ブルーアーカイブ 透き通る青春よ永遠なれ   作:Jon.Do

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第十九話 呉越同舟

『行政官……てことは風紀委員会のNo.2……?』

 

 通信画面を凝視しながら、アヤネが眉をひそめて小さく呟いた。ただならぬ威圧感を放つその相手に警戒レベルを一段階引き上げる。

 

『いえいえ、私はそんな大したものではありません。あくまでも風紀委員長を補佐し、時に代行して、組織を実質的に指揮する立場ですので』

 

 青いホログラムの向こうで、アコはふふっと上品に、けれど自身の権力をこれっぽっちも疑っていない傲慢な笑みを浮かべてみせる。

 そんな尊大な様子を冷ややかに見つめながら、銀時を追ってきたシロコ、セリカ、ノノミの三人がようやく合流した。シロコはアコを鋭く睨みつけ、それから周囲で未だに身構えている風紀委員たちへと視線を巡らせてから口にする。

 

「もし本当にただの補佐なら、周りの風紀委員達がこんなに緊張なんてしない」

 

「そーそ。お前それ、ありゃもう御局臭がぷんぷんじゃねーか。こーゆー裏で実権握ってネチネチ言ってくるタイプのお局女って一番怖えんだよ。小公○セイラってので似たようなのいたわ、ミン○ンだかパ○チンだか知らねーけど」

 

 銀時がこれ見よがしに鼻をほじりながら吐き捨てた身も蓋もないセリフに、アコはピキリと完璧な営業スマイルを激しく引き攣らせた。しかしそこは流石の行政官、即座に何事もなかったかのように言葉を続ける。

 

『……な、なるほど。素晴らしい洞察力ですね。砂狼シロコさんと……坂田銀時先生でしたっけ。アビドスには生徒会の面々だけが残っているとは聞きましたが、あなた方ですか。事前情報では5人いると聞いていましたが、あと1人はどこに?』

 

『今は不在です。それと、我々は生徒会ではなく対策委員会です、行政官』

 

 アヤネがこれ以上の情報開示を拒むように、冷徹なトーンですぐさま訂正を入れる。

 

『奥空さん、でしたね。私はアビドス生徒会の方に正式な用があるので、できればその方々を呼んで欲しいのですが』

 

「……な、シロコちゃん言ったろ? こーゆー融通の利かねえお局女って怖えって。銀さんもう胃がキリキリしてきたんだけど帰っていい? 糖分補給しねーと死んじゃうんだけど」

 

「ん、ダメ」

 

「だよなあ……」

 

 シロコに即答で服の裾をがっちり掴まれ、銀時はがっくりと肩を落とした。そんな二人のやり取りの横から、セリカがアコに向かって声を荒げる。

 

「生徒会はとっくの昔に解散してるの! 私たち対策委員会がその代理みたいなものなんだから、話があるなら私たちに話しなさい!」

 

「そもそも、私たちに銃口を向けながらお話しましょ、なんて、少し烏滸がましくありませんか?」

 

 ノノミがいつもより数トーン低い、それでいて圧倒的な圧を孕んだ笑顔でガトリングガンのバレルを軽く傾けてみせる。アコはホログラム越しにその脅迫を鼻で笑い飛ばそうとしたが、背後のアビドス生たちが一個中隊を瞬殺した事実を思い出し、一度視線を落とした。

 

『……それは失礼致しました。皆さん、一度銃を下ろしなさい』

 

 アコがそう命ずるとアビドスメンバーへと一斉に銃口を向けていた周囲の一般風紀委員たちが、一糸乱れぬ動きで銃を下ろす。

 

「……本当に武器を下ろすなんてな。こんだけ躾できてんならいい子に回れ右してほしーとこなんだが」

 

『それはどうも。褒め言葉として受け取りますね。……さて、先ほどまでの我が校の一般委員による不調法な愚行、及び連邦捜査部シャーレ所属の坂田銀時先生を負傷させたこと。風紀委員会行政官の私の方から謝らせていただきます』

 

「な、私たちは命令通りに動いたんだけど、アコちゃん!?」

 

 その言葉に、それまでオドオドしていたイオリが納得いかないとばかりに声を上げた。だが、アコはその声を冷ややかに叩き潰す。

 

「『まず無差別に発砲せよ』と、私が渡した命令書に書かれていましたか? イオリ」

 

「え、と……それは、その、状況を鑑みて必要な範囲内で火力支援、その後の歩兵の投入という、戦術の基本通りに……」

 

『ましてや今回は他校の自治区付近での作戦行動なのだから、その辺りはもっと注意するのが当然でしょう?それに着弾予測地点の観測もせずに発砲したことで坂田先生に傷を負わせたのですから。普段からあれほど─────」

