やまうちのなく頃に 作:おやまうちさま
佐倉の拒絶能力は高い。
つーか、観察していて気づいたけど、放課後はほとんど寄り道せずに、さっさと帰ってる。
寮に入られたら、女子と男子は改装で分かれているからそこまでだ。
出てくるかもしれないことに期待して、寮のロビーで待つ手もあるっちゃあるけど、どうしても目立ってしまう。
と、ここまでならお手上げだが、今の俺は一味違うニュー山内だぜ。
「デジカメの修理があるじゃん」
そう、佐倉に関する情報、アドバンテージを持っている。
ケヤキモールを見張れば、デジカメの修理に来る佐倉を捕まえることが出来るはずだ。
ケヤキモールなら遊びに来ている連中ばっかだから、ぼーっとしてても目立たないし、幸いポイントも十分にある。ちょっとジュースでも片手にベンチでアプリゲーでもしながら見張ればいい。
俺って天才じゃん。
つーわけで、放課後はケヤキモールに陣取って佐倉が来るのを待った。
◇◇◇
まさかの長期戦。
放課後は連日の空振りで、土曜日まで潰したのに佐倉は現れなかった。
「見落としたとか? それとも別のところで修理? いや、待つしかねえか」
いい加減諦めろって自分でも思っている。けどよ、ここで諦めたらなんか連日の見張りが無駄になったみたいじゃん。絶対に成果をゲットしてやる。俺は山内春樹、諦めの悪い男だぜ。
つーわけで、日曜日も朝からケヤキモールで時間を潰していた。
サービスカウンターはここしかないはず。出入りがチェックできるベンチを占拠して、スマホゲーだ。
すっかりゲームをしながら周りを見るスキルを身につけちまった。
昼過ぎ。
ベンチが全部埋まったのを気にせず、占拠を続行中。
その間にも見知った顔が何人か通ったが、今度の2人は強烈だった。
「あ、綾小路……どうしてあいつが櫛田ちゃんと……」
普段は孤独野郎なのに、休日に櫛田ちゃんと2人で行動だと。
どういうことだ。
俺ですら、まだ1回も櫛田ちゃんと2人で休日を過ごしたことねえのに。
なんだったら前の時は、池含めてグループで出かけたりとかあったが、この4月からに限って言うならゼロだ。
俺だって櫛田ちゃんと遊びにいきてーーー。
どうする? 邪魔するか? 綾小路なら押せば合流できるんじゃね?
あーあ、それにしても櫛田ちゃんの私服が眩しいぜ。
隣の地味男が似合ってねぇ。ちったー、服に気を遣おうぜ。
って、俺も今はコスパ重視の地味服だった。
くっそー、早くクラスポイントを貯めて、自由に使えるポイントを増やしてーー。
こんな地味服は、櫛田ちゃんに見られたくねえな。
我慢だ我慢だ。
見つからないように、体の向きを変えつつ横目でチラチラとうかがう。
すると、俺の横を通り過ぎて、背後のベンチへと向かった。
「佐倉さん?」
櫛田がそのベンチに座っていた人物に話しかけると、伏せていた顔を上げた。
「あの……その……今日は、お願いします」
ええええええっ!?
背後に座っての佐倉だったのか!?
ぜんぜん気づかなかった。気配消し過ぎだろ。目立つピンク髪のくせに。
そして、おっぱいがでけぇええええええ。
佐倉の私服を見るのは初めてだけど、なんつーの、おっぱいがおっぱいおっぱいしてやがる。
って、佐倉と櫛田が合流したってことは、綾小路とも合流したってことだよな。
両手に花かよ。
なんで綾小路みたいな地味男が、クラスいちの美少女と巨乳っ子と一緒なんだよ。
って、移動するみたいだ。
……綾小路が何か悪さするかもしれねえし、見張っといてやろう。
これも全部、櫛田ちゃんや佐倉のためだ。
ヒーローってもんは影ながら努力するもんだぜ。
「……修理かよ」
どうやら3人がケヤキモールに集まったのは、佐倉のデジカメの修理だったらしい。
ある意味俺の目的は果たせたが、佐倉の手助けには失敗した。
俺のやりたかったことを綾小路が実行している。
つーことは、やっぱりデジカメの修理にあるって睨んだのは、正しかったのか?
