異形の鬼が嗤う〜『Curse Nightmare Party』〜 作:高梁
グロいというかエグいというか微妙に閲覧注意なので自己責任でお願いします。
※画像生成にAIを利用しています。
分厚い扉を押し開け部屋を出ると突き当たりの廊下の様な場所へ出た。両脇の壁は漆喰で固められており、独立した部屋はまるで離れの一室のようだ。
「そう言えばあの扉、やけに重かったな。元々倉庫か何かとして使っていたのか?」
日本の木造建築において漆喰のような固い素材は、地震や火事から建物を守るための要所に使われてきた。倉庫や蔵などがそれにあたる。あるいは、牢。
「まあ現在そういう目的で使ってないならどうでもいいけど」
むしろこういう話は好みです。
改めて廊下に目を向けると板張りの床に漆喰のかけらや木材の破片などが散乱している。経年劣化で壊れたようにも戦闘で壊れたようにも見える。だが、俺はある事について見落とさなかった。
「漆喰が脆いのに板張りの床がそのまま?あり得ねえな」
漆喰と木の板だったら木の方が先に脆くなる。湿気でカビが生えたり虫に食われたりするからだ。漆喰がボロボロになるほどの時間が経っているなら床に穴が空いているのが普通だ。
「まあ漆喰がボロい理由は想像つくけどな」
天井に視線を向けると、天井を覆うようにびっしりと糸が絡まっている。天井の一部が白く見えるほどのクモの糸が天井に張り付いているのだ。そして、漆喰の壁は上の方ほどボロくなっている。
「人手クモだったか。そいつらが動き回ったり巣を作ったりした結果漆喰が脆くなったんだな。逆に言えば床はあまり這い回っていないのか?」
上からの奇襲に警戒しておけば良いのだろうか。普通、人間は正面への対応が最も得意だ。つまり、上から襲い掛かられたら高確率でデッドエンドというわけだ。
幸いなことに腕が多い分上からの襲撃に強いのはこのアバターのメリットかも知れない。
しばらく歩いていると先ほどまでより大量の糸に覆われている廊下に出る。
「これはちとマズいか?」
天井の糸の量もそうだが、先ほどと違うのは両脇に戸襖で仕切られた部屋がある。問題は、戸襖と天井の間にある欄間という部屋同士や廊下との仕切り板が壊されていること。
「俺の移動は制限されるのに人手クモとやらは移動し放題か」
思った以上にモンスターの知能が高い。クモなんだから罠を張るのはお手のものと言われればそれまでだが、実際に相手にしようと思うと途端にめんどくさくなる。
「…いや、落ち着け。見てもいない敵を決めつけてどうする。先入観の持ちすぎは良くない。それは捨てろ」
自分に言い聞かせて落ち着かせる。Be cool.
よし、落ち着いた。探索を続けよう。
俺は戸襖を開け、中を確認しながら進んでいく。戸襖が開く部屋もあれば少ししか開かない部屋もある。部屋がクモの糸に覆われていると開きにくいようで、びっしりと張られた糸で中を見ることはできなかった。戸襖が開いた部屋も糸に覆われておりなにかがあるようには見えなかった。
なにも収穫のないまま探索を続ける。当然、上からの奇襲に警戒しながらだ。
ギシギシとなる廊下を進み続ける。
…
「マッず?!」
咄嗟に飛び退くと、すぐ横にあった戸襖をぶち破って何かが飛び出してきた。動かなかったらそのまま襲われていただろう位置だ。
「ようやく会えt、エッ、キモッ!」
人手クモは想像以上にキモかった。
蜘蛛みたいな見た目ではある。だがよく見ると脚が全部指だった。人差し指から小指までの八本がやたら長く伸びていて、その先には黒い爪が生えている。それをカサカサ動かしているせいで余計に蜘蛛っぽい。
「人の手の要素強すぎだろ?!」
真ん中には白い糸の塊がある。女郎蜘蛛の巣を丸めて押し固めたみたいな球体で、綿飴にも見える。糸の隙間からは何かが埋まっているのが見えるが、よく分からない。多分あの辺りが胴体なんだろう。
頭は無い。
目も無い。
口も無い。
ただ糸玉から八本の指脚が生えているだけ。なのに普通に動いている。呪いだからで済ませていいんだろうな、こういうのは。奴は脚の爪(いや、指の爪か?)をカリカリと鳴らしている。
高さは1mぐらい。腰と同じか少し高いといったところだろう。天井から奇襲されても厄介だが、床に降りられても厄介だ。長ものがあるならともかく、素手だと攻撃がほぼ当たらない。
