やまうちのなく頃に 作:おやまうちさま
真面目に勉強したところで山内は山内だ。やまうちのなく声だけが変わらず、
毎度、お馴染みの退学を告げていた。
「いきなりかよぉおおおおお」
やる気に満ち溢れてたのに、バスの中だ。
いやさ、言い訳させてもらうけど、今回は正攻法で挑んだっていうか。
ほら? 中間テストを過去問の模範解答なしで受けるのって久々じゃん?
俺がどれくらいやれるのか試したくてさ。全部自力で勉強してたんだよ。
で、結果がこれよ。
英語18 国語37 数学25 社会41 化学29
でもこれは茶柱に騙されたせいで、俺の本当の実力じゃないからさ。
ほら、急に試験範囲が変更になったせいで、試験範囲外を頑張って勉強してたってオチな。
毎回そんなことが起きてた気がすっけど、過去問が貰えるからどうでもいいって思ってたせいで、久しぶりに茶柱に騙されたぜ。Dクラスの担任が酷すぎる。
とりあえずスタート地点は分かったし、一歩前進したって思おう。
社会は赤点じゃなかった。すげえじゃん、やっぱやれば出来るんだな俺って。
化学も点数自体はひでえけど、どうにか伸ばせそうな感じはしてるんだよなぁ。
国語は逆に、点数自体は取れてるほうだけど、どう勉強すればいいのかが分かっていない。
英語や数学は……察してくれ。
中間以降は、どうにか突破出来てたし、勉強会に参加すれば、分かるようになんのかな。
今回は、勉強会解禁して、学力アップを目指すって方針で行こう。
◇◇◇
「……わっかんねー」
ミニテストを消化して、退学のかかった中間テストについて茶柱から発表された。
で、早速始まったクラスの勉強会に参加してみた。
勉強が出来る組が教えてくれるんだけど、正直に言えば授業の延長線上って感じで、これで理解できるのなら授業をしっかり聞いとけば分かるって感じだ。
なんつーの? 油断して授業を真面目に聞いてなかった奴の救済みたいなやつ?
俺は真面目に授業を聞いてたっつーの、それで分からないから困ってるのに、どうしろっつーんだよ。
おまけに茶柱のせいで、解説してるのは間違った試験範囲だし。
教えてぇええええ。
けど、教えたらまた茶柱がすっとんできて「なぜ知っている、お前は退学だ」みたいになったら怖えから、茶柱が種明かしするまで何も言えねえ。
あ、でも、社会とか化学は、こうやって復習も兼ねて説明聞いてたら分かってきた気がするから全部が無駄ってわけじゃねえし。
苦戦してる、数学とか英語の勉強会が意味がないっていうか。
うーん、どうすりゃいいんだろう。
やっぱ、堀北とか櫛田ちゃん主催のやつに参加するしかないんじゃね。
頑張ったら櫛田ちゃんがデートしてくれるはずだし、モチベーションが違うぜ。
なぜか1回も実現したことないけど、あれどうなってたんだっけ。
健の暴力事件の時に、寛治と一緒に櫛田ちゃんとお出かけとかあったから、アレがデート代わりだったのかな。
そうだよな、櫛田ちゃんがまさか約束を破るわけないしさ。
試験範囲の変更とか、過去問の入手とかでドタバタしてたから、遅くなっただけか。
危ない危ない、櫛田ちゃんを疑うところだったぜ。
櫛田ちゃんは、天使。今のところ、それが一番信用できる。
とりあえず、平田達の勉強会からは、おさらばさせてもらうぜ。
いや、化学と社会にはいいんだけどさ、化学と社会は間に合ってるから、すまん。
◇◇◇
つーわけで、追い込まれた結果、綾小路から声が掛かって勉強会へ参加だ。
早速放課後、図書館へと向かう。
「あれ?」
「私語は慎みなさい。始めるわ」
待ち構えていたのは、当然のことながら堀北。堀北の勉強会だもん、そりゃいるよ。
でも、それで終わりだったんだぜ。
あーれー?
