異形の鬼が嗤う〜『Curse Nightmare Party』〜 作:高梁
結論。
今後も不定期更新になると思います。
前回、前々回の反省を生かして3度目の挑戦。
「今度こそ倒す」
俺は野太刀をサシモとウシモで握り直し、残りの4本の手で2mの木の棒と1m程度の木の棒3本を握るスタイルに変えて探索していた。
実は前回の死に戻りの直前で気づいたことがある。倒れた際に背中の目が人手クモを下から見ていたのだ。
人手クモの口がどこにあるかわからなかったが、その答えは手のひらだった。両手のひらの間ぐらいの箇所にぽっかりと穴が開いていて、そこにタコの口に似た口があった。タコの口は魚の骨をかみ砕くほどの力があり、その10倍以上の大きさの口が付いていた。あの口なら人間の頭蓋骨などせんべい感覚で砕けるだろう。
故に、思いついた。
人手クモの体は脚と糸におおわれて見えない胴体で構成されている。大きさの割に軽いのだ。野太刀で2匹まとめてぶっ飛ばした感触から言っても、大した重さじゃないのは確認できる。
人手クモとの戦闘を振り返ると、いずれの場合も死因は急所への攻撃だった。
おそらくだが、人手クモは口以外に有効な攻撃手段を持っていない。あの大量の罠も、奇襲戦法も、
「俺がとるべき対策は頭への攻撃を防ぎつつ、その間に1匹を倒すこと」
ならば火力の高い野太刀は攻撃用に構えておき、短い木の棒3本で頭上からの奇襲を防ぎ、長い木の棒1本で最初の奇襲を誘う。
短い棒は適当に探していたら見つかったので使うことにした。野太刀についても3本の腕で持っていた時と比べて重いので安定しないが、上段から振り下ろすだけなら問題ない。
3度目の正直。今度こそ討伐を目指す。
場所は前回前々回で最初の奇襲があった例の廊下。長い棒で床を押してやると目論見通りに戸襖を破って人手クモが出てきた。
「よっしゃ!今度はこうだ!」
例によって奴は木の棒に飛びかかる。そして、俺は木の棒を横に振り払ってやった。
すると、目論見通りに脚をはらう形になり、奴のバランスが崩れる。同時に、天井から奇襲され、頭上に掲げた棒にかかる重さが増える。しかし、俺の頭を攻撃できないようでしばらくもがいていた。
そして、構えていた野太刀を力一杯振り下ろす。
「よし、第一関門突破!」
野太刀は奴の右手の人差し指から薬指までの3本を破壊した。
脚の1本や2本なら歩行に影響はあまりない。しかし、片側だけ3本となると簡単には移動できなくなる。逃げられたら詰みなら、逃げられないように脚を奪う。
しかし、未だ問題もある。
「次はお前だ!」
頭上でもがいている人手クモだ。短い棒で頭が齧られるのを防ぎつつうまく動けないように殴っているが、正直言ってダメージには期待できない。
「だからぶっ飛ばして分断する」
俺は長い棒で頭上の個体を後ろへ飛ばす。そうすれば機動力の落ちた個体とまだまだ元気な個体の間に俺がいることになる。
「第二関門突破!」
あとは動けなくなった方の人手クモをタコ殴りにする。残念ながらもう1体については何も思いつかなかったので逃げられたならそれでおしまい、仕掛けてくるなら返り討ちだ。
背中の目で後ろを警戒しながら野太刀を振り回す。脚の欠けたクモにジャンプや壁登りは難しい。だから、横にはらうようにして振り回す。こうすれば逃げ場は後ろに下がるだけ。ならば、避けられないように前に踏み込めば良い!
