やまうちのなく頃に 作:おやまうちさま
バスに揺られてのやり直し。
結構慣れてきたけど、教室に入るまでは緊張してたりする。
自己紹介が上手く出来るかな、とか今回はどうなるかな、みたいな緊張じゃないぞ。
まずは、Cクラスじゃないかどうかが大事。超大事。マジで大事。
ほ、ほら、Cクラスだったら超絶外れ回だからしんどいことが確定するじゃん。龍園が全部指示してくれるから楽は楽だけど、やっぱなぁ。できればCクラスは勘弁してほしいぜ。
次に、平田がまともかどうか。
前みたいな平田だとCクラスと変わんねえじゃん。ただこっちはぱっと見じゃどっちの平田かどうか分かんねーのがネックなんだよなぁ。
暴君平田だったら何かわかるような特徴が欲しい。銀色に輝くとか金色に輝くとかさ。
「今回はどうかなっと」
とりあえずDクラスだ、オッケー。
で、教室の平田はどうだ……平田はいる。一見するとまともな平田だ。
「ん?」
そして、平田の近くで待ち焦がれた人物を発見した。
我が友、
おおおお、松雄と久しぶりに会えたぜ。
一気にテンション爆上がりよ。この回、勝ち確定じゃねえか。
ええっと、代わりに居なくなったのは……綾小路か。
うーん、前も松雄の時には、居なかったよなぁ。松雄は綾小路と入れ替わりで出てくるのか。
2回続いただけだし、たまたまかも。よく分からん。
松雄と綾小路じゃ釣り合わねえと思うんだけどなぁ。俺からしたら超絶ラッキーだけど。
こんな感じで最後の中間テストを自力で頑張る回がスタートした。
……最後になるのかどうかは、願望だけどさ。
◇◇◇
1週間後、やっぱり荒れ始めるクラスを俺と松雄が華麗に注意して、止めることができた。
うわー、松雄がいると本当に楽でいいなぁ。最高じゃん。
ただ、健だけは荒れたままというか、静かにはしてるけど授業中は寝てるし、相変わらず遅刻も多い。
健もどうにかできればいいんだけど、今は誰かに迷惑をかけてるわけじゃないからなぁ。
寝てるのは邪魔くせーけどさ。これがクラスポイントに反映されるって分かれば注意もできっけど、見守るしかない。
いやさ、分かってるよ。
暴君平田みたいに、しっかり注意して殴りあえばどうにかできるらしいってことは、前回学んだけどさ。そんなの無理無理無理無理、無理に決まってる。
俺が平田にはなれるわけないじゃん。健に喧嘩売るとか、平田だから怪我で済んだけど、俺だったら下手すりゃバスの中だぜ。
あいつ馬鹿だからコンクリートの路面でプロレス技とかやりそうじゃんか。
そんなのは堀北だけにしてくれ。いや、堀北もするな。勘弁してくれ。
あ、堀北といえば、今回も外れ堀北だったぜ。
だから参考書は自分で買った。なかなか当たり堀北って出てこないのか。まあ、松雄と再会できたからあんまり欲張っちゃいけねえって感じなのかもな。
銀英伝も、悩みつつ買った。
一度読み終わったからもういいかなって思ったんだけどさ、やっぱり手元に置いておきたいじゃん? たまに読み返したら新しい発見もあったりするしさ。
まあ、我が友、キルヒアイスがいるから、そこまで読んだりしてないけど。
本音を言えば、参考書ももういいかなって思ったりもしてる。
中学の数学、英語はある程度マスターしたし、卒業しても良いんじゃねって。
たださー、せっかく松雄がいるわけじゃんか。
油断禁物だから、今回までは参考書を買ってしっかり復習しつつやろうかなって魂胆よ。
どうよ? 俺も成長しただろ。
キルヒアイスとセットになった山内春樹に油断と敗北はないんだ。
◇◇◇
5月に入った。
クラスポイントは、394ポイント。Dクラスのままだ。
結構前のことだから細かく覚えてないけど、たぶん前に松雄が居た頃と同じくらいのはず。
暴君平田の時が、560ポイント。こっちは切りよく5万6千円振り込まれたから覚えてる。
暴君平田と今回との違い。やっぱ健を改善できたかどうかだよなぁ。
つーことは、このポイント差が健の改善の差だとしたら。
「健1人で150ポイントもマイナスを叩き出してたのかよ」
あんまりだぁ。どんだけ足引っ張ってるんだよ、アイツ。
やっぱ健をどうにかできればいいんだけど、どうにもならないのが健なんだよなぁ。
暴君平田と松雄に共存してもらうか?
