超かぐや姫!〜月に空の彩りを加えて〜   作:匿名希望

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第一話「宇宙人がやってきた!」

 

 俺が最後に見たのは、水面に浮かぶ月だった。

 

(────わからない)

 

 もう…なにもわからない。

 自分すらも、見えなく…わからなくなってしまった。

 全てが深い水底へ沈んでしまった。

 浮き上がったのは、からっぽになった"器"だけ。

 何かも、抜け落ちたからっぽの"誰か"へ。

 

 

*****

 

 

「目、覚めた?」

 

 男が目覚めると、そこは見知らぬ部屋だった。

 日が沈んだ夜だからなのだろうか、部屋の照明の光がやけに眩しく感じた。

 目を覚ました隣には、女の子がいた。緑がかった瞳が綺麗な女の子が。

 男は敷かれた布団から身体を起こす。

 

「ここは…」

「私の部屋。バイト終わって帰ったら…」

 

 女の子は口篭った。何か言えない事があるのだろうか?いや、それよりも、何かに迷っているような?

 

「説明に迷うな。でもありのまま言うしかないか…。えーっと、おかしな事言うけどね…」

 

 そう前打って。

 

「私の部屋の扉がゲーミングPCよろしく突然七色に光って、開けた先が謎空間で、そこから貴方が出てきたの」

 

 数時間前、ありのまま起こった事を告げた。

 

(過労からくる幻覚かなんかだと思ったらマジだったんだよね…。我ながら的確に状況説明はしたと思うんだけど…何言ってんだ私…)

 

 はぁ〜、と軽くため息を吐く女の子。

 

(悲観しても嘆いても何も変わるわけじゃない。今はとりあえずこの人を何とかしよう)

 

 コホン!と女の子は仕切り直す。

 

「意識なくて倒れ込んできたから、仕方なく介抱してたってわけ。怪我とかはしてないと思うけど、無事…だよね?よかった…」

 

 女の子は何は何だかんだで、ほっと安堵した様子。

 口数が少ない男の顔を見る。

 

 

 倒れていたその人は、歳はたぶん自分と同じくらい。首元まである純白の雪のように綺麗な白い髪とどこか優しげな雰囲気のある垂れ目の男子。顔はかなりイケメンで、普通の女子なら放っておかない…と思う。

 格好は…赤いTシャツに黒いズボン、かなりラフな格好だ。シャツ越しにもわかるくらい肉体はがっしりとしている。鍛えられている印象。

 それ以上に最も目を引いたのは、瞳だった。宝石のように綺麗な青白い瞳は、思わず引き込まれて見惚れてしまいそうになる。

 

 

 この人はいったいなぜ、私の部屋の扉から出てきたのか?いったい何者なのか?

 家主の女の子はそれを問う。

 

「で、貴方何者?光るゲーミング扉とか謎空間とかSFかよ。訳わかんないんだけど…」

「わからない」

 

 男は静かな口調でそう言った。

 

「わからないって…じゃあ何処から来たの?名前は?」

「なまえ…」

「名前もわからないの?」

 

 男はこくりと小さく頷いた。

 

「まさか…記憶喪失…とかじゃないですよね…」

 

 いやいやまさか…ショックとかで一時的に記憶が混乱してるとか、そんな感じだろう。きっともうすぐ思い出すさ、うん。そうに決まってる。

 女の子は過った不安を何とか取り払うべく、なるべくポジティブに、現実を見て見ぬふりし、頭の中だけでも物事を都合よく考える。

 しかし現実とはいつも試練の連続。

 過酷なものである。

 

「…」

 

 うわ、これガチだ。

 男の浮いたような様子から察した。

 

(嘘言ってる…のはないか。マジっぽいし、うわ〜。これどうしよ)

 

 記憶喪失の男を養ってる暇ないって。

 

「マジか〜、流石に記憶喪失なんてどうにもならないよ。身分証とかは?何か持ってる?」

「?」

「その顔でわかった。宙ぶらりんね、はい」

 

 八方塞がりとらこの事か。

 

「これは、警察…だよね」

 

 って。

 

「なんて説明すればいいんだ…」

 

 突然扉が七色に光って、開いたら記憶喪失の男の人が出てきました!なんて言えるか。

 絶対に信じてもらえないに決まってる。

 

「なまえ」

「え?私の?」

「うん」

 