「オラァッ!」
野太刀が奴に当たりさらに2本の脚が欠ける。もう奴は逃げられない。完全に追い詰めた。その時、背中の目に俺へ飛びかかってくる人手クモの姿が映る。
「尻尾を忘れてないか?」
腕が6本あっても背後からの襲撃に対応するのは流石に無理だ。しかし、外骨格を纏う尻尾は足技よりも強い破壊力を生み出すのだ。
頭を噛み砕こうと床から跳んだ人手クモはこの攻撃をかわせない。尻尾は無防備な人手クモに直撃した。クリティカル判定でも出たのかぐったりしている。
「これで、詰みじゃああああ!」
後ろの奴は放っておいて正面の人手クモを野太刀でタコ殴りにする。脚が欠けて動きも鈍い相手などただの的である。
「これがッ、さっきのッ、うらーーってあれ?」
タコ殴りにしていたら2回殴っただけで死んでしまった。
「中途半端で消化不良だな」
ダウンしている方の人手クモも3回殴ればこちらも死んでしまった。
「なんか微妙だけど、討伐成功!」
リベンジ兼初討伐に喜んでいると人手クモの死体に変化が起きる。体がボロボロになっていき、糸も形を失い始める。死体が分解される動画を何百倍もの速度で見ているような崩れ方をして口の部分(タコトンビ)が残った。
「こうして見ると結構でかいな」
大きさは25cm程度。人の頭ぐらいならすっぽりと覆える大きさである。これに噛みつかれたら確かに即死だろうと思わせる凶悪さがあった。
「一回セーフエリア帰りますか」
一連の流れで確信したのは、このダンジョンが初見殺しまみれだということ。変なものに巻き込まれる前にサッサと撤退するに限る。
ーーーーー
俺はタコトンビ2つをセーフエリアへ持ち帰った。道中でモンスターとエンカウントしなかったので早めに帰って来れた。俺は鑑定のルーペを取り出す。
「それでは、鑑定」
△△△△△
人手クモのタコトンビ
レベル:1
耐久度:100/100
干渉力:100
浸食率:100/100
異形度:5
人手クモの大きな口。
周囲の呪詛を利用して、様々な糸を作り吐き出すことができる。
▽▽▽▽▽
「口から糸を作る、か」
通常のクモは尻にある糸壺という臓器で糸を作っている。そして、作った糸を後ろ脚で操り巣を作るのだ。
「呪詛か…糸欲しいのにこれが分からないとどうしようもないよな」
呪詛が何か分からないので、呪詛を感じられないかといろいろ試したが何も変わらない。しばらく悩んでいると作業台が目に入った。
「作業台…いや、呪怨台か」
アイテムの作成と、アイテム化を行う装置。そして、それに必要なのが呪詛を用いて呪うということ。
「つまり、詠唱と儀式場が必要ということか」
ゲームではあるので厳格な作法などはなさそうだが、このCNPに限ってはそのあたりのこだわりを練れば練るほどしっかりと反映してくれる気がする。先に儀式場を作ることから始めよう。
「神聖な儀式じゃなくて呪いを集める儀式だからな。工夫しないと」
まずは呪怨台を部屋の中央へ動かす。儀式場において集まった力は中央に集中するからだ。集まった力を呪怨台へ注ぎ込むには呪怨台も中央にあったほうが都合がいいだろう。
「次は…結界か?」
結界と言ってもゲームのような壁ではなくて、儀式の範囲を示す境界のことだ。神棚のように、ただの棚であってもそこを神様の座す神聖な場所であるという結界を作ることで、神様に留まってもらうのだ。
「何かないか探してみるか」
廊下やセーフエリアを捜索し使えそうなものを集める。
「しばらく漁ってみて、集まったものがこちらになります」
欄間やその破片多数、戸襖、お供物用の皿(割れてるものがほとんど)、いくつかの燭台と花瓶と経典。それから、割れた木魚、空の香炉、未使用の卒塔婆、巻物が一つずつ。
「これ使って儀式するとか罰当たり以外の何者でもないな」
とりあえず今あるもので何かそれっぽいものを作るしかない。
「まずは戸襖を敷いてみるか」
戸襖は大量にあったため、比較的状態のいいものを回収していた。これを畳のように並べて、それっぽい
「あとは…四隅に目印を置くとそれが境界を示すはず」
聞き齧っただけなので事実かどうかは不明だがとりあえずやってみる。お供物用の皿があるのでそれらを部屋の四隅と、戸襖で作った
「呪怨台はどうしようか」
この儀式における中心的な役割を担うのが呪怨台である。呪怨台の奥側の隅に燭台をひとつずつおき、手前側に花瓶を置く。ついでに経典の一つを捧げもののように置いてみた。意味を考えるのが面倒くさくて、殺風景よりは飾りがあったほうがいいだろうと思ってのせてみたが、結構それっぽい雰囲気が出ている。
そして色々探し回った結果、気づいたことが一つ。
「この部屋の扉だけ、両開き戸なんだよな。しかも内側に開くタイプ」
両開き戸とは要は観音開きの扉のこと。本殿など神聖な場所の扉はこのタイプのイメージがあるだろう。それらの扉は普段は固く閉められているため想像し難いかもしれないが、この扉は外開きが一般的である。