うーん、想像できねえし、地獄絵図が生まれそう。
前向きに行こう前向きに、普段と比べたら十分クラスポイント残せてるんだから、このチャンスを絶対に生かそうぜ。
平田にも素直に笑ってて欲しいしさ。あの笑ってても目が座ってる暴君モードはあんまり見たくねえのよ、地味にトラウマだ。
勉強の方も順調で、数学は絶好調というか参考書いらなかったんじゃね? ってレベルで安定してる。英語はまだ参考書でどうだったっけって調べてるから、買ってて良かった参考書だ。
ふう、油断しない策略が功を奏したぜ。
あ、松雄が女子達と一緒にケヤキモール行かないかだって、行くに決まってるじゃん。
ポイントもあるし、最高なんだよなぁ。
こうなってくると絶対に中間テストを突破したいなぁ。
自力で頑張るつもりだったけど、櫛田ちゃんの過去問も今回だけは解禁するか?
そうすればさ、今の俺なら確実に突破できるじゃん。
うーん、まあいいや、松雄を待たせちゃいけないし、遊びに行こっと。
◇◇◇
「松雄、この英語の文法なんだけどさ、第4文型と第5の違いがよく分からなくて」
「山内は英語苦手だもんな」
「うるせー、これから得意になるからいいの」
平田主催の勉強会とは別枠で、松雄を中心として勉強中だ。
あんま、ここが苦手とか分からないとか言いにくいもんだけどさ、松雄だと素直に言えるっつーか、やっぱ我が半身なんだよなぁ。
勉強が得意な生徒は平田の勉強会に出て、苦手な生徒は松雄が拾い上げている感じで、俺もこっちに参加している。健や寛治の姿も見えるし、櫛田ちゃんもこっちで教えてくれてる。
暴君平田時代なんかより、Dクラスは順調に回っていて、絶好調って感じだ。
「おおお、そういうことだったのか、分かったぜ」
「この問題が解けるはずだからやってみて」
「分かった」
勉強が出来るやつって教え方が下手だったりするじゃん?
堀北とかどこで躓いてるのか理解できないわ。みたいなこと言うしなぁ。それが分かればこっちだって困ってないっつーの。
松雄はその辺もぬかりなくてさ、分かりやすく懇切丁寧に詰まってるポイントを教えてくれる。
「お前って教え方上手いよなぁ」
「あー……後輩の面倒をよく見てたから」
「後輩? 女か? 男か?」
「さあ、どっちだろう」
「隠すってことは女だなぁ、チクショー松雄も彼女持ちだったのか」
「あはは……彼女ではなかった……と思う」
「なんだよそれ」
「まあ、人それぞれあるってことで、それよりも今は勉強しないと中間が近いんだから」
「気になるなぁ。中間終わったら詳しく聞かせろよ」
上手くはぐらかされた気がするけど、まあいいや。今は勉強に集中しよう。
それにしても松雄に彼女かぁ。地味な女なんだろうなぁ。地味であってくれい。
これでもし一之瀬みたいな金髪ロン毛な巨乳だったら羨まし過ぎて、絶交するしかなくなるし。
あ、でもアンネローゼ*2も金髪だったし、金髪は許可にしよう。でも、巨乳は許さん。親友との約束だぜ。
◇◇◇
ちょっと聞いてくれよ、大ニュースなんだぜ。
俺さ、1個だけ気づいちゃったことがあるんだ。山内春樹史上で1位2位を争うくらいの発見なんだけどさ、なんと櫛田ちゃんは松雄がいると過去問を持ってこないってことが分かった。
最初の松雄の時は、櫛田ちゃんがサボったことを恨んだけどさ、よくよく考えたら当たり前なんだよなぁ。
