やまうちのなく頃に 作:おやまうちさま
今日から2学期だぜ。
なんか忘れてるなって思っててさ、思い出したことがあるんだ。
今年はプールに行ってねえじゃん!?
つーか、誘われなかったから忘れてた。
前の時は、色々あってドタバタしたけど櫛田ちゃん達と水上バレーやったりで楽しかったんだよなぁ。あーあ、イベントを1回逃すとか俺らしくねえなぁ。
寛治との距離がそのまま出ちまった感じか。
健とも無人島で色々あったから微妙な感じだし。
なんだよー、俺が止める間もなく食った健が悪いじゃんかよ。逆恨みしやがって。
綾小路とか佐倉とか堀北は誰かを誘うタイプでもないしなぁ。
誘ってくれそうなのは櫛田ちゃんだけど、櫛田ちゃん忙しかったのかなぁ。
前の時は、どうにか一緒に遊ぶことができたけど、大人気の櫛田ちゃんだもんな。たぶん今回は、別のメンバーで遊んだりしたんだろ。
そうだ、そうに違いない。
「桔梗ちゃん、おはよう。この間はプール付き合ってくれてありがとう」
「寛治くん、おはよう。ううん、こっちこそ、誘ってくれて嬉しかったよ、堀北さんと一緒に遊ぶのが新鮮だったし」
なぁにーーーー、やっぱり寛治達と櫛田ちゃんでプールに行ったのかよ。
しかも、いつの間にか名前呼びになってるし。
寛治、お前には篠原っていう地雷がいるじゃんか。
くっそーーー、一緒できなかったのが悔しいぜ。
ああ、もういい、過ぎちまったことは仕方ねえし、2学期だ2学期。
Aクラス入りを目指して頑張らないと。
「ただなぁ……2学期ってやることがねえんだよなぁ」
やる気はあるのに、やることがない。
2学期に実施される試験は2つしかないせいだ。
体育祭とペーパーシャッフル試験だ。
簡単に言えば、前者は運動テスト、後者は学力テスト。
こういう単純なやつって、前回の経験と俺の発想力を活かす場面がないっつーか。
体育祭は運動が得意なヤツ頑張れよって感じだし、ペーパーシャッフル試験は勉強が得意なヤツしっかりな、で終わるんだよなぁ。
1学期中間テストと同じようなやつっつーか、無人島試験とか優待者試験とかなら俺の出番もあるけどさー、こういうのは違うよなぁ。
どうしろっつーんだ。
やることがないってなると遊びたくなるけど、クラスポイントが低いせいでプライベートポイントもかつかつっていう。最初の時みたいに、いきなりプライベートポイント使いまくったりせず節約してたのに、なんで最初の時よりひどくなってんだよぉ。
確か9月の時点で最初の時は、毎月2万くらい入ってたはずだよなぁ。
それが今回は、8700ポイント。泣けてくるぜ。
こんな感じで体育祭シーズンへと突入した。
◇◇◇
そして、終わった。
本当に特に触れるようなことがない感じ。
最下位取って健に殴られるし、クラス対抗競技は龍園クラスにいいようにやられるし、健は途中で拗ねていなくなるし、堀北はなんか怪我してたし。
一応綱引きで、途中で相手が手を放すかも知んねーってみんなに教えてやったけど、だからといって手を抜くわけにもいかないしで、結果は変わらなかったんだよなぁ。
龍園の命令でCクラスが一斉に手を放して、俺らは尻もちをつくっていう。一歩間違えたら人間将棋倒しで超危険じゃん。
堀北が最初の時に怪我したことを覚えてたから、堀北にも怪我には気を付けようぜってアドバイスしたのに、何言ってんの見たいな目で「そうね、気を付けるわ」とか返されてさ、結局怪我してんじゃん、ちょっと堀北ざまぁって思ったよ。
でも、体育祭が終わった後も顔色が悪かったから心配してる、ちょっとやばいんじゃねえの。
健は拗ねて体育祭を途中で放棄して出ていくのは前と一緒、でも今回は戻ってこずにそのまま終わっちまった。