綾小路が居ないのは、まあ分かるっちゃー分かる。あいつは勉強できないなりにできるやつで、赤点ラインは確実に超えてくる異能の持ち主だからさ。
綾小路はいいの、でも寛治と健と何より櫛田ちゃんは?
櫛田ちゃんが居なかったら勉強会に参加する意味ないじゃんかよ。
あああ、綾小路に誘われてオッケーしちゃったからか!?
そういや綾小路からの誘いを拒否ったら、その後で櫛田ちゃんから誘われて当然オッケーするじゃん。それで、勉強会に行ったら堀北も、なぜかいた。
そんな流れだった記憶があるような、ないような。
「試験範囲の問題をまとめてきたわ。分からなかったら質問して」
逃げ出したいけど始まっちゃった。
今更、やっぱやめますとか言えねえよなぁ。わざわざ問題を作ってきてくれたみたいだし。
しゃーない、俺は山内春樹、勉強に目覚めた男だ。
苦手な数学に取り組もう。
えっと、なになに、持ってるお金が2150円でAの方が多いから……どうなるんだ。
「堀北……」
「問題に不備でも見つかった?」
「いや、1問目から分からねえ」
「……この問題は中学生でも解ける問題よ。ただの肩慣らしのつもりだったのだけれど」
目の前で盛大にため息をつきやがった。
堀北、お前のそういうところじゃんか、勉強会が失敗したりしてるのはさ、反省しろよ反省。
「分かんねーもんは、分かんねーし」
俺は長男だから我慢できたけど次男だったら我慢できなかった。
健とか寛治だったらもう席を立ってるんじゃないか。
俺ら馬鹿三兄弟。たぶん俺が長男だよな、健が次男で寛治が三男だ。
「あなたを否定するつもりはないけど、今まで何していたの」
否定してるじゃねえか。完全否定じゃんか。
今まで何してたって、過去問を使って突破してきたに決まってんだろ。言えねえけど。
「ほら、あれだよ、あれ。一夜漬け? そ、そう、一夜漬けでどうにかさ」
「なるほど。勉強内容を毎回リセットしてきたわけね」
なんか理解されてる!?
めちゃくちゃ堀北に伝わってる!?
なんなの堀北って、頭がいいとこんなことあるの。エスパーかよ。
「で、どうしたらいいんだ?」
「そうね。中学からやり直したらどうかしら」
それが出来たら苦労はしねえ……ん? やり直す!?
そうか、俺なら中学に戻れるんじゃね?
天才じゃん、その発想はなかったわ。
そうと決まれば話が早い。
「ありがとう堀北。中学からやり直してみるぜ」
俺は堀北にお礼を言って、勉強会を終わらせた。
◇◇◇
そして──いつもと変わらぬバスの中にいた。
「なんでだよ、そこは中学からでいいだろうがよぉおおおおお」
勉強のやり方がわからないまま突き進んで崖から落ちるやまうちのなく声だけが変わらず、
毎度、お馴染みの退学を告げていた。
あーあ、結局このバスかよ。
中学時代やり直したかった……いや、やっぱいいや。ほら、俺くらいになると中学時代超多忙で忙しくて大変だったからさー。
別にはぶられてたとかそんなことは全然ないんだぜ。むしろ、はぶってたほうだし、友達沢山だったしさ、うんうん。
おっと、誤解させたかもしんねーけど、やることはちゃんとやってたからな。
英語16 国語41 数学24 社会58 化学33
じゃじゃーん、なんと社会が赤点の40点どころか60点が見えてくるところまで伸びたぜ。
あと国語も赤点脱出。
俺気づいたんだ。暗記系はいけるって。
だからほら国語の漢字とか、熟語とかと社会を中心に勉強してたからさ、こんなもんよ。
その分英語と数学は進化してねえけど、中学からやり直すつもりだったし。
化学? 化学は手が回らなかっただけ。
英語と数学は本当にどうしよっかな。堀北にでも相談してみるか?
でも、堀北だぞ。鼻で笑われて終わるんじゃ……藁にも縋る思いで頼むか?
