やまうちのなく頃に   作:おやまうちさま

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山内ハルキの憂鬱 エンドレステスト編その3

「全員、ちょっと黙れよ」

 

 ドスの聞いた平田の声が教室中に響き渡る。

 

「いいか、僕は真面目に過ごしている仲間を笑うような奴は絶対に許さない。そんなことは許されちゃいけないんだ。僕が絶対に止める。もし、文句があるなら後で直接僕に言いに来い」

 

 あまりの平田の豹変っぷりに、俺をやじっていた寛治たちも固まってしまった。

 

「先生、時間を取りました。すみません、続きをお願いします」

 

 続く平田の言葉で、教師がようやく動き出して授業が再開された。

 その異常な空気に口を開く生徒は、誰一人として現れなかった。どうしちゃったんだこれ。

 

 

 休み時間。

 

「なんだよ、あいつ」

「調子に乗ってるよな、平田のやつ」

「平田くんどうしたんだろう」

「ちょっと怖かったよね」

 

 クラスのいたるところで、平田について語られていた。

 俺はどうしたらいいのか分からなくて、輪の中に入れていない。

 

 どうしちゃったんだよ、平田。お前ってそんなキャラだったっけ。

 

 あー、そういえばクラス内投票の時に、ちょっとおかしかったような。

 どうだったんだっけ。あーもう、あの時は俺も必死だったから、なんか助けてくれたような覚えはあるけど、細かくは覚えてねえんだよな。退学になるかどうかの瀬戸際だったし。

 

「あーもうイラついた。俺が言ってやる」

 

 遠巻きに平田を見るだけで終わらず、ついに健が立ち上がった。

 

「なんだよ、平田さっきのは」

「須藤くん。僕に文句を言いに来たのかな」

「当たり前だろ。お前に何の権利があって口うるさく言われねえとならねえんだよ」

「君が間違ったことをした。だから注意した」

「それがうぜえっつーの」

「口で言っても無駄なら別の方法を取ることになるよ」

「ああん? 喧嘩でもしようっつーのか」

「そうだね。続きは放課後にやろうか」

 

 すげええ、健が睨みを利かせているのに、そんな健相手に一歩も引いてねえ。

 

「ほら、授業が始まるよ。みんな、真面目に授業に参加しよう」

 

 今にも殴りかからんとする健を押しとどめて、平田は皆に呼びかけた。

 健が席につくのと入れ替わるように教科担当が入ってきて、お通夜みたいな授業が始まった。

 

 

   ◇◇◇

 

 

 翌日。

 

 

 クラスが朝から妙にソワソワしていた。

 あれからどうなったのか、みんなが気にしている。俺も気になりまくってる。

 平田はまだ来ていない。

 

 何度か既に遅刻していた健が、珍しく予鈴の前に教室に入ったきた。

 昨日どうなったんだ。と聞きたいところだが、相変わらず不機嫌さを隠さない態度なため寛治が軽く挨拶するくらいで、俺含めて他は近づけなかった。

 おっかねえよ、何があったんだ。

 

「おはよー、みんな」

 

 少し遅れて平田が左手を三角巾で吊った状態で入ってきた。

 頬にはテープらしきものが張られている。頭には包帯だ。

 っておい、見るからにボロボロじゃねえか。

 

 全員が呆気にとられる中で、平田は真っ直ぐに健の元へと向かう。

 

「おはよう須藤くん。時間通り来てくれたんだね」

「うっぜぇ……話しかけんな」

「つれないな、君は」

「あれだけやられておいてまだ懲りねえのかよ」

「君が毎日登校するならそれでいいよ」

 

 平田がボロボロになった犯人は、やっぱ健かよ。

 つーかなんだよ、殴られておいてって。昨日の放課後マジでやりあったのか。

 

 平田が健から離れる。

 

 いつもならすぐに女子から囲まれる平田だったが、豹変してからは誰も近づけないでいる。

 クラス内のいたるところで、誰か聞きに行けよ、と目で牽制し合ってる。が、時間切れで本鈴がなって、茶柱が教室に入ってきた。

 

「ずいぶん見慣れない顔がいるな。平田、何があった?」

「転んだだけです」

「そうか。もし暴力でもあったのなら報告しろよ」

「何もありませんよ」

「ならいい。ホームルームを開始する」

 

 なんだ今のやりとり。

 平田は暴力事件として報告する気はないらしい。

 

 ただそれだけ。それ以上は何もなかった。

 学校側もそれでよしなのかよ、もうちょっとやる気がないなりに頑張れよ、茶柱。

 

 

 結果として、健は真面目に学校に通うようになり、クラスの狂犬の健が従った時点で誰も平田に逆らえるやつはいなかった。

 あ、唯一逆らえるとしたら、高円寺とか逆らいそうだけど、アイツはアイツで興味なかったらノータッチって感じだからなぁ。

 

 で、この日を境にクラスが一変したわけよ。

 私語が消えて、遅刻が消えて、そして笑顔が消えた。

 

