ブルーアーカイブ 透き通る青春よ永遠なれ   作:Jon.Do

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第一話で銀さんが目を覚ましたので初投稿です。


第一話 会議場のキャットファイト

「……ぃ」

 

「先生」

 

「起きてください、先生」

 

「坂田先生!!」

 

 何度も名前を呼ばれ、体を揺さぶられる感覚に、銀時の意識がゆっくりと浮上していく。

 

 瞼を開けると、どうやら机に突っ伏していたらしい。大きく欠伸を漏らし、ぐうう……と目を閉じ背を伸ばすようにして重い上半身を起こした。

 そんな彼に呆れたような溜息が正面から聞こえ、視線を向けると、黒く艶やかな髪の少女が眼鏡の奥の冷ややかな眼差しでこちらを見下ろしている。

 

「……え、誰?」

 

 銀時は思わず、そんな場違いな問いかけを口にしていた。

 

 少女の周囲を見渡すと、そこは高層ビルのオフィスらしき空間。

 窓の外、その眼下には近未来的な街並みが広がっている。そして彼自身はその中心にある執務椅子へ、深く腰をかけていた。

 

「少々待っていてくださいと言いましたのに、お疲れだったのでしょうか。なかなか起きないほどに熟睡されるとは。」

 

 少女は掛けている眼鏡の位置を直しながら、もう一度大きくため息を漏らして言葉を続ける。

 

「……夢でも見られていたのですね。ちゃんと目を覚まして集中してください。もう一度改めて今の状況をお伝えします。

私は七神リン。学園都市『キヴォトス』の連邦生徒会所属の幹部です。そしてあなたは今回私たちが呼び寄せた先生のようですが……」

 

 そこで少女は深々とお辞儀をするが、その正面の銀時自身は全く状況が飲み込めていない。

 いつもの魚が死んだような眼差しをぱちくりとさせながら少女の言葉を遮るようにして口を開く。

 

「待て待て待て銀さん全然状況飲み込めてねーんだけど。え、なに?学園都市?キヴォトス?先生?え、そもそも俺なんでここにいんの?俺昨日そんな酒を……いや、待て。」

 

 ────俺、昨日何してたっけ。

 

 思い出そうとしても、昨日何をしていたか、それどころか昨日以前の記憶さえも霞がかかったように曖昧だった。

 

 自分がどこの誰だかは分かる。あの本体が眼鏡の男や、色気のかけらもなく鼻ばかり穿っている少女との騒がしい日常も。喧しい大家のババアの怒鳴り声も、憎たらしい税金泥棒どもとの口喧嘩も覚えている。

 それなのに、昨日何があったのかだけが思い出せない。まるで、そこだけ鍵がかけられてしまったかのように。

 

「……先生? どうかされましたか。私の話、聞いていますか」

 

 そんな様子の彼に、怪訝そうに眉をひそめる少女――七神リンの声が、どこか遠くから響くように耳に届く。

 

「あー……いや、ちょっと待て。タイム。銀さんにほんのちょっとだけ時間くんね?昨日までのこと全然思い出せねーのよマジで。なんで俺ここにいんの?え、マジで思い出せねーんだけど。」

 

 銀時はこめかみを指先でトントンと叩きながら、椅子の背もたれにどっかりと体を預けた。

 頭の芯が妙に冷えていく。新八のツッコミも、神楽の酢昆布を齧る音も、お登勢の家賃の催促も、すべては脳裏に鮮明にあるのだ。

 それなのに、その日常からどうやってこの「キヴォトス」とかいう見知らぬ場所にいたのか、その結び目だけが綺麗に消え去っている。

 

「……あなたが混乱するのも無理はありません。私も先生がどういった経緯でここに来たのか、知らないのです」

 

 リンは再びため息をつくと、その艶やかな横髪を耳にかけ、改めて銀時に眼差しを向けた。

 

「でも今は私について来てください。先生にどうしてもやっていただかなくてはならないことがあるのです」

 

「やらなきゃいけねーこと? ……てかさ、さっきから先生先生って、もしかして俺のこと言ってんの? 確かに銀さん、スピンオフじゃ先生やってたけどよ、俺は万事屋の方の銀さんだぜ? それに勉強とかマジでからっきしなんだけど。そもそも教員免許とか持ってねーし」

 

 そう告げると銀時はこめかみを叩いていた指を今度は眉間へと添えていよいよ理解できないとばかりに瞼を閉じる。……彼女の雰囲気で、何かとんでもなく面倒臭いことに巻き込まれたことは理解しながら。

 

「よろずや? それとスピンオフ……などは私にはよく分かりませんが。けれど、他の誰でもなくあなたにやっていただかなくてはならないのです。学園都市の命運を賭けた、大切なことを」

