Gift;Archive 作:ミレニアムに在籍したい(願望)
物心ついた時からソレは聞こえていた。
それは喜びであったり、悲鳴であったり。
どれだけ耳を塞いでも聞こえてくるそれはいつしか日常になっていた。
「どう? 直る?」
「……んー」
壊れたタブレットを触れる。
このタブレットから伝わってくるのはどのように使われて過ごしてきたか。
とても大事に使われていたのがタブレット越しに感じられる。
「ふむ……」
しかし、一箇所。
汚れた滲みのように何も感じられない、その部分だけが。
おそらくここが壊れたからこのタブレットは死んでしまったのだろう。
確か……この部位には重要な回路があったはずだ。
「……ダメだな、こりゃ」
俺にできるのはそれを目の前の生徒に教える事だけ。
普通の生徒である俺にソレを直す術はない。
何せパーツも無ければ技術も設備も無いからだ。
「御臨終だ。この子の役目はもう御終い、どうしても直して欲しいならメーカーかエンジニア部の連中に任せた方がいい」
「そっか……ありがとね」
もっとも無事に帰ってくる保証はない。
しかし、そこなら俺に足りてない技術もパーツもある。
その後どうするかは目の前の生徒次第だ。
「ありがとう、それじゃあね」
「……それじゃ」
手を振って彼女は壊れたタブレットを片手に去っていった。
あのタブレットが最終的にどうなるかは分からない。
使うにしろ処分するにしろ、俺の知る由はない。
用を済ませた俺もこの場を後にする。
「お疲れ様です」
……はずだった。
凛と静かな声、いつもどこかで何かしら騒がしいミレニアムの校舎でも不思議と耳に残る声だ。
振り返る。
銀髪の少女がこちらを見ていた。
微笑みながら彼女は言葉を続けた。
「いつもながら不思議ですね、触るだけで壊れた場所がわかるなんて」
触るだけで故障箇所がわかる。
実際にやってることはそうなのだが、厳密に言えば違う。
俺はただ読み取ってるだけ。
逆に言えば読み取れない箇所は死んでるに等しい。
「……それで俺に何か用か。生塩書記」
「つれないですね。ただただ労っただけだというのに」
「貴女がそれだけの為にこちらに来るとは思えない」
「……本当につれませんね。ま、いいです。リオ会長から貴方へ御依頼です」
どうやらいつものように
おそらく厄介な問題ごとに違いない。
「リオ会長の依頼は断らないんですね」
「ん?」
「貴方は面倒な事は嫌いと私は記録していました。ですが貴方はリオ会長の依頼に限っては面倒であっても引き受けますよね?」
「まぁな」
「だからこそ不思議に思うんです。面倒な事が嫌いな貴方を動かしているのは何かって?」
「……」
視線が合う。
いつもながら綺麗な顔立ちだ……時折ゾッとする。
力を使わなくてもただの興味本位だというのはわかる。
しかし、俺にとって今の彼女の眼はとても不快だ。
思い出したくない事を思い出させる。
「……そうだな」
「?」
「実は会長に気がある……って言ったら、貴方は信じるか?」
「……え?」
だから腹いせに少しだけ揶揄ってやることにした。
ゾッとするような綺麗な顔が困惑に染まっていくのを見て悪戯は成功と見た。
「えっと……流石に冗談ですよね?」
「あぁ、今は冗談だ」
まぁ、人間何があるかはわからない。
「そういう冗談は記録に困るのですが」
「知ったこっちゃないね」
拗ねた彼女の横顔は、少し珍しく感じた。
薄暗い部屋に設置された幾つもの巨大なモニター。
明らかに目に悪いとわかる空間に彼女はいた。
「来てくれたわね」
「ま、貴女の依頼ですから。……早速だけど本題に入りたい」
「そうね」
そういうと彼女は一枚のホログラムを見せる。
内容はミレニアム周辺の地図だ。
そして拡大されて表示された場所はミレニアム郊外の廃墟群一帯。
その中に一つ、赤い丸枠で囲われた箇所がある。
