やまうちのなく頃に 作:おやまうちさま
基本的な学力と注意力が足りないやまうちのなく声だけが変わらず、
毎度、お馴染みの退学を告げていた。
「やっちまったぁああああああ」
つーわけで、何度目かのバスの中だ。
佐倉のことをどうすればよかったのか、悩んでるうちに中間テストが来て、前回いけたからいけるっしょって余裕ぶっこいてたら、退学になるっていうオチ。
なんつーかさ、刺されたと思ったら戻ってたからはっきりしねーんだけど、誰か目撃者がいた気がするんだよなぁ。佐倉じゃねえよ、誰かに見られた感じがあった。
誰があの場に来たんだろうかって考えても分かんねーし、いたのかいないのかはっきりしない目撃者だ。ちょっと探してみたけど、よくよく考えたら入学時に戻った時点で、俺が刺された事件は発生してないから無駄に終わったんだぜ。
なんだったんだろうなーとか、やってたらテストを突破できなかったって話。
言い訳でもなんでもなく忙しかったんだ。
まあいい。おかげで考えはだいぶまとまったし、改めて入学式の時間を使って整理するぜ。
1、健はほっとく。これ鉄板。
2、真面目君モード継続。寛治は我慢。
3、佐倉を助ける。おっさんを怒らせない。
4、健の暴力事件は、積極的に動く。ここを変える。
5、ゲームを買うのかは保留。
どうせなんとかなったって思考がダメだってことに気づいた。これが1番の収穫よ。
暴力事件は俺が知らない間にどうにかなったけど、もっと関わるべきだった。
佐倉とも仲良くなるチャンスが増えそうだし、一石二鳥ってやつ。
で、5のゲームだ。
前回特に触れなかったけど、気づいちまったことがある。
「漫画が既に読んだとこしか出て来ねぇええええ」
そうだぜ。
店頭に新刊が並んでると思って買ったら、一度読んだことある新刊だった。
何言ってるか分からねえ──こともないか。
単純な話で、なんかループが始まる前に読んだことがあったってだけだ。
俺は高2の7月くらいまで、好きな漫画は追いかけて読んでいた。
つーことは、あと1年以上続きが読めないってことになる。
絶望しかねえ。
新刊を読む前に、週刊誌で気づければ良かったんだけどさ。
ほら、監視カメラでチェックされてそうだし、立ち読みとかしにくいじゃん?
「立ち読み、クラスポイントマイナス5」
とか食らったら困るしよ。
買って読んでも良かったんだけど、最初の時は寛治と週替わりで買って読んでたから、寛治と微妙な仲になったせいで、毎週自分のためだけに買うのもなって躊躇しちゃってさ。
ループの罠に気付くのがだいぶ遅くなったってわけ。
ゲームなら体験だから楽しめそうだし、漫画の代わりに買ってもいいかなーって悩み中。
ゲーム買えば、寛治とバカできるかもしれないしよ。
けどやっぱ保留だな。
結局、授業中真面目モード山内を続ける限り、上手くいきそうにねえもん。
仕方ねえ、今回もゲームは我慢で行こう。
◇◇◇
無事に、中間テストも余裕で突破して、健の暴力事件の季節となった。
間違ってないけど、ひでえ季節だ。
それはそうとして、今回はなんとクラスポイントが1残ってたりする。
俺も繰り返すうちに、授業中の立ち回りが上手くなったというか。
あれよ? 注意ってやつ?
