ブルーアーカイブ 透き通る青春よ永遠なれ   作:Jon.Do

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いつものあの曲をテーマにしてるあの子が出てきたので初投稿です。


第十三話 てっててれーてれれててってれー

「……悪かったってマジで。うら若き未成年を夜の水商売に引っ張ろうとした銀さんが全面的に悪かったって。だからそんな、親の仇を見るような目でこっち見んのやめてくんね? 頼むからその安全装置のガチャガチャいう音を耳元で響かせるのやめて?ゴム弾でも痛かったからねマジで」

 

 頭の上にまるでお菓子の家のようにうず高く積み上がったたんこぶと、顔中に痛々しい青あざを作った銀時は、至極御立腹な五人を引き連れて「柴関ラーメン」へとやってきていた。

 乾いた風が吹き抜ける砂漠の街。暖簾をくぐり、カウンター席に並んで腰掛けた五人は、未だにチクチクと鋭い視線の針を銀時に突き刺し、容赦のない嫌味を飛ばし続ける。アヤネの数時間に及ぶ説教を経てもなお、彼女たちの怒りの冷気は一切収まる気配がない。

 

「本当に最低。一瞬でも見直した私がバカだったわ。何が武士道よ、ただの歩く公序良俗違反じゃない。今度変なこと口走ったら、その天パごと頭の皮引っぺがして砂漠のど真ん中に埋めてあげるから」

 

 セリカは完全にそっぽを向いたまま、冷え切った声で吐き捨てた。その隣では、シロコが未だに納得のいかない様子でアサルトライフルをカウンターに置き、静かに銀時を睨みつける。

 

「ん……ドレスを着るのには興味があった。でも、先生以外にお酒を注がせるなら、先生をスクラップにする。他の男の前に立つくらいなら、先生をここで蜂の巣にして、アビドスの砂の底に永久保存した方がいい」

 

「怖いこと言わないでシロコちゃん!? 先生を愛でる方向性がちょっと猟奇的になってるから!!」

 

 銀時がボコボコの顔を引きつらせて取りなそうとするが、さらにその隣からは、いつもなら一番穏やかなはずの少女から、底冷えするような笑顔と威圧感が放たれていた。

 

「もう、先生ったらお茶目が行き過ぎです〜☆ 今度同じことを言ったら、私のミニガンでハチの巣にしちゃいますね〜。あ、でも、蜂の巣じゃ物足りないかもしれないので、ピンク色の可愛いミンチにして、砂漠のサボテンの肥料にしてあげます☆」

 

 ノノミはいつものふわふわとした笑みを絶やさないまま、恐ろしいセリフをさらりと言ってのける。その手元では、すでにアヤネが端末の画面を鋭い手つきでタップしていた。

 

「本当に……本当に信じられません! 教育者としての自覚がなさすぎます! 私は今でもヴァルキューレ警察学校に通報すべきか迷ってるんですよ!? いいえ、もう通報の手続きは9割方終わっています。情報を送信する一歩手前ですからね!?」

 

 アヤネの眼鏡がキラーンと不気味に反射する。四人のあまりの容赦のなさに、銀時はもはやカウンターの隅で小さく震えることしかできない。

 そんな中、最後尾に座るアビドスの最年長だけは、どこ吹く風といった様子で、机に突っ伏しながらけだるげにオッドアイを瞬かせていた。

 

「うへへ〜、おじさんドレスなんて着たらお腹冷えちゃうからさ〜、やるならボーイさんとかが良かったな〜。あ、でもバツとして先生のバニーさん? いやいや、先生のバニー姿なんて見たら、おじさんの貴重な視力が完全に死んじゃうよ〜」

 

「お前ら全員、頼むから一回その物騒な口と想像力を閉じてラーメン食ってくれぇぇぇ!! 銀さんのなけなしの財布から全員分奢るから! 黒猫ちゃん、ネギ抜きチャーシュー麺ね! シロコ、大盛りね! アヤネ、警察学校の送信ボタンに指かけるのやめてぇぇぇ!!」

 

 身の危険を感じた銀時は、懐から今にも消え入りそうなほど薄っぺらい財布を取り出し、涙目で店長に注文を叫んだ。

 

 店長が「何やってんだかコイツらは……」と厳しい顔で注文を取り終え、厨房の巨大な寸胴へと向かおうとしたその時、ガラリと店の引き戸が開く音が静かな店内に響いた。

 現れたのは、ギャリソンキャップを頭に乗せ軍服を羽織った、見るからにオドオドとした雰囲気の少女だった。彼女はビクビクと体を震わせながら、すがるような目で店長へと声をかけた。

