キングカズマinヒロアカ   作:うさぎ

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第11話

 

 

 

 翌朝、俺は絶望のどん底にいた。

 

「おい兎山、顔が死んでるぞ。昨日リカバリーガールに治してもらったんじゃねぇのか?」

 

 登校一番、席につくなり切島が心配そうに覗き込んでくる。

 

「……肉体はな。だが、精神が消滅しかけてるんだ」

「…? よく分かんねぇが、男がそんなシケたツラすんなよ! ほら、今日の戦闘理論の予習でもしようぜ!」

 

 切島の底抜けの明るさが、今の俺には眩しすぎる。

 昨日の帰り際、夕日に向かって歩き出した瞬間に脳内に直接響いてきた(ような気がした)万助さんの「高校に入っても修行はあるぞ」という幻聴。あれはただのトラウマがハジけたわけじゃない。

 今週末、確実に地獄の「実家帰省(強制修行イベント)」が待っているという、本能からの危険信号だ。

 

 ガタ、と前の席の椅子が鳴る。

 見ると、轟が静かに席についたところだった。昨日、俺に手を引かれて立ち上がった推薦入学者。

 一瞬、オッドアイの視線が俺の足元に向かい、それからフイッと逸らされた。相変わらずクールというか、心の壁が万里の長城レベルで厚い。だが、昨日ほどのトゲトゲしさは感じられなかった。……負けたことが相当堪えているようだが。

 

「——席につけ。ホームルームを始める」

 

 ガラガラとドアが開き、相澤先生が寝袋から這い出てくる。相変わらずのローテンションだが、その眼光は鋭い。

 

 

 『昨日の戦闘訓練お疲れ。Vと成績を見させてもらった。』

 

 『爆豪。おまえもうガキみたいなマネするな。能力あるんだから』

 

 「……わかってる」

  『で…緑谷はまた腕を壊して一件落着か?個性の制御がいつまでも出来ないから仕方ないじゃ通させねぇぞ。俺は同じことを言うのが嫌いだ。

それさえクリアすればやれることは多くなる。焦れよ緑谷。」

  

 「っはい!」

 

 やっぱ相澤先生飴と鞭の使い方上手いな反省とどうすればいいかを

 的確に教えてくれる。会社の先輩で人気ありそう。

 そして真剣な表情で本日の本題に入った。

 

 『急で悪いが今日は君らに…学級委員を決めてもらう』

 

 「「「学校っぽいの来たー!!」

 

 

 学級委員……!」

 

その言葉が発せられた瞬間、それまで張り詰めていた教室の空気が、一気にざわめきへと変わった。

 

「先生! はいはい! 俺やります!」

「私もやりたーい!」

「俺こそが学級委員にふさわしい! 異論は認めん!」

 

切島や芦戸が元気に手を挙げ、上鳴や他の連中も一斉に騒ぎ出す。ヒーロー科とはいえそこは高校生、やっぱりこういうイベントは盛り上がるらしい。

 そんな中、隣の席の方から「静粛に!!」と地響きのような大声が響いた。飯田だ。

 

「リーダーシップとは、単にやりたい者がやるものではない! 周囲を牽引し、信頼され、秩序をもたらす者こそが就くべき聖職! これは民主主義の原点たる『投票』によって決めるべきだ!!」

 

 飯田くん話してる内容は素晴らしいけど、そびえ立つその手で全てが台無しだよ?

 

 「そびえ立ってんじゃねーか!何故発案した!?」

  

 あっ同じことツッコンでいる。

 クラス内での選挙を提案しながらも、右手を高々と挙げていた飯田にツッコミが入る。でも一番合理的だよね!

