やまうちのなく頃に 作:おやまうちさま
「うっしゃーーー、豪華客船きたぁああああ」
ずっと会いたくて会いたくて震えそうだった夏の豪華客船。
期末テストをギリギリで突破して、ようやくたどり着くことができた。
長かった1学期が、ようやく終わった。
7月は、健のせいでまさかの支給ポイントが0。
佐倉のデジカメを買ったせいで使い切ったところでの仕打ちに、山菜定食と無料の水だけでしのいだ貧しい日々も、これでおさらばだぜ。
この後で無人島生活が待ってるのが気がかりだけど、今日のところは無料で楽しみまくるしかない。とりあえず、ハンバーガーか? 高そうなやつはあとで無人島を突破した後で、ゆっくり楽しめばいいしな。
「よかったな、須藤。停学が解けて」
「うっせー、レギュラー剥奪だぜ? 小宮の野郎、ぜってぇ許さねぇ」
真面目に目撃者を探した結果か、健とは少し仲良くなれた。
つっても、まだ苗字呼びだし、様子見つつって感じだけど。
「暴力はやめとけよ」
停学の原因となった小宮達、Cクラスの生徒を今にも殴りにいきそうな健をなだめる。
せっかく掴んだバスケ部レギュラーも、停学のせいでおじゃんになったのが許せないようだ。
バスケ命の健からしたら、屈辱そのものかもな。
「わかってるつーの、いじんな」
「いてぇ」
なだめたら殴られた。
全然わかってねえじゃねえか。いてぇし。
健もテンション上がってんなぁ、豪華客船だし、当然か。
健も、無事に期末テストを乗り越えている。
停学中は大量の課題が出されており、それに取り組まなければ停学が伸びるっていう状況に追い込まれて、四苦八苦しながら課題をこなして、そのまま期末テストへ。
課題がよくできていたのか、どうにか突破できたみたいだ。
俺より勉強出来ないくせに、よく一人で頑張ったな。偉いぞ、健。
「とりあえず、飯でも食いいくか」
「行こうぜ」
あとは、寛治がいれば完璧なんだけどなぁ。
俺と健が仲良くなったと思ったら、寛治と健は少し距離ができている。
健のせいでポイントがゼロになったことに、寛治が少し引っかかってるらしい。
こればっかりはしゃーないか。俺と健と仲良くなれただけでも前進してるし、無人島を頑張ろうぜ。
◇◇◇
「須藤、トイレ済ませとけってよ」
「なんで俺に言うんだよ!? 行くけど」
「行っといれー」
「くそつまんねー」
よし、作戦成功だ。
珍しく細かく覚えていた健のトイレを回避したぜ。
前の時は、上陸してすぐに健が簡易トイレを使って、クラス全体がテンションだだ下がりだったんだよなぁ。わざわざアナウンスあったんだから、トイレくらい行っとけっつー話。
つーので、コンディションをバッチリ整えて、無事に無人島上陸。
船から降りた砂浜で、AからDクラスまで全クラス集合だ。
今は、Aクラスの教師から初めての特別試験について、ルール説明を受けている。
大雑把にまとめたらこんな感じだ。
クラスごとに、1週間の無人島生活。
キャンプポイントが300支給されて、生活を支援するアイテムと交換することができる。
試験終了時のキャンプポイントの残額が、そのままクラスポイントに加算される。
だいたいこんなもんでオッケー。
あとは、スポットとかリーダーとかあるけど、そこまで重要じゃないし、大事なのはどれだけポイントを残して生活するのかってところよ。
キャンプについては、しっかりばっちり予習済みだから、頼れる山内がクラスのヒーローになるってわけ。
脳内でのシュミレーション*1は、完璧だぜ。
サバイバル知識を復習しているうちに、ルール説明が終わって無人島試験が開始された。
「うっし。スポット探しに行こうぜ」
スタートダッシュが大事だ。
重要なスポットが抑えられる前に抑えないと、予定が狂っちまう。
説明が前後したけど、スポットっていうのは無人島に用意された便利な場所で、抑えたクラスが独占的に使用できるというルールになっている。
俺が狙ってるのは、前回と同じ川の水辺だ。やっぱ、水源があるって重要じゃん。
飲み水に困らなければ、キャンプポイントを節約できるし、魚が取れれば食事代も節約できる。
「ちょっと待って、山内くん。どう動くのかは、とりあえずクラスみんなで決めないと」
さっそく砂浜を離れて森の中へと向かおうとした俺に、平田からストップがかかる。
どう動くのかってスポットを抑えるしかないじゃん、めんどくせえなぁ。
「そんなのあとでいいって。まずはスポット抑えないと。須藤、行こうぜ」
「いいのかよ」
「いいっていいって、スポットさえ見つけとけば、クラスの方針は後からどうとでもなるっしょ。行くぞ」
「……あーもう、どうなってもしらねえからな」
ちょっと強引になったが、健を誘い出すことに成功した。
本当は、スポット発見した凄さを独り占めしたいけど、見つけたところで一人だとその場を離れられなくなるからな。
スポットの利用には、クラスのリーダーが必要だから、発見しても俺一人だと何の意味もない。
だから健を連れて行って、健をスポットに置いとけば、ちょっかい出してくるヤツもいないだろ。その間に俺が戻って皆を連れてくればいい。
どうよ、この頭脳的なプレーは、完璧じゃん。
「……危ないから必ず2人で行動すること、あと1時間以内に1度戻ってきて」
「分かった分かった」
ったく、平田は心配性だなぁ。
無人島は前回も経験済みだ。勝手知ったるここで、迷ったりするもんか。
さってと、前回見つけたスポットに行こっかな。
俺は須藤を引き連れて、森の中へと足を踏み入れた。
◇◇◇
30分後。
「おい、さっきから同じ場所を歩いてないか?」
「そ、そんなわけないじゃん。森の中だからそう感じるだけだって」
「つってもよー……」
あれー? 川の水辺のスポットってどこだったっけ?