 

「あの、その、……この店で一番安い食事ってなんですか……?」

 

 厨房で腕を組んだ店長は、新顔のあまりの気弱さに一瞬だけ視線を落とし、いつも通りぶっきらぼうに答える。

 

「……柴関ラーメン580円」

 

 その価格を聞いた瞬間、少女の表情がパッと明るくなった。彼女は嬉しそうに何度も小さく頷くと、一度店の外へと駆け出して、路地裏で待機していた仲間たちを大急ぎで呼び寄せた。

 続いて引き連れてこられたのは、アビドスの面々とはまた違った個性を放つ三人の少女たち。

 

「えっへへ、やっと見つけた600円以下のメニュー! もうお腹ペコペコで死んじゃうかと思ったよ〜!」

 

 小柄で白い髪の毛を伸ばした少女、ムツキが、子供のように無邪気に笑いながら真っ先に暖簾をくぐってきた。

 

「ふふふ、ほらね。何事も解決策はあるのよ。ぜーんぶ私の想定内。私にかかれば、この程度の危機を乗り越えるなんて造作もないことだわ」

 

 その後ろから、豪奢な黒い外套を羽織った赤髪の大人びた少女、アルが、まるで百戦錬磨の悪の組織の首領であるかのように自信満々に胸を張って入ってくる。

 

「そ、そうでしたか! さすがは社長、博識ですね……! 砂漠の真ん中で行き倒れそうになっていた私を、的確に導いてくださるなんて……!」

 

 ハルカは目を輝かせ、両手を合わせて心底感動したようにアルを見上げた。その過剰なまでの信奉の視線を、アルはどこか誇らしげに受け止めている。

 

「……はあ、どーだか……。ただ行き当たりばったりに歩いて、偶然看板が見えただけじゃない」

 

 最後に、ヘッドホンを首にかけた少女、カヨコが、呆れたように長いため息をつきながら言葉をこぼした。

 ボコボコに腫れた顔の銀時は、カウンターの隅から、新しく入ってきた何やら訳ありげな四人組──特に、一番前でこれでもかとハードボイルドな雰囲気を醸し出そうとしている赤髪の少女を、死んだ魚の目でじっと見つめていた。

 

「……四人客か。それなら……」

 

 店長がカウンターの奥から、店の奥にある四人掛けのテーブル席を顎で指そうとした。

 

「あ、どーせお金がなくて一杯しか頼まないしいーよいーよ」

 

 ムツキが両手を頭の後ろで組みながら、悪びれる様子もなくあっけらかんと笑って言葉を遮る。

 

「……? どうせならテーブル席でのんびり食えばいいだろう。そっちは客なんだから遠慮はするな」

 

 店長は戸惑うように少し眉をひそめながらも、ぶっきらぼうに親切を口にした。

 

「うっわ、店長男前! じゃあその優しさに甘えちゃおっかな〜……あ、それと箸は四膳ね!」

 

「おい、まさかお前ら四人で一杯分け合うつもりか?」

 

 店長が信じられないといった様子で声を低くすると、その背後にいたハルカが、まるで世界が破滅したかのような絶望的な表情でガタガタと震え出した。

 

「す、すみません貧乏ですみません……! 一人一杯頼む財力もないのに、お店の貴重な席と空気を汚してしまって本当にすみません……!」

 

「そ、そう謝ることじゃねえだろ……」

 

 あまりの剣幕に店長が思わず一歩引く。

 

「いえ! お金がないなんて首がないのと同じです! 生きる価値なんてないんです! 虫ケラにも劣る存在なんです! 虫ケラ以下ですみません! 私みたいな粗大ゴミは、今すぐこの場でダイナマイトを自爆させて砂の塵になるべきなんですぅぅぅ!!」

 

「……はあ。ハルカ、声大きい。ここ店の中だよ」

 

 カヨコがハルカの肩をぽんと叩き、低いため息とともに冷静に制した。ハルカはそのままカウンターの隅で小さく丸まり、今にも消え入りそうな声で「すみません、すみません……」とブツブツと呟き続けている。

 

「まあ私たち、いつもこうして貧乏なわけじゃないけどねー。今回は金遣いの荒いアルちゃんのせいなんだし」

 

 ムツキがクススクと意地悪そうに笑いながら、アルの横顔を肘でツンツンと突っついた。

 

「『アルちゃん』じゃなくて『社長』、でしょ? ムツキ室長、肩書はちゃんとつけてよ」

 

