やまうちのなく頃に 作:おやまうちさま
堀北から中学3年間を復習する参考書を貰って挑んだ中間テスト。
実感できるくらいに成長はしたけど、そこは中学3年間分じゃん。1ヵ月もないしで中間テストまでに、全部は間に合わなかったんだ。
で、バスの中に戻されるっていう。
なお成績は、これよ。
英語17 国語39 数学32 社会55 化学36
どうよ? 数学の伸びっぷり。
まだ「ん?」ってところが何か所か残ってるけど、そこで止まらずにとりあえず参考書を最後までやり終えることが出来た。で、そこでテスト当日が来ちまってさ。時間切れってわけ。
あーあ、せっかく数学って理解できたら楽しいのなぁって盛り上がってたのに。
でも、それで32点だろ。
あとはまだ引っかかってるところさえ潰せば、赤点からは脱出できそうじゃん。
ゴールが見えてきて、がぜんやる気が出てきたぜ。
「よーし、参考書の分からないところを──って参考書がねえじゃん」
くっそー、なんで俺は持ち込める荷物の中に参考書を選ばなかったんだろう。
参考書がねえと勉強出来ねえじゃんかよ。
堀北に貰いに行くか?
あ、でも、あんまりすぐだと堀北の復習が終わってねえ可能性があるよなぁ。
うううう、でも、勉強してぇえええ。
断られたら断られたときでいいか。少しだけ待って堀北に参考書を貰いに行こう。
◇◇◇
入学から1週間後。
よーし、そろそろいいだろ。
俺もいい加減うずうずしてきたし、堀北に参考書を貰いに行こっと。
「堀北」
「……何?」
「中学の数学と英語が復習できるような参考書を余らせてないか」
「そんなものないわよ」
あーれー?
おっかしいなぁ。
せっかく前回ちょっと見直してやったのに、見損なったぞ堀北。
お前を泥だらけにしてやろうか。
「マ、マジかよ。じゃあ、どうやって参考書を手に入れればいいんだ」
「まるでもらうことが前提みたいね。なぜそういう思考にいたったのか理解に苦しむのだけれど、参考書が欲しければ自分で買いなさい」
「え? 参考書って売ってるのか!?」
「…………」
俺はよほど変なことを言ってしまったのか、堀北は呆れたため息をついてその場から離れていった。堀北、俺を見捨てないでくれ。
あ、でも、大事な情報を残していってくれたじゃん。参考書は買えるってマジか。
すぐ近くにした綾小路を捕まえる。
「あ、綾小路、参考書って売ってるのか?」
「知らん」
「そう言わず売ってそうな場所を教えてくれよ」
「本は本屋じゃないか」
「マジか。ありがとう、助かった」
参考書って本屋に売ってるもんなのか。
よーし、放課後速攻でケヤキモールに行って手に入れよう。
あーあ、貰えればタダだったのに、堀北のせいで無駄な出費が増えちまうじゃん。ま、必要経費だししゃーない。
放課後、さっそくケヤキモールの本屋を覗いた。
「おおお、本当に参考書コーナーがあるじゃん」
本屋って漫画とかゲームの攻略本しか置いてないと思ってたぜ。
しっかり片隅に参考書コーナーがあるのな。
さ、目当ての参考書参考書っと。
「って、すっげえ多いのな」
英語の参考書だけで1列ずらっと埋まっている。
俺の知らない世界がこんな広がっていたのかよ。
「まあ、買うのは決まってるから問題ないし」
買うのは堀北に貰った参考書だ。あれ以外勝たん。
……とりあえず、やりのこした数学だけ買うか? 英語は結局、使わずじまいだったし。
数学が終わったらまた英語を買いに行けばいっか。
いやダメじゃん。必要経費必要経費、俺は勉強に目覚めた山内春樹、男らしく両方買うぜ。
って1冊2000弱もすんのかよ。2冊で4000ポイントじゃん、たっかーーーー。
くっそー、堀北め。しゃーないか。
「買います」
うっし、これで神アイテムを再びゲットしたし、今度こそ中間試験突破するぞ。
俺はルンルン気分で参考書を片手にスキップなんかしながら寮へと戻っていった。
そして始まる勉強。
理解できるって楽しいのな。初めての感覚だぜ。
◇◇◇
ミニテストを挟んで、勉強会シーズンに入った。
どうすっかなぁ。
今なら平田達の勉強会でも、行ける気がする。
数学はとりあえず「ん?」ってなってたとこも、どうにかなったと思う。
今は英語の参考書に取り組み中だ。
英語はきっついなぁ。参考書読んでる時は理解はするのよ。けどさー、覚えられないというか知識として定着しないっつーか。
ほらさ、『often』が一般動詞だと前に来て、be動詞だと後に来るとかあるじゃん。
そういうのがあるってのは理解したんだけどさ。じゃあ、oftenって書けますかってなったら、offenになったり、oftennになったりで点数に結び付かねえし。
一週間くらいしたら、あれ? be動詞の前だったっけ? 後ろだったっけ?
