超人(ガチ)系Vtuberは世界を救う夢を見るか 作:蓮太郎
『こんちゃー、今日は雑談枠作ってやるぞー』
『ヒロイ・スパナ』として配信アプリを中心に、たまに動画サイトで活動を行っている個人勢と呼ばれる存在である。
:こんちゃー
:また来た
『やっぱりいつもの面子だな』
:まあしゃあなし
:そんなもん
『言ってくれるなぁ、まあマイナーだから仕方ない』
Vtuberとしてもはっきり言って底辺と言わざるを得ない。多少のネタといっても
スーパーヒーロー系として趣味程度に売り出し、特に目的もなく楽しむためだけにやっているのだ。
『そう言えばさぁ、近くに大食いの店が出来たんだよね』
:もうオチが予測できた
『5㎏くらいの丼もので揚げ物たくさん乗ってる奴だったんだ。もう油ギトギトで胃もたれさせるつもりで作ったんじゃないかって』
:カロリーヤバそう
:油4マシマシはキツイって
『味付けもないに等しくって、揚げ物があれだけ不味く感じるのは初めてだった…………』
眼だけが隠れる仮面をつけた立ち絵が上を向き、動きだけでも相当不味かったことは伝わった。
『まあ、全部食べたけど』
:草
:食べきるんかい
『だって失敗したら金盗られるし、ヒーローとして世界の危機とか陰謀とかもないから一発で稼げないじゃん!』
言い訳じみたことを述べながらスパナとして笑う。
普段は工事現場の作業員として働き、暇なときはこうしてVtuberとして配信を行う独身の27歳である。
『うっし、時間もそろそろだし配信終わりまーす』
:おつおつ
:また明日ー
1時間ほど話し、常連の視聴者と別れの挨拶を告げて配信停止ボタンを押す。
「今日の配信終わり、明日の準備するか」
楽しい時間が終われば明日を迎える作業が始まる。
アパートに一人暮らしで彼女もなし。親はとっくの昔に蒸発している。
残っているのはこの身一貫だったのを親戚の助けがあって今に至る。
工事現場だって色々とトラブルはあるが楽しいし、昌也の体質にとって一切の苦は無かった。
超人、あらゆる物理的衝撃及び攻撃に対して一切傷つかない肉体と浮遊等の超能力を持つ体質を昌也は有している。
人知を超えた力を持ち何を成すのか?何もないので普通に生きている。
世界規模の大会に出会られるような選手になったり、超能力を活かして芸人になったりしたらよかったのではないかと思うだろう。
確かにVtuberをやるだけあって承認欲求は存在する、だが人間と言うものは隠し事が非常に苦手である存在である。
力があるからといって驕れば嘘は簡単に暴かれてしまう。
昌也は単純に嘘がそこまで上手くないし小心者であった。
自分が『普通』とかけ離れた存在であることはとうの昔に知っていた。
仲間外れにされる恐怖と言うものも知っていた。
突出しすぎた個は叩かれる、目立ちたいと思いながらつつましく生きてきた結果が今である。
「小腹減ったな。コンビニでも行くか」
外に姿が出ず、ゲームや会話で活躍できる場と言えば何かと昌也なりに考えた結果、Vtuberという道をとったのだ。
実際、優れた動体視力を持ちいたFPS関連のシューティングは得意としており、反応速度が良すぎてチートを疑われてアカウントを永久追放されたこともあった。
それでもへこたれずに自前の力だとスーパーヒーローという肩書を掲げて今日も活動していた。
「…………お、
既に暗くなった空の下で、空を飛ぶのでもなく徒歩でゆっくりと知っている道を進んでいく。
歩きスマホをしている悪い奴ではあるが、SNSを通じた友好は欠かしていない。
「お?マジか、コラボのお誘い!」
うっかり声を上げてしまいはっと周囲を見渡し、迷惑になったかと思い息を殺してコソコソとコンビニへ向かう。
この際に気配を消しすぎて夜闇では目視でも認識できないレベルで気配が薄くなっている。
だが、別に問題ない。コンビニに着いたら堂々としているのだから。
SNSから送られたDMの送り主はVtuberを始めて初期に知り合った相手である。
昌也の超人的身体能力の全貌は知らなくとも、ゲームを通じて下手なプロよりも上だということを身をもって知らされた。
有名になりそうなFPSゲームに誘ってはひっそりと名を残すのに便乗しようという考えの元で『ヒロイ・スパナ』を誘っているのだ。
「やっぱチキンだよな。油物は今日二つ目だけど」
そのような考えはとうの昔にバレているし、自分の名を上げるためにコラボを承知している。
もちゃもちゃと脂ぎった美味しい方のチキンを食べつつ、コラボの内容はどうするのか、明日は何を配信で話そうか考える。
誰もがこの男を超人と思わないだろう。どう見てもどこにでもいそうな青年である。
Vtuberとしての立ち絵と同じ衣装を持っていたところで大きな事件が起こるわけでもなく。
「やっぱりコラボ内容はFPSか。あいつはこういうのが好きだなぁ」
チキンと一緒に購入した缶入りの炭酸ジュースを一息で全て飲みきり、なんて事のないように片手で握り潰す。
アルミ缶であっても金属でないかのように握り潰せる怪力は現在で、それをポイ捨てするように見えて50mはなれた自販機の隣にあるゴミ箱にシュートを決める。
常軌を逸した軌道をもその手で描ける超人が、世界の危機とかそんなもの一切なく過ごす日常。
ちょっと不思議なことがあるけど、1人の人間として人生を謳歌する超人の物語。
「…………これ無料で配信してるやつじゃないな?」
たまたま購入していないゲームで金欠を気にするくらいには庶民的な超人であった。
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