キングカズマinヒロアカ 作:うさぎ
キングカズマに憧れています
転生なんて言葉を、皆さんは知っているだろうか?
誰もが一度は妄想したことがあるはずだ。なぜ今、俺がそんな大層なことを語っているのかというと――。
「なんで兎の姿なわけ?」
目の前にある自分の手が、白くしなやかな毛並みに覆われた人型の兎だったからだ。
いや、本当に何で?
俺の前世は、ごく普通の男子高校生だった。それが不運にも交通事故でぽっくり逝ってしまい、気がついたらこの有様である。
しかし、洗面台の鏡に映るその姿を凝視しているうちに、俺はある既視感に突き当たった。
「これ……キングカズマじゃん」
キングカズマ。映画『サマーウォーズ』に登場する、仮想世界OZで最強と謳われた格闘用ウサギ型アバター。
当時、映画館のスクリーンで強敵ラブマシーンに立ち向かう彼の姿に、心を撃ち抜かれた少年は多かったはずだ。
ご違わず、俺もその一人だった。
さらに、この世界にも見覚えがあった。
居間のテレビに映る、あり得ないほど筋骨隆々なおっさん――オールマイト。どうやら俺は、『僕のヒーローアカデミア』の世界に転生してしまったらしかった。
そして現在、俺こと「兎山 一真(とやま かずま)」君はというと……。
「あいつ、異形型なんだろ?」
「なんか怖えよな。何考えてるか分かんねぇし」
「近寄らない方がいいって、母ちゃんに言われたぜ」
絶賛、幼稚園で孤立中(イジメ)である。
ヒロアカ本編でも社会問題として少し語られてはいたが、根深い「異形型の個性」への偏見を、こんな幼少期から直面する羽目になるとは思わなかった。
俺の精神年齢が前世と合わせて二十歳近いから「クソガキどもが」で済んでいるものの、これが出生体齢通りの普通の園児なら、確実に心がバキバキに折れている案件だ。
ちなみに俺は、キングカズマへのリスペクトから、普段は必要最低限しか喋らないようにしている。本編のカズマさんは寡黙でクールだった。ここでペラペラ喋るのは完全な「解釈違い」なのだ。
(……まさか、その寡黙さのせいで不気味さが加速して、いじめ(もどき)に発展するのは想定外だったけどな)
幸い、カズマさん譲りの鋭い眼光のせいか、俺が少し睨むだけで子供たちは蜘蛛の子を散らすように逃げていく。直接的な嫌がらせは一度も起きていない。
そんなこんなで幼稚園では常にポツンと一人だったため、両親にはひどく心配されたが、当の本人は微塵も気にしていなかった。
なぜなら、体を動かすことが楽しすぎてそれどころではないからだ!
この兎の体になってから、前世の貧弱な運動神経からは考えられないほどの爆発的な身体能力を手に入れていた。さすがカズマさんの肉体。伊達に世界王者を張っていない。
せっかくヒロアカの世界に生まれたからには、ヒーローを目指したい。さらに言えば、世界一位のヒーローになってキングカズマのリスペクトを極めたい。
ついでに、将来は「異形方差別撲滅委員会」でも立ち上げてやる。そんな大志を抱きながら、俺は友達が一人もできないまま幼稚園を卒園した。ただひたすらに体を鍛え、重力を無視したステップを刻むことだけに没頭した数年間だった。
――それから小学校に入学して、早くも一年が経とうとしていた。
相変わらず周囲との距離はあったが、特に問題はない。今日はお正月ということで、俺は両親と共に親戚の家へと向かっていた。ちなみに、俺の両親の個性は異形型ではない。俺の姿は、いわゆる突然変異の類らしい。
「おー、一真! 大きくなったなぁ!」
「……お久しぶりです」
本家へと足を踏み入れる。親戚一同が集まっているらしく、居間は正月の特番テレビの音と酒の匂い、そして親戚たちの笑い声でかなり賑やかだった。
出迎えてくれた親戚の伯父さんは、頭部から触手が生えた「イカ」の個性を持つ人だった。
そのイカ忍者(心の中の勝手な呼称)の伯父さんにガシガシと頭を撫でられながら、俺は居間の上座に視線を向けた。
その瞬間、俺の思考は完全にフリーズした。
「お前、今何年生だ?」
「……一年生」
低い、よく通る声。
そこに座っていたのは、白い道着に身を包んだ、直立する「イカのアバター」そのものの姿をした老人だった。
陣内万助。
サマーウォーズにおいて、カズマの少林寺拳法の師匠であり、物語終盤でラブマシーンを相手に豪快な漁船ネットワーク戦を仕掛けた、あの伝説の武闘派じいちゃん。
それが、どう見ても「個性:イカ」の超実戦派として目の前に鎮座している。
(やばいやばいやばい、本物だ……! 万助師匠じゃん!!)