必然的に蹴り技が主体となる。相手の方が素早そうなのでカウンター狙いで構える。
しかし、俺はこの時、とんでもない思い違いをしていた。
クモというのは縄張り意識が強かったりで、群れで行動することは稀だ。だから、奴の初撃をかわした時点で1対1だと思い込んだ。
クモは群れない。敵は目の前にいるコイツだけだと。
目の前の一匹に意識を奪われた。
俺は天井から奇襲してきた別の個体に襲われ、死んだ。
ーーーーー
「クッソやられた」
俺はセーフエリアでリスポーンした。色々言いたいことはあるが、まずは反省会からだ。なぜ負けたのかを理解しないまま進むのは危険だ。
「1対1だと思い込んで上への警戒を怠った。これが1番不味かったな」
思い込みは視野を狭くする。今回あまりにもタイミング良く奇襲されたことを考えれば奴らは基本群れで行動していると考えるべきだ。
「天井の糸は上からの奇襲を意識させるためだろうな」
目線より少し高いぐらいの壁が明らかにボロボロなので天井の糸にもすぐ気づくだろう。ダンジョンを鑑定していればクモが敵だろうと見当もつくはずだ。ここまで気づいて天井を気にしないのは無理だ。
「戸襖を開ける。これも罠だな」
方法は分からないが、奴らは戸襖の開閉を察知する能力がある。これで獲物の動向を把握して待ち伏せし、ギシギシとなる床でタイミングを計り、戸襖から襲いかかる。上に警戒が向くせいで足下の床の違いに気づけない。嫌になる程合理的な罠だ。
「獲物が避けるのも想定内なんだろうな」
俺が飛び退いた後の動きも鮮やかすぎた。奇襲に失敗した個体は床で出方を伺っている、ように見せて実は囮。あいつの大きさと突進への警戒から俺は足技でのカウンターを狙った。奴らの狙い通りに。
「そして警戒の薄くなった天井から別の個体が奇襲と」
初撃を上手くかわしたと思わせることで天井への警戒を緩めた獲物を襲う。
実にお手本にしたいぐらいの狡猾な罠だ。鑑定のルーペで調べられなかったが、そこまで強そうな気配は感じなかった。正面から戦えば初心者でも勝てるような雑魚敵なのだろう。
「よし、反省会終了。続いて対策会議を始めます」
敵の能力は見えた。あとはどう倒すかだろう。
ーーーーー
「よく見れば床を張り替えた跡があるな。あいつら木工までできるのか」
天井や戸襖以上に床を警戒するべきだ。奇襲のタイミング自体は床を踏んだ音で判断しているはず。戸襖は獲物がどこに向かっているか予測するための罠だろう。
「狙いは奇襲をかわしてからのカウンター」
今は2本の棒で武装しながら進んでいる。人手クモに対抗するには長物があったほうがいい。幸いなことに左右合わせて6本の腕を持つ俺にとって武器はかなり使いやすい。サカミ、サナカ、サシモで1本の木の棒を、ウカミ、ウナカ、ウシモで1本の野太刀を持っている。
奴らの狩場へ向かう前に部屋や廊下を漁っていたら出てきたものである。木の棒は床に落ちていた欄間から手に入れたものである。多少装飾があったり形がいびつだが、最も頑丈なものを選んだ。長さは150cm程度。
ちなみに、鑑定のルーペによる鑑定結果は以下の通り。
△△△△△
木の棒(欄間)
レベル:1
耐久度:100/100
干渉力:100
浸食率:100/100
異形度:1
欄間の一部だった木の棒。
▽▽▽▽▽
「まあこっちのほうが大収穫だったな」
そして、廊下の床板を引っぺがしていたら見つけたのが野太刀である。はがせそうな部分があったのではがしてみると箱に入れられたコイツを見つけた。おそらくこの建物がまだ現役だった時代に襲撃に備えて用意されていたものだろう。刀身約150cm、柄を入れれば200cmにもなるだろう大きな刀。最初見つけたときは小躍りしたものだ。だって男の子だもん。しかし、その喜びはすぐに消し飛んだ。
△△△△△
忘れられた野太刀
レベル:1
耐久度:100/100
干渉力:100
浸食率:100/100
異形度:1
かつて名刀だったかもしれない野太刀。錆びつき、忘れられ、その刀身を知るものももういない。
▽▽▽▽▽
「錆びてるせいで刀が抜けないのは意地悪すぎませんかね」
ぬか喜びにもほどがある。
分かっている。運営の意図として、安易に強い武器が渡せないのが理由なのはよく分かる。自力でアイテムを作るのも醍醐味の一つなのだから、錆びさせて使えなくしたのはよくわかる。