ちょっとだけクラスのダメ行動を抑えることに成功したらしい。
5月の頭時点で、前回45 今回52(1000→52)
6月の頭時点で、前回0 今回1(52→1)
合計したら差額でお小遣い800円追加でゲットだぜ。
頑張って800円とか泣きたくなるけど、小さな一歩こそ偉大だ。
6月に入った100ポイントは、祝杯のジュースを飲んだらマイナスになっちまったけど。
まあいっか。
月を跨いで7月。
健の暴力事件が起きたことが、茶柱によって告げられた。
健が喧嘩だったとアピールして、目撃者がいたかもしれねえと口にした。
すかさず俺がそのワードの食いつく。
「目撃者を探そうぜ! 見つけたら喧嘩だったって証明できるかもしれねーし」
やる気に満ち溢れた男だ。俺、かっこいい。
なのによー、味方が少ないんだぜ。平田グループと寛治や櫛田ちゃんくらいだ。
健ってやっぱり嫌われてるよなぁ。
クラスポイントを1番下げたのは、遅刻の常習犯で授業中も寝てばっかだった健だろうし、そりゃ反発されるよなぁ。
あーあ、可哀そうに、クラスで1番の嫌われ者じゃん。
坂柳ちゃんも見る目ねえよな。多数決の投票の奴、綾小路をターゲットにするなら健をターゲットにした方が、ぜってえ確実だったよなぁ。
それだったら俺が退学にならずに済んだのに。
健は友達だから、それは最終手段だけどさ。
人数の都合で、平田グループとそれ以外に分かれて、聞き込み調査が始まった。
「頑張ろうぜ、櫛田ちゃん」
「うん、須藤くんを絶対に助けたいもんね」
「だよな」
櫛田に誘われて参加した、綾小路含めて4人での行動だ。
なんだよ、綾小路も結局櫛田ちゃんに誘われたら参加するのな。
そりゃ櫛田ちゃんだもん、断れる男なんかいないか。
寛治とは気まずいままだから、正直、綾小路がいてくれて助かってるけど、櫛田ちゃんの左右は俺と寛治で固定だからな、お前は後ろを歩いて来いよ。
「うーん、なかなか見つからないね」
「須藤も、いたかも程度だったもんなぁ」
「いや、絶対いるって。そこは信じようぜ」
なんなら誰かも知っている、佐倉だ。
「つっても須藤だしなぁ」
「なんだよー、池と須藤は友達じゃないのかよ」
「友達とは思ってるけど、それはそれ、これはこれだろ。ガサツなところあるし、暴力的だしさ」
「……池くん、信じてあげようよ」
「そうだぜ、池。櫛田ちゃんが悲しんでるじゃん」
「な……ち、違うんだ櫛田ちゃん。あまりに見つからないからさ。綾小路もそう思うだろ」
「どうだろうな」
そうそう、綾小路ってこんな感じだよな。
この一歩引いた感じが根暗野郎なのに、なぜか堀北と仲が良かったり、佐倉と仲良くなったりする。意味が分からん。
堀北も佐倉も地味だからそこが合うのか?
俺も地味になれば……って、俺は根っからの陽キャだからなぁ、それは難しいか。
当たり前だけど、目撃者捜しは何も進展せずに、この日は終わった。
櫛田ちゃんと一緒だったし、久しぶりに寛治と楽しいやりとりできたからいっか。
それだけで参加した価値はあったぜ。
◇◇◇
順調に、堀北が目撃者は佐倉だと主張して、佐倉に聞くという流れまできた。
予定通りなら、佐倉は否定するはずだ。
あれ? この後どうなったんだっけ?
佐倉は結局証言したはずだから、後で認めるはずなんだけど、なんでそうなったのかは知らん。
とりあえず、櫛田ちゃんが佐倉と話しているのを出入り口近くで見張っている。
おっさんを怒らせずに、佐倉を助ける方法を思いついたんだ。
聞いて驚け、デジカメを壊さなければ佐倉はおっさんと接点がない説だ。
この後、佐倉が逃げるように教室を出ようとして、やっぱり本堂とぶつかった。
──今だッ
「危ない──」
「きゃっ……」
俺は猛烈な勢いで飛び込んで、佐倉の手から落ちたデジカメを拾おうと手を伸ばし──
「あ──」
指先で突き飛ばす形になって、デジカメは勢いよく廊下の壁にぶつかった。鈍い金属音が響き渡る。
「いててて……」
「…………」
どうにか体を起こすと、佐倉が俺が突き飛ばしたデジカメを拾うところだった。
デジカメは、角の一部が完全に凹んで折れ曲がって欠けている。
修理できるのかも怪しく、買い替えた方が早そうなラインだ。
「…………」
佐倉は電源ボタンに手を伸ばそうとして、諦めるようにその胸で抱いた。
壊れたデジカメの電源を入れるのを危ないと思ったのかもしれない。
「さ、佐倉、悪い。そんなつもりはなかったんだ」
「……別にいいです、私が悪いですから」
「佐倉ッ……」
佐倉は涙目になって、ぶっ壊れたデジカメを抱えて走って去っていった。
「あーあ、何やってんだよ、山内」
「ち、違う。俺は落としたデジカメを拾おうとしただけで」
「突き飛ばしたようにしか見えなかったぞ」
「……完全に壊れてたよね」
櫛田ちゃんが俺に止めを刺す。
「ち、ちがう、俺は悪くない。本堂が佐倉とぶつかって、佐倉がデジカメを落とすから」
「落とした方がマシだったんじゃねえの?」
「それは……」
俺は知っていた。
落としても電源が入らなくなっただけで、中身は無事だったことを。
少なくとも修理すれば治る範囲だったことを。
あれは修理すれば治るのか?
無理じゃね? 買い替えコースじゃん。
俺はただ、佐倉のデジカメを救おうとしただけなのに。
どうしてこうなったんだ。