ブルーアーカイブ 透き通る青春よ永遠なれ   作:Jon.Do

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初めまして。久しぶりの創作、初めての投稿となります。稚拙な文章だとは思いますがお手柔らかにお願いします。


序章 甘党侍見参
第零話 鈍色の目覚め


── なぜ俺は電車に揺られているのだろうか。

 何も思い出せないのは、疲れているからだろうか。ひどく、疲れて。

 頭の中の思考がどうしてもまとまりゃしねえ。

 自らの名前さえも思い出せなくなっているなんて、我ながら笑っちまう。

 ……まあ、それほどまでに俺は頑張った、ということだろう。どこか自嘲気味に笑う自らの声さえも、どうしてか聞こえもしなかった。

 

 ガタゴトと規則正しい電車の振動だけが、重く沈んだ意識の輪郭を微かに、けれど確かに揺り動かしている。おかげで、かろうじて俺自身を保てている気がした。

 そこは、どこまでも白く、近未来的な、けれど現実味のない電車の車内だった。

 窓の外を見やるが、そこには景色と呼べるものは何ひとつ存在しない。

 ただ、乳白色の、あるいは淡い青を帯びた虚無の光がゆっくりと流れているだけだ。ここがどこに向かう電車なのかは分からない。

 見覚えがあるとすれば、昔、某有名アニメ会社が公開した映画の中で、主人公の少女が物語の終盤に奇妙な仲間達と乗っていたアレ、というべきか。

 

 ……なんでこんなくだらねえ記憶だけは残ってんだろ、俺。そのくらいに、俺自身の輪郭は曖昧だった。

 手足の感覚はある。

 だが、それはまるで分厚い水の中に沈められているかのように鈍く、頼りない。

 自分がどのような衣服を纏い、どのような容姿をしているのか、それすらも記憶の底の霧に隠れて見えなかった。

 ただ、胸の奥底に、焼け付くような、それでいてどこか冷めきった「重み」だけが残っている。

 それはきっと、かつて俺が何かを護るために、あるいは何かを失うために、泥をすすりながら積み上げてきたものなのだろう。

 

 それは自分の中で、最も曖昧なものの中心に深く突き刺さっており、この記憶の喪失という名の白い闇の中でも、消えずにそこへ居座り続けていた。

 

 ふと視線を上げれば、そこには一人の少女が座っていた。

 

 通路を挟んだ対面のシート。彼女は、透き通るような水色の髪を優雅に伸ばし、純白の軍服を思わせる整った装いに身を包んでいた。

 その佇まいは凛としており、街を歩けば誰もが別嬪と称えて振り返るであろうほどの、非現実的な美しさ。

 だが、その純白の布地には、生々しい紅がじわりじわりと広がっている。

 

 彼女は、まるで致命的な破滅を間近で見てきたかのような、哀愁と諦念をその瞳に宿していた。

 

 しかし、その奥底には、決して消えることのない微かな、本当に微かな希望の残り火が、静かに揺らめいている。

 彼女の手元には、ひとつのタブレット端末が握られていた。ガラスの板のようなその端末は、奇妙な淡い光を放ちながら、彼女の指先で静かに眠っている。

 

 少女はその画面を操作することもなく、ただ、自らの正面に座る俺という不確かな存在を、まっすぐに見つめていた。

 いや、彼女が見つめていたのは、俺の顔だけではなかった。少女の視線はゆっくりと下がり、俺の座席の足元へと向けられる。

 

 そこには、一本の木刀が転がっていた。

 

 お世辞にも洗練されているとは言えない、使い倒されてところどころが小さくささくれた、古びた木刀。どこかカレーの臭いが染み付いているような、そんな生活感と、戦い抜いてきた歴史が混ざり合った妙な代物だ。その柄には『洞爺湖』という三文字が刻まれていた。

 中坊になったばかりのガキンチョが、修学旅行のノリと勢いで買っていそうな代物が、なぜここにあるのか。

 なぜ、俺はそれを見て、胸の奥の何かが激しく拍動するのを感じているのか。何も分からない。分からないはずなのに、どくん、と血液が巡る。

 少女は小さく息を吸い、そして、静かに唇を開いた。

 

「私は選択を誤りました」

 

 彼女の声は、鈴を転がすように清らかで、けれど耐え難いほどの重圧と後悔を孕んで、車内に響き渡った。

 俺は何も答えることができない。声を出そうとしても、喉の筋肉が意味のある言葉を結ばないのだ。

 ただ、冷たい電車の走行音だけが、彼女の告白の合間を埋めるように鳴り響いている。

 

「この街を、子供たちを、私の独善で縛ろうとして……すべてを壊してしまった。

システムによる完璧な管理、予測された幸福、それらこそが彼女たちを守る唯一の手段だと信じて疑わなかった。

ですが、それは間違いだったのです。

私の手元に残ったのは、崩壊の足音と、取り返しのつかない傷跡だけでした」

 

 少女は自嘲の笑みを浮かべることもなく、ただ淡々と、己の罪を数え上げるように言葉を重ねていく。

 

「だから、私はここで退場します。

この席に座り続ける資格は、もう私にはありません。

ですが、私の身勝手な失敗のツケを、あの子たちに支払わせるわけにはいかないのです。

この歪んでしまった因果の先に……崩壊へと向かうこの世界の境界線に、どうしても彼女たちの『盾』となってくれる大人が必要なのです」

 

