やまうちのなく頃に 作:おやまうちさま
中間テストは、問題なく突破した。
過去最高点を更新とまではいかなかったけど、中間テストだけじゃなくて先の予習とかにも取り組んでる中だと出来た方だろ。
健は相変わらず1点足りなかったのに、何かの力が働いて救済されている。
本当にこれはなんなんだよ。
俺の時は救済されなかったんだよなぁ。健ばっかりずるいぜ。
運動できるからフォローとかされたのかなぁ。
それとも部活点とか?
なんだかんだ俺はずっと帰宅部なんだよなぁ。
一度くらい部活やってみるのもよかったかもしんねー。
今更か。
そっか。退学しないように必死で考えたことすらなかったわ。
部活で頑張ればプライベートポイントが貰えるらしいしさ。
俺に合う部活ってなんだろうなぁ。
健がいるバスケ部は、ザ体育会系って感じできつそーだしねえな。
入るなら文化部か?
弓道部とかもあるんだっけ。ちょっと憧れる。楽そうだしさ。
考えても仕方ねえか。もう6月だもんな。今更部活に入ったりとかなぁ。
こういうのを考えたりできるようになったのも、葛城さんのおかげでゆとりをもてるようになったからか。
追い込まれてたら無理だもんなぁ。
「……そろそろ健がやらかす時期かぁ」
いつもの健だから暴力事件が起きるんだろうなぁ。
色々頑張ってみたけど、動かない方がいいって分かってるから今回も佐倉に任せよう。
佐倉のデジカメが壊れる→佐倉が証言する。
このコンボさえ抑えておけば、俺は何もしないのが大正解ってわけよ。
「佐倉かぁ……佐倉もなんか穏やかに見ることができるようになったんだよなぁ」
佐倉と言えば地味な女だった。
でも胸がでけぇ。
それに雫ちゃんだってことが分かってからは、佐倉のことで頭がいっぱいだったっけ。
だからこそフラれて、それでも出会い直してどうにか仲良く出来ねえかなって動いたんだけどさ。
結局、上手くいかなくてさ。
いつもおっぱいばっか見てたけど、今はなんか佐倉は佐倉として見れるようになったんじゃね?
おっぱいが気にならなくなったわけじゃねえぞ。
前は、おっぱいでいっぱいだったのが。おっぱいはいいなぁ、くらいになったっていうか。
この辺も葛城さんの教えのおかげなのかなぁ。
精神的に余裕が出てきてるのかも。
東はおっぱい小さいんだよなぁ。
「って、俺はなんで東の方を見てるんだ。あいつは同盟の手先じゃねえか」
頭をぶんぶんと左右に振って雑念を振り払う。
いかんいかん、雑念が消えきれてない。
なんとなくだけど、図書館の一件があってから東のことが気になってるんだよなぁ。
銀英伝について語りたいのかなぁ。
つっても、同盟信者と語ることなんかねえけどさ。
あーあ、東が帝国側だったら仲良くできたかもしんねーのにななぁ。
はあ、東には心底がっかりだぜ。
◇◇◇
よっしゃー、健の暴力事件も期末テストも突破した。
これでいよいよ無人島試験だ。
何度目だっけなぁ。
「外からチェック、外からチェック」
上陸前からワクワクが止まらねえぜ。
葛城さんからイイコト教えてもらったもんな。
なんと学校側が上陸前に、ヒントを与えてくれていたらしいんだぜ。
マジかよ、葛城さん。
正直、半信半疑だったけど、葛城さんの言っていることが本当だったかどうか、これで確認できる。
最初からデッキの一番良いところを陣取って待機だ。
っと、あぶねえあぶねえ。何もせずに待っていたら、なんで待ってたんだって退学ルートに乗りかねない。
そうだな、タイタニックごっこでもしていようか。
デッキの先端で両手を広げてみる。
「…………」
あれ? 両手を広げるのって男側だっけ? 女側だっけ?
