ブルーアーカイブ 透き通る青春よ永遠なれ   作:Jon.Do

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初めて食べた煮干し山岡家の極濃煮干しラーメンが美味しかったので初投稿です

ちなみにアビドス編の書き溜め終わってます。安心してください。


第十話 カタメコイメオオメニンニクライブ感

「……げっ」

 

「あ、ツンデレ猫娘」

 

 あの放課後、教室を飛び出してから数日。セリカはあれ以来、一度も学校に顔を出していなかった。

 猫耳と尻尾の毛をこれでもかと逆立て、威嚇する野良猫のように飛び跳ねて距離を取るセリカ。そんな彼女の警戒ぶりを、銀時は特に気にする様子もなく、いつもの死んだ魚の目をしながらポリポリと耳の裏を掻いた。

 

「おいおい。あんだけ『大人の助けなんか要らない!』だの何だの啖跨切って飛び出しといてさ。学校にも通わずにこんな真昼間から街中をうろついてるたあ、いい度胸してんじゃねーの。何? ついにグレて不登校ですか。先生悲しいわー」

 

「はあ!? アンタに心配される筋合いなんてないわよ! 他人のアンタには関係ないんだから、放っておいて!」

 

 ふんっ、と顔を背けて早足で立ち去ろうとするセリカ。憐れまれたくない、同情されたくないという頑ななバリアが、彼女の全身からトゲのように突き出ている。

 しかし、銀時はその行く手を遮るようにひょいと回り込むと、懐からおもむろに一本の紙パックを取り出してセリカの目の前に突きつけた。

 

「はいはい、カルシウム足りてねーからこれでも飲んで落ち着きなさい。イライラしてっと、ただでさえ吊り上がってるそのお目々がもっと固定されちゃうよ? ほら、いちごオレ。二口ほど飲みかけだけど」

 

「いらんわ! なんで他人の飲みかけの、しかも激甘な汁を飲まなきゃいけないのよ! 衛生観念どうなってんのよアンタの脳みそは!?」

 

「あァ? ……あー、なるほどな。間接キスとか気にしてんの? 安心しろよ、俺ぁお前さんみたいな発育途上のガキ相手なら全然気にしねーから」

 

「私が気にするのよ!? ホンット最低!! 汚い!! どきなさいよ変態白髪!!」

 

 顔を真っ赤にして叫んだセリカは、銀時の脇をすり抜けてズカズカと怒り肩のまま走り去っていった。銀時はその小さくなっていく背中をなんとなく眺めつつ、手元のパックにストローを戻して、ずずず……と残りのイチゴ牛乳を虚無の表情で啜る。

 

「ったく、これだから思春期の娘ってなぁ……。あ、アヤネちゃん? 聞こえる? 例の件、ちょっとハエが飛んだから仕切り直しね」

 

 耳に仕込んだ通信機にそう呟き、銀時は着物の懐に空のパックを押し込んだ。

 

 それから少しして。

 

 本日、万事屋キヴォトス支店とアビドス対策委員会が合同で引き受けた案件──街中に住む猫頭の老婆が逃がしてしまったという、一匹の飼い猫とのチェイスが佳境を迎えていた。

 相手はただの猫と侮るなかれ、アビドスの路地裏を縦横無尽に駆け回る、とんでもなく敏捷な韋駄天猫である。だが、こちらの情報網も伊達ではなかった。

 銀時はアヤネに指示を出し、上空のドローンからリアルタイムで猫の居場所を常にマーキングさせていた。

 

『先生、ターゲットは左の路地へ曲がりました! その先は行き止まりです!』

 

「了解、おし。ノノミ、ホシノ、作戦通りそっちの退路を塞げ。俺は正面からプレッシャーかけるから」

 

 銀時がそう無線で飛ばすと、ノノミが「はーい☆」と緊張感のない声を返し、ホシノも「うへ〜、おじさんもう足がパンパンだよ〜」とぼやきながらも、確実に猫の逃走ルートの選択肢を奪っていく。

