やまうちのなく頃に   作:おやまうちさま

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ループ5回目その2 男を見せろ! 山内春樹

 佐倉のデジカメを救おうとしたら、派手にぶっ壊してしまった。

 

「え? 俺が悪いの?」

 

 どう考えたって佐倉とぶつかって、デジカメを落とす原因になった本堂が悪いだろ。

 そう主張したいのに、俺が突き飛ばさなければどうなっていたかは俺しか知らないせいで、主張できない。

 

「くっそー……佐倉と仲良くなるつもりが、嫌われてしまったじゃん」

 

 佐倉の震えた声、逃げ去る背中。

 どうしてもフラッシュバックするものがあった。

 

 夏休みに告白した俺を振った後の佐倉って、あんな感じだったよなぁ。

 

 胸が……古傷が痛むぜ。

 

 そうだよなぁ。佐倉には、俺1回振られてるんだよなぁ。

 あの時の佐倉の申し訳なさそうな表情、声、雨の匂い。風景がまじまじと脳内で再現されていく。

 なぜか付き添っていた綾小路は、優しく見守っていてくれたんだっけ。

 

「…………」

 

 こんなに明細に思い出せるのに、なんで忘れてしまったんだろう。あの夏の出来事って、結構ショックな出来事だったはずなのに、いつの間にか何事もなかったかのように、過ごしてしまっていた。

 あの時の決意ってなんだったんだろうなぁ。

 

 胸が痛いのは、佐倉を悲しませたからだけじゃない。

 これは、自分自身に対する痛みじゃん。

 

 泣きたくなるぜ。

 

「あーあ……何やってんだろ、俺」

 

 どうしてもマイナス思考になっちまう。

 これで繰り返してるのは、何度目だっけ。

 

 今まで考えないようにしてたけど、あんまり上手くいってる実感がない。ちょっとクラスポイントを残せたからって、浮かれてしまっていただけで、現実なんてこんなもんだ。

 佐倉のデジカメ1つ救うことが出来ない。むしろ、俺が動くことで悪化してしまった。

 

 結局、俺には何もできないんじゃないか。

 調子いいことばっかりいって、やろうとして、失敗する。

 

 挙句の果てに、おっさんに刺されるとかさ。つーか、不良にボコボコにされたのはまだいいけど、おっさんにやられるとかねーわ。

 

「あきら…………」

 

 浮かんだ『あきらめる』という5文字の言葉。

 口から発しかけて、なんとか堪えた。

 堪えることが出来た。

 

 だったら大丈夫だ。

 だから大丈夫だ。

 

「あきらめるとか俺らしくねえよな」

 

 だって、俺まだ諦めたくねえもん。

 

 良い思いしたいもん。

 

 たくさんお小遣いもらって豪遊するし、彼女だって作ったりするし、特別試験で活躍してみんなに認められるし、ポイント貯めて、Aクラスで卒業して、バラ色の人生を送るんだ。

 

 それが山内春樹の生き方ってもんだろ。

 

「うーっし、ネガティブなのは終わり。前向きに行こうぜ」

 

 やっちまったものは、仕方ない。

 俺が佐倉のデジカメをぶっ壊してしまった。その事実から目を逸らしちゃ男が廃るってやつよ。

 

 こっから汚名挽回するには、どうしたらいいのか考えようぜ。

 

 デジカメが修理出来たら、一番手っ取り早い。

 問題は、修理できなかったときだ。

 

「……新品を買う……とか?」

 

 他にいい案がありそうだけど、俺にはそれしか思いつかなかった。

 

 幸い、クラスポイントが下がることを予知して節約してたから、まだ5万ちょっとくらい残ってる。佐倉が買ったデジカメがいくらするのか分かんねーけど、入学早々でお小遣いの半分以上、つぎ込んだりしないだろ。

 

 博士のノートパソコン? あれは8万したらしいけど、例外でしょ例外。

 いきなりポイントを使いきるとか、考え無しのやることじゃん。博士みたいな金遣いの荒い奴は、そこまでいないはず。つーか、佐倉はそんなキャラじゃないっしょ。

 