方角は合ってると思うんだけど、辿り着けない。
もしかして、前回と地形が違ったりとかするのか!?
でも木に見覚えがある気がするんだよなぁ。
お、そうだ。あの大きな木が目印だったような。確かあの大きな木を……って右だっけ? 左だっけ? どっちかに進んだと思うんだけど、どっちだったかが思い出せない。
「そろそろ戻らねえと、1時間に間に合わねえぞ」
「慌てるなって、もうちょっとでスポット見つかるから」
時間は半分過ぎちまったけど、帰りは走れば間に合うはず。
目印の木は見つけたし、あとちょっとだ。
「なあ、諦めて戻ろうぜ」
「なんだよ、須藤。あとちょっとだけいいじゃん」
「やばいんだって……さっきから腹が痛くなってきて」
「は? お前、さっきトイレいってたじゃん」
「急だったから、ションベンだけだ」
「マジかよ」
健のトイレを解決したつもりだったのに、なんでだよ。
「つーか、どのくらいやばい?」
「戻れるのかどうかってところだ」
「クソヤバいじゃねえか」
くそだけにって言ってる場合じゃねえ。
戻ることは確定として、こういう時どうすればいいんだっけ。
大きい方はその辺でしとくってのも無理だし。なんかペナルティーとか説明があった気がする。
くっそー、ちゃんと聞いとけばよかったぜ。
とりあえず、意識を逸らせばいいとか、なんかあっただろ。
えっと、どうするんだ。あ、そうだ。
「須藤、あれだあれ」
「あれってなんだよ」
「呼吸だよ。呼吸に意識を集中しろ。ヒッ、ヒッ、フーだ。ほら、やってみって」
「ヒッ、ヒッ、フー」
「ヒッ、ヒッ、フー」
「ヒッ、ヒッ、フー……おお、なんか楽になった気がする」
「だろ。そのまま戻ろうぜ」
どっかでやってた呼吸法だ。なんか効果があるに違いない。
あとは来た道をどうやって戻るかだけど、たぶんこっちだ。合ってるはず。
2人でひ、ひ、ふーの呼吸を意識しつつ森の中を歩いていく。
「やべえ、この呼吸楽だけど、出そうだ」
「おい、頑張れ須藤」
「なんか、フーのタイミングがやばいんだって」
「あとちょっとだろ、あそこを抜ければ海岸に出る」
どうにかこうにか20分ほどで来た道を戻ることができた。
もうちょっと歩けば、最初の海岸だ。
「ヒッ、ヒッ、フー やべぇ」
「ヒッ、ヒッ、フー 頑張れ」
「ヒッ、ヒッ、フー やべぇまじやべぇって」
「ヒッ、ヒッ、フー 頑張れってあとちょいだから」
「ヒッ、ヒッ、フー まじ、もう無理、限界だ」
「ヒッ、カッ、簡易トイレ持ってくるから待ってろ」
これ以上、健を動かすのはやばいと判断して、健を置いて一人で走り抜ける。
海岸に出ると、大勢いたクラスメイトの姿はなく、平田だけが待っててくれた。
日照りの中待っていたせいか、だいぶ汗ばんでいる。
って今は、それどころじゃない。
「遅かったね」
「悪い、色々あった。それより簡易トイレはどこだよ」
「池くんがスポットを見つけて、みんなでそっちに移ってて、誰かが運んでると思う」
「あ……」
悪い健。戻るまでに時間が掛かりそうだ。
平田の案内でクラスメイトに追いついて、簡易トイレを奪い取るようにして健の元へと走った。
「……健、お前」
だが、時すでに遅く、俺が健の元に戻った時には、健はトイレが我慢できずにリタイアしたあとだった。
キャンプポイント-30(リタイアにより)
マジかよ。