棺桶戦記 〜こんなのコズミック・イラじゃない!〜   作:王子の犬

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数字を回す神々 - CFR-Xの呪縛 -

 

 

 

 大西洋連邦、アラスカ基地の深部。

 軍事戦略統合評議会のブリーフィング・ルームは静寂に包まれていた。

 青白く明滅するホロ・グリッド端末で、アフリカ戦線を示す赤い光点が次々と消滅していく。

 

「ダガーヘッド初期ロット、第14中隊32機全損。最後に沈んだのは……ああ、補充兵のリョウ・ミカミ機ですか」

 

 首席数理戦略監は、最高級の葉巻の煙を細く吐き出した。

 画面には、先ほどまで「自分は主人公だ」と思い込んでいた青年の砂漠に四散したデータが、『Loss(損失)』の文字と共に処理されている。

 

「素晴らしい。

 ミカミ機は沈む直前、バクゥの450ミリレールガンを『2発』も消費させました。

 コストパフォーマンスとしては申し分ない。

 彼は函数(デコイ)としての役目を立派に全うしましたよ」

『正気ですか、戦略監!

 彼らは皆、私の作ったインターフェースの魔法を信じて死んでいったんですよ!』

 

 通信用モニターの向こうから、ルパート・ケイン技術大尉の悲痛な声が響く。

 オーブ連合首長国から亡命してきた、このユーザー・インターフェース開発の天才は、青いグラス型ディスプレイ(ウェアラブルデバイス)の奥で目を赤く血走らせていた。

 

『現場から報告が上がっています。

 応答遅延(ラグ)が酷すぎる!

 あんな重いだけの鈍亀(鹵獲ジンの劣化コピー)に、どうしてM1アストレイに見せかけたUIをそのまま被せたんです!?

 中身の汎用OS(最新OS)と駆動系がUIの速度についてこないせいで、パイロットたちは画面の虚像を見たまま何もできずに殺されているんだ!』

「落ち着きたまえ、ルパート大尉。

 私も好きで彼らを騙しているわけではないのですよ」

 

 戦略監は葉巻の灰を落とし、薄く笑いながらホロ・グリッドの表示を切り替えた。

 モニターに表示されたのは、現在第八艦隊への合流を急ぐ一隻の強襲機動特装艦『アークエンジェル』と、それに随伴する巨大な『特務工作艦』のシルエットだった。

 

「ヘリオポリスでの失態が誤算の始まりでした。

 あそこで汎用量産機のベースとなるはずだったストライク(GAT-X105)を喪失した。

 残ったのは……あの理不尽な代物だけだ」

 

 戦略監の表情に、忌々しげな影が差す。

 

「【CFRーX】……単機での運用すら不可能で、専用工作艦が随伴してようやく稼働する艦載前提の特殊兵装機。

 なんであんな、量産機へのデータ還元など絶対に不可能なゲテモノのほうを生き残らせてしまったのか。

 あれでは、OSの最適化など一歩も進まない」

 

 汎用性の高いGATシリーズを全て失い、量産化の道が絶たれた。

 地球連合は自前で()()()()()()()()()()を作る術を失い、鹵獲したジンを劣化(デッド)コピーし、汎用OSで無理やり動かすという「最低の妥協(ダガーヘッド)」に(すが)るしかなかった。

 

「だからこそ、大尉。

 あなたの美しいUI(ガワ)が必要だったのですよ。

 歩けもしない棺桶に若者を乗せて、ザフトの天才たちの弾薬を消費させるためにはね」

『ふざけるな!

 そ、それじゃあ私は、ただの詐欺――』

「人聞きの悪いことを言わないでいただきたい。

 これは『魔法』です」

 

 反論しようとするケイン技術大尉を、戦略監は冷たい声で遮った。

 

「彼らに『自分はM1アストレイ(指揮官機)と同じ最新鋭機に乗っている』という全能感を与えなさい。

 それが、あの棺桶に喜んで乗ってくれる唯一の麻酔なのだから。

 中身が汎用OSで動いていようが知ったことではない。

 彼らが画面の表示を信じてレバーを引き、応答遅延(ラグ)の間に敵の弾を1発でも多く受けてくれれば、我が軍の戦略的勝利は揺るがないのですよ。

 戦いとは、ただの引き算ですから」

 

 絶句するケイン技術大尉をよそに、戦略監は通信を一方的に切断した。

 ストライクが失われたこの世界を支配するのは、神の奇跡ではなく、盤面の数字を冷酷に動かす算盤だけだった。

 

「さて、次のダガーヘッドの出荷は明後日でしたね」

 

 

 




ここまで読んでいただきありがとうございます!
今回は連合軍上層部の視点で、なぜ前線がそうなるのかを説明した回でした。
次はアフリカ戦線における現場の話です。

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