 5万出せば、たぶん買えるんだよなぁ。

 

 ただよぉ、5万出したらすっからかんで、ひっさびさの貧乏状態に突入だぜ。

 

 あ、でも、健の問題さえ解決すれば、遅れている今月の振り込みがあるんだっけ。

 今月は、1万くらい貰えるからいけるっちゃーいけるか。

 

 あと俺だけ知ってることとして、夏休みがにアレが待ってる。

 特別試験だ。

 前半の無人島も、後半の豪華客船も個人のポイントは一切消費しないので、8月は割とポイントに余裕があったり。つまり、7月さえ乗り切ればなんとかなる。

 

「うっし、ここは男を見せるか」

 

 お金で解決ってダッセ―と思うけど、他に何も思い浮かばないし、しゃーない。

 そうと決まれば、善は急げだ。

 

 寮の部屋を飛び出して、ケヤキモールへと急いだ。

 

「今日が木曜だもんな。今日買って、明日渡さないと」

 

 佐倉の部屋がどこかとか知らないし、渡すなら学校しかない。

 明日を逃したら週末を挟んで、月曜日になっちまう。

 

 あんま待たせてもアレだし、今日中に買って、明日渡すのがベストっしょ。

 

 日が暮れる直前で人通りが減った中、寮へと帰る人に逆走し、ケヤキモールに辿り着いた。

 真っ直ぐ、家電量販店へと向かう。

 

「うへぇ……あいつがいやがる」

 

 見覚えのありまくる、もさっとしたおっさん。

 熱狂的な佐倉()ファンで、殺人鬼。

 キレさせたら何やるか分からない物騒すぎる店員が、カウンターにいやがる。

 

 出来たら近づきたくねー。

 

 と、とりあえず、デジカメをチェックしようかなー。

 

 見なかったことにしてデジカメコーナーに向かった。

 

「このコンパクトデジカメってやつでいいんだよな」

 

 高画質が売りっぽい、なんかゴツゴツッとした感じのやつも揃ってるけど、そっちは10万オーバーがゴロゴロ並んでやがる。

 どう考えても予算オーバーだし、佐倉もそんな高額品は買ってないはず。

 

 俺が狙うのは、コンパクトでシンプルな奴だ。佐倉のやつもそんな感じだったはず。

 

「違いがイマイチ分からねぇ」

 

 狙い目っぽいやつは3つ。

 

 2万、3万、5万弱だ。

 正直、どれも同じに見える。だって、興味ねえし、カメラとか携帯で十分じゃん。

 わざわざデジカメを買う需要ってどこにあるんだろうなぁ。

 

「2万のでいいか?」

 

 どうせ違いが分からないなら、2万ので十分な気がしてきた。

 シンプルイズベスト。変な機能が増えるよりも、これなら佐倉も困らないだろうし。

 ポイント的に節約できてお得だ。俺の財布に優しい。

 

「でも、ケチっていいのか?」

 

 壊しちまったデジカメの補填なら2万でも良さそうだ。

 けど、俺がやりたいのは、どうせなら佐倉を喜ばせたい。

 となると、3万のやつか? 機能が増えるのか画質が良くなるのか知んねーけど、高けりゃ高い方がいいもののはずじゃん。

 

 その理屈だと5万のになるんだよなぁ。

 もっといえば、最初に選択肢を消した、ゴツゴツしたコーナーの奴の方が値段的には上だ。

 予算の都合で絶対無理だから、仕方ないけど。

 

 どうする、何が正解なんだ。

 

 あ、そうだ。詳しいやついるじゃん、博士に聞いてみよう。

 アドレス帳から博士を呼び出して電話をかける。

 

「つーわけで、デジカメってどう違うんだ?」

「む、山内殿……拙者がその分野に精通しているとでも?」

 

 めんどくさいことをいいだしたので、少し待つ。

 

