棺桶戦記 〜こんなのコズミック・イラじゃない!〜 作:王子の犬
東アジア共和国、東京。
テレビのニュースには、ザフトのMS、ジンが地球連合の戦車を射撃する映像が流れている。
(間違いない! 『C.E.』だ!)
『機動戦士ガンダムSEED』の世界――コズミック・イラに転生したのだと気づいた時、リョウ・ミカミは歓喜に打ち震えた。
原作の知識は完璧だ。
序盤はザフトに蹂躙される。
連合にはストライクガンダムのデータをフィードバックした、傑作量産機『105ダガー』が配備される。
ビーム耐性に優れたラミネート装甲とストライカーパックによる万能な拡張性。
ナチュラルであっても、あの機体に乗れば間違いなく無双できる。
(この世界の主人公は俺だ!)
リョウ・ミカミは地球連合軍に志願し、アフリカ戦線の後方基地で、新兵の厳しい訓練キャンプに耐えた。
彼にとって朗報なことに、この世界線の地球連合はC.E.71年1月にもかかわらず、「量産機」の配備が始まっていたのだ。
(チート生産力、キタァアアアアアア!!!)
量産機が配備された戦線で、ジンやバクゥ、ゲイツといったザフトのモビルスーツを蹂躙する。
コーディネーターが泣き叫びながら餌食になるに違いない。
ゾクゾクした。
毎日教官にしごかれながらリョウは思った——これから俺は「俺TUEEE」をして、キラ・ヤマトが宇宙でがんばっているあいだに無双して英雄になるぞ!
そして、オーブのかわいい女の子たちとイチャイチャするんだ!
「おめでとう、ミカミ訓練兵。
君の適性テストは素晴らしい。
君には、我が軍が極秘裏に開発した最新鋭機『ダガーヘッド』の初期ロットを任せよう」
上官のその言葉を聞いて、リョウは心の中でガッツポーズをした。
ただ【ダガーヘッド】という名前に少し違和感があった。
どうせ105ダガーかストライクダガーあたりのプロトタイプなのだろう、と軽く考える。
(ダガーにしてはゴツくないか……?)
原作のダガーはもっとスリムだった気がする。
それとも、知らないだけでプロトタイプは骨太だったのだろうか。
今は、C.E.71年の1月だから、コスト的に細くできなかったのだろう。
リョウはコックピットに乗り込んだ。
起動シークエンスが始まった。
SEED本編で見た起動画面。
モルゲンレーテ社製と思われる超高性能UIが起ち上がった。
GENERAL
UNILATERAL
NEURO-LINK
DISPERSIVE
AUTOMATIC
MANEUVER
“DAGGER HEAD”
ビンゴだ。
知識通り、連合はオーブからOS技術をパク……いや、獲得している!
リョウを含めた新兵たちは、アンドリュー・バルトフェルド率いるザフト軍を排除すべく、戦線投入が決まった。
作戦が通達され、新兵たちが各々に割り当てられたダガーヘッドに搭乗していく。
リョウは自分が乗り込むダガーヘッドを見上げた。
機体にはあらかじめ吊り下げ治具と足下の固定治具が取り付けられていた。
地下基地から地上に向けて延びる火薬式カタパルトレーンにピストンの要領で次々と乗せられ、治具を除去するや、すぐさま仲間たちの機体が射出されていった。
指揮官機は砂漠迷彩を施したM1アストレイだ。
治具が取り付けられておらず、自力でカタパルトの上に乗ってから射出された。
リョウの番だ。
「リョウ・ミカミ、出撃する!
コーディネイターども、俺の無双の踏み台になれ!」
コックピットに射出Gがかかり、歯を食いしばった。
意気揚々と飛び出した彼を待っていたのは、焼け付くようなアフリカの灼熱と、果てしなく続く砂海。
「……は?」
着地した瞬間、機体がズブズブと凄まじい勢いで沈み込む。
フットペダルを踏み込み、歩行姿勢を取ろうとした。
だが、機体は膝を曲げたままピクリとも動かない。
『ミカミ機、何をしている! さっさとローラーを回せ!』
「ロ、ローラー!?
なんで歩かないんですか!?
この機体は105ダガーじゃないんですか!?」
『寝言を言うな!
鹵獲したジンをベースに装甲を2割増しにしたんだ!
重心移動の演算が追いつくわけがないだろう!
動きたければローラーを出せぇ!』
通信越しの上官の怒声。
リョウが抱いていた幻想が音を立てて崩壊した。
(ジンベース? 105じゃない?
ストライクのデータは?
……そもそもストライクは!?)
訓練の間、ストライクの噂を全く耳になかった。
ヘリオポリスにいたアークエンジェルが無事だと聞いていただけに、ストライクが存在するものだと思い込んでいたのだ。
「ふ、ふざけるな!
俺の知ってる連合はこんなスクラップ作らないぞ!
ローラー起動!」
パニックになりながらレバーを叩き込む。
ギィィィンッ!
モーターからけたたましい異音と白煙を上げ、両脚のローラーが高速回転を始める。
だが。
「う、動かない!? なんでッ!?」
ここは砂漠である。
100トン近い鉄塊を支える局地用ローラーが砂塵を巻き上げればどうなるか。
自ら砂を掘り進み、車輪が空転して摺鉢状の蟻地獄へと沈んでいく。
『熱源接近! 敵、バクゥ! 三機編隊!』
砂煙を立て、地鳴りと共に現れたのは、「砂漠の虎」アンドリュー・バルトフェルドが率いる四足歩行の悪魔たちであった。
履帯と重心移動を極めた猛獣のシルエットが、低い姿勢から波打つように迫ってくる。
「……あっあああ……!!!」
リョウは震えながら76ミリ重突撃銃の引き金を引く。
だが、最新鋭の
『
腕を上げるよりも早く、バクゥは軽やかなステップで照準から消え去った。
何も当たらない。一歩も前に進めない。
固定砲台以下の棺桶の中で、転生者ゆえに特権階級だと思い込んでいた青年は混乱し続けていた。
「違う……違う!
こんなの俺の知ってるSEEDじゃない!
キラ・ヤマトがOSを書き換えるんだろ!?
PS装甲はどこだよ!
ストライカーパックはどうしたんだよォッ!!」
泣き叫びながらコントロールを激しく殴打する。
リョウは今、神に見放された哀れな子供のようであった。
「嫌だ……俺は主人公だろ……なんでこんな、砂まみれの……ッ」
ドゴォォォンッ!!
側面へ回り込んだバクゥの450ミリ2連装レールガンが射撃を開始し、ダガーヘッドの分厚いだけの超長鋼装甲を、内部の肉体ごと紙屑のように圧砕した。
★ ★ ★ ★ ★
「目標、沈黙しました」
「脆いもんだな……また脚にローラーがついた『
四散したダガーヘッドの残骸が、光学センサーのモニターに映り込む。
バクゥのコックピットに座るザフトのパイロットが呆れたように呟いた。
「
砂漠にローラー付きの棺桶を放り込んで、一体何の真似だ」
その疑問に答える者はいない。
転生者の抱いたヒロイズムは、アラスカの司令室で「アフリカ戦線での弾薬消費函数:1カウント」として、事務的に処理された後、消えた。
ここまで読んで頂き、ありがとうございます!
本作は短編連作形式です!
タグのイザーク2周目の回収を何話かあとにやります!
よろしくお願いします!