やまうちのなく頃に 作:おやまうちさま
「いいか、春樹。カトラリーは外側から使っていくのが基本だ」
「そうなんすね。さすが、葛城さん」
最近、葛城さんから春樹呼びされるようになった。
小さなことだけど嬉しいぜ。葛城さんとの距離が縮まった気がする。
やっぱ俺がナンバー2だよな。葛城さんが名前呼びしてるの俺だけだし。
「それで、カトラリーってなんっすか」
「……フォークとナイフだ」
豪華客船でも相部屋だし、こうして食事を共にしている。
葛城さんと一緒だと高そうなレストランだって怖くねえ。マナーとかも教えてもらえるし、恥をかかずに済む。
まあ、正直言えばジャンクフードの方が食べたかったりするけどさ。
俺の舌にはハンバーガーとか牛丼とか、そういう大味な奴の方が合ってる。
あ、でもこういう繊細な味に慣れとけば、無人島での食事も乗り越えやすくなるのか。
さっすが葛城さん。この後何があるのか知らないのに、対策はバッチリだぜ。
しばらく葛城さんと食事を堪能していると、店内がざわつき始めた。
アロハシャツ姿の男が一人で店内に入ってきている。どう見ても場違いだ。
つーかレストランだぞ、少しはドレスなんたらとか考えろよ。
おまけで一人はないわ。こういう場所って会話も楽しむ場所だろうが。
まあ、俺も入る前に葛城さんに制服のボタンを閉めろって注意されたけどさ。
「す、すみません……良い感じのものお願いします」
俺達の隣のテーブルに座った男は、メニューを見るなり困惑した様子を見せた。
で、限りなくフワッとした注文をした。
なんだよ、それ。もうちょっとなんかあるだろうが。
ま、まあ、俺もメニューがどんなのか見てわからないから、葛城さんに注文してもらったけどさ。
「葛城さん、Dクラスの生徒みたいっす」
「そうか……」
葛城さんは関せずと言った感じで食事と向き合っている。
いいのかよ、葛城さん。あいつは戸塚弥彦だぞ。
Aクラスにいたら葛城さんのナンバー2になる男なのに。
しゃーない、葛城さんの代わりに俺がちょっとくらい指導してやろう。
ナンバー2の座を奪っちまったし、その恩返しじゃないけどさ。
「カラトリーは、外側のやつから使うんだぞ」
「ふ、ふん。それくらい分かってる。外からだろ、外から」
並べられたフォークとナイフを見て固まっていたので、軽くアドバイスだ。
無事に戸塚が食事をはじめた。
ふー、いい仕事したぜ。
「春樹」
「すみません、余計なことしちゃいましたか」
「カラトリーではない、カトラリーだ」
「や、やだなぁ。あいつが気付くのかどうかテストしてみたんすよ。Dクラスは、やっぱこんなもんっすね」
横文字って難しいのな。
困ってたのを助けたのは、間違いないし、イイコトしただろ。
だから細かい違いくらい見逃してくれよ、葛城さん。
あんまりおいしくない食事を終えたのだった。
◇◇◇
「不満はあるだろうが、今回は俺の指揮に従ってもらおう」
「…………」
「…………」
無人島に上陸。ルール説明後に、すぐに荷物を持って日差しの厳しい海岸を避けて森の中へと移動した。
葛城さんは率先してテントを持ったので俺もそれをサポートだ。
移動中に横目でDクラスを見たけど、まだあっつい場所でグダグダ言い合いをしている。
客観的に見たらやべえよな、Dクラスって。
いつもなら俺もあの輪の中にいるとか嫌になるぜ。
葛城さんが引っ張ってることについて、坂柳ちゃん派から舌打ちが聞こえたけど、坂柳ちゃんがいねえし、葛城さんがこの試験の指揮官だ。
ったく坂柳ちゃんのせいで30ポイントマイナススタートか、どんくせえよな坂柳ちゃん。
「この試験は、スポットの確保が重要と考える。まずはスポットのありかを調べる。数人でチームを組んでスポットを探してくれ。40分後にここに集合だ」
「スポットはいいが、誰がリーダーやるんだよ」
無人島試験で重要になるリーダーの話だ。
坂柳ちゃん派の橋本から質問が飛んでくる。めんどくせえな、葛城さんに任せてさっさと動けばいいのにさ。
「……春樹、頼めるか」
「俺っすか!? 任せてください」
おおお、無人島試験で初のリーダーだぜ。
葛城さんに頼まれた以上、仕方ねえ。俺がやってやる。
「はあ? そいつに出来るのかよ」
「この試験は俺に従ってもらう」
橋本から反発が飛んでくるけど、封じ込める葛城さんカッコいいぜ。
そうだよな、この試験は葛城さんが引っ張る試験だ。
頼りになる葛城さんに任せておけば、間違いないぜ。
クラスの輪から少し離れた位置にいた担任のところに、葛城さんと二人で向かう。
「……リーダーは葛城さんでお願いします」
「いいのか」
「はい。クラスのリーダーは葛城さんですから」
クラスのやり取りを見守っていた真嶋先生から確認されたが、俺は胸を張って応えてやった。
だってクラスのリーダーって葛城さんだろ。
俺じゃねえよ、やっぱり。俺がやってもいいけどさ。
葛城さんは何か口を開きかけて、何も言わなかった。
先生が機械を操作して、キーカードを作った。葛城さんの名前入りだ。これでキャンプのリーダーが名実共に葛城さんに決まった。
それを俺が受け取る。
「俺が預かります。戻りましょう、葛城さん」
「……そうか」
葛城さんにカードを持たせるわけにはいかねえ。ここは俺がカードをバッチリ管理して、葛城さんのサポートをしてやらないと。
へへへ、どうよ。キーカードが羨ましいだろ。
しばらく見せびらかすようにして手に持っていたのを、ポケットにしまい込んだ。
キーカードを手に出来ただけでガッツポーズしたい気分だぜ。
堀北は絶対に触らせてくれなかったし。
「よし、スポット探しに入ろう」
「分かりました」
リーダー問題を決着し、適当にその場でチーム編成して動き出した。
あーあ、動いてるのは葛城派で、坂柳ちゃん派はこの場に残るっぽい。
葛城さんは、坂柳ちゃん派の行動を予想していたのか、気にせずに動き出した。
俺もその後ろに続く。
しばらく森の中を歩き、周囲にAクラスの生徒が居なくなったタイミングを見計らったかのように、アイツが現れた。
「……よお、待っていたぜ」
「……龍園、何の用だ」
「取引の時間だ」
これは知らない展開だ。
え、どうなるんだ。
龍園と葛城さんが取引!?