 教えていいものか、少し悩んだけど、まあいいか。

 

「酒寄彩葉…だけど」

「いろ…は…」

「そう」

「いろは…」

「うん」

 

 すると、

 

『ぐう〜』

 

 大きな腹の虫が鳴った。

 

「うぐ…この…腹減ったってか。…ああもうっ!」

 

 この男と関わってしまった私の責任だから、今更投げ出す事も出来ない。彩葉は覚悟を決めて台所に立った。

 けれど冷蔵庫には大した食事はない。買いに行くのは駄目。流石に夜更けに見知らぬ男を一人部屋に残して買い物に行くのは抵抗がある。

 仕方なく部屋にある材料を駆使…と言えるほど使っていないが、究極の節約メシ、粉と水のパンケーキを作った。

 

「はい」

「…?」

 

 彩葉が一人暮らしの中で開発した画期的な発明を机の上に出してやると、記憶喪失の男はそれを指でつんつんと突き始めた。

 おいおい、まさか箸の使い方もわからないのか。

 

「って!」

 

 すると、男はパンケーキを素手で掴んで口に放り込んだ。その様は記憶喪失…というよりも大きな子供。それも右も左もわからない幼児に近い。

 もぐもぐと食べるなり、男の顔色が悪くなる。

 

「うぇ、クソまじぃな…」

 

 人に作らせておいてそれか、と喉まで出かかった言葉を何とか押し留める。

 第一にこのメシには美味さは求めていない。いかに安く、そして腹を満たすかだ。それだけ。

 

「でもくう」

 

 男はまた一枚パンケーキを素手で口に運ぶ。

 

 

「いろはがつくってくれたから」

 

 食べる度に吐きそうな顔をしながらも、男は全部食べ切った。

 まあ、文句はさて置き、完食してくれたのは嬉しかったりする。

 こんなんだったらコンビニにでも行った方がよかったか?いや、でもお金かかるし。

 

(ってか、なんで私が罪悪感感じなきゃならんのだ)

 

 と言うよりも、これからを考えなければ、記憶喪失を保護?した少女・酒寄彩葉は考えを切り替える。

 

「それでさ、これからの話なんだけど。私じゃ手に負えないから明日になったら─────え?」

 

 

 ちょっと目を離したと言うか、精神を落ち着けるために目を閉じていた隙に、男は。

 

「むにゃむにゃ…ん〜」

 

 横になってぐっすりと寝ていた。

 まあなんて心地良さそうな寝顔なんでしょう。

 って、なるかオイ!

 

「おい!起きろ、寝るなー!」

 

 どれだけ叫んでも揺すっても男は起きる事はなく、夢の中の住人となった。

 もうどうとでもなってしまえ、寝ている男を前にして彩葉は諦めたのであった。

 思考を放棄、彩葉も床に着いた。

 

 

*****

 

 

 朝、彩葉は不思議な夢を見て目覚めた。

 空と星の夢────目覚めて忘れてしまった部分も多いけど、夢の中で空と星を見たという事だけは起きても漠然と覚えていた。

 

「おはよう。()()

「ん、おはよ…って、ええっ⁉︎」

 

 彩葉が身を起こすと男がいた。部屋で寝たのだから当たり前なのだが、反射的に驚いた。

 男の顔色は昨日より良い気がする。昨日はマジで不安になるくらい沈んだ目をしていたから、一晩で元気を取り戻したなら上々なのだろう。

 それに今は、昨日が嘘のように笑顔だ。

 

(はあー、ほんとにどうしたものか…)

 

 彩葉の悩みの種は尽きない。

 

「私、学校行くけど貴方はどうするの?」

 

 バイト先のカフェで貰ったまかないを弁当箱に詰めながら聞くと、男は。

 

「彩葉といく」

 

 などと言い出した。

 

「行けるわけないでしょ」

「そのガッコー…ってのは"だいじ"なのか?」

 

 どうやらこの記憶喪失の男は、学校すらも頭から飛んでいるようだ。記憶喪失について知識が無いからわからないが、一般常識すら欠落するものなのだろうか?と彩葉は考えた。

 

「命より大事!」

「命よりも…か」

「なに?」

「それは、いやだな」

「は?」

「大事にして欲しい。彩葉と一緒にいたいから」

 

 何を言い出すか、この記憶喪失は。それに段々と饒舌に喋るようになってきたな。学習が早い、と言うよりも地頭がいいのか。

 いやいやいや、そんな事よりも。

 

