やまうちのなく頃に 作:おやまうちさま
高度育成なんたら学校。
退学になった俺は、なんかよく分かんねーまま再びこの地を訪れることになったらしい。
「おお。初日に戻ってる!?」
バスを降りた時点で半信半疑だったが、入口で入学式の立て看板が目に入った。入学式ってことは、今日が学校生活の初日らしい。
続けて各自の教室への案内を見つけて、当時に戻ったことを実感することができて、テンションが爆上がりだ。
これはアレじゃね? もう一度やり直せるってことじゃん。
うっひゃー。なんか知らんけど、神に感謝するっきゃない。ありがてえ。
なんだろう。数ヵ月前まで通ってたはずなのに、なんかこの建物も懐かしいぜ。
みんな元気にしてっかな。
早く仲間の顔が見たい。教室に向かう足取りも軽く、階段も二段飛ばしだ。
踊り場のところでさっそく見知った赤毛を見つけ、勢いのままに声をかけた。
「よう、健じゃねえか」
ういっすってノリで軽く肩に触る。
「は? 誰だよてめー」
「誰だって俺だろ。山内だよ」
「誰だよ。てめえなんか、知らねーぞ。触んな」
肩に触れていた手を弾かれてしまった。
ここで俺は自分のやらかしに気付く。
あ、そっか。俺と健は教室で初めて会ったんだっけ。
いきなり知らない相手から馴れ馴れしくされたら誰だって怒りそうだ。
ましてや健だ。
しまった。どうやって誤魔化そう。
「あ、あれだよ。噂で聞いたことがあってつい」
「どうせろくでもねえ噂だろ。失せろ」
「ち、違う。そうじゃないって」
「失せろっつってんだろうが」
どうにか弁明しようとあたふたしていたら、思いっ切り突き飛ばされて壁に激突した。
痛えよ。
健は倒れ込む俺に一瞥を投げただけで、その場から離れていった。
「いてて……せめて、起こしていけよ」
聞こえないように小声でぼやく。
そういや、入学したばっかの頃の健ってこんな感じだったわ。
ずっと暴力的だと思ってたけど、それでもまだマシになっていたんだな。
突き飛ばされのが階段側じゃなくて助かったぜ。入学早々階段落ちとか考えたくもない。
「…………」
いや、やっぱり突き飛ばすってないわ。
あーあ、なんで戻って最初に出会ったのが健だったんだ。ついてねえなぁ。
これが寛治だったら、いきなり馴れ馴れしくしても、もうちょっと穏便に済んだじゃん。
制服についた汚れをはたき落とし、改めて教室へと向かう。
「よーし。こっからが俺の新生活のリスタートだ」
とりあえず、友達を作り直すところから始めるとすっか。
スタートダッシュが大事だし、クラスの奴がどういう連中化は大体わかってる。
一周目よりもうまく溶け込めるはずだ。
「ういー」
「ちっ……同じクラスかよ」
「──っす」
明るく挨拶しながらDクラスの教室に入ると、赤毛から露骨に睨まれて舌打ちされてしまった。
思わず尻すぼみに小声になる。
どうやら健からの第一印象は最悪らしい。
調子に乗ってたら今度は殴られかねない。
うへぇ、幸先が悪過ぎる。
とりあえず、大人しくしとくか。
浮かれていた気分は30分も持たずに、2周目の学校生活がスタートした。
あれ? 一周目よりもスタートが悪くないか。
健とはどうやって仲良くなったんだっけ。
1年以上も前のこととか覚えてないわ。
気づいたら仲良くなってたけど、最初は寛治と仲良くなっていった気がする。
寛治、早く来ねえかな。
結局、寛治がきたのは茶柱が教室に入ってくるギリギリで、俺が動き出すのは入学式後までお預けとなってしまった。
◇◇◇
入学式の時間を使って少しだけ冷静になれた。
適当にだらだら過ごしていたら、それこそ一周目と同じになってしまう。
ここはどうやって過ごせばいいのか作戦を立てるべきだ。
目標は、Aクラスでの卒業。
せっかくのやり直しじゃん。目指すしかない。
ただ、どうすりゃいいんだろう。
いきなり900点以上の差がつくしなぁ。
ってあれじゃね。900点以上差がついたのは、Dクラスのクラスポイントが0になったからじゃん。
最初は、全クラス1000ポイントあったんだ。
それが授業態度とか、遅刻とかの諸々で引かれに引かれて0ポイントまで削られた。
つーことは、真面目に過ごせばポイントキープできるんじゃね?
あとから900点稼ぐよりもぜってー楽だぜ。
いいんじゃね。俺はやっぱり天才だわ。
ナイスアイディアだと自分でも思う。
龍園とかいたCクラスでさえ500ポイントくらいキープしてたはずだし、そんくらいはDクラスでも余裕っしょ。
俺が退学になった時点で、たしか400に足りないくらいだから、それくらい稼げたら500スタートなら900が近い。
毎月9万近く使い放題……じゃない、Aクラスに手が届くところまで行ける。
なんだよ。楽勝じゃん。
まずは、寛治と仲良くなるところからスタートだぜ。
こんな感じで入学式の間に気合を入れなおし、教室で平田が主催した自己紹介に挑んだ。
前回は確か、適当に吹っかけてウケを取りまくった記憶があるけど、今回は真面目モードで行くぜ。
Aクラスを目指すためにも、ここで一発注目を集めた方がいいはずだ。
大体の名前は憶えていたので、順番待ちの間に自己紹介の中身は考え抜いた。
「俺は山内春樹。絶対にAクラスで卒業するのが目標で頑張るから、みんなも一緒に頑張ってくれると嬉しい。よろしく」
完璧だ。
これでもう後戻りはできない自分を追い込む決意表明。
ついでに呼びかけることで少しでも仲間が増えたら一石二鳥。
周りのリアクションは……って、あれ? みんなポカンとしてね?