それこそ清水の舞台から飛び降りるつもりでさ。
ほら、当たって砕けろっていうし一か八かやってみるのもいいんじゃね。
うひゃー、語彙が広がりまくりだぜ。これが国語の勉強の成果ってやつよ。
◇◇◇
「…………」
「早速始めるわ」
しまったぁあああ。堀北に相談しようって思ってたせいで、綾小路からの誘いに乗ってしまった。これじゃあ、堀北と1対1じゃん。
櫛田ちゃんは? 俺の櫛田ちゃんを返してくれぇえええええ。
くっそー、俺が悪いのか。
しゃーない、本題に入ろう。
「いや、勉強会はしない」
「何を言い出すの」
「しても意味がないっつーか、俺さ中学の頃の勉強が抜けまくっててさ、たぶん今勉強会やっても無駄になるっつーか、堀北はそのレベルの相手を想定してなかっただろ」
「……そんな人がいるの」
うわー、すっげー痛いものを見る目で見られた。
クール系美人の堀北がやるとダメージがでかいってば。
「でもさ、どうやって勉強すればいいのか分っかんねーの。中学時代からのやり直しって、まさか中学に通うわけにもいかねーしさ。どうすればいいと思う?」
中学からのやり直しには、失敗したばっかなんだ。
しゃーねえから、馬鹿正直に正面から堀北に告白した。
笑われたりされるんだろうな。でもいいぜ、聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥だもんな。
「……それは全教科なのかしら」
「だいたいは……あ、けど、本気でやばいのは英語と数学。それ以外ならどうにかできそう」
「……分かったわ。今日はこれで終わりにしましょう。また明日来てもらえる?」
「え? 来いっていうなら行くけど」
堀北は、俺の馬鹿さ加減を笑ったり茶化したりすことはなかった。相変わらず視線は厳しいままだったけど……どう思ったのか、勉強会はそれで終わりになった。
あれ? ところで俺の質問はどうなったの?
結構勇気を振り絞って聞いたのに……あーあ、これだから堀北はなぁ。
堀北に聞くんじゃなかったぜ、失敗したぁ。
◇◇◇
翌日。
「山内くん。これを使って」
図書館に行くと堀北から2冊の本を手渡された。
タイトルを確認する。
「なんだこれ? 中学の数学がよく分かる?」
「参考書よ。復習のために使っていたのだけれど、私にはもう必要ないからあげるわ」
「マジでいいのかよ!? らっきぃーーー」
「声が大きい。図書館よ、少しは他人の迷惑を考えなさい」
「悪い悪い」
参考書。
こんなものが世の中にあったのか。ページを軽くめくると数学についての説明が描かれている。
おおお、教科書よりも分かりやすい気がする。
あ、こっちは英語か。こっちも中学で習う内容を説明しているらしい。
すっげえええ、これがあれば俺もいけるんじゃね!?
それにしても真っ白だなぁ。
やっぱ堀北って几帳面なんだな、せっかくもらったんだし俺も大事に使おう。
「ボロボロになるまで使いなさい」
「……わ、分かった、ありがとう堀北」
うへぇ、心の中を読まれたのかと思った。
そっか、そうだよな。堀北だからそこまで復習しなくてもいいけど、俺の場合はしっかり勉強しねえと追いつけねえよな。
「私に出来るのはここまでよ」
「いや、大丈夫だ。めちゃくちゃ助かった。これでいけると思う」
櫛田ちゃんには悪いけど、櫛田ちゃんの過去問以上に効果的なアイテムだったんじゃね?
ほら、過去問とか所詮その場しのぎだし、こうやって元から手をつけるほうがいいじゃん。
そっかー、健が堀北堀北言っててうぜえって思ってたけど、俺にもちょっと堀北の良さが分かってきたぜ。
渡すもの渡して、俺の方を一切振り返らずに、堀北は去っていったけど。
うっしゃー、さっそくこれを使って勉強しよう。
中間テストはこれで突破だぜ。
◇◇◇
やっぱり──いつもと変わらぬバスの中にいた。
「間に合わなかったかぁああああああ」
なお成績は、これだぜ。
英語17 国語39 数学32 社会55 化学36
ついに光明が見えたもののスタート地点が低すぎたやまうちのなく声だけが変わらず、
毎度、お馴染みの退学を告げていた。