「そんなこと言われても無理なものは無理。とりあえず、家には居ていいから」

 

 正直、一人残して行くのも不安がないと言えば嘘になる。しかし、学校は絶対休めない。外に野放しするのも不安が大きく、仕方なく消去法で部屋に置いておくしかないと彩葉は判断した。

 

「それ、お昼ご飯。勝手に食べて」

 

 指差した台所にあるのは、昨日と同じ粉と水のパンケーキ。だが昨晩は不評だったため、今日は一つ工夫をしたver.2なのだ。

 

「冷蔵庫にバターがあるから塗って使って。そうすれば昨日よりは美味しく食べれるから。あとタブレットは自由に使ってもいいから。早く記憶思い出して、それじゃあ」

 

 そう言い残し、彩葉は学校へと向かって住まいを出た。

 通学中も彩葉の悩みは尽きない。主にあの記憶喪失の男が頭痛の種と化しているのだが。学校でもそれは変わらず、集中しなければならない授業中ですら時折、頭にチラついた。

 昼時に至っては、学友に心配される始末。

 

「彩葉、どうしたの?悩み事?」

「なんでも言ってくれていいよ」

 

 芦花と真実、彩葉が学校でよく話す友人。

 

「全然、大丈夫」

 

 七色に光る扉から記憶喪失のイケメンを保護して家に匿ってます。なんて言えるものか。それにこんな珍事に二人を巻き込むなんてもっての外。自分だけが抱え込めばそれで済む話なんだから。

 それにいざとなったら、さっさと追い出すなり、警察に引き渡すなりすれば楽にはなれる。それで全部元通りだ。何事もなく丸く収まる。

 が…できれば苦労はまったくないのだ。当の本人の彩葉にはそうする事ができなかった。

 午後の授業中、彩葉は思い出す。

 

(似てるんだよなあ、あの人…)

 

 ────忘られない恩人。

 

 放っておけないのも、きっとそれが理由だ。

 

(昔知り合った"お兄さん"に)

 

 知り合ったと言っても、幼い頃に公園で少し話をした程度の関係。

 それでも酒寄彩葉にとって、そのほんの僅かな時が、とてつもなく大きい。ヤチヨと同じくらい大きくて、あの出逢いを思い出すたび、挫けそうな心を今もずっと支えてくれているのだから。

 幼かったからなのかな、お兄さんの顔はよく覚えていない。話した内容は覚えているのに、おかしな話ではある。

 泣いていた幼い私を励まして、笑わせてくれたお兄さんも、今私の部屋にいるであろう記憶喪失の男と同じ白い髪色だった。

 あの男が扉から出てきた時、まさか…とは思った。でもあの頃にあったお兄さんも高校生くらい…だった気がするから、どう考えても年齢が合わない。歳を重ねない人間なんているはずがないのだから。

 老いは人間の定め、宿命だ。老いておばあちゃんになる前に、もう一度あのお兄さんに会いたい。会って言いたいんだ、ありがとうって。

 

(貴方のお陰で私は生きていられます。って)

 

 あの人は今、どこで何をしているのだろう?それと目下最大の問題であるあの記憶喪失も。

 

(だ、大丈夫。記憶がなくても物事の分別はつくはず。だから問題ない。問題ない…)

 

 パンケーキを素手で食べていたのを考えるとマジで不安しかないが、自分を安心させるため、彩葉は何度も問題ないと繰り返し唱えた。

 それから何だかんだありつつもあっという間に下校時間に。

 

「彩葉、途中まで一緒帰ろ」

「れっちご〜」

 

 あいつの事もある。今日はダッシュで帰りたかったが、断れん。ここはやむなしと彩葉は諦めて友人二人と共に下校し、校門を潜ったその先には、なんと。

 

「おーい!彩葉〜!」

 

「は?」

 

 彩葉は驚き、絶句。言葉を失った。

 

(いやいやいや、待て待て待て)

 

 彩葉の前には大きく手を振る不審者…もとい昨晩保護した馴れ馴れしい記憶喪失がいる。

 

(なんでここにいんの⁉︎)

 