ラインハルト改めレオナルトディカ春樹だ。
って俳優の名前じゃん。
男役の名前なんだっけ。
なんか豆まいてそうな名前だったはずだけど。
「山内、何やってるの」
「う、うるせえ。風を感じてたんだよ」
一人タイタニックごっこをやっていたら、嫌な奴が現れた。
東だ。
「ぼっちで?」
「お前もだろうが」
「さっきまで友達と遊んでて、ちょっと涼みに来ただけだから」
「冷房の効いたところでもいけよ」
「せっかくの豪華客船なのに、風情がないじゃん」
風情か。
俺だって最初に船に乗った時は、感動して探索とかいろいろ行きまくってたっけなぁ。
今は、豪華な食事とジムさえ使えればいいやってなっちまった。
だって豪華客船に乗るの何日目よって話。
5,6回は優待者試験やってるはずだから、単純計算で1月は軽く豪華客船で過ごしてるじゃん。
改めたらすげえ堪能してんなぁ、俺。
「東もこっち来てみろよ、風を感じられるぜ」
「ええ、別にいいし」
「いいから来いってほら」
一人でタイタニックごっこがバレたら恥ずかしいし、誤魔化そう。
ちょっと強引に東を船頭に立たせて、俺はその背後に回った。
「どうよ、最高だろ」
「……ちょっといいかも」
「だろ。特等席だぜ」
本当なら目を閉じて、とかやるところなんだろうけど、東じゃなぁ。
俺がディカプリオなのはいいとしても、こいつがローズじゃタイタニックは成り立たないっつーか、恋が始まる前に沈んでしまうじゃん。
『生徒の皆様にお知らせします』
なんて考えたらアナウンスが始まった。
東が何ごとかと顔を見てくる。俺は余裕ぶって迎え撃った。
『是非デッキにお集まりください。意義のある景色を──』
おお、今、意義ある景色って言ったよなぁ。
葛城さんが言ってたのは、これのことだったのか。
確かになんか意味深な言葉じゃん。
「げ、人が集まってきてる」
「いや、意義ある景色だぜ見て行けよ」
「嫌よ。山内と一緒のところとか見られたくないし」
藤崎詩織かよ、こいつは。
詩織ちゃんは、勉強も運動も見た目もいい完璧超人だから許されるんだぞ。
東ごときがその台詞を吐くな。
「だったら行けよ、俺一人で堪能しとくから」
「……ふん、じゃあね」
あーあ、せっかくの次の試験を楽にするチャンスだったのに。
まあ、いきなり試験が始まるとか知ってないとわからないだろうし、仕方ねえか。
「おお、確かにあそこに道がありそうだなーとか分かるじゃん」
外から見る無人島は、上陸してから見る無人島はまた違って見えて、意義ある景色がどういうものかっていうのを理解した。
葛城さんは、嘘つきじゃなかった。
これで無人島生活は貰ったぜ。
◇◇◇
「って思ってたんだけどなぁ」
結局、活用することなくいつもの通り寛治が川辺スポットを見つけてきて、そこがDクラスの拠点となった。
洞窟はスタートダッシュしねえと、他クラスに確保されて無理なんだ。Dクラスがスタートダッシュなんか決められるはずもなくさ。
俺が洞窟に辿り着いた時には、既に葛城さんと弥彦の姿があったっていうオチよ。
弥彦ってDクラスの能力の癖に、ちゃっかりAクラスに戻ってやがる。
とんだラッキー野郎がAクラスにもいたもんだぜ。
まあいいや。
葛城さんから教えてもらった知識で、葛城さんの場所を奪うとかちょっとどうかなってのもあるしさ。
甘いっちゃー甘いけど、葛城さんにはそれだけ恩があるし。
ある意味慣れ親しんだ川辺スポットの方が、過去の経験を発揮しやすい部分もあるしさ。
寛治と協力して川の水を飲料用にする。
食料を集める。
火だってばっちり起こす。
このあたりの無人島試験鉄板ムーブさえやっとけば、悪いことにはなんねーし。
あとは、堀北を泥だらけにするかどうかだよなぁ。
泥だらけに成功すれば、堀北が本気堀北になって大勝利よ。
「……ハイリスクハイリターンだけど、やるっきゃねえよなぁ」
無人島でクラスポイント稼げなかったら、いつまで経ってもポイントがキツキツだからなぁ。
ここは俺がクラスの為に頑張るしかねえか。
いつも通り平常心でやれば大丈夫っしょ。
それ以外は特に事件も起きねえはずだしな。
◇◇◇
試験5日目。
その日は女子の騒ぎ声で目が覚めた。
「なんだよ」
「いいから男子出て来なさい」
ああ、いつものアレか。
伊吹ちゃんによる下着泥のやつ。
あ、特に言及してなかったけど、伊吹ちゃんというスパイはDクラスが拾っている。
無理に反対できねえから仕方ない。どうせ、堀北が本気出せば被害とか出ないって分かってるし。
軽井沢の下着泥も本来なら大事件だけど、寛治の鞄から出てきても、平田がどうにかするって知ってるから別に事件ってわけでもねえんだよなぁ。
ちょっと騒がしい目覚まし時計ってくらいか。
男女の仲が一時的にギスギスするけど、5日目まで来たらもうゴールはそこだから、特に影響出ねえんだよなぁ。
はいはい、なんかあったなぁ、くらいの話。
つーわけで、俺は余裕綽々でテントから出て、女子に言われるがまま鞄を持ち出して、荷物検査の列に並ぶ。
大変なのは、寛治だけだから寛治に近づかなければ大丈夫。
その肝心の寛治は、どんな感じで焦ってるんだろうな。
「あれ? なんか余裕じゃね?」
綾小路とだるそうに話しながら、荷物検査の後ろの方に並んでいるのが見えた。
寛治も下着泥するのに慣れてきたのか?
ってそんなわけねえか。
「次、山内くん」
「おうよ」
どうしたんだ、とか考えてるうちに、俺の順番が回ってきた。
俺は、大丈夫アピールのために鞄の封を空けて、その場で荷物をひっくり返してみせる。
そこまでする必要はねえけど、変に疑われたくねえしな。
ビニールシートの上に、タオルや代えの服や下着、その上にピンク色の布地が宙を舞って着地して。
「え?」
「山内くん、それは」
どう見ても女物の下着です。本当にありがとうございました。
って言ってる場合か!?
えええええ!?
なんで俺の鞄から軽井沢の下着が出てくるんだぁああああ。
伊吹の野郎、入れ間違えやがったなぁああああああああ。