やまうちのなく頃に   作:おやまうちさま

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まさかのAクラス編その6 駆け抜けた2学期

 夏休みが終わった。

 予習ってやり出すと止まんねーのな。ほら、2学期に何をやるのかを一応知ってるわけじゃん?

 参考書買ってきて、ああじゃないこうじゃないって机に向かってたらあっという間よ。

 ジムにもいかないといけないし、遊ぶ暇がないってやつ?

 

「充実……してないよなぁ」

 

 超大事なプールのことも忘れてたし、なにやってんだかって感じだぜ。

 おかげで2学期の勉強でどこが分かってないかは、把握できた。

 授業をうまく活用して、分かってなかったところを埋めていこう。ペーパーシャッフル試験が待ってるし、しっかり勉強しとかねえとな。

 

 Aクラスならペアも点数取ってくれそうだから、あんま退学とかは気にしなくていいんだろうけどさ。

 

 後から思い返せば、これが分岐点だったのかもしんねえ。

 葛城さんが元気ないことに気づいてれば、何か変えられたのかな。

 

 

   ◇◇◇

 

 

 2学期。

 早速、体育祭という大きなイベントが発表された。

 

 クラスの並びは、いつもの通り変わってない。

 Aクラスは、Dクラスと同じ組。健とか元気にやってんのかな。同じ組ってのはちょっと嬉しい。

 やっぱ、戦うよりは仲間でいたいしさ。

 

「葛城の指揮で勝てんのかよ」

「は? 葛城さんに決まってるだろ。坂柳、参加できねえじゃん」

 

 で、クラスで早速揉め事が勃発とかめんどくせえ。

 誰がリーダーとして指揮を取るのか問題よ。

 

 坂柳ちゃんみたいな動けねえヤツに体育祭任せられないじゃん。

 

 俺の正論は、一定の効果があったみたいで、なんとか葛城さんがリーダーってことで落ち着くことが出来た。ふー、ナンバー2としていい仕事したぜ。

 

 ただ気になるのが、揉めてる最中に葛城さんがなにも発言しなかったことだ。

 いつもの葛城さんなら場を引き締めるような一言を言ってくれるのに。

 

 つーわけでさ、さっそく放課後葛城さんと一緒に帰ってみた。

 悩みごとあるなら聞いてやらねえとな。

 

「…………」

「…………」

「葛城さん、どうしたんすか? らしくないっすよ」

「らしくないか。そうかもしれんな」

 

 なんすか、その思わせぶりな台詞。

 ハゲが言っても決まらないっすよ。

 あ、でも渋い感じにはなってるか。ナイスハゲ。

 

 お前ら、葛城さんのハゲは病気なんだからな、あんまりハゲハゲからかうんじゃねえぞ。

 

「春樹、船上試験の結果をどう思った?」

「Aクラスの惨敗っすね」

「そうだな。Aクラスは裏切りに失敗し、優待者を全員見破られて終わった。一人負けだ」

「……森重の野郎が裏切らなきゃマシだったのに。本当に坂柳派のやつは許せねえっす」

 

 ふー、俺じゃないよアピールはしっかりやっとかないと。森重が失敗したんだ。俺じゃねえし。

 

「鼠、鳥、猪で優待者を当てられている。兎だけの問題じゃない」

「なんでバレたんすかね」

 

 葛城さんの作戦は、森重がやらかさなきゃ完璧だったはずだ。

 うーん、わっかんねー。

 

「試験が終わった後で誰が優待者なのかを調べたが、誰も名乗り上げなかった」

「優待者は、いなかったってことっすか?」

「違う。優待者がいたのは、坂柳の派閥だったってことだ」

「あ、そっか。俺達の派閥の生徒だったら、嘘つく理由がないっすもんね」

 

 葛城さんは、船上試験中はクラスの優待者を調べ上げることをしなかった。

 これは別にサボっていたわけじゃない。

 初志貫徹。話し合いを拒否して優待者の推理には参加しない方針を貫いただけだ。

 

 ほら、誰が優待者か知ったりしたら顔に出たりするかもしれないしさ。

 俺レベルだと大丈夫だと思うけど、全員が俺レベルってわけじゃねえし。

 