 

 リンは眉一つ動かさず、淡々とした口調のまま銀時を真っ直ぐに見据えた。

「とりあえず此方へ、」と背を向けたリンに、「まあなるようになれってね……」と、考えることをやめてついて行くことにする。

 

──────────

 

 先程まで二人がいた部屋は、この建物にとってはまだ中層階に過ぎなかったらしい。

 リンに導かれた先のエレベーターのなかで、二人は特有の浮遊感に包まれていた。モーターの駆動音が低く響く狭い空間のなか、カゴはゆっくりと上昇していく。

 ガラスの向こう、少しずつ高くなっていく視界の先には、見慣れた江戸に似ているようで、明らかに異なる街並みが広がっていた。

 瓦葺きの建物など一つも見当たらない、過剰なまでに発展した超近代都市。それを見下ろす銀時は、いよいよ状況を理解することを諦め、大きなため息とともに呟いた。

 

「……江戸、じゃねえよな。やっぱり。」

 

「江戸……?」

 

「いや、こっちの話さ。」

 

 銀時はそう言うと肩をすくめ、隣に立つ少女へと視線を向けた。

 目を覚ましたときから思ってはいたが、彼女の容姿はいわゆる別嬪というやつだろう。どこか現実離れしているような、透き通るような顔立ち。耳先の尖った天人も見慣れてはいたし、その手の美しさはさして珍しくもない。

 だが、どうしても気になるのは、彼女の頭上に浮かぶ水色の――天使の輪のようなもの。それを見ていると、やはりどうしても不安になってくる。

 自分の手をグーパーと握っては開き、胸元に手を添えて鼓動を感じ、さらには足元を見て自分のつま先や影をまじまじと確認する。

 

「なあ、……リンちゃんっつったっけ。ここってやっぱり天国だったりしねえよな? 銀さんぽっくりいっちゃって、天使に運ばれてる最中だったりしない?」

 

「誰がリンちゃんですか。それに縁起でもないことを言わないでください。あなたも私も、ちゃんと生きています」

 

 リンは呆れたようにこめかみに指を添えて首を横に振ると、窓の外を示すように片腕を伸ばして告げた。

 

「ここはキヴォトス。数千の学園が集まって形成されている巨大な学園都市であり、これからあなたが働く場所でもあります」

 

「へえ、数千……数千!? 待て、そんな広ェのかここ!? もしかしてこの建物全部が学校なの!? 学校の乱立地帯!? 少子化問題どこいったのマジで!?」

 

 リンが告げた学園のその多さに思わず目を丸くしながら眼下の街並みを見下ろす。

 立ち並ぶ建物はオフィス街とばかり思っていたが、あの高層ビル群の全て学園だなんて。銀時は俄かに信じられないと言わんばかりの様子で唖然としていた。

 そんな銀時にリンは言葉を続ける。

 

「最初は慣れなくて戸惑うこともあるでしょう。けれどあなたなら心配……いや、心配ですね。連邦生徒会長も、なぜこのような方を……」

 

 そう言って、リンは値踏みするような視線を改めて銀時に向けた。

 

 天然パーマなのだろうが、それにしてもだらしなくボサボサとした白髪。気力のかけらも感じられない死んだ魚のような眼差し。黒いインナーの上に風変わりな着流しを羽織り、なぜか片腕だけを露出させた怪しげな身なり。

 

 露わになっている腕や服の上からでもわかるその体格は、キヴォトスで見かける一般の大人に比べれば遥かに頑強そうではある。けれど、先ほどから彼が口にする言葉の締まりのなさに、リン自身、本当にこの男があの連邦生徒会長の呼び寄せた「先生」なのかと、言い知れぬ不安を覚え始めていた。

 

 とはいえ、今頼れる人物は彼しかいない。手元の端末に表示されたデータも、この男が確かに連邦生徒会長の選んだ「先生」であることを示していた。であれば、もうこの男にこれからの修羅場を委ねるほかない。

 リンは小さく首を振って自身の不安を振り払う。それと同時に、エレベーターが目的の階へと到着した。

 

 電子音と共に扉が開く。その先にある会議室には、すでに呼び寄せられていた数人の生徒たちが待ち構えており、一斉にこちらへと鋭い視線を向けた。

 

「……うん? 隣の大人の方は?」

 

「主席行政官、お待ちしておりました」

 

「連邦生徒会長に会いに来ました。風紀委員長が、今の状況について納得のいく説明を求めています」

 

 リンの隣に立つ、ひょっこりと気の抜けた顔を覗かせた銀時に、少女たちの視線が集中しつつリンへと畳み掛けるような問い掛けを口にする。

 

