やまうちのなく頃に 作:おやまうちさま
「……あーあ、せっかくの冬休みだっつーのに、楽しめねえや」
2学期が終わって冬休みに入った。
特に特別試験とかもない、純粋な休みだ。
昔の俺だったら遊びほうけて過ごしてたけど、今の俺は遊ぶ気にもなれなかった。
2学期最終日に、葛城派の解散が決まったせいだ。
「……勉強でもしとくか。3学期のテストって結構きつかったしさ」
あーあ、これもそれも全部坂柳ちゃんのせいだ。
2学期は、主要なイベントが2つあった。
体育祭とペーパーシャッフル試験だ。
で、体育祭までが葛城さんがリーダーだったわけよ。
「あいつら手を抜きやがって」
Aクラスは、元々どちらかといえば運動よりは勉強に優れた生徒が多い。
つっても、運動が出来る生徒がいないわけじゃない。
たださー、その運動が出来るAクラス生徒っつーのが、橋本、鬼頭、神室と揃いも揃って坂柳ちゃん派だったってオチよ。
競技で1位を取って欲しい連中が、3位~5位くらいでゴールしてるわけ。
この辺隙が無いっつーか、露骨に最下位とか取ってたら責められるけど、可もなく不可もなくくらいの順位を上手く取りやがる。
葛城さんにあいつ等は「わざと負ける」って指摘されてたから気づけたけど、指摘されてなかったら気づけなかったかもしんねえ。
ただでさえ運動では優れてるわけじゃないAクラス。それなのに、出来るやつに限って手を抜きやがる。そりゃAクラスは学年3位も納得っつーか、最下位にならなかっただけマシって感じだ。
Aクラスがそんな状況で最下位を取るDってどんだけひどいのかを改めて知るっていうさ。
まあ、あっちはあっちで相変わらず高円寺は不参加だし、健はブチ切れて途中で放棄するし、そりゃそうかって感じ。
こっちの出来るやつは3位~5位だけど、あっちの出来るやつは最下位にすらならないんだから、Aクラスが勝つよな。
高円寺がどれだけ出来るやつなのかとかしんねーけど。
で、リーダーの葛城さんが負けの責任を取らされて、ペーパーシャッフル試験では坂柳ちゃんがリーダーになった。
結果は、2点差でBクラスに勝ち。
点差は僅かつっても、勝ちは勝ちだ。
直接対決だったおかげで、クラスポイント100ポイントアップだ。相手は100ポイントダウンだから、トータル200ポイントの差がついた。
坂柳ちゃん派の生徒は、しっかり点数を取ってたし、葛城派もわざと負けにいくようなふざけた奴はいない。
Aクラスが本気を出せばこんなもんだ。
俺? 俺も、まあ余裕だったぜ。
本当だぜ? ペア相手の方が点数高かったけどさ。
あ、そうだペア決め。
ペア決めには、法則があるじゃん? 小テストの結果で決まるってやつ。
俺気づいたんだけどってドヤ顔で提案したんだけどさ、却下されるっていう。
『Aクラスに小細工は必要ありません』
で、終わりよ。ひどくね?
それで勝てたし退学者も出なかったから文句も言えねえけどさ。
俺の見せ場が小細工呼ばわりで潰されたし、ひでえよ。
葛城さんがリーダーだった体育祭は、敗北。
坂柳ちゃんがリーダーだったペーパーシャッフル試験は、勝利。
各リーダーの明暗が分かれる結果となっちまった。
この結果を受けて、葛城さんが派閥の解散を決めたんだけど、俺は当然反対した。
あいつらが手を抜いてる。騒ぎましょうって言ったんだ。
「騒いだところで、関係が悪化するだけで、クラスに得にはならない。いつまでもクラス内で争っていては、他のクラスを喜ばせるだけだ」
「葛城さん……」
「よくついてきてくれた。礼を言う」
「葛城さん……」
俺、泣いたね。
いや、泣くって。こんなん泣かないとか無理っしょ。
葛城さんが一番怒っていい立場なのに、最後まで葛城さんはクラスのことを考えて身を引いてさ。
一部から敗北者呼ばわりされてるんだぜ? ひっでーよ。
葛城さんはハゲてるだけで、敗北者じゃねえし。
あーあ、俺がAクラスでやってきたことって何だったんだろうな。
◇◇◇
冬休みの間で、どうにか気持ちに折り合いをつけて3学期に突入した。
葛城さんがあのタイミングで解散を決めたのは、折り合う時間を作ってくれたのかもしれない。
流石葛城さん。
ほら、葛城派が解散しちゃったのは悔しいけどさ。
俺らAクラスじゃん?
ポイントウハウハ継続中じゃん?