これが佐倉と綾小路が仲良くなるきっかけだったとしたら。
遠目だったからよく分からなかったけど、なんか店員と揉めてたみたいだし。
「……あの店員ひっでえよな。なんつーか、典型的にアレなヤツ?」
あんなやつにはなりたくないって思わせるような、無気力ブヒヒヒ系だ。
どんなやりとりがあったのかを聞いてみたけど、ちょっと声をかけただけであからさまに不機嫌になったので、詳しくは聞けなかった。
仕方ないから引き下がったが、とりあえず態度の悪い店員として、アンケートで投書しておこう。これもケヤキモールが良くなるためだ。
「デジカメを預けてたみたいだから、修理後に引き取りもあるはずだよな。つーことは、その時が勝負か?」
チャンスは、もう1度ある。
そのことだけを救いに、オレはケヤキモールを後にした。
今日の収穫は、綾小路が佐倉と仲良くなったきっかけらしきものが分かったことだ。
修理ってどんくらいかかるんだろうなぁ。
分かったら毎日見張る必要がなくなるのに。
◇◇◇
あれから3日後。
健のことでクラスはドタバタしていたが、俺は佐倉のことでジタバタしていた。
大人しくケヤキモールに通ったが、今日まで空振りだ。
仕方ないので、この間の修理担当のおっさんがどう態度が悪かったのかを遠目にチェックして、事細かにアンケートに書く日々だ。
こういうのは積み重ねが大事。やっぱ俺で努力家だよなぁ。あ、今舌打ちしてたよな。お客様アンケートに追加しとこう。
健の審議会は、昨日行われたらしい。
前回ほど親しくないので、詳しくは知らない。
けどま、前回もなんだかんだ大丈夫だったんだから、今回も大丈夫だったと思う。
佐倉も証言したみたいだし。
つーか、それがあったんだよなぁ。
デジカメがぶっ壊れたのを見てデジカメに絞ってたけど、元々佐倉をチェックしてたのは、健の騒動のキーマンだからだ。
すっかり修理だけ見とけばいいって意識が取られたせいで、そのことが頭から抜けちまってた。
もっと健の騒動に関わらないとダメだったんじゃね?
綾小路は、堀北の手下として動いてたみたいだし、もしかしたらそっちで綾小路と佐倉の間に、何かがあった可能性がある。
「……今さらだよなぁ。なんで綾小路ばっかりなんだ?」
綾小路も、審議会にも参加していたはずだ。
たぶん堀北の要望だと思うけど、なんで綾小路なんだろう。
足が速いくらいしか特徴なかったよな。
あ、あとアソコが超デカい。マジでデカい。ビビるくらいでデカい。
健よりもでっけーとか何もんだよ。
「堀北が綾小路くらいしか友達がいないせいか……」
それくらいしか理由が思いつかなかった。
つーことは、堀北と親しくなるべきだった。
けど、堀北は拒絶してくるからなぁ。
なんで綾小路だけ受け入れているのかが謎だし。
まあ、堀北と仲良くなるとか絶対無理だから、時間の無駄だ。
今は佐倉とどうやって仲良くなるかだ。
健の騒動には今さら関われないし、デジカメの修理で結果を出すしかない。
それにしても飽きてきたなぁ。あ、今商品を投げたよな。アンケートアンケート。
あのおっさんガサツ過ぎて引くわ。
「っとと……」
おっさんに気を取られて商品棚にぶつかってしまった。
ちょっと棚の商品がずれたみたいだが、ま、いっか。
確か海外だとこういうのは、店員に任せるのが当たり前だと聞いたことがある。店員の仕事を奪ったらダメだもんな。つーわけで、この場を離れるか。
同じ場所に居続けると目立つし、見張れる次のポイントへと向かう。
