やまうちのなく頃に 作:おやまうちさま
「うっしゃあ! 体育祭きたぁあああ」
「山内うるさい」
「悪い悪い、すっげー楽しみでさ」
この時のために、4月から身体を作ってきたんだ。
ジムで身体を鍛えるだけじゃなくて、トレーナーからの指導もばっちり受けてたからパワーだけじゃない。ほら、動ける身体とかいうじゃん? アレよアレ。
つっても半年弱くらいだから、せいぜい中学でガチってた元運動部くらいだけどさ。
現役運動部には、勝てそうにないぜ。
中学時代卓球部のエースで野球部で4番だっただろって?
あー、あれは嘘だ。すまん。
あの頃の俺ってどっかおかしかったよなぁ。何やってたんだろうなぁ。
昔の俺のことはどうでもいい。それよりも今は体育祭よ。
健がいないから平田がリーダーになってるけど、いつもより良い雰囲気だぜ。
「やっぱ健って足引っ張ってたよなぁ。最下位はビンタとかねえよ」
暴君はやっぱダメだ。クラスから反発を受けたり萎縮をさせちまう。
暴君平田は上手く制圧してたけど。
平田がリーダー……今回の平田は大丈夫だよな。いつもの爽やかスマイル平田君のままで行こうぜ。
「俺、借り物競争やらせてくれ、今の俺ならいける」
「まあいいんじゃね」
「やりたいやつがやればいいよ」
「じゃあ、山内くんお願いできるかな」
「任せてくれ」
積極的ではないやつの方が多かったのもあって、推薦競技にも出場が決まった。
よーし、鍛え上げた肉体で借り物競争を突破してみせるぜ。
◇◇◇
「お題は三つ編み。よっしゃー、楽勝」
ラッキー。これならクラスにいるじゃん。
俺はダッシュでクラスの応援テントまで向かって、該当する生徒を探す。
東、東、東っと。
「東、ちょっと来てくれ」
「何で私が」
「お題が三つ編みなんだよ、お前の力が必要なんだ、頼む」
「ごめん無理」
「は? なんでだよ、クラスに協力しろよ」
「そうじゃなくて、山内こっちを見ろ」
クラスの地味モブこと
「なんでお前三つ編みじゃねえんだよ」
「走るのに邪魔だから後ろでまとめて縛った」
東は横を向いて、後頭部が見えるようにしてくれた。
いつもの両サイドの地味ツインはなく、後ろで一括りにされている。
これはこれで新鮮でいい──ってそうじゃなくて。
「お前、ふざけんなよ。役立たずだなぁ」
「はあ? 山内が勝手に言い出して、役立たず扱いしないでよ」
「ああ、もういい。誰か三つ編みのやつ知らねえ?」
三つ編みツインを捨てた東の相手をしてる時間が勿体ない。
情報提供を求めるべき呼びかける。
「…………」
その呼びかけに応じてか、女子生徒が一人進み出てきた。
「えっと誰だっけ?」
「山内くん、矢田さんだよ」
そんなやつクラスにいたっけ?
覚えてねえなぁ。毎回いるやつじゃないとかか。
顔の半分くらいが前髪に隠されていて、そっちばっかり目が行っちまったけど、じーっと見ていてようやく気付いた。
後ろ側で髪がまとめられていて、ぶっとい三つ編みになっている。
「ってお前三つ編みじゃん、行こうぜ」
「あ……」
「ほら、ついて来いよ」
まさか東を超える地味キャラがクラスにいるとは思わなかったぜ。
俺は矢田の手を取ると、ゴールに向かって走り出す。
「おーい、もうちょっと頑張れ」
「……くるしぃ……」
「あーもう、しょうがねえな、出来るだけでいいからな」
矢田は結構運動音痴らしい。
昔の俺ならまだしも、今の俺はマッスル山内だ。足もそこそこ速くなっている。
つっても、無理させるわけにはいかねえし、矢田に合わせてスピードを落として、どうにかゴールまで駆け込んだ。
運営に引いたお題を見せて、合格を貰ってフィニッシュ。
残念ながらBクラスに先を越されて、2位で終わってしまった。
「あーあ、あとちょっとだったのに」
「……ごめんなさい」
俺のボヤキに、一緒にゴールした矢田が膝に手をついて、小さな声で謝罪してきた。
「いやいいって、東のバカに時間を取られたのがさー。東が三つ編みだったら1位だったのに」
本当に使えねえヤツ。せっかく東みたいな地味なやつに、1位を取るチャンスを上げようと思ったのにさぁ。親心子知らずって言うんだっけ。身をもって実感したわ。
「っと、靴紐がほどけちまってる」
今までの競技はゴールしたらすぐに退場だったが、よほど酷いお題を引いたのか、まだ帰ってきていない生徒がいる。
今のうちに靴紐を結んどこう。その場でしゃがみ込んで、靴紐へと手を伸ばす。
ん--、なんか視線を感じるなぁって矢田か。
「あっ……」
俺の声に反応して矢田がさっと後ろを向いた。
下から見上げる形になったおかげで、前髪に隠された顔がチラっと見えたけど、あれ? 今めっちゃくちゃ美少女じゃなかったか?