 

 アコの冷酷な説教が始まると、銀時はアビドスの少女たちを手招きしてヒソヒソ話を始めた。

 

「ほらなお前ら、見たかよ。あーゆー女はあーして部下の失敗をネチネチネチネチと突いてくるんだわ。あーゆーのが将来婚期遅れになったりするんだぞ。ああはなるんじゃねーぞ、気をつけろよマジで」

 

「ん、わかった。反面教師にする」

 

「……こ、婚期、って……っ」

 

 セリカが何故か顔を赤くして銀時の方をチラリと盗み見る。

 

「はーい☆ 私はおっとり系を目指しますね〜」

 

『あ、あはは……』

 

 アヤネが冷や汗を流しながら突っ込む中、ついにアコの堪忍袋の緒がぴちりと弾けた。ホログラムの中の彼女は、それまでの営業スマイルを完全に忘れて声を荒げる。

 

『外野は黙っててくれます!? 婚期とか全く関係ないでしょうし私はまだ学生です!! ……あ、……こほん。失礼』

 

 コホコホと不自然に咳払いをし、瞬時に元の澄ました顔に戻るアコ。その変わり身の早さに銀時は「おー、こわ」と小さく身を引いた。

 

『……この度はご迷惑をお掛けして申し訳ありません。我が校はあくまで、我が校の校則違反をした人物達を捕らえに来ただけです。戦闘においてあまりにも望ましくない結果、副次的な被害もありましたが、彼女たちは指名手配犯。我が校の行動も、違法行為とまでは言い切れないでしょうし……どうかご理解いただけたら幸いです』

 

『……先ほども言いましたが!』

 

 アコが話を強引にまとめようとしたところへ、アヤネが強い口調で割って入った。

 

『他校が別の学校自治区内で、事前の通告もなく大規模な戦闘行為をするなんて絶対に許せません! 自治区の観点からして明確な越権行為です! 便利屋68の身柄、およびその処遇については、このアビドス自治区を管理する我々が決めます!』

 

 そのアヤネの言葉に、シロコ、セリカ、ノノミの三人が力強く頷き、更にアヤネが続ける。

 

『まさかゲヘナほどの学園がこんな暴挙に出るだなんて思っていませんでしたが、絶対に譲れません!』

 

『……なるほど。しかし、たった数人でこんな大勢力を前にしても一切怯まないなんて……アビドスの皆さんが、それほどまでに自信に満ちているのは──そこの白髪頭のおかげ、でしょうか。ねえ、坂田銀時先生?』

 

 アコの切れ長な視線が、値探るように銀時へと向けられる。

 

「……あ? 俺ァここの複雑な政治だの自治権だの、そんな難しいもんマジで知ったこっちゃねーし、今更教わるつもりもねえよ。ただな、こいつらが自分たちのシマを守りてえ、やりてえようにやるってんなら、俺ァそいつに最後までとことん付き合うまでさ。それに……」

 

 銀時はふっと視線を、少し離れた瓦礫の陰に泳がせた。

 

「あのポンコツ社長みてえなバカは、見ていて飽きねえんでね。お前らみてーな愛想のねえお堅い連中にホイホイ渡しちまったら、今後の生活が寂しくなりそうなんだわ」

 

「はあ!? アイツらは私たちの柴関ラーメンを爆破したのよ!? 何庇ってんのよ!」

 

 セリカが信じられないとばかりに銀時に詰め寄るが、シロコが片腕を伸ばしてそれを制しつつ口を開く。

 

「多分……アレは事故だと思う。本当はそんな度胸ないのに、見栄を張ってあんなふうに悪党らしく振る舞ってただけで」

 

 シロコが冷静に分析すると、銀時もそれに同意するように頷いた。

 

「そーゆーこと。そもそも俺らを本当に狙って爆破する気だったんなら、俺らのいねえタイミングのラーメン屋をピンポイントで爆破するわけねーだろ。俺この間も言ったろ? 『アイツ、一時のテンションのせいで痛い目を見るタイプ』だってさ。今頃あっちで真っ白な灰にでもなって後悔してんよ」

 

「た、たしかにそれもそっか……。それにしたって、どんだけバカなのよアイツらは……」

 

 セリカが呆れ果てたように肩の力を抜く。

 

「とは言え、だ。事故だろーが何だろーが、俺らの給料日後の数少ない贅沢の場を奪ったんだ。……その報いは、他所の誰でもねえ、俺ら自身の手できっちり受けさせねーと、どうにも腹の虫がスッキリしねーだろ」

 