 

 「兎山さんはどうします?」

 すると突然前の席の八百万さんが話しかけてきた。

 「え、俺?」

 

 

 突然、前の席から振り返った八百万さんに声をかけられ、俺は一瞬フリーズした。

 お嬢様特有の気品溢れるポニーテールが揺れ、その真剣な瞳がまっすぐに俺を捉えている。

 

 「兎山さん、昨日の屋内対人戦闘訓練での立ち回り、実に見事でしたわ。状況を瞬時に把握し、葉隠さんの『個性』を最大限に活かす柔軟な作戦立案能力。あれほどの統率力をお持ちなのですもの、学級委員長に立候補されても誰も文句は言いませんわ!」

 

 八百万さん、君の評価は嬉しいけれど、買いかぶりすぎだ。あれはただのうろ覚え原作知識と、師匠の理不尽なシゴキから生き延びるために培われた野生の勘(生存本能)なんだって。

 

「俺はそういうリーダーシップとか、みんなを引っ張るガラじゃないから。めんどくさ……ゲホン、大役は君の方が向いている。」

 

「えっ……わ、私ですか!?」

 

 八百万さんが分かりやすく頬を染めて驚く。

 うん、やっぱり彼女や飯田みたいな、育ちが良くて責任感の塊みたいなタイプがこういう役職には適任なんだ。

 

「おい、兎山」

 

今度は斜め前の席から、フイッと轟が振り返ってきた。オッドアイの瞳が、じっと俺の手元を見つめている。

 

「お前は、誰に投票するつもりだ」

 

「え? いや、それはほら、無記名投票なんだから秘密ってことで……」

 

 昨日の敗北から何か吹っ切れたのか、それとも俺への警戒心が別の方向へシフトしたのか、今日の轟は妙に距離が近い。心の壁が万里の長城レベルで厚いはずの男に凝視されるのは、なかなかにプレッシャーがキツい。

 

結局、飯田の提案通り、各自が紙に名前を書いて投票することになった。

 俺は迷わず、その紙に『飯田天哉」書き込んだ。メガネだし学級委員に向いているよ!(謎理論)

 

 数分後。黒板に集計された結果が書き出されていく。

 

【投票結果】

・緑谷出久:3票

・八百万百:2票

 

 原作通り、緑谷が3票、八百万が2票。緑谷の2票は、確か麗日さんと……やっぱり飯田くんだろうな。自分がやりたいのに他人に投票する飯田、マジで漢(おとこ)すぎる。

 

「はぁあああ!? なんでデクに票が入ってんだよコラァ!! 誰だァ!」

 

 案の定、爆豪が机をガタァッ! と鳴らして立ち上がった。手のひらがパチパチと嫌な音を立てている。

 

「おめーに入れねえことだけは確かだな」

「なんだとぉ!?」

 「当たり前」ぼそっ

 「聞こえてるぞうさぎやろぉ!」

 

 瀬呂の痛快な煽りに爆豪が噛みついているのを横目に、俺はつい口が滑ってしまった。

 

 結果、委員長は緑谷、副委員長は八百万に決定。

 壇上に上がった緑谷は、生まれたての子鹿のようにガタガタと震えながら「が、頑張ります……!」と蚊の鳴くような声で宣言している。隣の八百万は「しかるべき職務を全ういたしますわ」と少し悔しさを滲ませつつも、凛とした態度だ。

 

 

 昼休み。食堂は相変わらずの賑わいを見せていた。

 

「いやー、それにしても緑谷が委員長か。なんか新鮮だな!」

 

 切島が白米を豪快に口に放り込みながら言う。

俺、切島達、そしてなぜか少し離れた席からこちらを無言で見つめている轟(視線が痛い)という奇妙な空間のなか、俺は飯田の様子を窺っていた。

 

 原作通り、飯田は自分がやりたかったはずの役職に落選したというのに、一切の腐った様子もなく「これが民意だ! 緑谷くんには委員長としての素質がある!」と熱弁を振るっている。……マジで漢(おとこ)すぎる。お前がナンバーワン学級委員長だよ。

 

だが、そんなのどかな空気は、唐突に鳴り響いた警報音によって破られた。

 

『セキュリティレベル3が突破されました。生徒の皆さんは速やかに屋外へ避難してください』

 

「レベル3って何だ!?」

「3年間の在学中、一度もなかった事態だわ! 誰かが敷地内に侵入したのよ!」

 

、食堂内が一瞬でパニックに陥る。押し寄せる生徒の波。廊下はあっという間に身動きが取れないほどの人混みと化し、お互いが押し合いへし合いの地獄絵図だ。

 

 周りの人が慌てて移動してるので俺は流れに身を任せていた。

 こういうときは流れに身を任せるのが一番なんだよね!