あとこれは余談だけど、綾小路はリレーでそこそこな走りでゴールしてた。
やっぱ前の時の、やたら足が速かった綾小路って例外中の例外で、たまたま足が速い綾小路だっただけで、本当の綾小路の実力はこんなもんなんだよな。
俺達の綾小路が帰ってきた気がする。
そのおかげか、寛治と綾小路が仲良くなってて、俺のポジションがないっていうなんなの状態。
寛治、健、綾小路の3人でつるむことが増えてやがる。
結果はもちろん、学年のクラス別順位ではDクラスが最下位。ただ3学年が協力する赤組(A組+D組)VS白組(B組+C組)は、2年3年のAクラスが圧勝していたおかげで、赤組の勝利と同じ結果に終わっている。
最初の時が最下位だった時点で、良くはなっても悪くはならねえもんな。
3年2年のAクラスがやたら強いおかげで、よほど足を引っ張らない限り、赤組の勝ちは揺るがない陣容だし。
たださ、ぶっちゃけるなら赤組と白組の勝敗は何の意味もなかったぜ。
つーのも、Dクラスの体育祭前のクラスポイントは、87ポイント。
学年のクラス別で4位になった時点で、-100ポイントだからな。赤組と白組対決は勝ってもプラス無し、負けたら-100ポイントってルールだったから、学年のクラス別だけでポイントが0まで戻ったDクラスにとっては、どっちが勝とうが意味がないっていう。
あーもう、嫌になりそうだぜ。
あとは、次の中間テストでペナルティーが出る総合成績下位10位。結構ドキドキだったけど、どうやら俺はギリギリセーフだったっぽい。
ほら、たまたま強敵とばっか同じ組で走ることになっちまったから、順位が伸びなかっただけでさ。俺だって博士とか相手なら楽勝だったのに。
どうせなら足が悪い坂柳ちゃんと勝負したかったぜ、絶対に勝てるじゃん。坂柳ちゃんが男だったらな。なんで女なんだよ、坂柳ちゃん。
あっという間にペーパーシャッフル試験に突入した。
◇◇◇
ペーパーシャッフル試験。
2学期期末試験を使って、各クラスで争う試験だ。
組み合わせは、A対B、C対Dと決まった。前と同じだ。
重要なのは、テストで退学に関してはペアで戦う試験であること。
赤点の基準は、各自100点×8科目の試験に対して、ペアの合計点で目安が700点以下。
科目別では、ペアの合計点で60点以下が赤点となる。
個人で考えれば、科目別で30点。総合点で800点中350点取れればとりあえず大丈夫って感じだ。
ペアの相手によっては足を引っ張られるから、ペアが超大事。
で、そのペアを決めるのがミニテストの結果よ。
俺は堀北に指示されるまま白紙解答を提出することにより、余裕でミニテストを突破した。これで万全に本番を迎えられるんだぜ。
と思っていた時期が俺にもありました。
「なんでペアが下着泥なのよ、最悪」
「それはこっちの台詞だぜ。よりにもよって東かよ」
ペア決めは、ミニテストの結果で1位と40位、2位と39位と成績が良い生徒と悪い生徒が順番に選ばれる仕組みだ。
俺がアドバイスするまでもなく堀北が気付いてた。
だから、クラスで成績が悪い生徒の下から10人が0点を取ることで、成績の良い生徒と確実にペアが組めるという作戦だ。その結果、俺含めて0点で10人が並ぶわけじゃん。
そうなると同率最下位だから、ランダムで成績の良いやつとペアになっていくわけ。
前の時は、無事に平田っていう大当たりを引けたのに、今回はよりにもよって東咲菜、優待者試験でも同じグループだった嫌な女だ。
たしかに成績は良かったはずだけどさー、俺を下着泥扱いする女とペアとか最悪じゃん。
どうせなら櫛田ちゃんとペアが良かったぜ。
ちゃっかり寛治が今回も櫛田ちゃんとペアを組んでやがる。
最悪、堀北とか幸村みたいな嫌な奴だけど、学力ツートップとかがペアでも許す。