「うん。私のネギチャーシュー大盛り分の恨み、ここで晴らす」

 

「そうですね、それに彼女達の背後にいた人たちについても、色々詳しくお聞きしたいですから」

 

 ノノミがにっこりと微笑みながらも、容赦のない決定打を告げる。

 

『そういうわけで交渉決裂です! ゲヘナ風紀委員会は、直ちに退去してください!!』

 

 アヤネの毅然とした退去勧告を前に、アコは一度、困ったように小さく目を伏せた。だがその口元には、まるですべてが予定通りだとでも言うような、不気味で怪しい笑みが浮かんでいる。

 

『うーん……これは、本当に困りましたね。本当に、本当に……こちらは穏便に済ませたかったのですが、仕方ありません。話し合いで解決できないとなれば、もう、力ずくでヤるしかなさそ──』

 

 アコがその言葉を言い切るよりも早く、戦場の真後ろからドン! ドン! ドン! と重々しいショットガンの連続発砲音が激しく響き渡った。

 直後、アコのホログラムの周囲を固めていた本隊の風紀委員数人が、悲鳴を上げて派手に吹き飛ぶ。

 

「な、なんだ!? どこからの奇襲──」

 

 イオリが驚愕して振り返ろうとした、まさにその影から、地獄の底から這い出てきたような呪詛の声が鼓膜を刺した。

 

「……許せない……!」

 

「私の、アル社長を生き地獄に陥れたゲヘナの害悪ども……許さない許さない許さない許さない!! うぁぁぁぁぁ!!!」

 

 突如として、背後から現れたハルカ。彼女は完全に正気を失った眼差しで、至近距離からイオリの胸元へ向けてショットガンの銃口を叩き込み、容赦なくトリガーを引いた。

 強烈な散弾の直撃を受け、流石のイオリもその場に崩れ落ちる。

 

「……嘘をつかないで、天雨アコ」

 

 ハルカの背後から、ボロボロになった服の襟を正しながらカヨコが静かに歩み出てくる。

 

『あら……』

 

 アコはイオリが瞬殺されたというのに、驚く風でもなく、ただ面白そうに声を漏らした。

 

「こんな状況、偶然じゃない。アンタが最初から狙ってたのは、この最悪な泥沼の状況だった」

 

「あはは! ハルカちゃん、なーいす! さっすが便利屋の切り込み隊長!」

 

 ムツキが両手を叩いて喜びながら、ハルカの肩を叩く。ハルカは我に返ったように一気にオドオドとした態度に戻り、銃を抱えて激しくガタガタと震え出した。

 

「す、すみませんすみません! 遅くなってしまいました……! し、社長をお待たせしてしまったなんて、私、やっぱり死んで、粉々になって詫びた方がいいですよね!?」

 

「んー? ちょっと遅かったけど結果的にオーライ! 死ななくていいんじゃないかなー?」

 

『っ、もう風紀委員の包囲網を抜けて、本陣の裏まで回っていたのですか……』

 

 思ってもみない反撃にアコが僅かに眉をひそめ、それを目にした銀時はひゅるり、と口笛を奏でた。

 

「……へーえ、やるじゃねーかアイツらも。さすが普段からハードラックとダンスしてるだけあるわ」

 

『……まあ、大した問題ではありません。それにしても、面白いお話をしますね、カヨコさん。この状況が、私たちが最初から狙っていた状況、だとか?』

 

 アコは再び、余裕に満ちた冷徹な笑みをホログラムに浮かべ、カヨコを促す。カヨコは周囲の風紀委員たちの配置、そしてアコが頑なに交渉を引き延ばそうとしていた態度を冷徹に分析し、その本質を白日の下に晒すように告げた。

 

「最初はどうして風紀委員が、わざわざこんなアビドスの最果てまで、一個中隊もの大戦力を率いて来るのかわからなかったけど……今確信したわ。こんな強引なやり方、あの規律に厳しい風紀委員長らしくない。……これ、完全にアンタの独断でしょ」

 

『……』

 

 アコの笑みが、僅かに固まる。

 

「それに……私たち便利屋4人を相手取るだけなら、こんな過剰な戦力はそもそもいらない。最初から、別の『強大な勢力』との交戦が前提の兵力だった。その勢力が……このアビドス。いや、もっと詳しく言うなら──」

 

 カヨコは視線をアコから、その隣に立つ白髪の男へと移した。

 

「そこにいるシャーレの『先生』。アンタの真の狙いは、最初から先生でしょ」

 

「……!」

 

「……え?」

 

「はあ!? なんで先生を狙うのよ!?」

 