表面上は、キングカズマっぽく腕を組んで無表情を貫いているが、内心のオタクは大暴れして狂喜乱舞していた。
転生してから初めて、俺は心の底から神に感謝した。ありがとう神様。この配役は神懸かりすぎている。
興奮を必死に押し殺していると、万助さんがその鋭い眼光で、じっとこちらを凝視してきた。
「……」
「……」
流れる沈黙。気まずい。いや、俺が頑なに喋らないカズマ・ロールプレイをしているせいなのだが。
やがて、万助さんがぽつりと言った。
「坊主」
「?」
「……鍛えてるな」
思わず目を見開いた。
わかるのか? 俺、まだ小学一年生だぞ。
万助さんはフン、と鼻を鳴らす。
「立ち方で分かる。重心がブレておらん」
「……」
格好良すぎる。師匠キャラの解像度が高すぎる。俺の胸の奥の少年心が、感動で激しくのたうち回った。万助さんは言葉を重ねる。
「毎日、走っておるな」
「うん」
「腕立てもか」
「……してる」
「体術が好きか?」
それには、即答だった。
「好き」
万助さんの口元が、わずかに不敵に釣り上がった。
「そうか」
その時、様子を見ていたお母さんが、張り詰めた空気をほぐすように笑いながら割って入った。
「そうなのよ叔父さん、この子すごいの。毎日朝早くから外を走り回ってるし」
「庭でも、ずっと見たこともないようなステップの練習をしてるんですよ。小学生とは思えないくらい体力があって」
(やめて母さん父さん、恥ずかしいから!)
精神年齢二十歳近い人間が、親から「うちの子すごいのよ」とアピールされるのはなかなかにキツい。
だが、万助さんの目は、一切冗談を言っている風ではなかった。
「努力できる奴は、それだけで強くなる才能がある」
重みのあるその一言に、居間の空気がピリッと引き締まった。親戚たちが驚いたように顔を見合わせる。あの厳格な万助さんが、子供を褒めることなど滅多にないのだろう。
そして次の瞬間、万助さんは静かに立ち上がった。
「外に出ろ」
「え?」
「動きを見てやる」
脳の理解が、一瞬だけ遅れた。
見てやる? 今、そう言ったか?
それって、つまり――実技試験(スカウト)だ。
俺は反射的に、弾かれたように立ち上がった。
「行く」
庭に出ると、冬の張り詰めた冷たい空気が肌を刺した。親戚たちも興味津々といった様子で、縁側にずらりと並んでこちらを見ている。
万助さんは庭の真ん中でどっしりと構え、腕を組んだ。
「全力で来い」
小学一年生に対してかける言葉ではないが、俺の胸はこれ以上ないほどに歓喜で震えていた。
――異形型だから。
――怖い顔をしているから。
――近寄るな、関わるな。
幼稚園の子供たちや、その親からはずっとそう言われてきた。
だが、この人は違う。
俺の毛並みや顔立ちといった「見た目(記号)」ではなく、俺が積み重ねてきた足腰の硬さ、手のマメ、鍛錬の跡という「中身」を、すべて見抜いた上で向き合ってくれている。
だから。俺も全力で、この人に自分のすべてをぶつけたかった。
一歩、踏み込む。
ドンッ――!!
地面の土が爆ぜた。小学生のステップではない。瞬時に万助さんの懐へと肉薄し、カズマさんをイメージした鋭い右ストレートを放つ。
だが――見えなかった。
気づいた時には、視界がぐるりと一回転していた。
空が見え、次の瞬間には、背中に冷たい地面の感触。
「っ……!?」
何が起きた? 投げられた? いつ? どうやって?
まったく理解が追いつかない。
万助さんは、さっきと全く同じ場所に、微動だにせず腕を組んで立っていた。
ゾクゾクと、背筋に強烈な鳥肌が立つ。
強い。めちゃくちゃに強い。
ヒロアカの世界は派手な「個性」ばかりが注目されがちだが、本物の武の達人は次元が違う。ただの身体能力と洗練された技術だけで、カズマさんの肉体を持つ俺を圧倒したのだ。
俺が泥を払ってすぐに立ち上がると、万助さんは今日初めて、豪快に不敵な笑みを浮かべた。
「面白い。いい踏み込みだ」
そして、一歩こちらへ歩み寄り、見下ろしてくる。
「坊主」
「?」
「――強くなりたいか」
聞くまでもない質問だった。
俺は一歩も引かず、そのイカの瞳を真っ直ぐに見据えて即答する。
「なりたい」
世界一のヒーローに。あのキングカズマのように、圧倒的な強さで誰かを守れる本物になるために。
万助さんは、満足そうに深く頷いた。
「なら、着いてこい。叩き込んでやる」
その言葉を聞いた瞬間。
俺のヒーローアカデミアは、本当の意味で幕を開けたのだった。
亀更新
ヒロイン作るべき?
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いる
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いらん