「……ぶっちゃけメーカーでござるよ」

「メーカー」

「機能がどうとかより、主義主張でござるからどのメーカーを買うのかで生きざまが分かれるでござる。あとは画質でござるが、その価格帯ならそこまで差は考えなくてよいでござるな」

「つまりどういうこと?」

「好みの問題ってことでござる」

「なんじゃそれ」

 

 何のアドバイスにもなってねえよ。むしろ悩みが増えたわ。

 佐倉の好みとか分かるはずもないだろ。

 どうすりゃいいんだよ、博士、と強く責め立てる。

 

「……そ、そうでござるな。ならば、拙者のお勧めを1つ。拙者には不要でござるが、拙者が買うなら5万のやつを選ぶでござる。そのメーカーはバランスが優れていて、一番受けが良いでござる。買って間違いないのはそれかと」

「……そっか、5万の奴か。ありがとな、博士」

「役に立てたのなら幸いでござるよ、では」

 

 よりによって一番高いやつか。

 博士が2万とか3万のでいいって背中を教えてくれれば、楽だったのに。

 

 ええい、男を見せてやれ。

 

 こういう時なんていうんだっけ、清原から飛び降りる?

 そう、俺は清原から飛び降りる勢いで、5万のデジカメを持ってカウンターへと向かった。

 

「これください」

「ちっ……遅い時間に」

 

 やっぱコイツ腹立つわー。今、絶対舌打ちしたよな。

 アンケートを書きたいのをぐっと我慢して、俺はほぼ全財産を犠牲にしてデジカメをゲットした。

 

 うっしゃー、これで佐倉を喜ばせることが出来るかな、明日が楽しみだぜ。

 

 

   ◇◇◇

 

 

 朝、先に教室に入って、佐倉が登校してくるのを待った。

 こういう時に限って、なかなか来ねえんだよなぁ。ソワソワしてしまう。

 

 あ、来た。

 俺は昨日買ったデジカメを手に、佐倉の席へと向かった。

 

「佐倉、昨日は悪かった。代わりと言っちゃなんだけど、受け取ってくれ」

「……その、困ります、いりません」

 

 明確な拒絶だった。

 なんでだよ!

 

「そこを何とかさ。もう買っちまったし……」

「……そんな……」

 

 あれ? 佐倉を喜ばすはずが、佐倉を困らせてね?

 でも、もう買ってしまったし、引き返すことはできねえぞ。

 俺の5万が無駄になっちまう。デジカメとか絶対使い道ねえし。

 

 無理やりデジカメを佐倉の机の上においた。

 

「と、ともかくさ、代わりにはなんないだろうけど、佐倉に受け取って欲しいんだ」

「…………」

「ほ、ほら、最悪売っぱらってくれてもいいから、佐倉にあげたってことで」

「……ありがとうございます」

 

 小さな声での御礼だったけど、俺には大きなものに思えた。

 

 ほとんど強引に押し付けるようにして、佐倉に渡すことが出来たんだ。

 あのデジカメが佐倉に使われるのか、本当に売られるのか分からないけど、どうにかデジカメを壊してしまった汚名を挽回出来たと思いたい。

 

 そしてこのおかげで、佐倉があの不愉快なおっさんに近づくことがないはずだ。

 俺は全財産を使って、佐倉を守ったんだ。

 誰も褒めてくれないだろうけど、俺だけは褒めてやりたいぜ。

 

 ナイスだ山内春樹、お前は男だよ。

 

 

   ◇◇◇

 

 

 その後というか、デジカメ事件と並行していた健の暴力事件の話。

 

 前の記憶では、目撃者の佐倉が証言することによって突破できた、健の暴力事件。

 なぜか今回は、目撃者を探し出すことが出来ず、健の停学3週間とDクラスのクラスポイントの没収が決まった。

 

「なんでだよ、佐倉ぁああああああ」

 

 俺、全財産使ったばっかなのに、振り込み0ポイントでどうしろっつうんだよぉおおおおお。

 

 無人島編へ続く。

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