 アルはふいっと顔を背け、腕を組んで精一杯の威厳を保とうとする。

 

「んー? 仕事終わった後だからいーでしょ。それに、社長なのに社員一人に一杯ずつラーメン奢れないのってどーなの?」

 

「う、ぐううう……!」

 

 痛いところを突かれたアルは、言葉に詰まって綺麗な顔を真っ赤に染めた。

 

「今日の任務に投入する人員を確保するために、かなりお金使っちゃったし……。傭兵をかき集めるだけで、今月の予算はほとんど底を突いたよ」

 

 カヨコが呆れたように、けれど冷徹な事実を突きつける。

 

「し、仕方ないじゃない!? 相手はあんな化け物なんだし! そ、それに! こうしてラーメンを口にはできるんだから、ぜーんぶ私の想定内! ハードボイルドなアウトローたるもの、飢えさえも楽しむ度量が必要なのよ!」

 

 アルは涙目になりながらも、必死に声を張り上げて自分を正当化しようとした。しかし、カヨコの容赦のない追撃は止まらない。

 

「なら、四杯分確保しておいてよ……。想定内って言うなら、せめて夕飯の計算くらいは事前に終わらせておくべきだったんじゃない?」

 

「実際のところ、そこらへん綺麗に忘れてたんでしょ? 夕飯の分のお金ー」

 

 ムツキがさらに追い打ちをかけると、アルの「社長としてのプライド」は完全に粉々に打ち砕かれ、その派手な見た目からは想像もつかないほど、情けない顔でオロオロと視線を泳がせるのだった。

 

「……でも。今回はカタカタヘルメット団みたいな雑多な奴らを使えないのは同意。リスクはなるべく減らしたい。相手が何をしてくるか分からない以上、確実に動ける戦力が必要だったのは事実だし」

 

 カヨコが少し真面目なトーンでそう付け足すと、アルの瞳に一瞬で輝きが戻った。ゲンキンなもので、肯定されるとすぐに調子に乗るのが彼女の悪癖である。

 

「そう! 失敗は許されない、あらゆるリソースを投入して臨むわ! これこそがアウトローの最高峰、便利屋68よ! 今回の作戦さえ成功すれば、報酬でみんなですき焼きにしましょ、すき焼き! お肉山盛りの最高級のやつよ!」

 

「わあ、すき焼き! アルちゃん太っ腹〜♪」

 

「しゃ、社長……! すき焼きだなんて、私のようなゴミがそんな高級なものを口にしていいんでしょうか……!?」

 

 ……と、そんな涙ぐましいやり取りを、カウンター席から静かに眺めていたアビドス対策委員会の五人と、一人の白髪頭。

 注文したラーメンが届くのを待つ間、少女たちが四人でたった一杯のラーメンを分け合おうとしている悲惨な現実を目の当たりにし、アビドスの生徒たちの間に何とも言えない同情の空気が広がっていく。

 

「……ちょっと、なんか急に胸が痛くなってきたんだけど」

 

「ん……さすがに四人で一杯は、可哀想」

 

「アビドスの財政も大概ですけど、あそこはそれ以前の問題な気がします……」

 

 哀れみの呟きを一通り漏らした五人は、まるで示し合わせたかのように、一斉に首をギギギと回してカウンターの隅にいる銀時の方へと顔を向けた。

 

「……なんだよ」

 

 銀時は不吉な予感を察知し、財布を握りしめながらジリジリと後ずさりする。

 

「……ねえ、先生。ここは先生の汚名返上の場面じゃないかなあ? さっきまで水商売だの何だのって、大人のクズ見本みたいなこと言ってたわけだし」

 

 セリカがジト目で、けれどどこか期待を込めた口調で言った。

 

「そーですね☆ ここでバシッと大人のかっこいいところを見せて、私たちを見直させるべきかと! 困っている女の子をスマートに救う先生、とっても素敵だと思いますよ〜?」

 

 ノノミがこれ以上ないほどの聖母のような笑顔で、銀時の背中をグイグイと崖っぷちへ押し出す。

 

「ん、先生。ここで奢ったら、さっきの罪状、三割くらい軽減してあげる」

 

「……だ──ーっ!! わーったよやりゃあいいんだろやりゃあ!! これで俺の一週間、いや十日間のコンビニスイーツタイムはなしだこんちくしょう! プレミアムなロールケーキも期間限定のイチゴパフェも全部砂漠の砂に消えたわ!」

 

 銀時はやけくそ気味に叫んで立ち上がると、困ったように頭を掻いてる店長に歩み寄った。

 

「大将、ここは俺が……」

 

