異形の鬼が嗤う〜『Curse Nightmare Party』〜 作:高梁
「「「「ふーん」」」」
目を開けると日本家屋のような木造の部屋が映る。
「「「「型式からして書院造り…だったか?詳しくねぇからわからんな」」」」
ともかく安全確認はできた。背中にも目がついているので敵の有無の確認についてはすぐにできる。結構便利かもしれない。
ぼちぼちアバターを確認しますか。
「「「「腕は、ちゃんと3対あるな。それぞれ動かせるか?…ダメだ、一本動かすとほかの腕も同じ動きをするな。名前つけるか」」」」
名付けによる区別は人間の認識において非常に強い影響を及ぼす。
「「「「左腕は上から順番に左上(サカミ)、左中(サナカ)、左下(サシモ)だ。右腕は右上(ウカミ)、右中(ウナカ)、右下(ウシモ)と命名する」」」」
先ずはサナカとウナカを単独で操作…よしできた。次にサカミとウカミを単独操作…サナカとウナカが少し引っ張られるか?まあこの程度なら修正できる…よし、
単独操作完了。最後にサシモとウシモを…単独操作できるな。
それじゃあ同時に動かして…
「「「「うん。慣れないと混線するだろうけど、まずまずといったところか」」」」
次は口だ。顔にある口以外にも腹、サナカとウナカの手のひらに一つずつの合計4個がある。先ほどから4つの声が重なっていたのはそれが理由だ。
「まずは顔のだけで、ってもう喋れてるな」
ほかの口でも喋れることが分かった。物を食えるかの検証は後回しにしよう。
「目のほうは…おっ視力いいな」
顔についている1対の目は普通の目だ。しかし、胸部や背部の目は柱のささくれを見分けられるほど視力が高い。
「早めに慣れないと酔うかもな。これは」
後は、尻尾か?これは完全に人間には存在しない器官。少し時間はかかったが問題なく操作できる。今のところは第3の足として体を支えるぐらいしか使い道がないが、慣れれば戦闘でも使えるだろう。
動かせる器官については一通り確認できた。後は時間をかけて慣らしていくしかないだろう。
ここまでの時間は…
俺は動物の神経系や器官、身体構造を研究している大学生だ。体を動かす理論を理解しているため、比較的容易に操ることができる。
しばらく慣らしているうちに、日常生活くらいなら動けるようになった。
「まだ30分ぐらいか。そういえば初期アイテム配布されていたな」
俺はストレージから『鑑定のルーペ』を取り出す。
『鑑定のルーペ』
ゲームではよくある例の鑑定ができるアイテムだ。譲渡、売却、破壊すべて不可能な超重要アイテム。
「鑑定」
まずは自分のステータス確認から。
△△△△△
『呪限無の落とし子』・イナミ レベル1
HP:999/1,000
満腹度:100/100
干渉力:100
異形度:16
不老不死、人の腕×4、増えた目×2、増えた口×3、増えた尻尾×1、鬼の角×2、内臓強化×2、外骨格
称号:『呪限無の落とし児』
所持アイテム:
長ズボン、ブーツ、鑑定のルーペ
▽▽▽▽▽
「ふむふむ」
HPが1減っているのは鑑定のルーペの効果だ。自分のステータス確認方法が鑑定のルーペに頼るしかない以上、気を付けておくべきだろう。
レベルは当然1。HPは体力だがリソースにも使える。満腹度もリソースとして消費できるらしい。干渉力は文字通り物にどれだけ影響を与えられるのかの指標。わかりやすく言うなら攻撃力、防御力、素早さを複合したものらしい。
ここからが本題である。
「異形度…素晴らしい」
アバターに追加された人外の要素。これの数が異形度だ。今の段階ではこれ以上のことは不明だがプレイしていけばわかることも増えるだろう。
「おっ。再鑑定で詳しく見れるようだな」
鬼の角:呪詛を感じる感覚器官。操作の補助と蓄積の能力を持っている。
内臓強化:異形度が2上昇する。すべての臓器の機能が強化される。リソースを消費して臓器の作成、再生も可能である。
外骨格:体を骨格で覆うことができる。
不老不死:プレイヤーをプレイヤー足らしめる呪い
「呪詛を感じる器官か。なんか周りにボヤっと広がっているように見えるのが呪詛か?後で調査するしかないか」
触ってみると非常に硬くて少しぬるいのが分かる。新しい感覚器官だと思えばいいか。軽くはじいてみると。
「ッ!痛!」
鈍痛が頭に響いた。
「ぐおおぉぉ…股間を強打したような鈍く重い痛みが頭にぃ!」
いやマジでいたい。最初は便利そうだと思ったけどこんな弱点あるとなったら話変わってくるぞ。とはいえ、ここまで痛覚が設定されているからこそアバターを自分の体と認識できるわけで。特に高異形度アバターを使う自分にとっては。