ほら、松雄がいたら頼りになるし、みんな真面目に勉強してるから赤点対策の過去問なんか必要なくなるってわけよ。だから櫛田ちゃんがわざわざ過去問を用意してみんなに配ったりはしない。
ごめんよ、櫛田ちゃん。櫛田ちゃんのこと誤解してた。
やっぱり櫛田ちゃんは大天使でみんなの味方だよなぁ。
俺も赤点でピンチだったらやばいけど、今回は自信があるし、松雄と一緒に中間テストを突破してAクラスを目指せそうじゃん。
あーあとは、健と寛治が心配なくらいかな。
松雄や櫛田ちゃんが教えてたけど、あいつら大丈夫だっけ。まー、健は赤点を取っても謎の救済があるからいけるか。寛治だけがちょっと心配だな。
つーわけで、本番を迎えた。
あとはやるだけだぜ。
◇◇◇
茶柱が、無言で黒板にテスト結果を貼りだす。
全員の点数が丸見えとか、プライバシーもくそもあったもんじゃねえけど、もう慣れたぜ。
何の自慢にもならないけど、俺の名前は大体下からの方が探しやすい。
悲しい事実を使って、自分の点数をチェック。
英語42 国語47 数学56 社会40 化学44
お、おおおおおお、英語が40点超えてるじゃんか。って、社会40とかあっぶねぇ。
社会はずっと赤点ラインを上回ってたから、あんまり時間を取らなかったんだよなぁ。
でも、ギリギリセーフじゃん。
これでついに俺も中間テストを突破して、次のステージに行ける。
健と寛治が俺より下にいたのは見なかったことにして、ガッツポーズを小さくとった。
「お前たち、よく頑張ったな。だが──」
赤いペンを手にした茶柱が赤点ラインを引いていく。
ラインより下に名前が出たらアウトだ。
通算で何回ラインより下になったんだっけ、でも今回は余裕で見ていられるぜ。
まずは英語だ。英語の赤点は36点未満だったらしい。
それより下が2人で、健と寛治が引っかかっちまった。
櫛田ちゃんの過去問の有無が平均点をいつもより4点引き下げたっぽいな。
いくら松雄が勉強会でみんなを引き上げたからって、過去問が無かったら2人はなぁ。
健、寛治、すまん。俺は未来へと進むぜ。
俺は絶望した2人を見ながら謝罪しつつ、2人の分まで頑張る決意を固めた。
「お前たちは赤点だ。池、須藤、山内」
「え?」
慌てて貼られた結果をもう1度見る。
英語……赤点は36点未満だ。健(25点)と寛治(33点)が引っかかった。
国語……赤点ラインは引かれず。全員突破。
数学……赤点は38点未満だ。健(29点)が引っかかった。
社会……赤点は41点未満でってアウトじゃねえか。俺の名前(40点)がラインより下に入っちまったぁ。
慌てて上の方を見ると、社会1位松雄栄一郎100点と堂々と書いてあった。
え? ええええええ!?
あ、もしかして綾小路って別に成績そこまでよくなかったはずだし、松雄と綾小路の差が赤点ラインを引き上げたのか!?
いや待てよ、過去問がなかったんだからもうちょっとクラスの平均点下げろよ。
どんだけ優秀だったんだよ、平田と松雄の勉強会システム。
そ、そんなぁ。クラスが順調に回ってるって思ったのに、それがこの結果かよ。
我が友、
こうして俺は成績を上げることに成功したものの、バスの中へと戻されるのであった。
山内の成績が上がっても残念ながらやまうちのなく声だけが変わらず、
毎度、お馴染みの退学を告げていた。