 

 押し寄せる生徒の波。廊下はさながら通勤ラッシュ時の満員電車だ。俺は前世の満員電車通勤、および万助さんの『濁流避け(滝に打たれながら流木を躱す地獄)』の経験をフルに活かし、完全に脱力して人の波にプカプカと浮くように流されていた。

 

 大丈夫、この後すぐに飯田くんが――。

 

 ん?待てよこれ確か敵が雄映バリアを壊したのが原因だったよね?

 …まさか!

 

 ただのマスコミ乱入で一件落着――のはずがない。原作知識の記憶のピースがガチリと噛み合う。マスコミの群れを盾にして、その裏で雄英のセキュリティ(バリア)を『崩壊』させた主犯がいる。

 

死柄木弔と、黒霧。

 

 彼らの狙いはマスコミの騒ぎじゃない。その隙にプロヒーローの手が薄くなった職員室に侵入し、教師ののカリキュラムを盗み出すことだ。

 

「チッ……クソが! 結局動かなきゃダメかよ!」

 

俺はプカプカと流されるのをやめ、強引に人の波を割って、喧騒の逆方向へと駆け出した。

 めんどくさい、ぶっちゃけ超めんどくさい。ここで目立てばまた万助さんの地獄のシゴキが脳内再生される。だが、ここで見過ごすのはヒーローじゃない。

 

人混みをすり抜け、全速力で静まり返った教員棟へ。

 案の定、プロヒーローたちはマスコミ対応と生徒の誘導で出払っている。静まり返った職員室のドアを、俺は音を立てずに素早く開けた。

 

そこには、異様な光景が広がっていた。

 

 

引き出しが荒らされ、書類が散乱する室内。

 そこにいたのは、空間を歪めるような黒いモヤを纏った男――黒霧。

 そして、全身に「手」をくっつけ、ボリボリと不気味に首を掻きむしっている男――死柄木弔だった。

 

奇襲と対峙

(本当にいやがった……!)

 

死柄木の手が、デスクの上に置かれた書類束へ伸びる。

 躊躇している暇はない。ここで戦闘を引き延ばして、脳無みたいなバケモノを呼び出されたら一巻の終わりだ。幸い、今はまだマスコミのドサクサに紛れた「泥棒」の段階。

 

俺は息を殺し、万助さんに骨の髄まで叩き込まれた足捌きを繰り出した。

 床を鳴らさない、予備動作を一切排した爆発的な踏み込み。縮地に近い速度で、一気に死柄木の死角へと滑り込む。

 

「――っ!?」

 

黒霧が俺の接近に気づき、モヤを広げようとした。だが、それよりも俺の方が先だ。

 

 「発勁」

 

――ガッ!!!

 

「がっ……!?」

 

死柄木の顔面に、俺の拳がクリーンヒットした。

 顔にくっついていた「手」が一つ吹き飛び、死柄木の身体がデスクを巻き込みながら派手に床へ転がっていく。

 

「弔!!」

 黒霧のトーンが変わり、俺の足元から空間を歪めて消し去ろうとモヤが急速に膨れ上がる。

 

「しまっ――」

 流石にこの至近距離では躱せない。万事休すかと思ったその瞬間、職員室の入り口から凄まじい冷気の波動が吹き荒れた。

 

バリバリバリッ!!!

 

「なっ……空間ごと、凍結している……!?」

 黒霧の足元、実体のある首輪の部分が、容赦ない氷結によって床に縫い付けられる。

 

「兎山! 無事か!」

 

振り返ると、そこにいたのはオッドアイを鋭く光らせた轟だった。

 どうやら俺が人混みを抜けたのを不審に思い、後を追ってきたらしい。心の壁は万里の長城レベルだが、こういう時のサポート能力と状況判断力はマジでチート級だ。

 

「轟! 助かった! そいつらの『個性』には絶対に触るな! 右の奴は触れたものを粉砕する!」

「……了解した」

 

 轟が再び地面に手を突き、死柄木に向けて氷を走らせる。

 