 じわじわと、だが確実に四方から逃走路を狭めていき、猫が完全に退路を失って壁際に追い詰められたその瞬間。

 

「シロコ、今だ! 獲っちまえ!!」

 

 銀時の合図とともに、上空の遮蔽物から音もなく飛び降りた、一際素早いシロコが影のように動く。空中で見事な身のこなしを見せ、逃げようとした猫の身体をガシッと両手で確保するところまで、作戦は完璧に決まった。

 

「ん、やっぱり先生、指揮が上手い。無駄がない」

 

 シロコは腕の中でまだ少しバタついている黒猫を器用にホールドしながら、淡々とした、けれど確かな信頼の混じった声でそう言った。

 

「はい☆ 私たちだけで同じような依頼を引き受けた時も、同じように動いてはいたんですけど……なかなかこうやって、パズルのピースがハマるみたいに上手くは決まらなかったです!」

 

 ノノミがパタパタと嬉しそうに手を叩くと銀時はポリポリ、と頭を掻いて愚痴を溢す。

 

「なあに、お前らが俺の言うことをちゃんと聞いて、真面目に作戦通り動いてくれてるからだよ。前にいたとこの奴らなんてさぁ、全然言うこと聞かねえんだもん、あのチャイナ娘とメガネ。頼むから一回くらい大人の言うこと聞けよって何度涙で枕を濡らしたか」

 

 やれやれと首を振りながら、銀時は大きく欠伸を一つ噛み殺した。

 そしてシロコが抱く、まだ警戒心を剥き出しにしてシャーシャーと威嚇している黒猫へと視線を落とす。銀時はその鼻先にひょいと自らの指先を差し出し、まずはくんくんと自分の匂いを嗅がせた。人間の加齢臭ではなく、どこかいちごオレの甘い匂いが混じった指先に猫が毒気を抜かれた瞬間を見計らい、慣れた手つきでその顎の下を優しく撫で回す。

 

「ふにゃ〜……」

 

 さっきまでの凶暴さが嘘のように、黒猫は一瞬で目を細めて銀時の指に頭を擦り付け始めた。それを見ていたホシノが小さく笑う。

 

「うへ〜、この猫ちゃん、おじさんから見るとどこかセリカちゃんにそっくりだね〜。警戒心の強いところとか、耳の形とかさ」

 

「そうかあ? アイツは会うたびに毛逆立てて『変態白髪!』だの何だのずっとツンケンしてんじゃん。この猫サマみてえに、チョロくゴロニャンしてるところとか、おじさん逆立ちしても想像できねーんだけど。あのツンデレ猫耳にこの素直さを爪の垢ほどでも分けてやりたいわ、ホント」

 

 銀時がさらに熱心に顎の下をコジコジと掻いてやると、黒猫はゴロゴロと喉を鳴らしてすっかり懐いてしまい、それを見た一同の間に、和やかな笑い声が広がった。

 

 ──────────

 

「お婆さん、喜んでましたね」

 

「それだけあの猫ちゃんが大切だったんですね、見つかって本当によかったです☆」

 

「うへ〜、けどもうおじさんはくたくただよ〜……猫の身のこなしを舐めてた。明日から一週間は寝込みたいレベル……」

 

 ノノミが楽しそうに微笑む傍らで、ホシノがぐったりとしながら盛大にぼやいた。

 無事に黒猫をお婆さんの家に送り届け、深々と頭を下げられながら、包まれた謝礼を受け取った帰り道。五人で肩を並べてアビドスの静かな夕暮れの道を歩きながら、そう語り合う。

 

「あー……そーいや俺たち、昼飯も食わずにあの毛玉とチェイスしてたから腹減ったな……。俺もう胃袋が背中と癒着して一本の皮紐みたいになってんだけど。どっか安くていいメシ食える店ねーの? 」