 家から出るなと念を押しておくべきだったかと、今朝の自分の浅はかさを後悔するがもう時既に遅い。

 しかも最悪な事にここは学校の真ん前、下校時刻だ。最悪の時、最悪の場所、最悪のタイミング、悪状況が全て重なるオールパーフェクト。これを悪夢と言わずに何と言うか。

 当然ながら周りの注目をこれでもか!と言うほどに集め、周囲のヒソヒソ話が彩葉の耳にも聞こえ…。

 

「え?嘘!誰あのイケメン!」

「酒寄先輩の彼氏⁉︎」

「いや、酒寄先輩のお兄さんだろ。きっとそうに決まってる…」

「超美形!背も高っ!スペック高っ!」

「髪白っ!染めてるのかな?ヤチヨみたい!」

「あの美顔で垂れ目は反則でしょ…」

「庇護欲そそるわぁ…」

 

 憶測が尋常ならざる速度で伝播、拡散する。

 彩葉は咄嗟に記憶喪失に詰め寄る。

 

「ちょ、なんでここにいんの!」

「記憶探し、外出たらな〜んか見つかるかなと思って」

 

 ああ、なるほど、確かに家に篭ってるよりも外に出ていた方が何か思い出すかもか。こいつなりに考えて、真っ当な理由があるならまあ、許そう…なんて言うか!この状況どうするんだ。

 

「ここに来たのはたまたま。なんか彩葉が居そうだと思って。このデカい場所から彩葉の匂いしたし」

 

 犬か、犬並みの嗅覚でも持っているのかこいつは。

 

「彩葉、その人は?」

「知り合い?」

「あのね、えーっと…この人は…その…」

 

 なんとかして誤魔化さねば…!彩葉は今日受けたどの授業の時よりも頭をフル稼働させた。

 

「い、いー、従兄弟!私の従兄弟!」

 

 お願い芦花、真実、これ以上突っ込まないで!

 

「へー?名前は?」

 

 芦花ぁ…彩葉の祈りは無駄に終わった。

 

「名前、名前は────」

 

 頭を必死に回す。何かないか、これ以上疑われる前に何か言わなければもっと面倒な事になる。

 こいつの名前は、えっと。

 

「そ、そ───ソら…そら…と。ソラト!こいつの名前はソラト!今日会う約束してたんだ!ね!ソラト!

 

 お前もこれ以上場を混乱させる余計な事を言うんじゃ無いぞ、そう圧力をかけるが、目の前の記憶喪失…仮名ソラトには多分効いてない。

 

「そっか、ソラト、ソラトかぁ〜。俺ソラト!よろしくな!」

 

 何こいつ、満面の笑みでめっちゃ嬉しそうじゃん。

 名前は大層気に入った様子。

 

「ごめん、二人とも先帰る。また来週!」

 

 彩葉はソラトの首根っこを掴んで学校前から即時撤退。これ以上の注目と同時によからぬ噂が立つ事を何とか阻止した。(手遅れ)

 

「はぁ、はぁ…はぁ…ちょ、あんた!なんでよりにもよって学校の前に来るの!」

「だめだったのか?」

「朝言っ…ってないか」

 

 自分は"着いて来るな"とは言ってない。屁理屈かも知れないが、言ってはいないんだ。

 

「で、なんで俺の名前ソラトなの?」

「え?ああ、それは……」

 

 "七色に光るゲーミング扉"を開いた時、青空を見たから。何処までも続く、澄んだ青空を。だから、芦花に名前を問われて咄嗟に思い浮かんだのがソラトという名前だった。

 

「な、なんとなく…」

「そっか」

 

 ソラトは深くは聞いてこなかった。

 ネーミングは兎も角、明日から誰かに聞かれたらまたこの(てい)で話をしなければならない。

 ああ、どうしてこうなったんだ。まったく…。

 

「あ、そうだ。一つ思い出した」

「なに思い出したの…?」

 

 この苦労を引き起こした甲斐があったという事だろか。どうか身元のわかる有益で、尚且つ全て元に戻る記憶であってくれ。

 

「俺、この星の生命体じゃない」

 

 またしても祈りは無駄に終わったようだ。彩葉は項垂れながら、以前母が言っていた神頼みなんて無駄…という発言を思い出し、今その言葉が正しかったのだと身に沁みて痛感した。

 それに…え?今、なんて言った?この星?生め…?

 

「────は?」

 

 なんて、今なんて言ったんだ、こいつ。

 

「宇宙人」

 

 何を言ってるんだ?ソラトは。

 

「俺、宇宙人だ。たぶん」

 

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