でも東だけはねーわ。俺のくじ運を恨みたいぜ。
まあ、前回もどうにか突破できた試験だし、今回もいけるっしょ。
勉強会もそれなりに参加しとけば大丈夫のはず。
東じゃ一緒に勉強とかねえな。俺と一緒の空気を吸うのも嫌そうだもん。下着泥下着泥って鏡見ろっつー話。誰がお前なんかの下着なんか盗むか。使用済みでタダだったとしても貰うか考えるレベルじゃん、考えた結果貰うけど。
◇◇◇
「ペア試験の結果で赤点が出た。山内、東、お前らのペアは退学だ」
茶柱が無情な通告をしてきた。
クラス中が静まり返る中で、俺と東が同時に立ち上がる。
「は? なんでよ。私、一番悪い英語でも50点取ったのに」
「俺だって、一番良い社会は50点取ってたじゃん」
あれだけ意見も性格も好みの異性のタイプも合わなかったくせに、こんなときだけ息ピッタリで茶柱に反論した。
「誰も数学の話なんか聞いてない。山内、あんた英語は何点だったわけ」
「難しかっただろ、引っかけ問題とか多かったし、やたら難しい長ったらし単語ばっか書かせられたりさ」
「だから何点だったのよ」
「8点」
「最悪」
「こっちが言いたいぜ。お前が54点以上取ってたら、巻き添えで退学にならずに済んだんだぞ」
「どう考えても被害者は私でしょ」
「お前とペアになったせいじゃん」
最初の時みたいに平田とペアだったら、俺が退学になることなんかなかったのに、俺のペアが東だったばっかりに退学になってしまった。
「そろそろ黙れ。退学という事実は覆らない。これから職員室まで来てもらう」
「そんな」
「分かりました」
東は絶望してるっぽい。俺も辛い……辛いけど、流石に慣れもあったりする。これで何回目の退学だっけ。今回は良い感じにきてると思ったんだけどなぁ。東のせいでこんなことになるとか、ついてねえ……。
良い感じと言っても、まあ、クラスポイントは0だったけどさ。
◇◇◇
そして俺は、何度目かのバスの中にいた。
「…………って、東を巻き添えにしちまったーーーーーー」
退学処分を食らってすぐは、巻き込まれに頭に来てたけど、バスの中で一度冷静になってみたら、ちょっとは申し訳ないことしたような。
うーん、でも東からあれだけ下着泥、下着泥って連呼されたらさ、俺だって頭に来るじゃんか。
だからといって俺の英語が酷い点数だったのは、変わらないけどさ。
もうちょっと、本腰入れて勉強しないとダメじゃね?
俺がこうしてバスに揺られてるのは、何故なのかは分からない。
だからあんまり振り出しに戻されることを前提にしちゃ、ダメなことだと思ってた。
いつかは退学してそのままバスに戻らずに終わる、そんな気もしてる。
けどさ、こうして経験したことは持ち帰ることができる。
だったら勉強して成績を上げれば、東だって救えたんじゃねえの?
いけ好かねえ嫌いなやつだけど、クラスメイトだもん、退学はやっぱつれえよな。
俺が東を救う。そのためには、やってみっか勉強。
でも、目標が無いと締まらないよなぁ。
そうだ。櫛田ちゃんのことを信用して、特におざなりになってる中間テスト。
これを目標にしてみるか。
櫛田ちゃんが用意してくれる過去問に頼ることなく、中間テストを突破すること。
これが出来ればその先の可能性も広がるんじゃね?
なんかすっげーいい考えに思えてきた。
よーし、そうと決まったら頑張ってみるか。
ごめんよ、櫛田ちゃん。せっかく用意してくれた過去問は、しばらく使わないようにするぜ。
後に俺は思うわけよ。この目標を突破するために、まさか、あれだけかかるとは……あーあ。
次回、山内ハルキの憂鬱 第20話『エンドレス・テスト』お楽しみに。
新たなる決意を固めたやまうちのなく声だけが変わらず、
毎度、お馴染みの退学を告げていた。