 

 銀時が腹をさすりながら尋ねると、隣を歩いていたシロコが、コクンと短く頷いた。

 

「ん、この辺だと『柴関ラーメン』がすぐ近くにある。歩いて三分」

 

「あー、前にお前が美味い美味いって熱弁してたあそこか。なぜかセリカの奴だけは頑なに拒否ってたけど。そんなうめーのそこ?」

 

「ん。サイクリングで死ぬほど汗をかいた後に食べると、身体に染み渡る。すごく美味しい」

 

「ふうん、じゃあ今夜のディナーはそこにすっかね。あの婆さんも、思ってたより奮発して余分に足を出した金をくれたんだし。万事屋アビドス出張所の初任給、全部ラーメンにぶち込んで腹一杯になろうや」

 

 懐の財布をポンと叩き、銀時はいつもの死んだ魚の目を少しだけ輝かせながら、シロコの案内する方向へと歩調を速めた。

 

 ──────────

 

「いらっしゃいませ! 何名さ……え"」

 

 ガラガラと引き戸を開けて入ってきた先頭の男を見た瞬間、看板娘のいらっしゃいませ精神は綺麗に吹き飛んだ。セリカは注文票を握りしめたまま、本日二度目のフリーズを起こす。

 

「おー。お疲れさん。結構繁盛してんじゃねーか。因みに5名でよろしくー」

 

 銀時はそんなセリカの反応を意に介さず、いつも通りの気怠げな様子で手を挙げた。

 

「うへ〜、やっぱセリカちゃん、ここで働いてたんだねー。おじさんの勘、大当たり」

 

「店員さんの服、すっごく似合ってます☆」

 

「確かに、すっごく可愛いです! アビドスの制服とはまた違った良さがありますね!」

 

「ん、看板娘感がある。毎日通いたい」

 

 ホシノがニヤニヤと笑い、ノノミとアヤネが目を輝かせ、シロコが淡々とサムズアップする。

 そうして泡を食っているセリカを他所に、お腹を空かせた面々はぞろぞろと奥のテーブル席へと向かって歩き出してしまった。セリカは慌ててその背中を追いかけ、声を潜めながら振り返った。

 

「な、なんでここに来たのよ!? というか、なんでアンタたち全員揃ってんのよ!?」

 

「なんでって、腹減ったらメシ食いに行くのなんて当たり前でしょーよ。今日は対策委員会と万事屋との共同作戦が大成功を収めたからな、その打ち上げってヤツだよ」

 

「だからって、なんでよりによって私のバイト先に……! そもそも学校は……!」

 

 セリカが顔を真っ赤にして今にも爆発しそうになったその時、厨房の奥からがっしりとした体格の柴犬の店主が顔を覗かせた。

 

「おう、アビドスの生徒達か。いつもシロコがお世話になってるな。セリカ、お喋りはそこまでにしてさっさと注文受けな。お客さんをお待たせするんじゃないよ」

 

「う、うー……! わかりました、広い席にご案内します……!」

 

 店長に釘を刺されては、セリカもそれ以上言葉を返せない。奥歯を噛み締め、キッと銀時を睨みつけながらも、大人しく一行をテーブル席へと導くのだった。

 

「では先生は私の隣の席にどうぞー☆」

 

 ノノミが楽しそうに自分の隣のシートをポンポンと叩き、銀時を促す。

 

「……ん、じゃあ私はこっち」

 

 すかさずシロコが、空いている銀時のもう片方の隣をがっちりとキープした。

 

「おいおい、よりによって俺をサンドイッチかよ……。ただでさえ男一人で居心地悪ぃってのに、左右からJKのプレッシャーかけんなって。トイレ行きてえ時にすぐに行けねえじゃねえかコレ」

 

 銀時は左右の華やかな圧力に肩をすくめながら、窮屈そうに座席に腰を下ろす。

 