みたいになってこんがらがってきた。
数学は理解する、問題を解く、分かっていく、みたいな感じあったんだけどなぁ。
となると復習がメインになる平田達の勉強会でいいのかどうかって話。
うーん、やっぱ櫛田ちゃんがいる堀北の勉強会にしとこうかな。
そういや図書館って個人で勉強してもいいんだっけ。
使ってみようかな、寮の部屋よりも集中できたりして。
「いつでも読めるように参考書を鞄に入れててよかったぜ」
クラスの勉強会はパスして、俺は図書館へと向かった。
「………………」
「…………」
「……」
集中できるような、できないような。
最初の頃は周りが気になってあんま集中してる感じはなかったけど、そのうち気にならなくなってくるもんだなぁ。
けどさー、声を出せないってのがきちい。
ほら、英語じゃん? ブツブツ声に出しながらじゃないと頭に残んないっつーか。
数学なら良かったんだけどなぁ。
「ぷ……Dクラスの奴がいっちょ前に勉強かよ」
「なんだよ」
俺が顔をあげるとニヤケ野郎が目の前にいた。
Cクラスの山脇じゃん。嫌いなんだよな、コイツ。Cクラスの男子は大体嫌いだけど、Cクラス生活は大変だったんだからな。
「しかも、やってるのは中学英語だって、笑える。ここが高校だって理解してないのか? 僕ちゃんは中学生でちゅかー?」
相変わらず低レベルなことをやってんな。
中学の勉強をやるのがどれだけ大切か分かってねえじゃないか。
「…………」
「なんだよ、だんまりかよ。つまんねえなぁ。ま、いいや。落ちこぼれはせいぜい中学の勉強でもしてな、じゃあな」
大声で絡んでいたら目立つ。
俺が黙っていたおかげか、周囲からの視線を気にしたのか、山脇は捨て台詞を残して去っていった。
「……やる気が削ぎれたなぁ、休憩すっか休憩」
くっそー、自分の実力が分かってるだけに、何も言い返せなかったじゃん。
以前の俺なら何をーって言い返して、ボッコボコにしてやったんだけどな。
ちょっと勉強から離れよう。
気分展開にパレットでもいくか? あーでも、ちょっと遠いしなぁ。
なんか本でも読むか?
つっても、図書館の本ってお堅い本ばっかで読む気がしねえんだよなぁ。
適当に館内を回りながら本を見て回る。
「ん?」
何となく気になるタイトルを見つけちまった。
銀河英雄伝説。
どっかで聞いたことあるような気がする。どうせ気分転換だし、読んでみっか。
こうして俺は閉館時間まで、銀河英雄伝説を読んで過ごした。
◇◇◇
翌日の放課後。
「きたぁああああ、続きが読める」
昨日から続きが気になりまくってて、あんま勉強できなかったぜ。
いやーなんつーの宇宙にはロマンがあるっつーか。
キャラが燃えるんだキャラが。
ヤンウェンリーみたいな智謀溢れるのもカッコイイけど、俺はやっぱりラインハルトじゃん。
俺とラインハルトが似てるって気づいた瞬間、ドハマりしちゃったわけよ。
ちょうどそこで閉館時間になっちまったから帰ったけど、あれからどうなるんだ。
俺はウキウキ気分で図書館へと向かい、昨日読んでた続きを開いた。
こんな調子で俺は連日図書館へと通い詰めて──
「銀河の歴史がまた1ページ」
──いつものバスへと戻っていた。
参考書よりも銀河英雄伝説がボロボロになりそうなやまうちのなく声だけが変わらず、
毎度、お馴染みの退学を告げていた。
「しまったぁああああ。銀河の歴史がまた1ページとか言ってる場合じゃねえええ」
いやさ、仕方ないじゃん。
だって銀河英雄伝説が超面白かったし。
ほらさ、俺って知っての通り娯楽に飢えてたじゃんか。大好きな漫画は1年以上先まで1度読んで知ってる状態で楽しめねえしさ。そこに銀河英雄伝説みてえな暴力を放り込まれたら、こうなっちまうっしょ。
つっても、読んでたのは図書館でだけだからな。
図書館の本を持ち帰るわけにもいかないしさ。
家ではしっかり勉強してたんだぜ。その結果がこれよ。
英語25 国語42 数学37 社会51 化学38
英語がようやく上がってきた。
これって小さいようで大きな一歩じゃん。
国語も赤点回避に成功してるしさ。数学と化学もあとちょっとまできてる。
英語も何となくわかってきた気がするし、いけそうじゃね?