 カヨコの口から飛び出した衝撃の事実に、シロコ、ノノミ、セリカの三人が一斉に声を上げた。

 

「……おいおい、俺ァいつモテ期が来たんだ? 確かに俺ァ追う方より追われる方が好きだが……おいこら待てそこの三人、なんでメモし始めてんの? あくまで比喩だからな比喩!」

 

 銀時が軽口を告げた途端、メモを取り始めた三人にびくっと震えて振り返りそう口にするが少女たちの手は止まらない。

 

「……先生は追われる方が好き……」

 

 シロコはいつの間にか取り出した小さな手帳に、真剣な眼差しでせっせとペンを走らせている。

 

「……ふうん」

 

 セリカはセリカで、「追われる方」という言葉に過剰反応したのか、ぽっと頬を赤らめながら端末のメモ機能に指を猛スピードで走らせていた。

 

「あらあら、そしたらもう少し押してみましょうか☆」

 

 ノノミも上品に微笑みながら、確実に外せないポイントとして脳内と手帳にバッチリ記録を残していく。

 さらに通信機の向こうのアヤネも、作戦資料の端に何かを書き留めていた様子で、銀時の視線に気づいてびくっ、と肩を跳ね上げてペンを隠した。

 

「……話が進まないから静かにしてくれない?」

 

 あまりの緊張感の無さに、カヨコが眉間を押さえて大きくため息をつく。その冷ややかなツッコミにアコはコホンと一つ咳払いをし、ホログラムの向こうからカヨコへと視線を戻した。

 

『……そうでしたね。貴女はなんであんなとこに所属しているのか不思議なくらい優秀でした。まあでも、大きな問題ではありませんけど』

 

 アコがぱちり、と優雅に指を鳴らす。

 その高い音を合図に、周囲の闇の中からジャキジャキと無数のボルトを引く乾いた金属音が響き渡った。

 

『12時方向、6時方向、3時に9時……! あらゆる方向から集まってきます!』

 

 通信機からアヤネの緊迫した声が響く。足音は規律正しく、地響きのようにアビドスと便利屋への包囲網を四方八方から狭めてくる。

 

「くっ……包囲を抜けたと思ったら二重だったか……」

 

 カヨコが周囲を警戒し、苦々しく毒づく。一度はハルカの奇襲で本陣を崩したものの、ゲヘナ風紀委員会の圧倒的な物量は最初から二重三重の網を張っていたのだ。

 

「……こいつぁ俺に対して過剰戦力なんじゃねーか? 俺を歓迎するためのフラッシュモブ……なんて冗談は通じねえか」

 

 冷や汗を流しながらも木刀を構え直す銀時に、アコはフッと冷徹な笑みを深めた。

 

『いえいえ、シャーレを……いや。たった一人で戦車を制圧するような先生を相手にするのです。このくらい投入しなければ安心できません』

 

「……先生を狙ってどうするつもり?」

 

 シロコ達三人が、銀時を庇うようにしてその前に立ちながらアコを鋭い視線で問い詰める。

 

『……きっかけはティーパーティでした。知っているでしょう、我々ゲヘナ学園とは犬猿の仲のトリニティ総合学園、その生徒会。そのティーパーティがシャーレについての報告書を手に入れている……と聞きまして』

 

 アコは一度言葉を区切り、淡々と、けれど確かな確信を込めて語りだす。

 

『あのティーパーティが手にしている情報ならば我々も把握しなければなりません。チナツさんの報告書に上がっていた絶大な権限や先生の指揮能力もそうですが……なによりも。先生個人の持つ戦闘力に興味を持ちました。戦車を木刀一つで制圧したのもそう。そして……ヘイローを持たない脆弱な体ながら、まるで死をも恐れないとばかりに不良や傭兵達と相手取る……』

 

 アコのホログラムの目が、底知れない冷たさを帯びていく。

 

『絶大な権限と、先生個人の指揮能力とその戦闘能力。近々締結されるエデン条約にその影響が出て均衡が削がれてしまうのはどうしても避けたい。ですので──先生を我々の手で確保。条約締結のその日まで我々の庇護下に置こうと考えたのです』

 

 全てはゲヘナの利益のため。アコが怪しい笑みを浮かべて政治的野心を露わにする。しかし、銀時はといえば、心底興味なさそうに大きく欠伸を噛み殺していた。

 

「……政治の話は苦手だっつってんのにな。俺自身を政治の道具にしようとか随分スケールのでけえこと考えてんじゃねーか。これだから御局系女子は嫌いなんだ」

 

『ふふ、どうかご理解くださいませ。ちなみに不良生徒の制圧はそのついでです。単なるカモフラージュの口実に過ぎませんから』

 