 銀時はカウンター越しに身を乗り出し、店長の耳元でボソボソと何かを耳打ちしながら、千円札を数枚、血を吐くような思いで手渡す。

 

「まあ、アンタがちゃんと持ってくれんなら……うちとしては文句はねえが」

 

「頼むわ、大将。これ以上こっちの身内の視線でハチの巣にされたくねーからさ……」

 

 それから少しして。アビドスメンバー五人分のラーメンが次々とカウンターに並べられた。そのすぐ後、いまだに席で「すき焼き!」とワイワイとしている四人の前へと、湯気を立てる並盛りのラーメンが四人分、どん、どんと並べられる。

 

「……!? こ、これは?」

 

 アルが目を丸くし、目の前に置かれた器と店長の顔を交互に見つめた。

 

「あー、これか? これはあそこの客からだよ。……ったく、バーのカウンターでカクテル回して『あちらのお客様からです』なんてのは聞いたことあるが、こんなシチュエーションラーメン屋でやる奴なんか前代未聞だぞ」

 

 店長がくすくすと笑いながら、親指でカウンター席の顔をボコボコにしている男を指差す。

 

「……は、ハードボイルド……! これぞまさに、ハードボイルドの鑑だわ……!!」

 

 アルは両手を胸の前で握りしめ、信じられないほどに目を輝かせた。当然だ。まだ未成年ゆえに本物のバーには入ったこともなければ、大人の夜の世界も知らない。けれど、いつか自分が大物になったらやってみたいと夢にまで見た「あちらのお客様から」のシチュエーションが、今、まさかのラーメン屋で、自分の目の前で現実のものとなったのだから。

 

「う、うぅ……あ、ありがとうございます! ありがとうございます……!! 私みたいな日陰の虫ケラに、こんな温かい施しをくださるなんて……!!」

 

 ハルカもまた、器から立ち上る湯気の向こうで大粒の涙をボロボロとこぼし、カウンターの男に向かって何度も何度も深く頭を下げていた。

 

 けれど──そんな二人の後ろで、カヨコとムツキは完全に別のところに目を向けていた。

 湯気の向こう、その男の隣に並んで楽しそうにラーメンを啜っている五人の少女たち。その制服、そしてカウンターに立てかけられた見覚えのある銃器の数々。

 

「……あれって」

 

 カヨコが声を潜め、前髪の隙間から鋭い視線を向ける。

 

「……うん、間違いない。アビドス対策委員会。ってことは、あのあざだらけのボコボコの大人が……」

 

 ムツキもいつもの悪戯っぽい笑みを消し、ジッと銀時の後ろ姿を見つめた。

 自分たちがこれから「ビジネス」として激突するかもしれない、アビドス高等学校の残党。そして、その中心にいるとされる、連邦生徒会から派遣されたという「先生」。

 けれど、ここは一般の店内。おまけに、これ以上ないほど温かいラーメンを奢られた直後だ。ここでわざわざ武器を抜いて騒ぎを起こすような無粋な真似は、便利屋68としても選ばない。

 

「ま、いっか。アルちゃん、すっごく嬉しそうだしね」

 

「……そうだね。今はただの、お腹を空かせたお客同士、ってことで」

 

 二人は顔を見合わせると、未だに「あの大人の男、ただ者じゃないわ……!」と一人でテンションを上げているアルと、泣きながらお箸を割っているハルカに小さく微笑んだ。

 

「よし、冷めないうちにいただこう」

 

「ん、いただきまーす♪」

 

 四人は一斉にレンゲと箸を手に取り、 柴関ラーメンの温かいスープと麺を、それぞれの想いを胸に静かに啜り始めるのだった。

 

 ──────────

 

「……本当、助かったわ! おかげでみんなお腹いっぱいになれたし! 飢えた人に惜しげもなく施しを与えるなんて、やっぱり貴方、ただ者じゃないわね!」

 

 ラーメンを食べ終わり、夜の帳が下り始めた店の外に出たところで、アルが興奮冷めやらぬ様子で銀時に声をかけた。背後のハルカも、未だに感動で目を潤ませながら何度も深々と頭を下げている。

 

「あー、いいんだよ別に。どーせ奢らなくったって、こっちの身内に別のことで強請られて財布が爆発してたんだろーし。ったく、最近の女の子ってのは強かでいけねーや。大人の優しさってやつを、都合のいい財布か何かと勘違いしてやがる」

 

 銀時は頭の後ろをポリポリと掻きながら、やれやれと首を横に振った。

 