「ちょっと! 一応五人席なんだから! 奥側の席に先生を座らせて、シロコたちが手前に座ればいいじゃない! 何やってんのよ、狭苦しい!」

 

 お冷の入ったコップをテーブルにドン、と置きながら、セリカが顔を真っ赤にして小言をぶつける。そんな彼女のツンツンした態度を、ホシノは頬杖をつきながらのんびりと眺めていた。

 

「うへ〜、それにしてもセリカちゃん、そのラーメン屋さんのユニフォーム、本当によく似合ってるねー。もしかしてユニフォームの可愛さでバイトを決めるタイプ?」

 

「な、何言ってるのよホシノ先輩!? そんなわけないでしょ! ここは、その……時給がすごく良くて、家からも近かったから……!」

 

 からかわれたセリカは、猫耳をピクピクと動かしながら必死に弁明する。しかし、その必死な様子が余計に彼女の「隠れて頑張る健気さ」を際立たせており、アヤネは微笑ましそうにメニュー表を開いた。

 

「じゃあ私は……味噌でお願いします」

 

「ん、私は塩。ネギ多め」

 

「私はチャーシュー麺で☆ あ、大盛りでもいいですか?」

 

「おじさんは特味噌の炙りチャーシュートッピングねー。スープはちょっと薄めでお願い」

 

 アビドスの面々が次々と注文を口にする中、最後にメニュー表を眺めていた銀時が、ふん反り返りながらセリカに注文を突きつけた。

 

「んじゃ俺は……豚骨味噌にすっかね。海苔トッピングの、あ、当然ライス付きで。大盛りね、大盛り」

 

「はいはい、もー……どんだけ食べるのよ。太っても知らないからね」

 

 セリカは呆れたようにペンを走らせ、顔を少し赤くしたまま注文票をひったくるようにして厨房へと引っ込んでいった。

 

 それからしばらくして、湯気を立てる大きな丼がテーブルへと運ばれてきた。

 1日中歩き回り探し回り、走り回った身体に、濃厚なスープの香りがガツンと鼻腔をくすぐる。一同、一斉に箸を割り、スープを啜り、麺を口へと運んだ。

 

「……ん、結構うめえなここ。スープも麺も完璧。江戸の屋台で出しても行列作れるレベルだわコレ」

 

 銀時がズズズと勢いよく麺を吸い上げ、満足げに声を漏らす。

 

「ふん、麺は自家製の手打ち。メインのスープは創業以来の継ぎ足しだからな。それがウチのこだわりだ」

 

 いつの間にかテーブルの脇に立っていた柴犬の店長が、誇らしげに腕組みをしながら、その渋い声を響かせた。

 

「コレはおまけだ。いつもウチのセリカが世話になってるからな」

 

 と、人数分の味が染み込んだ煮卵を皿に乗せて差し出してくれる。

 

「うわぁ、ありがとうございます!」と喜ぶノノミたちを横目に、店長は新しく入ってきた客の注文を取るために一度背を向けた。だが、伝票を片手にふと足を止め、振り返ることなく、少しだけ声を落として銀時に語りかけてきた。

 

「……アンタ、セリカの先生だろ。キヴォトスの外から来たっていう」

 

「まあな。アイツ、いささか素直じゃねーのが玉にキズだが、根はいい奴だよ」

 

 銀時がチャーシューを米の上に乗せながら答えると、柴犬の店長はわずかに耳を伏せ、優しく目を細めた。

 

「だろーな。あの子は、アビドスを救うためならどんな泥水だってすする覚悟で働いてる。……アイツのこと、これからも見守ってやってくれ。学校の仲間であるアンタらもな」

 

 その言葉に、シロコは「ん、当然」と短く頷き、ノノミやアヤネ、ホシノもそれぞれの表情で優しく微笑みながら首を縦に振った。

 銀時は、手元のラーメンのスープを最後に一文字に啜り、ふぅと息を吐き出すと、箸を置いていつもの死んだ魚の目を店長の背中に向けた。

 