 机を囲んで並ぶ面々は、系統は少しずつ違えどやはり美少女の類に入る女性。けれどその雰囲気は明らかに一癖も二癖もありそうな、そして何よりその頭上には、リンと同じような「光る輪」が浮かんでいた。

 

「ああ……面倒な方々に捕まってしまいましたね」

 

 リンは眼鏡の奥の瞳を気まずそうに逸らしてぼやきつつ、目元に影を落とした疲弊した笑みを浮かべて言葉を続けた。

 

「こんにちは、各学園からわざわざここまで訪問してくださった、生徒会、風紀委員、その他時間を持て余している皆さん。こんな暇そ……大事な方々がここを訪ねて来た理由は、よく分かっています」

 

 銀時は引きつった笑いを浮かべながら、隣のリンからじりじりと距離を取る。リンの言葉を聞いた少女たちの視線が一気に冷ややかさを増したのを感じて、背中に冷たい汗が流れたからだ。

 

「あのー、リンちゃん? なんか急に口が悪くなってね? え、リンちゃんってそーゆーキャラだっけ。銀さん怖ェんだけど。周りの視線も含めてここ一帯が全部怖くなって来たんだけど」

 

 室内一帯に広がる胃が痛くなるような空気と眼差しに声を微かに震わせる銀時の言葉をリンは無視し、さらにその眼差しを鋭くさせて言葉を続ける。

 

「─────今、学園都市で起きている混乱の責任を問うために、でしょう?」

 

 そのリンの言葉に剣幕を激しくした、藍色の長い髪をツインテールに束ねた少女――「ユウカ」と書かれた名札を胸元に揺らす彼女が、机に身を乗り出しながら声を荒らげた。

 

「そこまで分かっているなら、何とかしなさいよ! 連邦生徒会なんでしょう!?数千もの学園自治区が混乱に陥っているのよ!? この前なんか、うちの学園の風力発電がシャットダウンしたんだから!」

 

 机をバンと叩き、眉を吊り上げて詰め寄る少女の姿に、銀時は思わず数歩後ずさる。その手元にあるのは小綺麗な書類の束だったが、激しい剣幕のせいで、それすら鈍器に見えてくるほどだった。

 

 その隣に立つ、栗色の髪をサイドツインに束ね、腕には『風紀委員』の腕章を巻いた眼鏡の少女――チナツが、ユウカの言葉に頷きながら後に続いた。

 

「連邦矯正局から、停学中の生徒の一部が脱走したという情報もあります」

 

 そのチナツの発言へ付け加えるように、白い長髪を一部、羽のような形に結った少女――スズミが静かに口を開く。

 

「スケバンのような不良が、登校中のうちの生徒たちを襲う頻度も最近高くなってきました。治安の維持が難しくなっています」

 

 そして、黒く長い髪をなびかせる少女――ハスミ。彼女の豊満な胸元を見て、銀時が一瞬思わず鼻の下を伸ばしたのを見逃さず、その眼差しをさらに鋭くした。

 

「戦車やヘリコプターなど、出所の分からない武器の不法流通も二千パーセント増加しました。これでは正常な学園生活に支障が生じてしまいます」

 

 彼女たちの怒濤の追求に、それまで冷静だったリンもさすがにバツが悪そうに目を伏せた。

 その態度を見て、さらに不機嫌さを募らせたユウカがリンへ一歩詰め寄る。

 

「こんな時に連邦生徒会長は何をしているの!? どうして何週間も姿を見せないの!? 今すぐに会わせて!」

 

「リンちゃん、俺もう胃がキリキリしてきたんだけど。昼ドラのキャットファイトの特等席に座らされてるくらい居心地悪ィんだけど!」

 

 銀時は胸を押さえ、そっとリンの背後に隠れようと体を縮こまらせた。

 

「……連邦生徒会長は今、席を外しております。正直に申し上げますと、行方不明になりました」

 

 リンが重い口を開き、淡々と、しかし決定的な事実を告げた瞬間、会議室に静まり返るような沈黙が落ちた。

 

「……え!?」

 

「……!」

 

「やはり、あの噂は……」

 

 少女たちに走る激しい動揺を突き放すように、リンは淡々と、しかし残酷な現実を言葉にした。

 

「結論から言うと、サンクトゥムタワーの最終管理者がいなくなったため、今の連邦生徒会は行政制御権を失った状況です」




第一話を読んでくださりありがとうございます。

ゲーム本編のセリフを目にしてはそれを書き起こし、ジェミニによる添削を繰り返しながら綴っているためにスマホの電力消費が半端ないです。

誤字脱字を見つけた場合、アドバイスなどがあれば遠慮なくよろしくお願いします。

追記……第二話は今日の21:00に投稿します
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