「さて、そろそろ帰るかね……じゃあな、お嬢ちゃんたち。今度は計画的に買い物すんだぞ」

 

 銀時がひらひらと手を振ると、アルもまた外套の裾を翻し、不敵な笑みを浮かべて手を振り返した。

 

「ええ、貴方もね。大人の背中、しかと見届けさせてもらったわ。またどこかのバーで会いましょう、名もなきハードボイルド」

 

「いやラーメン屋だからここ」

 

 そうして銀時たちの背中が見えなくなったところで、アルが大きく息を吐きながら空を見上げた。

 

「ふう、いい人だったわね。顔中アザだらけだったのがちょっと気になったけど! 傷のない顔なら、きっと裏社会の修羅場をいくつも潜り抜けてきた、ハードボイルドな大人の男に決まってるわ! ああいう年の取り方をしたいものね!」

 

 拳を握りしめて熱弁するアルの横で、カヨコはジト目を向けながら、心底呆れたようにため息をついた。

 

「……本当に気づいてないんだね、社長。あの大人の隣に座ってた女の子達の制服、見た?」

 

「え? 制服? 何か変わったデザインだったかしら? 私、あのハードボイルドな佇まいに釘付けで、周りのコたちまで見てる余裕なんて……」

 

「アビドスだよ、アイツら」

 

 ムツキが口元を手で隠しながら、クスクスと楽しそうに爆弾を落とした。

 

「な、ななな、な……なんですって──ー!?!? じ、じゃああの、顔をあざだらけにして、天パをボサボサにしてたあの大人の男って……!?」

 

 アルの顔から一瞬でハードボイルドな色が消え去り、その端正な顔立ちが驚愕で引きつる。

 

「間違いなく、カタカタヘルメット団の戦車をたった一人、しかも木刀一本で沈黙させてたっていうシャーレの『先生』だろうね。……本当に気づいてなかったんだ……。まあ、あのあざだらけの顔じゃ、送られてきた資料の顔写真とも結びつかなかったかもしれないけど」

 

 カヨコが肩をすくめて淡々と告げると、アルの頭は完全にフリーズした。

 

「あはは、アルちゃんの反応ウケるー!」

 

 ムツキはお腹を抱え、涙を流しながら大爆笑している。

 

「あ、あの人たちが私たちの今回のターゲットなんですか? わ、私が始末してきましょうか? 今すぐダイナマイトをあのお店ごと爆破して、あの人の髪の毛一本残さず砂漠の塵にしてきます!」

 

 ハルカが突然目を血走らせ、懐のショットガンと爆薬に手をかけようとした。

 

「あはは、どうせもう少ししたら襲撃するんだし。その時に暴れよ、ハルカちゃん」

 

 ムツキがハルカの肩を叩いて宥めるが、アルはいまだにガタガタと震えながら、ショックで顔を青くしている。

 

「う、うそでしょ……あの人が、ターゲットだなんて……」

 

「どーしたの、アルちゃん。仕事するよ?」

 

 ムツキが覗き込むようにしてアルの顔を見つめる。

 

「うん、みんな社長の命令を待ってる」

 

 カヨコもいつもの冷静なトーンで、けれど確実に決断を促した。

 

「心優しいアルちゃんにはこの状況はキツイだろーねー。けど……情け無用、金がもらえるならなんでもやる、のが私たちのモットーなんでしょ?」

 

 ムツキの言葉に、アルはぐっと唇を噛み締めた。さっき奢ってもらったラーメンの温かさが、まだお腹の中に残っている。けれど、自分たちは便利屋68。ここで引けば、念願のアウトロー組織としての誇りも、何より楽しみにしていた「すき焼き」の夢もすべて消えてしまう。

 

「そ、そうだけど……! う、くううう……!」

 

 アルは大きく深呼吸をし、外套の襟を掴んでグッと顔を上げた。そこにいたのは、いつものポンコツな少女ではなく、冷徹な悪を演じきろうとする便利屋の「社長」の顔だった。

 

「……分かったわ、雇った傭兵のみんなを集めて。アビドス対策委員会と──あの白髪の男を排除するわよ」




ここまで読んでくださり本当にありがとうございます。どうにか彼女らを登場させることができました。

そしてなんといよいよ評価ゲージに赤色が!嬉しくてたまりません。お気に入りや評価してくださった方、本当にありがとうございます!感想もすごく嬉しいです!!!

アビドス編もいよいよ中盤に突入します。もし面白い、続きが気になると思ってくださったら、評価やお気に入り、感想などいただけると書き溜めの凄まじい励みになりますのでこれからもよろしくお願いします。
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