 暴君平田。あいつがこのクラスの支配者となっちまった。

 

「なんで、平田がルドルフ*1やってんだよぉおおおお」

 

 

   ◇◇◇

 

 

 5月に入った。

 俺達Dクラスは、Cクラスになっていた。

 

 すっげーー、クラスポイントが560ポイントも残ってる。過去最高の快挙だ。

 

 Aクラス 940ポイント

 Bクラス 650ポイント

 Cクラス 560ポイント

 Dクラス 490ポイント

 

 な、なーんと5万6千ポイントも振り込まれちゃいました、やったぜ。

 これぞ平田ユートピアじゃん。

 

 って喜べたらいいんだけど、クラスの雰囲気最悪中の最悪よ。

 Dクラスの生徒は、半分くらい死んだ目をして学校に通ってる。

 私語厳禁、遅刻厳禁、平田に逆らうの厳禁だ。

 やっぱ平田ディストピアだこれ。

 

 けどまー、変貌した当初こそ平田に話しかけるやつもゼロになってたけど、月を跨いで学校のルール説明があったことを境に、評価を改める人たちも出てきた。

 そりゃそうか、平田が居なかったら下手すりゃどん底だったもんな。

 俺だけが0ポイントになることを知ってるってのも、変な感じだけどさ。

 

 今も幸村が平田と仲良さそうに話している。

 あ、そこに堀北も加わった。

 

 Aクラスをガチで狙ってます組にとっては、暴君平田も神様みたいなもんか。

 そういう意味じゃ、俺もあの輪の中に入りてえんだけどさ、普段の平田を知ってるからこんなん平田じゃねえしって気持ちの方が強くて近づけねえんだよなぁ。

 

 これが当たり平田なのか、外れ平田なのか。

 どんなレア平田が現れてるんだよぉ。

 

 まあ、ポイントは助かるけどさ。銀英伝の出費が痛いし。

 

 あ、あと、平田のおかげで良いことがもう1つあった。

 教師の独り言が響くだけみたいな、お通夜みたいな授業だけどさ。なんだかんだでしっかり授業を聞くことが出来るようになってる。

 4月の授業とか私語がうるさすぎて集中とか無理だったし。

 

 で、それで気づいたんだけどさ。

 

「数学教師って日本語喋ってたんだな」

 

 今までずっと、記号と数字だけじゃなくて日本語しゃべれやって思ってたのに、中学校の数学を理解したおかげか、何を話しているのか何となくわかるようになってきた。

 日本語話してたんだ。ごめんよ、先生。ずっと誤解してたぜ。

 

 数学の理解度がグーンと伸びて、授業についていけてる感がしてる。

 授業中は暗くて楽しくないのに、授業内容は結構楽しいっていう、なんだこれ状態。

 

 どうすりゃいいんだろうなぁ。

 暴君平田が良い影響を与えるっちゃー与えてる。間違いないんだけどさ、こんなん俺の知ってるDクラスじゃねえよって叫びたくなるんだぜ。

 あ、もうCクラスだけど。

 

 銀英伝も外伝まで無事に読み終わったし、勉強を頑張るだけどさ。

 平田が気になって仕方ねえよ。

 

 

   ◇◇◇

 

 

「勉強会を行うから、成績が悪い人は参加して欲しい」

 

 っつーわけで、任意のようで強制的な勉強会が始まった。平田に逆らえないもん。

 またも健と平田の間で何があったのか、平田の怪我が増えてたけど、まさかの健まで参加だ。

 小心者の寛治が拒否できるわけもなく、俺だけ不参加ってわけもいかずに参加している。

 みんなに併せてるだけで、平田が怖いってわけじゃ……嘘、マジで怖い。

 

 ただ、やっぱり授業の復習型なんだよなぁ。

 国語とか社会とか数学とか化学は助かってる。

 あとは英語だけなんだけど、高校の英語は中学とは難易度が違うっていうか、学べば学ぶほど分からないところが増えていってる気がする。

 

 なんで同じ動詞に複数の意味があるんだよ。

 熟語になったらまた別の意味になったりするし。

 覚えないといけないこと多すぎじゃね!?

 

 ってので俺の頭は大混乱よ。誰か整理してくれぇ。

 こういうときに、堀北が開いてくれたような個別の勉強会があったらなぁ。

 全部が全部上手くは回らないもんだぜ。

 

 

 はい、ってわけでこうなりました。

 

 英語37 国語48 数学53 社会43 化学42

 

「あと一歩だったのにぃぃいいいいいいい」

*1
ルドルフ・フォン・ゴールデンバウム 銀河英雄伝説に出てくるゴールデンバウム王朝の初代皇帝。色々とやった。




暴君平田によりCクラスに上がるという快挙も、繰り返される14回目の惨劇。
平田が別人みたいに変わってもやまうちのなく声だけが変わらず、
毎度、お馴染みの退学を告げていた。

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