「矢田……」
どうにかもう一回見ようと呼びかけるも、避けられた。
「…………」
「…………」
何度か回り込むもそのたびに顔を背けられる。
まあ、気のせいか。矢田みたいな地味な奴が実は美少女パターンとかさ。既にそのパターンは佐倉がやってるし、同じクラスで2人も居ないだろ。
こんな感じで俺の体育祭は終わった。
個人成績は、今まで取れなかった1位を取れた種目があったり、最下位になった種目は1個もなかったりで、マッスルパワーで絶好調。
ただ、健がいても最下位に沈むのがDクラスだ。当然のようにクラスは最下位で、クラスポイントを減らす結果になってしまった。
あーあ、なかなかうまくいかねえな。
◇◇◇
「今回の俺は、筋肉だけじゃねえんだぜ」
ペーパーシャッフル試験。
毎度おなじみのクラス内の生徒の振り分け。俺は、後ろから数えた方が早かったせいで、ペア決めの小テストは白紙解答を続けていた。
が、今の俺は違う。
何度も繰り返した地獄の中間テストのおかげで、どうにかこうにか授業にかろうじてついていけるようになっている。そのおかげでなんと今回は、21位~30位のグループ入りをはたして、小テストで1点取らなければならなくなっちまった。
くーーー、緊張するぜ。
まあ、俺くらいにかかったら楽勝だけどよ。
成長した姿ってもんを見せてやるぜ。
「失敗してねえからな」
俺だってそう簡単に失敗したりしない。なぜなら筋肉を身にまとったマッスル山内だから。
無事に1点を取った俺は、西村とペアを組むことになった。
目つきの悪い眼鏡の女だ。
なんか全体的にでかくて、ちょっと苦手なタイプだ。話したこともない。
ペアとしてはイマイチかぁ。
勉強は得意って言えるくらいになってきたし、今回は余裕っしょ。
油断してるわけじゃねえよ。平田の勉強会にしっかり参加すれば行けるって自信があるだけ。
前は30分も勉強したらヒーヒー言ってたけど、今は50分くらい集中していられるようになったんだぜ。
伸びしろしかない。
さ、今日はジムの日だからジムに行こっと。
ジムは月幾らだから、サボると損なんだよなぁ。おかげで続いてるからいいけど。
◇◇◇
はい、結果発表。
とその前に、ペーパーシャッフルのルールを振り返っとこう。
ペアを組んでテストに挑む。
退学はペアの合計点で判定される。
各教科、ペアで60点以下。
合計点は、8科目で700点くらい。
俺の結果は、合計368点で平均46点だったんだぜ。
ペアで60点だから、各教科は30点取っとけばセーフ。
合計点だと目安が350点だからこっちもギリギリだけど突破。
「どうよ、俺にかかればこんなもんだぜ」
前は、一番良くて50点とかだったはずだから、驚きの成長っぷり。
マッスル山内は、一味も二味も違うってことを頭脳面でも証明できた。
あ、寛治が大体最下位になってる。
ペアの相手が優秀だから問題ないだろうけど、すっかり俺と差がついてきたな。
めっちゃきつかったけど、中学から勉強をやり直してきた甲斐があったってもんよ。
茶柱が貼りだした成績表を見つつ、成長を実感していた。
「ペア試験の結果で赤点が出た。山内、西村、お前らのペアは退学だ」
は?
今茶柱がなんか言ったような。
聞き間違いだよな。しっかり点数取ってるのに、何言ってんだよ茶柱。
「なにいってんすか、茶柱先生。そんなわけないですよね」
「退学だ」
意味が分からない。
「先生、嘘ですよね」
俺のペアの西村も立ち上がって、茶柱に詰め寄った。
退学になるわけないじゃん。
あ、もしかして西村のやつがしくったのか。
俺は西村の方を睨みつけながら叫んだ。
「俺は平均46点取ったんだぞ。西村はどうだったんだよ」
「私も平均で58点取ったんだけど」
「なんだよ、その点数って……取れてるじゃん」
俺よりも取ってた!?
じゃあますますなんでなんだよ。
「……山内くん、国語の点数が」
「は?」
俺が混乱していると、櫛田ちゃんが声をかけてくれた。
国語の点数?
慌てて確認する。
俺の国語の点数は、ちょっと低かったけどそれでも30点だ。
別に悪くって……30点がもう1人いる。
西村だ。
「西村、国語が取れてねえじゃん」
「私、理系が取り柄だから」
「なんだよ、それーーーー」
俺が国語30点。西村も国語が30点。
退学の条件は、60点
数学を勉強してなかったら、なんでって思ったけど、勉強したからしってる。
以下は、その数字を含むんだ。
60点以下って退学じゃん。
俺は、こんなのを理解するために勉強してたのか!?
「理系が取り柄とかそれを早く言えよ」
「山内くんもでしょ。国語が苦手とか聞いてないし」
別に苦手とかじゃねえし。
今回はちょっと問題が難しかったから伸びなかっただけだ。
「理解はできたか? 退学の手続きに入る。このままついてこい」
「そんな」
俺、頑張ったよな。
なんでこうなっちまったんだ。
西村と話したりしなかったのが悪かったのか。
仕方ねえじゃん、接点のない相手だったんだから。
「…………」
退学になるのは慣れてるはずなのに、めちゃくちゃ悔しい。
くっそーーー、頑張れば頑張っただけ、それが成功しなかったらしんどいんだなぁ。
じゃあ努力ってなんのためにするんだよ。
さすがにくじけそうなやまうちのなく声だけが変わらず、
毎度、お馴染みの退学を告げていた。