「……ま、できる限りのことはするさ。なんの因果か知らねえが、一応、コイツらの『先生』なんて大層な看板背負わされちまったんだからよ」

 

 だらしなく笑う銀時の言葉に、店長は満足したように一つ小さく鼻を鳴らし、今度こそ「いらっしゃい!」と威勢のいい声を上げて次の客の元へと歩いていった。

 

 ──────────

 

「ふぅ、食った食った……。もう何も入らねえわ。動いたら口から麺が出そう」

 

 銀時は大きく膨らんだ腹をボリボリと掻きながら、壁に深く背をもたれかけさせた。

 

「ほーんと、お腹いっぱいになりましたー☆明日の体重測定がちょっと怖いです……」

 

「ん、やっぱりここのラーメンは美味しい。毎日でもいける」

 

 ノノミが幸せそうに微笑み、シロコも名残惜しそうに空になった丼を見つめる。

 そうして一同が満足感の中で一息つき、腹休めをしているところで、アヤネとノノミが周囲を見回して「あれ?」と声を漏らした。さっきまで器を片付けていたセリカの姿が、店内のどこにも見当たらないのだ。

 どうやら、銀時たちと顔を合わせるのが気まずくて、裏の厨房に引きこもってしまったらしい。

 

「ま、そろそろお暇しますかね。このまま居座ってあの猫耳にこれ以上カルシウム削らせるのも寝覚めが悪ぃ」

 

 銀時は懐からお婆さんにもらった謝礼の入った封筒を取り出して、全員分のラーメン代をきっちり支払い、アビドス対策委員会の面々を引き連れて店の外へと出る。

 ガラガラ、と引き戸を開けて夜の冷気に身を晒した直後、バタバタと慌ただしい足音が追いかけてきて、店のドアが勢いよく開いた。

 

「ほら、さっさと帰って! もう二度と来ないでよ!!」

 

 エプロン姿のセリカが、両手を腰に当てて、顔を真っ赤にしながら叫んでいた。

 学校の仲間にも、そしてあの白髪の男にも、自分が必死に隠れてバイトをしている姿を見られたのが、恥ずかしくて、悔しくて堪らないのだろう。

 

「ん、セリカ、また明日」

 

 シロコがいつも通り淡々と手を振ると、セリカは「明日も来ないで!」とさらに声を荒らげ、ふんっ、と激しくツインテールを揺らして背を向け、店の中へと逃げるように戻っていってしまった。

 バタン、と手荒に閉められたドアを見つめながら、ノノミたちは「もう、相変わらず素直じゃないんだから」と苦笑いを浮かべる。

 そんなセリカの後ろ姿に、銀時はいつもの死んだ魚の目を少しだけ細めて、じっと見つめていた。

 必死にツンツンとトゲを尖らせて、大人の助けなんか要らないと突っぱねる、あの頑なな背中。あんな小さな身体で、どれだけの重荷を一人で背負い込もうとしているのか。

 

「……はん、相変わらず可愛げのねー猫耳だこって。ま、あの手のタイプは一回痛い目見ねーと大人の有り難みが分からねーんだわ」

 

 銀時は鼻の頭をポリポリと指で擦ると、いつものだらしない、緊張感のない笑みに戻った。

 

「さて、と。さっさと帰るぞー。これ以上へそ曲げられたらめんどくせーし」

 

 頭の後ろで両手を組み、首をコキコキと鳴らしながら、銀時は月光に照らされたアビドスの帰路へと着くのだった。

 

 ──────────

 

 バイトのシフトが終わり、夜のアビドス自治区に静まり返った街路灯の明かりが灯る頃。

 セリカは一日中動き回った足を引きずるようにして、ぐったりとした様子で一人、家路についていた。

 

「もう……みんな騒がしいったらありゃしないわよ。せっかく隠れてバイトしてたのに、なんで全員揃ってゾロゾロやってくるわけ?」

 