それでもぬか喜びさせる必要はあったのか。後でGMに送っておこう。妙な期待をさせないで下さいと。
「長いし肉厚だから鞘に入った状態でも鈍器として使えるのは幸いだった」
それぞれ相応に長いうえに重いが腕が3本あるのでしっかりと握れた。素振りした感じも特に問題はなかった。むしろ尻尾によって体を支えたりバランスをとれるので使いやすい方だ。
セーフエリアでしばらく素振りをして動きを確認し、人手クモへのリベンジへ出発したのだ。
閑話休題。
さっき死んだ場所へ戻るとぶち破られた戸襖が元に戻っていた。俺が死んでから戻ってくるまでに修復していたらしい。
「仕事が早いこって」
周りの警戒を怠ってはいないが、わざわざ短時間で完璧に直したということは奇襲スポットとして何度も使えるようにしているということだろう。
野太刀で床を押しギシギシと音を立てる。それに反応して人手クモが姿を現す。奴はすぐさま野太刀にとびかかるが、それは俺が仕掛けた罠だ。
「オラァッ!」
俺は全力で野太刀を振り上げる。
野太刀にとびかかったクモを掬い上げ、天井から奇襲しようとしていたクモに当たるように。
頭上で2匹の人手クモがぶつかり、後ろへ吹っ飛んでいった。
「よっしゃ!狙い通り!」
すぐに後ろへ向き直り奴らに相対する。この間も別の個体に襲われないように警戒は怠らない。
「今のうちに、鑑定!」
サシモで鑑定のルーペをつかみクモを鑑定する。こういう時に腕が多いと武器を構えたまま小物が使えるのは便利だ。そして、鑑定結果は以下の通り。
△△△△△
人手クモ レベル4
HP:786/998
▽▽▽▽▽
「レベルは高いが1撃200ダメージと考えるとそこまで脅威じゃないか」
HPが998→786に減っているので多分200ダメージぐらい。武器を手に入れたとはいえこの狭い廊下では取り回しが難しい。結局カウンター狙いで待ちの姿勢を崩さない俺に対して奴らがどう出るか。じりじりと距離を詰めながら様子をうかがっていると、2体は廊下を逃げて行った。
「…いやいや待て待て」
まさか逃げるとは思っていなかった。予想外の行動に一瞬固まるも俺はすぐに追いかける。奴らは廊下を進んでいるようで部屋に逃げ込む様子はない。しかし、壁を登って天井を移動されれば追うのが難しくなる。人手クモはそこまで足が速くないようで追いつくのは難しくない。
これなら追いつける。そう確信した瞬間。
「ッ?!」
足に何かが引っかかり盛大に転んでしまう。振り向いて確認すると、すねぐらいの高さに糸が張られていた。しかも、目立たないように床と同じ色で塗られた糸だ。
「罠かっ」
叫んでも時すでに遅し。反転してきた人手クモに頭をかじられて2度目の死亡である。
ーーーーー
「あーもう、あいつら狩うますぎるだろ」
2度目のセーフエリアでリスポーン。
木の棒も野太刀もセーフエリアに転がっていた。『CNP』にデスペナルティがなくて本当によかった。木の棒はともかく野太刀を失っていたら回収が大変だった。
それはともかく、第2回反省会を始めよう。
「逃げたのを見て罠がないと思い込んだのが失敗だったな」
方向的に奴らがセーフエリアに向かって逃げた、つまり来た道を戻るように逃げたのも油断の原因だった。探索しながら進んだ場所だ。罠がないと思い込んだのだ。
「戸襖をあの早さで直せるんだ。逃げながら糸を張るのなんて楽勝だっただろうな」
追いかけている時は壁を登って天井伝いに逃げられることを恐れていた。戸襖や天井からの奇襲の警戒と合わせて、床の注意をしていなかったのは間違いない。
「HPを見て攻撃方法は奇襲だけだと判断したのもまずかった」
レベルが高いとはいえ5回殴れば倒せるほどの低耐久。正面戦闘は不得意と決めつけてしまった。『CNP』はHPの残量やレベルの高さにかかわらず、頭や心臓などの急所を潰されると即死する仕様だ。わずかな隙さえあれば、素早い動きで急所をつぶせばいい。それが人手クモの基本戦略だ。
「野太刀で2匹まとめてぶっ飛ばすのはいい案だと思ったんだがな。逃げられたらどうしようもない」
床の色と同化した糸をよけるのはさすがに無理だ。そうなると、逃がさない戦い方が求められる。
「どうするかな~」
対策を思いついた俺はセーフエリアでいろいろやった後、再び探索に繰り出した。