「っ……」

 

 元々自分達は副次的な目標に過ぎない──そう冷酷に切り捨てられたカヨコは、屈辱と怒りに満ちた目でアコを睨み付ける。

 だが、そんな彼女からアコの視線をこちらへと向けさせるよう真っ直ぐに睨み据え、カシャリと銃のチャージングハンドルを力強く引く。ノノミも銀時の背後にぴったりと寄り添い、周囲の闇へとガトリングガンの銃口を向けた。

 

「ん、……おかげで状況がわかりやすくなった」

 

「先生を連れて行く? そんなの私たちがハイハイって許すわけないじゃないの」

 

『……ふふ。やはりこうなりますよね。けど、いいんですか皆さん? 我々風紀委員会は必要でしたらその戦力を行使。一度決定すれば一切の遠慮はしません』

 

 アコの冷酷な最後通牒が響く中、少し離れた瓦礫の影では、アルが圧倒的な数的不利の状況を遠い目で見つめていた。そんな彼女の隣へ、カヨコが静かに歩み寄る。

 

「どうする、社長。戦闘が始まったら後戻りできない、逃げるなら風紀委員が奴らに目を向けてる間しか……」

 

 冷徹な現状分析。だが、アルは俯いていた顔をゆっくりと上げた。その瞳には、いつものポンコツさはなく、一人の「リーダー」としての確かな覚悟の光が灯っていた。

 

「……カヨコ。私たちは金のためならなんでもする。情け無用の便利屋68よ。やることなら決まってる」

 

「……あはっ」

 

 ムツキがその言葉を待っていたとばかりに、凶悪で愉しげな笑みを浮かべる。

 

「……アル様」

 

 ハルカもショットガンを強く抱き締め、熱い眼差しをアルへと向けた。

 

「一度ならず二度、そして三度。飢えた私達を。道に迷っていた私を。ヘイローもない脆弱な身体で、傷を負ってまで私自身を守ってくれた。そんな人からの恩を……本当の意味で。鉛玉で返す時がきた」

 

 アルは愛用のスナイパーライフルをガシャリと構え、夜風にコートをなびかせる。その姿は、今この瞬間、紛れもなく彼女の理想とする悪党のリーダーそのものだった。

 

「カヨコ、ムツキ、ハルカ。……あの生意気な風紀委員達の鼻を明かすわよ!!」

 

「……はあ、別にいいけど。けどあの数の風紀委員を相手に私たちだけじゃ────」

 

 カヨコが戦力差を見つめて苦言を呈そうとした、その時。

 

「おいこらポンコツ社長とその一味」

 

「……!?」

 

 突然かけられた気怠げな声に、カヨコが驚いて目を丸くする。

 

「あ、せんせー♡」

 

 ムツキが嬉しそうに手を振り、ハルカはじと、とした眼差しを向けつつも銃口はゲヘナへと向けたまま。アルは息を呑んで男を見つめた。

 

「……先生」

 

「お前らはやってることはめちゃくちゃだが強さと根性はピカイチだ。てめーらの力を貸せ。アイツらとっちめた後に、店の件で徹底的にお仕置きはすっけど。アイツらに捕まるよりかはマシだろ?てか俺もアイツらに捕まりたくねーもん。どんな扱いされっかわかったもんじゃねえや」

 

 銀時は木刀を肩に担ぎ、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。その提案に、アルの胸の高鳴りは最高潮に達する。自分を、自分たちを認めてくれた。その事実が、彼女の心を震わせる。

 

「……ええ、もちろんよ。先生。今しばらく、あなたの隣で戦う栄誉をくれるなら!」

 

「やめろやめろ堅苦しい! いーからやるぞ、てめーらは近づく増援をぶっ飛ばせ。こっちはこっちで本隊をぶっ叩く」

 

「「「「了解!」」」」

 

 便利屋68の四人の声が綺麗に重なる。さらにアビドス側からも、

 

「「「『了解』」」」

 

 シロコ、セリカ、ノノミ、そして通信機のアヤネの声が響き渡った。かつて敵対し、つい先ほどまで火花を散らしていたはずの二つの組織が奇跡の共同戦線を張る。

 

「おーし、じゃあ行くぞ! あのおかてえワンコ共に、自分らがどんな奴らに喧嘩売ったんだか徹底的に教え込んでやれ!!!」

 

 銀時の怒号と共に、アビドスと便利屋は一斉にゲヘナ学園風紀委員会へと銃声を浴びせ始めた。




銀さんって天然たらしというかそーゆー女の敵みたいなところあると思います。

何かしらの女性ファンからの人気ランキングで一位になっただけはあるなあと。

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