 少女は一度言葉を区切り、ふっと愛おしそうに、 影を落とすように切なげに目を細めた。

 彼女のその視線が、俺の胸の奥底へと突き刺さる。彼女が語りかける言葉は、今はまだ記憶の引き出しすら失った、空っぽな虚無の奥深くへと、優しく、けれど確実に浸透していった。

 眠っていた魂の細胞が、その言葉の熱によって、ひとつずつ目を覚ましていく。

 

「あなたはだらしなくて、どこまでも不器用で、デリカシーがなくて……」

 

(……ちょっと待って。なんで俺、初対面の女の子にここまでボロクソに言われなきゃなんねーの? え、俺なんかこの子に憎まれるようなことしたっけ!?)

 

 少女の罵詈雑言の羅列に、びきき、と額に血流が巡るのを感じる。けれど、それと共に脳裏に溢れ出してきたのは──鼻をほじりながらぐうたらと寝そべり、漫画雑誌をだらだらと眺めている光景。

 家賃を滞納していることを大家のババアに怒鳴られたり、暇さえあればパチンコ屋の列に並んだり。

 そんな自堕落な生活を送る自分に呆れ顔を向ける、人間をかけた本体メガネや、色気の一つも感じねえチャイナ服の娘、やたらとデカくてモフモフとした犬……そんな、すぐ傍にあった愛おしい日常の光景。

 だが、その残像のすぐ裏側には、血飛沫の舞う戦場で、大切なものを守るために文字通り鬼となって刀を振るう、凄惨な過去の記憶がへばりついていた。

 

「時にはすべてを失いかけてしまうような、深い暗闇の中に突き落とされながらも、あなたは決して、自分の芯にある魂を曲げなかった。

だからこそ……自分の傷がどれほど深く、肉体がどれほどボロボロに崩れかけていようとも、傷ついた人たちの手を決して放さない。

私は知っています。あなたの歪で、けれどあまりにも誇り高い軌跡を」

 

 少女は座席からゆっくりと立ち上がった。電車の床を叩く彼女の靴の音が、なぜかひどく厳かに聞こえる。

 彼女は俺の足元へと歩み寄ると、静かに膝を折り、そこに転がっていた一本の木刀を両手で拾い上げた。

 ささくれ立ち、泥を被ったその木刀を、彼女はまるでこの世で最も尊い宝物であるかのように恭しく扱い、俺の前へと差し出してきた。

 

「心配はありません。あなたにとっては、周囲の人々が持っていた刀が、銃に置き換わっただけ。

街を跋扈する侍や異星人が、ヘイロー……天使の輪を頭上に浮かべた少女たちに変わっただけです。

しかし、彼女たちが持っている銃によって、飛び交う銃弾によって、あなたは何度も血を流し、何度も死の淵を彷徨うことになるかもしれない。……それでも、私はあなたにお願いしたいのです」

 

 少女の手から、俺の頼りない手へと木刀が渡される。その固く、冷たい木肌が俺の掌に触れた瞬間、バチバチ……っと電撃のような熱い衝撃が全身の神経を駆け巡った。

 それまで霞むようだった記憶が、一気に澄み渡り、鮮明になってゆく。木刀を俺に渡した少女はゆっくりと立ち上がり、もう一度俺の目を見つめた。

 その瞳には、これから始まる残酷な運命への覚悟と──俺はこの少女を知らないはずなのに、彼女の眼差しには絶対的な、狂おしいほどの信頼が宿っていた。

 少女の纏う純白の軍服から、血の匂いと、それに相反するような温かい光が溢れ出し、車内を少しずつ満たしていく。

 

「私は、あなたにこの世界の運命を、子供たちの未来を託します。

彼女たちが迷い、泣き、世界という理不尽に押しつぶされそうになった時、どうかその鈍く輝く魂で、彼女たちの明日を繋ぎ止めてください。かつてあなたが、自らのすべてを賭けて、大切な仲間たちの未来を繋ぎ止めたように」

 

 窓の外の乳白色の光が、突故として爆発的な輝きを放ち始めた。

 電車の壁が、床が、天井が、その圧倒的な光の奔流によって境界を失い、透き通るように融解していく。

 少女の身体もまた、その白い光の中にゆっくりと溶け、消え去ろうとしていた。

 

 そんな彼女へと手を伸ばすが、空間が歪むようにして、その手は届かない。

 

 世界が激しく崩壊し、新たな因果の枠組みへと再構築されようとするその瀬戸際。

 彼女は最後に、自らの全存在と全知性を懸けたメッセージを、目覚めゆく俺の魂の核へと、深く、深く撃ち込んだ。

 

「ようこそ、学園都市キヴォトスへ。……私たちの、愛おしい……」

 

「坂田銀時先生」




多分これで投稿できている、のでしょうか。

此方の物語はジェミニたんに度々銀魂×ブルーアーカイブの物語を出力させていたのがなかなか上手くいかず。もう自分で作り逆にジェミニたんに校正させようと思い綴ったものとなります。

投稿は不定期ですが、この物語を愛してくれる方々と出会えれば幸いです。

これからどうぞよろしくお願いします。
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