 夜風にツインテールを揺らしながら、セリカは昼間のラーメン屋での光景を思い出してぶつぶつと愚痴をこぼす。

 

「それに、シロコ先輩もアヤネちゃんたちも、みんな先生、先生って……。あんな死んだ魚の目をした怪しい白髪の男のどこがいいのよ。本当にバカみたいなんだから……」

 

 そんな彼女の愚痴が、誰もいないはずの暗い路地裏に虚しく響く。

 だが、セリカはまだ気づいていなかった。彼女が歩く道沿いの建物の陰、月光の届かない闇の中から、カタカタと不気味なプラスチックの擦れる音が執拗に追いかけてきていることに。

 

「……ん?」

 

 セリカがふと違和感を覚え、街灯の極端に少ない、人通りの途絶えた寂しい一本道に入ったその瞬間だった。

 ガシャリ、と前方のアスファルトを蹴る音がして、闇の中から三人の影が躍り出た。トレードマークの無骨なヘルメットに、手にした突撃銃。

 

「……カタカタヘルメット団? まだこの辺りをうろついてたのね」

 

 セリカは即座に愛用の突撃銃を構え、その猫耳をピキィィンと鋭く逆立てた。昼間のイライラも相まって、その瞳には明確な怒りの炎が宿る。

 

「ちょうどよかったわ。ちょうど虫の居所が悪かったところよ! もう二度とこのアビドスの敷地内に足を踏み入れられないように、徹底的に分からせてあげるから……っ!」

 

 セリカが引き金に指をかけようとした、まさにその刹那。

 

 ──カラン。

 

 背後で、小さな小石が転がるような音が鼓膜を叩いた。

 

 タァン!! 

 

「う、あ……っ!?」

 

 無防備な背中に、容赦のない銃撃が突き刺さる。キヴォトスの生徒にとって銃弾は致命傷にはならないとはいえ、不意を突かれた衝撃と激痛に、セリカの身体が大きくよろめいた。

 

(……!? 背後、から……っ!? 包囲されて、た……?)

 

 冷や汗が背中を伝う。振り返ろうとするセリカだったが、敵の罠はそれだけでは終わらなかった。

 

 ズウゥゥゥン!!! 

 

 空気を切り裂くような重低音と共に、夜の静寂を破壊する凄まじい爆音が轟いた。

 ヘルメット団が配置していた大型の対空砲──『FlaK41改』による、容赦のない火力支援の砲撃がセリカの足元を直撃する。

 

「きゃああああああああっ!?」

 

 凄まじい爆風と衝撃波が小さな身体を容赦なく吹き飛ばし、セリカは硬い地面へと叩きつけられた。ヘイローが激しく明滅し、視界が急激に暗転していく。

 

「がはっ……、あ、う、そ……みんな、せ、んせ……」

 

 最後まで銃を握り締めようとしたセリカの手から力が抜け、その意識は深い闇の底へと急速に落ちていった。

 

「──ターゲットの無力化を確認」

 

「速やかに回収しろ。あの白髪の男が来たら面倒だ」

 

「了解。これより離脱する」

 

 煙が立ち込める路地裏で、ヘルメット団の構成員たちは淡々と淡白に事務手続きをこなすように言葉を交わした。

 彼女たちは手際よく、気絶してぴくりとも動かなくなったセリカの身体を乱暴に抱え上げると、夜の闇のさらに奥へと、足音を立てて連れ去っていった。

 あとに残されたのは、セリカが落とした傷だらけの銃と、火薬の焦げ臭い匂いだけだった。




ここまで読んでくださりありがとうございます。

この前受けたテストですがどうにか補習は回避することができました。

それと先日、吉原大炎上4DXを見てきました。やばい、銀さんメロすぎる。

感想や評価などを送っていただけたらとても嬉しいです。
これからもよろしくお願いします。
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