やっぱDクラスからAを目指すって言ったのが変だったかな。
「山内くん、Aクラスを目指すってどういう意味か聞いていいかな」
「え? 意味ってそのまんまの意味だろ。Aクラスで卒業しないと意味がないんだから、みんなで目指そうぜって」
「ごめん、山内くんが何を言っているのかがよく分からなくて」
何言ってるんだ平田。そんなんじゃ困るんだけど。
これ以上どう説明すればいいんだろ。
俺が困っていると意外な人物が割り込んできた。
「山内、ちょっと来い」
担任の茶柱だ。
慌てていたのか少し息が乱れているような。
「なんすか? 今自己紹介の途中で」
「いいから来い。早くしろ」
有無を言わさずに、教室から連れ出されてしまった。
どうしたんだ。
ってか、こんな展開あったっけ。
自己紹介に茶柱が絡んできたような記憶はないんだけど。
話しかけんなっていう無言の圧力が強く、黙って茶柱の後ろを歩く。
連れて行かれた先は、生活指導室。
俺を奥へと進ませて、茶柱が鍵をかけた。
完全な二人っきりの密室だ。
「…………どうしたんすか?」
「少し黙れ」
黙れって言われても、連れてこられた理由が分からないし、どうしろと。
しばらく無言で待つこと30秒くらいか。
茶柱がようやく口を開いた。
「山内。お前は誰から聞いた」
「何をですか?」
「学校のシステムだ。お前のAクラスを目指すというさっきの発言だが、学校のシステムを知らなければ出てこないものだ」
「あ……」
言われてみれば、Dクラスの意味を知るのって5月になってからだっけ。
4月の間は自由にお金が使えて、好きな就職先に入れるって思って浮かれまくってたような記憶がうっすらあったり。
そりゃ、平田が意味が分からないって顔するわけだぜ。
Dクラスの生徒がAクラスを目指すとか、何言ってんだって思われても仕方ない。
「それは先輩に……」
「それは誰だ?」
「名前は聞かなかったんで」
なんとか誤魔化そうとでっちあげたけど、茶柱には大きくため息をつかれてしまった。
「……嘘をつくな。あの時点で新入生との接触は禁止されている」
「いや、ほら、全員が守るわけないじゃないですか」
「お前は事情を知っていそうだから話すが、この学校には監視カメラが多数設置されている。山内、お前が敷地内に入ってからさっきまでの行動を全て洗い中だ。嘘は簡単にバレるぞ」
げ、そんなことも出来るのかよ。
生徒の生活態度を見守るだけじゃ……聞いてねえよ。
茶柱が鋭く睨みつけてくる。
「先輩ってのは卒業生、OBっすよ。知り合いにこの学校の卒業生がいたから聞いただけで」
「それは誰だ? そんなことを話すのなら親しい関係なんだろうな」
「それは……あれで、その……ネットで書き込みをみただけで」
「どこで見たんだ?」
「なんだったかなー、掲示板? ブログ? 思い出せなくて」
とにかく誤魔化し続けるしかない。
2周目とか言っても信じてもらえないはずだ。
「お前は、そんな誰が書いたのかも分からないものを信じたのか?」
「信じたわけじゃないけど、事実だったら困るし」
「そうか。分かった」
茶柱の圧力が消えた。
助かった……のか。
どうにか誤魔化しに成功したようだ。
「山内。残念だが、お前は退学だ」
「はい!?」
「ルールを把握して入学するのは、重要なルール違反だ。残念だがこの学校で受け入れることはできない」
「ちょっと待ってくださいよ。ネットの書き込みを見ただけっすよ」
「……ネットの書き込みを見たのなら、ここが厳しいところだということは分かっていたはずだ。これは決定事項だ。覆ることはない」
やらかした生徒は退学になる。
そのことを誰よりも知っているのは、1度退学になった俺だ。
そのせいで、反論することもできやしない。
悟ったというか諦めた。
1周目では11カ月後……体感では4ヵ月前に経験した退学の手続きに入った。
ってちょっと待て。
わざわざやり直したのに、初日で退学!?
前回より酷いじゃねえか。
浮かれていたのが悪いのか。
何が悪かったのかを考えるまでもない。
何も知らない1週目の方がマシだったとか、ねえよ。
数時間ぶりにバスに乗り込み、学校の敷地から出ていく。
2周目の結果、初日で退学。
こうして、山内春樹のリベンジは終わった。
◇◇◇
そして気が付けば、敷地へと向かうバスの中に戻っていた。
「って、ええーー!? どういうこと!?」
やまうちのなく声だけが変わらず、
毎度、お馴染みの退学を告げていた。