やまうちのなく頃に 作:おやまうちさま
下着泥の濡れ衣を着せられた俺は、ギリギリのところで先生に突き出されなかった。
突き出すことによるペナルティーを避けるという打算的な選択だ。
誰が犯人なのかってのは、うやむやのまま下着泥自体が無かったことになった。
俺が許されたわけじゃない。大半の奴は、俺が犯人だと思ったままだ。
つーか、俺が犯人じゃないのに酷くね?
男子とは一緒にいられないと、女子のテントが離されてクラスは二分されている。
いや二分どころじゃに。細かく言えば男子の間でも割れていた。
「お前、盗みは無いわ」
と、俺と距離を置く奴。
「本当に濡れ衣なのか?」
俺の言うことを否定も肯定もしないやつ。
「よりにもよって軽井沢かよ。見た目はいいけど、性格悪いじゃん」
下着を盗んだ相手をからかう奴。マジでねえわ。
むしろ、軽井沢の下着だったことが俺が無罪だって証明じゃん。盗むのなら櫛田ちゃんにするっつーの。
次点で佐倉とか長谷部か。みーちゃんもいいかも。あのおとなしそうなみーちゃんが意外と派手な下着とかしてたら最高じゃん。
あ、佐倉とか雫ちゃんの使用済み下着として売れば、高く売れそうだしさ。
家電屋のあのおっさんとか10万くらい出してくれそう。
ってなんで盗むことが前提になってんだよ。俺はそんな屑じゃねえし、盗みとかしねえっつーの。
あーあ、腫物扱いがしんどいぜ。
あと2日で無人島が終わりだ。終わったらマシになると思いたい。
◇◇◇
「山内、ちょっと出かけないか?」
「いいのかよ……」
常にだれかに見張られている感じに嫌気がさして、テントに引きこもりがちだった俺に綾小路が声を掛けてきた。
戸惑い気味に返事をする。
「お前は盗んでないんだろ」
「そうなんだよ。聞いてくれよ、俺はやってないってずっと言ってるのに、伊吹ちゃんの嘘に騙されて俺を犯人扱いしやがるんだ」
綾小路は分かってくれたらしい。
さすがは綾小路。見る目のあるやつ。今なら何でも言うこと聞けそうだぜ。
「犯人じゃないなら問題ない。行こう」
「分かった。行く」
こうして綾小路と食料探しに出かけることになった。
「堀北、食料探しに行かないか」
「なんで私が」
「いいから」
「綾小路君たち、お出かけするんだね。私も一緒していい?」
ん? 櫛田ちゃんと堀北が合流した……この流れってまさか。
堀北を泥だらけにするやつじゃねえか。絶対嫌だ。俺はもう二度とあんな死に方はごめんだ。
綾小路め、だまし討ちしやがって、絶対に許さん。
「俺が一緒だとアレだろ。綾小路と2人で行くから」
「そうね」
うう、泥棒扱いされたことを利用するのは辛いけど、それでも泥だらけより泥棒の方がマシだ。
「堀北さん待って。私は山内くんと一緒の方が嬉しいよ。一緒の方が安心できるし。そうでしょ、堀北さん」
櫛田ちゃん。櫛田ちゃんはマジで天使、すっげー優しい。
そうだよな、俺って頼りになるから一緒にいたくなるよな。
「……一理あるわね。行きましょう」
「決まりだな」
って、え? 結局この4人で行動かよ。堀北、何合意してるんだ。心にもないこと言うな。
確かに俺は頼りになるけどさ。
「伊吹、お前も行かないか」
「なんで私が」
「じっとしてても退屈だろ」
「……分かった」
そして、伊吹ちゃんも合流した。
泥棒と偽泥棒を一緒に行動させるって、綾小路の頭はどうなってんだよ。
ついていけねえぜ。
「山内、ちょっと頼みたいことがあるんだが」
はい、来ましたよ。綾小路のお願いタイム。
俺、知ってる。堀北を泥だらけにしてくれってやつだろ。
「嫌だ」
「まだ何も言っていないんだが」
「どうせろくでもない頼みだろ」
「まあ待て、ただでとは言わん」
出た出た。どうせ佐倉のメアドか櫛田ちゃんの動画だろ。
「テレビ電話ってあるだろ」
知ってる。今回は櫛田ちゃんのパターンか。
そりゃそうか。佐倉とは仲良くなれなかったみたいだし。
「間違えて櫛田にかけてしまって、櫛田のうなじが撮れてしまった」
「うなじかよ」
