やまうちのなく頃に 作:おやまうちさま
入学式が終わった。
なんかよくわかんねーけど、もう一回だけチャンスをもらえたみたいだ。
山内春樹アゲインってやつ?
さっきはアゲアゲし過ぎて失敗したから、慎重に行動しないと。
教室へ向かう途中で見かけた健は、スルー安定。
寛治に任せるしかない。
最初からAクラス入りを目指すけど、Aクラス入りを目指すとかは言わない。これ大事。
さっきは上手くいかなかったけど、方針自体はいい線いってたはず。
最初のクラスポイント1000を出来るだけ残す。
減らされた原因って授業態度とか遅刻とかだったはずだから、それを減らせばいいじゃん。
俺も授業中の私語とかの常連だったし、俺が控えるだけでもだいぶ変わるはずだろ。
教室で人生3回目の茶柱から学校の初期説明を受ける。
「10万円の価値があるってすっげーーー」
茶柱が去ったのを確認してから、叫んでおいたぜ。
アリバイ作りだ。さっき初めて聞きました、驚きました、叫びました。
どうよ、この完璧な偽装っぷり。
これで誰も俺が学校のルールを知る生徒だとは思わないはず。
続く、平田の主導による自己紹介タイム。
「俺は山内春樹。真面目なところは真面目に、緩めるところは緩めてクラスの皆と楽しく学校生活を送りたいと思ってる。よろしく」
だらけるだけじゃなくて、締めるところは締めますよアピールだ。
これで真面目な授業態度を取っても誰も不思議には思わないだろ。
「はい、次は私だね」
俺の次に、櫛田ちゃんが自己紹介を始める。
それにしても、櫛田ちゃんはやっぱり可愛いよなぁ。
池から先に櫛田ちゃん狙いを聞かされたから譲ったけど、彼女にするならやっぱ櫛田ちゃんみたいな子がいいわ。
坂柳? 見た目は可愛いかも知れないけど、性格がきつい子はもう勘弁してほしいぜ。
佐倉? 見た目は可愛いかも知れないけど、性格が地味過ぎる。雫ちゃんとなら付き合いたいけど、素の佐倉はやっぱないわ。
せっかくやり直すのなら彼女欲しいし、櫛田ちゃん狙いでいってみっかな。
池は結局、篠原といい感じになってたはずだから問題ないよな。
よーし、決めた。俺は櫛田ちゃんの彼氏になる。
前回の後悔も取り返さないと戻った意味ないもんな。
綾小路は、自己紹介に失敗していた。
暗すぎるわ、地味過ぎるわ、零点って感じの自己紹介だ。
……綾小路かぁ。
あいつのことって、結局よくわかってねえんだよなぁ。
堀北と仲が良かったみたいだけど、付き合ってはなかったらしい。
陰気な奴だと思いつつ仲間だと思って仲良くしていたら、体育祭で大活躍しやがったし。
あの時は、寛治が荒れて大変だったな。
寛治に引っ張られる形で距離を取るようになって、それっきりだ。
その後は、地味な幸村とか一部の生徒とつるんでたみたいだけど、基本的にはクラスで浮いた存在だったはずだ。
だからこそ、俺が学校に残るために犠牲になってもらおうとしたんだけど……結果は、知っての通りだ。
綾小路は賞賛票を集めて助かり、俺が退学処分になってしまった。
なぜそうなったのか、いまだに分からん。
退学になった時は恨んでいたけど、別に綾小路が悪かったわけじゃないし、恨み続けるほどじゃない。だからといって仲良くする気にもなれないし、なんともいえない感じだ。
とりあえず、親しくもしなければ邪険にもしない、程度でいいか。
綾小路に対する方針は、まとまった。
「池、一緒に帰らないか」
「えっと……山内だっけ? いいぜ、帰ろうぜ」
須藤が出て行ったり、綾小路が挙動不審だったりの自己紹介タイムが終わり、その場が解散となったタイミングで寛治を捕まえる。
廊下をだべりながら歩くだけで、懐かしくて楽しい。
「すげーよな。10万だってよ、10万」
「ホントだよな。この学校に入ってよかったぜ」
寛治が興奮しているのに合わせたけど、ホントによかったのかは何とも言えないんだよなぁ。
いや、それならなんで戻ったんだって話になるけど。
「毎月10万とか使いたい放題じゃん。施設も色々あるんだろ」
「……そだな。いったん寮に戻ってから回ってみるか?」
「お、いいじゃん。行こうぜ。何があるのか確認しときたいし」
毎月10万貰えるのは、今月だけだ。
そう教えたいけど、教えたら茶柱から呼び出されてしまう。
ポイントを使い切っても、無料コーナーが色々あるから困らないといえば困らない。
ただそれだけじゃしんどいのも経験談だ。
お昼は毎日山菜定食とか絶対嫌だし、ちょっとでも節約したいぜ。
その前に、クラスポイントを残したいところだけどさ。
話しているうちに寮についた。
フロントの管理人からカードキーとマニュアルを受け取ってエレベーターに乗り込む。
「それじゃ、10分後に下のロビーに集合しようぜ。飯も外でいいよな?」
「おう」