だったらこの生活を楽しめばいいじゃん。坂柳ちゃん派に、俺という戦力が加わったら盤石になるし、そこに葛城さんも合流でしょ、これで最強チーム結成っつー寸法よ。
退学にならないように、バッチリ予習できたし、俺もAクラスの一員として頑張るぞ。
まずは、綾小路のアレがデカい合宿か。
これはある意味慣れっこなんだよなぁ。前回も俺以外全部Aクラスっていう環境で勝ち抜いたし、余裕余裕。
風呂場で綾小路のTレックスを囃し立てる練習だけしとこ。
「あ、それ、TレックスTレックス」
よし、完璧。
葛城さんも結構デカいけど、綾小路には勝てない。
葛城さんは所詮、Aクラスって感じだよなぁ。
Tクラスには勝てねえよ。
あ、無事にAクラスに戸塚を加えたグループが1位を取ったぜ。
うっし、これでクラスに貢献できたし、また一歩Aクラスでの卒業に近づいた。
◇◇◇
で、クラス内投票。
俺にとっては、退学になった因縁の試験だ。
昔の俺だったらめっちゃビクビクしてビビり倒して、坂柳ちゃんに相談して失敗したけどさ。
今の俺は、Aクラスの山内だから余裕っつーか。
しっかりAクラスの戦力になれてる自信あるし、俺が退学になる要素ないんだよなぁ。
後は誰に入れるのかだけ考えとかないと。
賞賛票は、葛城さんは鉄板だろ。残り2人かぁ。見た目の良い白石とか森下に入れとくか。
女子が減るのは寂しいからな。退学になるのは、男子であって欲しいし。
他クラスの賞賛票は、健にしとくか。
ほら、アイツって退学筆頭候補じゃん。
俺がいれたくらいで救われないかもしんねーけどさ、ちょっとは救ってあげないと。
俺のせいで何回か退学になっちまったしさ。恩返しってやつ?
問題は、批判票なんだよなぁ。
船上試験で裏切りに失敗して、クラスにダメージを与えた森重にとりあえず入れるとして、残り2票かぁ。
気に食わねえのは、橋本と鬼頭だけど、坂柳ちゃん派の幹部だからなぁ。
こいつらに入れてもどうせ退学にならねえし、無記名投票のはずだけどバレそうでちょっと怖い。
ほら、坂柳ちゃんにちょっとは媚び売っとかないとさ。これもクラスの円満のため、旧葛城さん派から投票しとくか。1票目の森重は坂柳ちゃん派だし、バランスバランスっと。
フー、こんなもんか。
最初の時は、誰を退学にさせて助かるかばっかり考えてて、大変だったっけ。
綾小路以外は、健と寛治に入れたんだよなぁ。
友情は、裏切れねえけどさ。
ほら、退学になった時点で友情は切れちゃうわけで、俺が退学になる方が裏切りじゃね?
友情を守るためには、健か寛治が退学になって俺が助かるしかなかったんだ。
綾小路が退学になるのが一番だけどさ。
結局、助からなかったし。
って、嫌なことを思い出すのは止めよう。これで投票試験は、やること終わったしその後について考えないと。
投票の後って何があるんだっけ。
「………………………………知らねえじゃん!?」
あ、ああああああーーーーーーー!!!!
生き残ることに必死に生きてきたから、全然考えてなかったけど。俺、この試験で退学になっちまったから、この後のこと全然知らねええええええええ。
ええええええ、こっから先は事前知識ゼロで戦わないといけないってこと!?
ちょっと待ってよ。それは、約束が違うだろうが。
ほら、俺が蓄えた知識を元に戦ってAクラスで卒業するために頑張ってるのに、知識がないとかこっから先どうしろと。
不親切過ぎるだろ、このループ。先の展開も教えといてくれよ!!!!
こっから先、どうしりゃいいんだよぉおおおおお。
お先真っ暗だ。
俺、次の試験でやらかすんじゃね?
どうしよう。
そんなオレの次の試験に対する心配は、杞憂に終わった。
「山内、お前が退学だ」
クラス内投票で俺が退学に決まったからだ。
「え!? ちょっと待って、どういうこと!? 退学するのは葛城さんじゃ」
そう。なんか坂柳が動いて、退学は葛城さんに決まったはずだった。
ほら、抵抗したかったけど、葛城さんが受け入れちゃったからさ。俺も仕方ねえなって受け入れたんだ。批判票も森重から葛城さんに変更よ。
って事情を説明してる場合じゃない。
「どういうことだ!?」
葛城さんらしからぬ声をあげてくれている。
良かった。葛城さんが俺を陥れたわけじゃないらしい。大ピンチだけど、ホッとした。
さっすが葛城さん。俺は最後まで葛城さんの味方でいるっすよ。
「どういうことだ坂柳」
「答えはシンプル。山内くんが邪魔だからです。船上試験で、裏切り者になって失敗したことを把握しています。クラスの足を引っ張る人は不要です」
「は? あれは森重がやったことだろ」
「裏切り者が出た時間帯に、私の派閥の生徒は集まっていたんですよ。誰も操作していません」
なんだよ、それ。聞いてねえし。
「そんなの示し合わせたらどうとでもいえるじゃねえか」
「そうかもしれませんね。ですが、私は彼らの証言を信じます。それだけの話です」
「なんだよ、それ」
そんな理不尽がまかり通っていいのかよ。
裏切ったのは俺なのに、森重に罪をなすりつけることができねえとか、いくらなんでも理不尽過ぎる。それで退学とか納得できねえよ。
「山内くん。この学校を去ってもお元気で」
俺が納得できるできないとか、そんなことは許してはもらえなかった。
こうして俺の退学が決まった。
あーあ、せっかく坂柳ちゃんに協力してAクラスで卒業しようって決めてたのに。
次こそは絶対に、俺がAクラスになって卒業してやるぜ。
俺は改めてそう決意を固めて、Aクラスから退学になった。
まさかのAクラスチャンスを逃したやまうちのなく声だけが変わらず、
毎度、お馴染みの退学を告げていた。