前回の風呂上がりの櫛田ちゃんよりマニアックじゃん。
綾小路、お前に何があったんだ……って、コイツはこだわりがないやつだったっけ。
「どうしたの山内くん?」
「いや、ウナギが見えたかと思ったら勘違いだった。気にしないで櫛田ちゃん」
思わず叫んでしまって、櫛田ちゃんの注意を引きつけてしまった。
俺のことを気にしてくれてたのかな。ちょっと嬉しい。
「悪いけど、断る。どんな条件だろうと俺はやらない」
二度と堀北に殺されるわけにはいかないんだ。
堀北には泥をかけないって決めた。
「そうか……分かった。無理な申し出をして悪かった」
「いや、こっちこそ詳しく話を聞く前に断って悪い」
俺の断固とした態度に、説得を諦めたらしく綾小路は諦めてくれた。
ふっはー、どうだ。俺だって学ぶんだぜ。これで俺は死亡フラグを完全に回避した。
結局、特に何かがあるわけでもなく探索を終了し、ベースキャンプへと戻った。
この時点で過去最長だった1回目に次ぐ記録を更新だ。
この後なにがあるんだっけ。
なんか火事があったりとかしたような。
あれも伊吹ちゃんが犯人なんだっけ? あんま覚えてねえなぁ。
その後に、堀北はリタイアするんだけど、なんか活躍してDクラスが勝つはず。
◇◇◇
「では、これより結果を発表する。最下位は、Dクラスの37ポイント」
「はぁああ、どういうことだよ」
「俺達の7日間はなんだったんだ」
一斉にクラスのみんなが騒ぎ出した。
「ククク、こりゃヒデェ。Dクラスらしい結果じゃねえか。無様だなぁ」
龍園が俺達を見て笑っている。悔しいけど、この結果じゃ何も言い返せないじゃん。
火事は、起きなかった。
伊吹ちゃんは、消えた。
堀北は、消えなかった。
キャンプポイントは、消えていた。
伊吹ちゃんが消えるのを阻止したかったのに、みんなにじろじろ見られながら見張るなんて、できやしない。くっそー、濡れぎぬさえなければなぁ。
続いて、Cクラスが50ポイント、Bクラスが140ポイント、Aクラスが220ポイントと結果が発表された。
A、B、C、Dと最初のクラス振り分けがそのまま結果となっている。
圧倒的にDクラスが負けて、無人島試験は終わりになった。
堀北がリタイアしなかったから前より良くなると思ったのに、なんでこうなったんだ。
堀北の活躍、どこいったんだよぉ。
「よお、悪いなリタイアして」
みんなで肩を落として足取り重く豪華客船に戻ると、元気になった健が出迎えてくれた。
あ、そうだ。健がリタイアしてたんだった。
じゃあ、堀北がリタイアしなかった分は、健で相殺されるのか。
「須藤、お前な―。何リタイアしてんだよ」
「山内に言ってくれよ。俺はこいつのせいで」
あ、矛先がこっちに向かいそう。誤魔化さないと。
「何言ってんだよ。須藤が勝手に食べだしたんだろ?」
「は? 俺はお前に食べられるって聞いたから食って腹壊してリタイアしたんだぞ」
「お前、変なもん食べて意識が朦朧してたし、記憶がおかしくなってないか?」
「え?」
「俺は、食べられるか分かんねーけどって渡したら、お前が『食えるだろ。味が変だったら吐き出せばいい』とか言い出したじゃんか」
「……そうだったか?」
さっすが健。単純なヤツ。これで健の中で、俺のせいじゃないって記憶がすり替えられたな。
みんなの前で話してるのもいい、クラスの連中もこれが事実だと思い込むだろ。
「そうだろ。だから俺は食べる前に様子を見てたんだから」
「そっか。悪い勘違いしてた……って山内、てめぇ俺を毒見にしやがったな」
あ、いいところまでいったのに、最後の最後で選択肢を間違えちまった。
「いてててて、須藤、お前のヘッドロック、ガチなヤツだから」
毒を食べさせたって思われるよりは、いっか。
これくらいなら受け入れてやっていい。
あーあ、それにしても散々な無人島だったぜ。
我慢に我慢を重ねてゲットしたクラスポイントは37ってどういうこと。
これからしばらく豪華客船で豪遊できるってことだけが救いかぁ。
明日はいつもの執筆時間がWCなので更新できません。