よっしゃー。今回で決めてやるぜ。
でも、ラインハルトとヤンウェンリーのどっちが勝つんだろうな。
ガチモードに入るのは、ミニテストが終わってからだし、それまでの間に銀河英雄伝説も終わらせてやる。
結構読むのに時間が掛かるんだよなぁ、文字ビッシリだしさ。
◇◇◇
「堀北、中学時代を振り返るような参考書余らせてないか」
「ないわ」
入学から1週間後。
どうやら今回も外れ堀北で決定した。
くっそー、また俺の4000ポイントが堀北のせいで引かれちまう。
やっぱ堀北は健に譲ることにしよう。当たり堀北なら付き合ってやってもいいけど、外れ堀北は健がお似合いだろ。
俺が応援してやるから健は頑張れよ。俺は銀英伝を頑張るぜ。
今、いいところまで来たんだよなぁ。
ついに俺率いる帝国軍が同盟軍を……ってネタバレはやめとくか。
でも全10巻のうちの8巻に入ったんだよなぁ。
もうすぐ終わっちまうのが悲しい。
さてと、今日も放課後は図書館……ってダメじゃん、今日は本屋に参考書を買いにいこっと。
銀英伝も大事だけど、勉強も大事だからな。
ちゃーんとやるべきことはやってるんだぜ。
こうして俺は本屋で2万弱のポイントを使って、参考書2冊と銀河英雄伝説15冊(本伝10冊+外伝5冊)を手に入れた。
図書館にはなかったけど、外伝とかもあったのかよ!?
そんなトールハンマーを食らってしまったような衝撃と共に、家に帰ったら勉強するという俺の目論見は、イゼルローンに散った。
気づいた時には現実では、バスの中だったというオチよ。
「いや、だって(ネタバレ自粛)とか勉強してる場合じゃねえんだよぉおおおおお」
赤点ライン下ハルトくんことやまうちのなく声だけが変わらず、
毎度、お馴染みの退学を告げていた。
いや、銀河英雄伝説にだいぶ振り回されたけど、それでもやっぱり勉強はしてたんだ。
勉強してる場合じゃねえ、は大げさに言っただけで。
「俺は赤点回避を手に入れることが出来ると思うか?」
「山内春樹様以外の何者にそれが叶いましょう」
みたいに一人二役で気分を盛り上げた頑張った結果よ。
英語33 国語43 数学39 社会46 化学41
ついに5科目中3科目も赤点回避に成功したんだぜ。
英語もしっかり上がってるし、今回で終わらせることができるはずじゃん。
いやー、『イエス』と『ノー』が『ヤー』と『ナイン』じゃね?
『ファイアー』って『ファイエル』じゃね?
みたいに手に入れた知識が邪魔することもあったけど、英語もどうにか中学時代の復習は終わらせることが出来た。あとは、高校で学ぶ部分だけ。
あ、特に触れてなかったけど、勉強だけじゃなくてDクラスの授業態度改善運動は、ちゃんと毎回やってる。
入学から1週間が過ぎた。
今回もやっぱり外れ堀北で、参考書とバイブルを17冊買うというイベントを消化済み。
そろそろ授業中の私語が増えてきたし、注意するタイミングだ。
時には蹴飛ばしてやるのが犬のためってやつよ。
「なあ、授業真面目に聴こうぜ。ほら静かにしないとさ、アレじゃん」
けどこういうのって騒ぐ犬には聞かないんだよなぁ。
「なんだよ、山内ー、真面目くんかよお前」
「別にいいじゃん、先生は何も言ってないんだし」
「そうだよなー、空気読めよ山内」
俺への集中砲火が始まる。くっそー、同盟軍め、カイザーに逆らうとは。
やっぱ犬らしく本気で蹴とばしてやろうか、今畜生め。まあ、しないけど。
俺が諦めて座ろうとした瞬間だった。
ガン! と鈍い音が響く。
え? ガチで机を蹴飛ばしやがった? 蹴とばすってのは例えだぞ、例え。
クラス中の視線が音に引き寄せられる。
「全員、ちょっと黙れよ」
「え?」
クラスの優男、平田だった。
え? 平田? お前そんなキャラだったっけ。
今回のお前の中学時代に何があったんだよぉ。