「角はできるだけかばったほうがいいな」
サカミとウカミが頭をかばいやすい位置にある。しばらくは防御の練習だな。
「内臓強化か。説明がおおざっぱすぎてよくわからんな。」
内臓というと消化器や呼吸器などの部位を指すことが多いけど脳神経を含む場合もある。これも要検証で後回しだな。
「外骨格ね。肩とか尻尾を覆っているのは鱗じゃなくて殻なのか」
外骨格は柔らかい肉の外側を覆うように骨を作ること。カニとか虫とかはこのタイプ。触ると鎧を着ているような
感じがする。
「でも、結構柔いな。日常生活レベルならまだしも、武器もって襲い掛かられたら気休めにしかならん」
それでも弱攻撃ならほぼ100%はじくだろう。これも要検証。
後は称号か。
△△△△△
『呪限無の落とし児』
効果:低異形度NPCからの好感度低下・極大
条件:初期異形度16以上
貴方を見た正気の者は貴方を嫌悪する。尤も正気の者と貴方とでは住む世界が違うが。
▽▽▽▽▽
「低異形度NPCに嫌われる、か」
セミオートで作った最初のアバターが低異形度だとすると、異形度4ぐらい。今の異形度が16だから単純計算で4倍の異形度。それは嫌われても仕方がない。
「軽く考えてもアイテムの売買不可、街の出入り禁止ぐらいはありそうだな。場合によっては討伐対象として殺されるかもしれん」
まあソロプレイには慣れているというか基本ソロプレイしかしていないから問題は無いか?アイテムの売買は街の外で物々交換するか。外貨持ってても使い道なさげだし。
「確認できるのはこれぐらいか」
ステータス確認はできたので部屋を調べてみる。ゲーム的なメタで言うとこの部屋はリスポーン兼拠点用のセーフティエリアのはずだ。特に意味深に置かれている台や祭壇は詳しく調べなければ。
「では早速、鑑定」
まずはこの部屋にある作業台らしきものを鑑定する。
△△△△△
木製の呪怨台
レベル:1
耐久度:∞/∞
干渉力:100
浸食率:100/100
異形度:1
周囲の呪詛を集めて、台の上に置かれた非生物を呪う事が出来る。
▽▽▽▽▽
「アイテム作成用、まんま作業台だな」
呪詛を集めて呪うという流れがよく分からないがこればかりは実際に使ってみるしかない。アイテム拾ったら適当に呪ってみるか。
「次はこっちも鑑定」
元は立派であっただろう祭壇に鑑定のルーペを向ける。祭壇は奥の方の壁が割れて液体が流れ出しており、祭壇の下部に溜まり続けている。液体の色はほんのり黄金色を帯びており、その見た目はまさに…
「酒じゃないだろうなコレ」
△△△△△
回復の水
レベル:1
耐久度:∞/∞
干渉力:100
浸食率:100/100
異形度:1
呪人にかかっている不老不死の呪いを活性化させることによってあらゆる傷を癒す事が出来る薄い黄金色の液体。
器を置かれた場所から動かす事は出来ないが、置かれた部屋の中ならば何処に居ても回復効果は得られる。
▽▽▽▽▽
「回復アイテムか。街や宿は入れないことへの代替措置か」
サシモとウシモで液体をすくい上げて観察する。
「色はアレだけど匂いは何もしないな。では一口…普通の水だな」
回復量に関してはHPがあまり減っていないのと『回復の水』のリジェネ効果により分からない。これも要検証。
ちなみに呪人とはプレイヤーのことである。
壁や天井なども調べてみたがダンジョンの壁、ダンジョンの床などこの場所がダンジョンであることを示すだけだった。そして、ダンジョンそのものを鑑定した結果現れたのが以下の通りである。
△△△△△
人手クモの巣
呪いによって異形と化した人の手が蜘蛛となって徘徊する寺院型のダンジョン。
彼らは巣を作り、罠を張り、追い詰めた獲物がかかるまで待ち続ける。
呪詛濃度:10
▽▽▽▽▽
≪ダンジョン『人手クモの巣』を認識しました≫
「呪詛濃度。また新しい概念が出てきたな」
コレもよく分からないから要検証で後回し。
そして、人手クモの巣というダンジョン。順当にいけばクモが敵ということだろう。実際に見てみればわかることだ。
「この部屋も粗方調べ回ったし外に出るか」
俺は部屋のドアを開けて外へと繰り出した。
※主人公は早熟の天才です。特に体を動かすという分野に関しては圧倒的な才覚をもっています。理論と才覚によってアバターを操るという第1の壁を爆速で越えていきました。
そうじゃなければ高異形度アバターなんて動かせませんよ。