「学生証忘れんなよ。無いと飯も食えないからな」
池と別れて、八畳ほどのマイルームへと入る。
「……こんなに広かったっけ」
物がない部屋は、俺の記憶の中よりも広く感じた。
前回が物で溢れまくってただけか。
無駄遣いし過ぎだった。
漫画とか散らばってたし、ゲーム機とかも放り投げてあったっけ。
漫画は欲しいけど、ゲームは我慢してみるか。
やっぱ、たけえし、今は無料のスマホゲーだけでも十分遊べるしな。課金の誘惑と戦うのがアレだけど。
「っと、遅れる遅れる」
前ならどっちかが遅れるとか珍しくなかった。
今は初対面だ。印象も大事にしたいぜ。
池に言っといて忘れないように、財布代わりの学生証があるかだけしっかり確認して、ロビーへと向かった。
「おせーよ」
「悪い悪い。ちょっとエレベーターが混んでて」
「なら仕方ないけど」
セーフ。
つーか、まだ10分経ってないし。
「ケヤキモールでいいよな?」
「モールがあるんだっけ? 行ってみるか」
とりあえず、ケヤキモールに行っとけばどうにかなる。
この学校の生徒は、暇があればケヤキモールに集まる。
ただしポイントがあれば。
前の時は、最初は毎日のように通ってたのに、ポイントがなくなってからは寮に引きこもりがちだったっけ。
ポイントがなかったらモールに行っても意味がないし。
「コンビニとかもあるんだな」
「便利だよな。無料品も配布されてるし」
「無料品? なんだそれ」
「……必需品みたいなのが、ポイントを使わなくても貰えるようになってんだよ」
「へー、そうなんだ」
さんざんお世話になったからよく覚えている。
食材とかは使い道がないから貰わなかったけど、食材以外は一通りもらったくらいだ。
毎月制限いっぱいまで持ち帰って、だいぶ助かった。
個人の個数が決まってるから、頼み込んで代わりに貰ってもらったりとかな。
「うおーー、賑わってるなぁ」
「飯食ったら一通り回ってみるか」
「そうだな。回ろうぜ」
新入生にとっては初日ということで、とにかく人が多かった。
見知った顔も結構確認できる。
何度か利用したカフェで食事を済ませ、ケヤキモールを適当に冷やかす。
「お前は何も買わねえの?」
「部屋に最低限の家具はあったからさ。食費とかにも取っときたいし」
「月に10万あれば余裕じゃん。ゲーム買って一緒にやろうぜ、ゲーム」
「……悪い。欲しいものが出来た時に買えなかったら困るからさ」
言いたい。無駄遣いすると後悔するぞってめっちゃ言いたい。
でも我慢だ。すまん寛治、バレたら退学コースだから言えないんだよ。
「へー……山内って意外としっかりしてんのな」
「意外とってなんだよ」
「いや、寮でもスムーズに鍵を受け取ってたし、ここまでも迷わず来てたじゃん」
そりゃ、2回目だからだ。
注意していたつもりだったのに、無意識に前回の記憶を使ってしまっている。
「……あれだ……あれ、えっと……まあ、俺くらいになれば余裕だから。池もあんま無駄遣いしない方がいいぞ、彼女とか出来た時に困るし」
「それだよな。俺、高校じゃ絶対彼女作るって決めてたんだぁ」
高校じゃってところが泣ける。
中学時代も居なかったこと知ってた。
「ならデート資金として貯めとこうぜ。ゲームは来月ポイントが入ってからでもいいっしょ」
「今やりたいし」
「デートとゲームのどっちを選ぶんだよ」
「そりゃデートだけど、そんなすぐには出来ないって。来月になったらまたポイント貰えるんだから、いつできるか分からない彼女より、今できるゲームでしょ」
説得には失敗か。
毎月10万貰えるって思ったら、溜めとく意味がないもんな。
最悪、無料の山菜定食にも付き合ってやるか。ポイント無くて食ってる日々は嫌だったけど、思い返せば楽しかった……かもしれないし。
「山内は、誰狙いとかあんの? クラスの女子可愛かったよなぁ」
「……なあ、春樹でいいよ」
山内って呼ばれるたびに違和感がすごい。
「は?」
「これからずっと同じクラスだし、名前でよくね?」
「ずっと同じクラスって来年は違うかもだろ」
「あ、そっか。それだわ」
危うく口を滑らせるところだった。
実際は、他クラスに移る権利を行使しない限りずっと同じクラスだけど、まだこの段階では知らされていないっけ。
俺みたいに退学になったらどっちにしろ終わりなんだけどさ。
「……ちょっと早くね? いきなり名前で呼び合ってたらクラスで浮きそうじゃん」
「……そっか。悪い、新生活で浮かれてたかも」
「だよなぁ。ビックリしたぁ。別に呼びたくないとかじゃないからな」
「分かった。悪い悪い」
名前での呼び合いには失敗したけど、寛治との交流には成功した。
前回は、いつくらいから名前呼びだったっけ。
当たり前に寛治呼びだったから、早く寛治って呼びたいぜ。
ついでに、健はいつから呼べることになるやら。