どういうこと!?
「お前と取引する気はない」
「いいのかよ、様子を見てたが協力してるのはお前の手下しかいねえ。坂柳に押されているのが丸見えだったぜ」
「は? 葛城さんの方が優勢ですけど」
「雑魚は黙ってろよ」
なんだよ。絶対に葛城さんの方が偉いのに。
そりゃ葛城さんは、生徒会に立候補して落ちたらしくて、ちょっと坂柳派に鞍替えするやつが出て来たりしたけどさ。
それでもまだまだ1人か2人の差でしかない。
山内春樹っていうキーマンの存在を考えたら、葛城派の方が圧倒的に有利だって言えるくらいだ。
「春樹、引け」
「葛城さん!?」
葛城さんに言われたら引くしかない。
龍園の提案を黙って聞いてみる。
だいたいこんな感じだった。
1、キャンプポイント200ポイント分の物資をCクラスがAクラスに提供する。
2、見返りにAクラスの生徒は卒業まで毎月2万プライベートポイントを龍園に支払う。
3、Cクラスは他クラスのリーダーの情報を集め、Aクラスに提供する。
ええっと、どういうことだ。
1は分かりやすい。Cクラスが代わりに物資を買ってくれるから、Aクラスはキャンプポイントを使わずに済むのか。うんうん、キャンプポイントを残せばそのままクラスポイントになるし、最高じゃん。
あ、でも2でクラスポイントが200増えたところで、龍園に毎月2万払ってたら意味ないじゃん。最低な契約だ。
ああああ、でも、3がある。リーダー当てたら+50ポイントだろ。
伊吹ちゃんってスパイが調べ上げてくれるし、Dクラスのリーダー当て放題じゃん。
って、堀北が本気出したら失敗するんだっけ。
あれ? でも堀北の本気って、俺調べで泥北にしないと本気北にならねえよな。
つーことは、堀北は本気が出せない。
じゃあ、堀北がリーダーだって当てることができる。
「って、あああああああ」
俺はあることに気づいて思わず叫んじまった。
「なんだよ、黙れ雑魚が」
「どうした春樹」
「葛城さん、こんな契約結ぶ必要ないっすよ。絶対にいらないっす」
「なんだと」
俺はDクラスのリーダーが堀北だって知ってるじゃん。
つまり、わざわざCクラスから教えてもらう必要はない。
ついでに、泥北にならないから、堀北が本気を出すこともない。
つまり、勝利確定じゃねえか。
あ、でも今知ってたらおかしいよな。
茶柱が飛んできて「退学だ」とか言われかねないし、堀北のことは黙らないと。
「葛城さん、俺キャンプポイントの使い先を計算したんすよ。だいたい120から150ポイントで済みそうっす。そう考えたら龍園から200ポイント分物資を貰っても無駄が出るじゃないっすか」
「…………」
「クラスポイント200とプライベートポイント2万の取引みたいっすけど、実際に増えるクラスポイントはもっと低くて、Aクラスには不利な取り引きっすよ。断固阻止っす」
「春樹」
「それに、葛城さんは、坂柳ちゃんに負けてないっすから。焦る必要ないっすよ。龍園なんかと取引して無茶するより堅実にいきましょうよ、堅実に。葛城さんの良さって、そういうところじゃないっすか」
それにさ。思い出したことがもう1個あって。
結局Aクラスって確かそこまでキャンプポイント残せてなかったはずだよな。
つまり、契約しても失敗に終わってる。
龍園が裏切ったに違いない。
こんな負け確定イベントとか、知識のある俺が蹴っ飛ばしてやるぜ。
「龍園、どうやら縁がなかったようだ」
「あぁん、いいのかよ、負け犬で」
「ふん、その程度の脅しでは俺は揺るがん」
「ち、分かったよ。俺の時間を無駄にしやがって、覚えてろよ」
龍園は、俺を強く睨みつけてから去っていった。
前の俺ならこえぇええええってビビりまくってたと思うけど、今の俺はジムに通うマッスル山内だ。昔ほど、怖くねえ。
いや、こええけどさ。
葛城さんがいるって安心感半端ねえのよ。
隣に葛城さんがいれば、マッスル山内は龍園にだって歯向かえるぜ。
葛城さん、一生ついていくっす。