「つい最近、ミレニアムの禁止区域で妙な反応が検出されたの」
「それがこの赤枠?」
「えぇ、だから貴方には調査を依頼したいわ」
地図にもう一度目を向ける。
その上で必要なことはあらかじめ聞いておく。
「このポイント、確か連邦生徒会が封鎖していた廃墟群だったはず?」
「問題ないわ。昨日付けで立ち入りの認可が降りたわ」
「装備は?」
「自由よ。弾丸も使用した分を申請すれば経費で通すわ」
「調査人数は?」
「……申し訳ないけど今回も貴方一人よ」
「毎度のことながら、ブラックな環境だな」
「それに関しては申し訳ないと思ってるわ」
別に今回に限ったことじゃない。
この世界では解明できていない事象はまだまだある。
それこそミレニアムが解明を掲げた千年難題も。
自分が生まれながら持っていた力も。
まだまだ世界には明かされていないものが多すぎる。
だからこそ、俺の力はそれを調べるのに向いている。
適材適所というやつだ。
「貴方も準備する時間が必要でしょうから、行くのは明日からでいいわ」
「了解、今回こそ何事もなく終わることを祈る」
「……無理じゃない?」
翌日。
ミレニアムの廃墟群の入り口にて。
現時点で特に問題はなし。
情報にあった妙な反応とやらも無し。
事前に渡された探知機も特に反応を見せてはいない。
「……」
廃墟に触れる。
伝わる情報はほとんどない。
辛うじて伝わるのは廃墟になってからどれくらい経ったか。
脳裏を掠める様に、かつて此処に住んでいた鳥や虫たちの記憶が断片的に流れてくる。
廃墟の歴史は垣間見れど、特に有益な情報は得られない。
「雰囲気あるな……」
ホルスターに収めた拳銃を軽く撫でた。
流れてくる情報に不具合は見当たらない、いつでも行けると力が伝えてくる。
それが、少しだけ不安感を晴らしてくれた。
いつもながら頼もしい限りだ。
「今日も頼むよ」
都市一つ分という巨大な廃墟に退廃美やノスタルジーを感じるものは少なくないのだろうが、俺にとってここはただの墓場でしかない。
むしろ悍ましさすら感じる。
「……」
かつて聳えていたであろう
どうしてこの都市が廃棄されたのかはわからない。
しかし、経年劣化に紛れて見える破壊痕を見るに碌でもない事が起きていたと想像するのは難しくなかった。
「……さっさと済ませるか」
死者の群れの中にいるようで落ち着かない。
さっさと反応があった地点を探って終わらせたかった。
だからなのだろうか?
……遠くから銃声が聞こえた。
一発や二発、などではない。
幾度となく銃声が廃墟中に響いている。
これは……明らかな戦闘音だ。
「……明らかに厄介事、だな」
事前の情報によればこの廃墟にいるのは俺だけのはず。
少なくとも連邦生徒会の正式な許可を得ているのは俺だけ。
なら、今この廃墟にいるのは許可を得ていない招かれざる客だ。
「銃弾、ヨシ。ナイフ、ヨシ」
ついでに愛銃の他に火力が必要になる可能性を考慮して用意したアサルトライフルも取り出す。
後は探索目的で用意したスコープ。
どれも異常は伝わらない、いつでも行ける。
「あそこなら大丈夫か?」
銃声のした方角にある少し高い瓦礫の上。
安全とは言えないが、スコープで遠くを見るならちょうどいい高さだ。
不安定に軋む足場を登り、スコープ越しに銃声の聞こえる方へ視線を向けた。
「あれは……」
スコープが見せる視界の先に、生徒が二人と大人が一人。
無数のロボットたちと戦闘していた。
見る限りまだ始まってそんなに経っているわけではないが、物量差は明らかだ。
「ちッ‼︎」
他所の生徒二人が大人の口車に乗ってここに来たのなら証拠を連邦生徒会に提出してお終い。
それで済んだ話だ。
しかし、
事がバレればミレニアム全体に迷惑がかかる。
俺は早急に三人の元へ駆け出した。
……やはり今回も問題は起きるらしい。