「お、佐倉いた……やった1人じゃん」
場所を移したおかげか、こそこそと歩く佐倉を見つけることが出来た。
綾小路の姿は確認できない。これってチャンスじゃん。
待て、慌てるな。
声をかけるタイミングを計らないと。
「あれ? どこ向かってるんだ?」
ケヤキモールに入ってきた佐倉は、想像通り家電量販店へと向かった。
が、入り口で引き返して、別の場所へと歩き出した。
「ってアイツか」
どうしたんだと思ったら、例のおっさんが佐倉の後を追いかけるように店から出てきた。
俺は見つからないように気をつけつつ2人の後を追う。
おっさんが意図してやっているのか、佐倉はどんどん人気のないところへと追い込まれていき、やがてケヤキモールの裏口から外に出た。
おっさん、俺と佐倉に続いて外に出る。
そこはどうやら商品を運んだりするための場所らしい。
おっさんの消えた背中を追って角を曲がると、行き止まりになっていて佐倉が捕まっていた。
「ぐふふ……手紙を見てくれたかなぁ、雫ちゃん」
「やめてくださいっ……迷惑です」
雫ちゃん?
それは佐倉の芸名のはず。ってことはおっさんは佐倉が雫だってことに気づいて、あんなことやこんなことをやろうとしてるのか。
許せねえ。そういうアイドルが近くにいるから手を出そうとするとか、最低野郎だ。
「運命だよね、僕達……こうやって二人っきりになれたんだよ」
「そんなつもりありません……」
「雫ちゃんもそのつもりだよね。いいんだよね」
「やめて……誰かっ助け──」
「そこまでにしとけっ」
佐倉を捕まえたおっさんが、押し倒すのが見えて、隠れていたのをやめて飛び出す。
「な、なんだお前は……」
「佐倉のクラスメイトだ。大丈夫か、佐倉」
「山内……くん……」
決まった。完璧に決まった。
これで佐倉からの好感度もうなぎ上りってやつよ。
助けに来たヒーローに俺はなってやったぜ。何日も張っていた甲斐があった。
「邪魔をするな……」
「そういうわけにはいくか」
「ぼ、ぼくは、雫ちゃんと幸せになるんだ」
「それはおっさんの身勝手だろ」
「おっさんっていうな」
おっさんが激昂して、佐倉を手放して立ち上がった。
よし、これで佐倉が解放された。俺の好感度さらにアップだ。
「くっそぉおお、いいところだったのに」
「残念だったな、おっさん」
「おっさんっていうなって言ってるだろうがぁあああああ」
おっさんの叫び声が響く。
これだけ騒動になってたら、そのうちだれかが来るだろう。
「なんなんだよ。せっかく雫ちゃんと知り合えたっていうのに、いいところで邪魔が入るなんて。最近ずっとクレームが入ってて、上の人に怒られまくるわ。俺が何したってんだよ。いいよ、もう、こうなってしまったらどうせ首じゃん。首になるくらいなら、俺は雫ちゃんと」
「諦めろっつーの、おっさんじゃ佐倉と不釣り合いだぜ」
「うるさいうるさいうるさい、お前さえ来なければ……死ね、死ねしねしねぇええ!!!!」
「ええ、ちょ……おっさん、落ちつっ──」
こちらに向かってくるおっさんの手に何か光るものが見えて、慌てて静止した時には、腹部に衝撃が走っていた。
せっかくヒーローになったのに……なんだよ、これ……
やばい、意識が……
◇◇◇
気づいた時には、5度目の学校へと向かうバスの中にいた。
「なんでだよ、俺、かっこよかったじゃんかよぉおおおお」
カッコよかったはずのやまうちのなく声だけが変わらず、
毎度、お馴染みの退学を告げていた。