内開きのタイプが滅多に無いわけではないが、この部屋を見た場合、その理由もよく分かるだろう。
「閂を差し込むための金具が壁にも扉にもついてるじゃんか。しかも3組も」
もっと早く気づいとけよ、俺。メチャクチャ分かりやすいじゃん。
それはともかく、内開きで閂を3つ差し込める扉で想像できるのは、城門だ。
城門で使われる扉は内開きだ。なぜなら、外開きでは蝶番が外側になり敵に壊されてしまうからだ。その上で複数の閂を差し込むことで無理やり破壊されるのを防ぐのだ。
この扉にはそれと似たような造りが見られる。これ以外にもいくつか根拠はある。例えば、扉の重さだ。
「今更だけど、このアバターかなり力が強いんだよな」
今まで気づかなかった。このアバター、角材片手で振り回したり、両手とはいえ鞘付きの野太刀を軽々と振り回していた。その上、軽いとはいえ欄間や戸襖を何枚も抱えて移動していた。
現実世界と比べて、明らかに筋力が増している。
このせいで、セーフエリアの両開き戸がかなり重いことに気づかなかったのだ。これは内臓強化が筋肉にも作用していると考えればいいのか?こんなメリットしかない人外要素の実装を運営が許すだろうか…。
感触的にはおそらく鉄。この厚さと固さならマシンガンやライフル弾も弾き返せるはずだ。
おそらくだが、この部屋はなんらかの理由で襲撃された際に、立て篭もるためのシェルターだったのだろう。
「つまり、外から中へ入られるのを拒む役割をしていたわけだ」
俺は、儀式中、この扉を開けたままにする。何かの侵入を拒むための扉を開けるということは、何かを招き入れる意思があるということだ。当然、その何かとは神聖なモノではなく呪や悪霊だ。
「…まあ、そう解釈できるよね程度の話だけど」
これで儀式場は完成。次は詠唱を考える。般若心経…は流石に覚えていないので無理。そもそも般若心経は神聖や呪いというよりは悟りと心得に近いもの。せっかく集めた呪いも霧散してしまいそうなのでだめだ。
「何も思いつかないし、適当でいいか」
呪怨台の前に胡坐で座り、3対の腕で手の甲と甲を合わせて裏拍手を組む。普通は相手を呪う意味を持ったマナーの悪い行いだが、この場面ではこれほどふさわしいものもあるまい。
そして、呪怨台越しに観音開きの扉を見据える。位置関係としてはこんな感じだ。
ーーーーー
前
↑
《扉》
《呪怨台》
俺
《祭 壇》
↓
後
ーーーーー
今から俺は、呪怨台の上のタコトンビへ、呪いをかける。
ちなみに、こういう詠唱、大好物です。
「かしこみ。かしこみ。苟も"呪限無の落とし児"がイナミがここに、【人手クモのタコトンビ】へ呪いをかける」
まずは自分の行動を明確化する。
「我は糸の可能性を探るもの」
目的もしっかりと述べていく。
「其は糸の多様性を示すもの」
次にどんなアイテムが欲しいのかを明示する。
「礎に糸を紡ぎしもの」
ここでベースを【人手クモのタコトンビ】とすることを宣言する。
そして、靄のような霧のような、呪詛が呪怨台へ集まっているのが見えた。同時に、扉の外から重苦しい呪詛が流れ込んでくる。
どうやら、招かれざる客のご来訪らしい。
しかも、メチャクチャ格上の。
本能で命の危機を感じるが、ここで儀式を中断した方が危険だ。
「ッ!かしこみ。かしこみ。静まり給え」
相手の機嫌を損ねたら即gameoverになりそうな重圧の中語りかける。…なんとなくではあるが相手がこちらに意識を向けたのが分かる。
「我は糸を紡ぎしものの未知を明かすもの」
相手がハエを追いはらうかのように俺を殺そうとしているのが感じられる。
このままじゃまずい!
「!我は生命の進化と退化を探るもの。我は生命の適応を目指すもの」
いやこれじゃあ俺の趣味と研究内容言ってるだけじゃん。なに自己紹介してんの?!
しかし、これが相手の何かに触れたのか、呪詛を呪怨台へ流して去っていった。
それと同時にアイテム化が完了する。
「………何だったんだ今の」
本当に生きた心地がしなかった。
とりあえず二度と似たような儀式はしないことを誓うことにした。(以降、この誓いが守られることはほとんどない)
ちなみにできたアイテムは以下の通り。
とりあえず今日は疲れたからもう休もう。俺はログアウトした。
△△△△△
人手クモの糸見本帳
レベル:1
耐久度:∞/∞
干渉力:100
浸食率:100/100
異形度:1
人手クモのタコトンビと巻物をベースに作られた見本帳。人手クモの紡ぐ糸の
見本帳を開くことで様々な性質と特徴を持つ糸がわずかに作成される。しかし、これによって紡がれた糸を素材にすることはできない。
▽▽▽▽▽
※儀式に関しては適当です。それっぽいもの書いているだけですのでソースを探すのは時間の無駄です。
※イナミが呪怨台を移動させていますが、原作的にこれは可能なんでしょうか?明記されていなかった思うので自由に動かせる設定にしていますが、原作と矛盾するようなら修正するつもりです。