 優待者が坂柳ちゃん派だったのなら、試験中に調べても変わらなかっただろうなぁ。

 変に揉め事を起こさずに済んだってので、葛城さんのナイスプレーじゃん。

 さっすが葛城さん。

 

「優待者は、全員坂柳の派閥だった。優待者が、全員Cクラスに見破られた。何か見えてこないか?」

「……まさか」

「優待者が自分からCクラスにバラした」

「で、でも、特別試験っすよ。そんなことをして何のメリットが」

「個人的にはプライベートポイントを貰ったとかだろう」

 

 プライベートポイントって逃げ切ったら50万じゃん。それを捨てて裏切るって、そんなメリットあったのか。まさか100万とか!? 俺が貰いてぇ。

 

「重要なのはそこじゃない」

「どういうことっすか?」

「俺がリーダーを任せられた試験で、裏切りによってAクラスが一人負けになったことだ。そのことにより、俺をリーダーとして認めない声が大きくなっている」

「ええ!? そのためにわざとクラスを負けに導いたってことっすか!?」

「そう考えるのが妥当だろう」

 

 そこまでするとかマジかよ!?

 どんだけ葛城さんの足を引っ張りたいんだ、あの連中は。

 

 クラスポイントにはまだ余裕があるからAクラスは維持できてるけど、Bクラス以下との差は縮まってしまった。葛城さんの失態と言ったら失態になっちまってる。

 けど、それが坂柳ちゃん派がわざとやったとか、そこまでやるのかよ。

 

 ボロボロだったDクラスでも、わざと負けたりとかは起きたことねえぞ。

 

「春樹、坂柳がリーダーの試験でわざと負けることが出来るか?」

「…………葛城さんがやれっていうのならやるっすよ」

「俺にはそんな命令は出せない。クラスを勝たせることがリーダーだと思っているからだ」

 

 そうだよな。それが当たり前だよなぁ。

 いがみ合うのは好きにやったらいいけど、わざと足を引っ張るのはダメに決まってる。

 森重みてえなカスは一人で十分だっつーの。派閥でやらかしてどうすんのさ。

 

「正解っすよ。俺、Aクラスで卒業したいっすもん。わけわかんないっす」

 

 坂柳ちゃんって得体の知れないとこあるけど、わざと負けに行くとかねえよ。

 勝ち負けを何だと思っているんだ。

 Aクラスで卒業できなかったらどうするんだよ。

 

「そんなの坂柳がリーダー失格じゃないっすか」

「……皆が春樹だといいが」

 

 そうだよなぁ。皆が俺だったら楽勝なんだよなぁ。

 葛城さんに激しく同意だ。

 

「俺がリーダーを降りれば、坂柳は勝ちに行く」

「え!?」

「リーダーの一本化、負けるのはそのための手段だ」

「……つまりどういうことっすか」

 

 負けるのが手段?

 そんなのありえねえって。勝つのが大事じゃん。

 

「今後、俺がリーダーでいる限り、坂柳派が足を引っ張ってAクラスは負ける」

「…………」

「俺がリーダーを降りれば、足を引っ張る理由が無くなりAクラスは勝てる。負けてるのは、誰のせいだ?」

「坂柳のせいじゃないっすか」

「そうだな。だが、俺が降りれば解決する話でもある」

「そんな……そんなことが許されていいわけないっす」

 

 足を引っ張ってる坂柳ちゃん派が悪いのに、足を引っ張る理由になっている葛城さんが悪いってそんなの絶対に間違っている。

 俺、許せねえよ、そんなこと。

 

「春樹、Aクラスで勝ちたいか?」

「そりゃ勝ちたいっすよ」

「……分かった」

 

 葛城さんとの会話は、これで終わった。

 去っていく葛城さんの背中が、なんだか小さく見えてしまった。

 これからAクラスはどうなってしまうんだろう。

 

 全部、坂柳ちゃん派が悪いのに、葛城さんが責任を取ろうとしている。

 俺は、どうしたらいいんだ。

 

 

   ◇◇◇

 

 

 2学期が終わった。

 そして、葛城さん派も終わった。

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