「チッ……クソが、鬱陶しいなぁ……!」

 死柄木は床に転がりながらも、迫り来る氷を素手で掴んだ。触れた瞬間、轟の分厚い氷がボロボロと砂のように崩壊していく。

 

「NPCの分際で、ゲームの進行を邪魔するなよ……。今日はただの、小物の回収イベントのはずだろ……!」

 死柄木が、殺意の塊のような視線で俺たちを睨みつける。

 

 だが、形勢は完全にこちらが有利。何より、ここは雄英のど真ん中だ。

耐久戦に持ち込めばプロヒーローの増援で俺らの勝ちだ。

 

「おい、ヴィラン」

 俺は拳を構え直し、あえて挑発するように構えた。

「もうすぐ、お前らが一番会いたくない『ラスボス』が来ちまうぞ」

 

 その言葉に応じるように、遠くから校舎を揺らすような重厚な足音が近づいてくるのが聞こえた。プロヒーローたちが異常を察知して戻ってきたのだ。

 

「……弔、引き際です。これ以上の交戦は作戦に支障をきたします」

 黒霧が氷を強引に引き剥がしながら、死柄木の身体をモヤで包み込んでいく。

 

「あーあ、クソ。レベルデザインが狂ってる……。おい、そこのうさぎ野郎」

 死柄木は消え去る直前、剥き出しになった濁った瞳で、俺の顔を明確に脳内に焼き付けるように見つめてきた。

 

「次は、本番でな」

 

シュン、と不気味な音がして、二人の姿は完全に掻き消えた。

 残されたのは、荒らされた書類と、轟の残した氷だけだった。

 

嵐のあとの静けさ

「……二人とも、怪我はないか」

 

 数分後。駆けつけた相澤先生が、散らかった職員室を見回しながら、いつにも増して鋭い眼光で俺たちを見た。

 カリキュラムは残念ながら敵の手に渡ってしまった。

 

「はい。轟くんの氷結のおかげで、敵を追い払えました」

「俺は兎山を追ってきただけだ。先に敵の侵入に気づき、初撃を入れたのはこいつだ」

 

 轟は淡々と事実を告げる。相澤先生はふぅ、と深い溜め息をつくと、俺の肩をポンと叩いた。

 

「合理的で素早い判断だ。……だが、次からはまず教員に連絡しろ。お前たちが無茶をして命を落としたら元も子もない」

「……善処します」

 

 

その後、放課後。

 結局、食堂での一件を完璧に収めた飯田くんが、緑谷の推薦もあって満場一致で学級委員長に就任した。原作通りの完璧な着地だ。

 

「ふぅ……。」

 

 下校時刻、自分の席で荷物をまとめていると、またしても斜め前の席からフイッと轟が振り返ってきた。オッドアイの瞳が、じっと俺を見つめている。

 

「兎山」

「……何かな、轟くん」

 

「お前は、なぜあのタイミングで職員室に敵が来ると分かった」

「いや、それはほら、ただの野生の勘(イケメン芸人風)だって……」

「……まぁいい、今は追及しない。だが」

 

 轟は一瞬、言葉を区切ると、ほんの僅かに口元を緩めた(ような気がした)。

 

「あの状況で迷わず踏み込めるお前の強さ、そして俺の氷結を信じた判断力。……やはりお前は、俺が超えるべき男だ」

 

 いや、ライバル認定されても困るんだって! 爆豪だけでも胃が痛いのに!

 

 心の壁が万里の長城レベルだったはずの轟焦凍が、完全に「熱い相棒兼ライバル」のルートに片脚を突っ込んでいる。おまけに死柄木には「うさぎ野郎」としてガッツリ目を付けられてしまった。平穏なスクールライフはどこへ行った。

 

 まぁいい、ヴィランの激しい襲撃もなく、データも守れた。今日のところはこれで大勝利だ。

 

――しかし、俺は思い出す。

 今日が過ぎれば、明日からはついに週末。あの「万助さん」が待つ、地獄の実家帰省(強制修行イベント)が幕を開ける。

 

 俺の、前途多難な雄英高校生活は、まだまだ始まったばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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