃん優しい。櫛田ちゃんはやっぱり天使だ。

 

「そ、そうだぜ。漁ってたのは伊吹ちゃんだろ」

「……さっき何かポケットに隠すのが見えた気がする」

「は?」

 

 待て、そういえばさっき伊吹ちゃんにねじ込まれたような。

 

「山内くん、ポケットの中を見せてもらえる?」

「いや、それは……」

「やっぱり怪しい」

「犯人じゃなかったら見せられるよね」

 

 いや、落ちつけ。正直に話せば伝わるはずだ。クラスメイトの言うことと伊吹の言うこと、どっちを信じるのかとか明らかだろ。

 

「さっき、伊吹ちゃんが何かねじ込んできた。それがポケットに入ってると思う」

「は? 私、そんなことしない」

 

 素直に白状したら、伊吹ちゃんに即否定された。

 これで意見が割れた。あとはどっちを信じてくれるかだ。

 期待を込めて、クラスの女子達を見ていくと。

 

「山内、さいってい」

「言い訳にしてもマシな嘘つきなさいよ」

「そういえば山内って、昼間にサボって寝てたよね。このためだったんじゃ」

「うわーーー、マジアリエナイし」

「男子起こしてくる。みんなに知らせないと」

「ちょ、ちょっと待てよ、みんな。俺じゃねえって、俺が軽井沢のパンツなんか盗むわけないだろ」

「なんで軽井沢さんのって知ってるのよ」

「あ……」

 

 なんでだよ。俺は皆のためにスパイを炙りだそうと思って起きてたのに。

 同じクラスの男子と他クラスの女子。どう考えたって疑うのは伊吹ちゃんだろ。

 

 だが、そんな俺の訴えは通らずに、ポケットの中のものは起こされた平田に回収されて、下着泥棒になってしまった。

 

 なんでだよ。ひっでー話じゃん。

*1
鞄はクラスごとに色が違う。Dクラスは青、Cクラスは緑

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