ブルーアーカイブ 透き通る青春よ永遠なれ   作:Jon.Do

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銀さんが本領を発揮したので初投稿です。


第二十五話 まさしく、夜叉

 便利屋68の放った凶弾が、重苦しく垂れ込めた夕闇の荒野に甲高い裂音を幾重にも響かせ、ハルカが半ば狂気混じりの悲鳴とともにばら撒く爆弾の爆炎が、波のように押し寄せるカイザーPMCの装甲部隊の進路を次々と木端微塵に消し飛ばしていく。

 

「あははははは! 先生の、先生の邪魔をするガラクタは、全部、全部、私がひとかけらも残さず塵にしてあげますぅぅ!!」

 

「ちょっとハルカ、前に出すぎよ! 爆風がこっちまで来てじゃない! ──カヨコ、あそこの指揮官機、早めに黙らせて!」

 

「わかってる。……うるさいから、大人しくして。落ちて」

 

 銀時の鋭い指示に呼応し、アルがワインレッドのコートの裾を鮮やかに翻して狙撃銃を狂いなく連射し、前線を力ずくで押し上げていく。ムツキが軽快な、まるでいたずらが成功した子供のような笑い声を上げながら、あらかじめ仕掛けた地雷原へと敵を誘導して退路を断ち、カヨコが冷徹な一撃で確実にドローンによる指揮官機を脳天から撃ち抜いていく。

 

 その見事なまでの、お互いの呼吸を知り尽くした悪党たちの完璧な連携もさることながら──何よりもアビドス対策委員会の四人の目を釘付けにし、その折れかけていた心を激しく揺さぶったのは、戦場の中心、鉄と硝煙が渦巻く地獄のド真ん中で、文字通り一匹の獣のように暴れ狂う坂田銀時の姿だった。

 敵から奪い取った巨大なマチェットは、オートマタ兵の手から離れてから時間が経ったことで完全に赤熱が終わり、今は冷え切って鈍色に染まった、ただの刃物に戻っている。しかし、銀時の超人的な腕力が乗ったその切れ味はいまだ凄まじいの一言に尽きた。銀時はそれを左手に逆手で固く握り締め、右手には幾多の修羅場を越えてきた木刀を構えていた。

 

「オラァァァ!!」

 

 地を這うような、人間の喉から出ているとは信じがたい野獣の咆哮とともに、銀時が爆煙を真っ正面から突き抜けて突撃する。

 正面のオートマタの連隊から一斉に放たれた、容赦のない大口径の集中銃撃。光の帯となって迫る弾幕に対し、銀時は臆するどころかさらに加速した。一瞬の超人的な踏み込みと肉体の捻りだけで、肉眼では捉えきれない銃弾の軌道を紙一重、わずか数ミリの差で回避し先頭に立っていた重装甲歩兵の懐へと滑り込んだ。

 右手の木刀が、敵の強固な複合装甲をものともせず、弾かれるどころか装甲を歪ませながら下顎へと叩きつけられる。

 バキィィン! と金属が超高圧で弾けるすさまじい轟音が荒野に響き渡り、重量数百キロはあるはずの鉄の巨体が紙切れのように宙に浮いた。その刹那、左手のマチェットが流れるような残像を描いて、浮き上がった胴体を真横に一刀両断した。内蔵された電子基板から飛び散る火花と、オイルの黒い雨が銀時の顔を斑に染めていく。

 間髪入れず、上空からプロペラの羽音を荒々しく立てて襲いかかる複数のセキュリティドローン。その銃口から放たれる機関銃の掃射が、割れた道路を激しく抉り砂煙を上げながら銀時の足元へと迫る。

 銀時は眉ひとつ動かさず、今しがた両断したばかりのオートマタの重い上半身の残骸へ視線を落とすとその強靭な脚力で強引に上方へと蹴り上げた。巨大な鉄の塊が空を飛び、ドローンの群れへと弾丸のように激突して爆発していく。その凄まじい爆炎と熱風を、避けるどころか文字通り生身で切り裂きながら、銀時は爆煙をさらに強く蹴って高く跳躍した。

 

「落ちろォォォォォ!!」

 

 空中で重力に逆らうように身を翻し、木刀の正確無比な一撃で残るドローンのローターを容赦なく叩き割る。

 着地と同時に、背後から無音で迫っていた近接特化兵のブレードによる刺突を、振り返ることもなく左手のマチェットの腹でガキィンと受け止めた。

 激しい火花が散り、銀時の顔を赤々と照らし出す。その眼差しは冷徹そのものの、かつて戦場で敵味方全てを恐怖させた『夜叉』のそれだった。マチェットの刃を滑らせて敵の刃線をいなし、重心をずらした瞬間、そのまま相手の腕ごと胸部の中央制御ユニットを一突きに貫通する。さらに、貫いた敵の身体を力任せに遠心力で振り回し、周囲から殺到するPMC兵の軍勢へと投げ飛ばして、ドミノ倒しのように十数体の兵士をまとめて叩き伏せた。

 両手の手のひらからボタボタと血を流し、白地の着流しを泥と黒いオイルで無残に汚しながらも、その足取りは一歩も引かない。それどころか、戦えば戦うほどにその風格は鋭さを増し、立ち塞がる者すべてを本能的に平伏させる、まさに鬼そのものの佇まいだった。

 その圧倒的な、世界で最も泥臭く、そして誰よりも強固な大人の背中を見て、少女たちの瞳に絶望と理不尽で消えかけていた光が完全に蘇る。

 

「……ようやく、目が覚めた。私たちが、ここで諦めて、立ち止まってちゃダメなんだ」

 

 シロコが愛銃のボルトを激しく引き、金属音を響かせた。その瞳には、諦めではなく、確かな、そして熱い闘志を宿した青い光が狂いなく前方を睨み据えていた。

 

「そうよ! 非公認だろうが不法組織だろうが知ったこっちゃないわよ! カイザーなんかにアビドスを任せておけるかってんだ! アビドスは──私たちのものよ!」

 

 セリカが袖で目元に溜まった涙を乱暴に拭い、声を大にして叫ぶ。その手に握られた突撃銃には、もう何の迷いも、未来への摇らぎもなかった。

 

「私たちが過ごした何気ない時間も、あの部室も、ここでみんなで交わした約束も……誰にも渡しません!」

 

 ノノミがいつものおっとりとした笑顔を完全に消し、重機関銃のマルチバレルを凄まじい駆動音とともに回転させ、力強くアビドスの広大な大地を踏みしめる。

 

『そして──私たちの部活にはホシノ先輩が不可欠です! 誰も、一人の犠牲者だって出させはしません!』

 

 アヤネが端末の通信を再起動し、寸断されていた戦術マップを全力で再展開しながら、バックアップの音声を通信線に向けて絶叫させた。

 

「「「「ホシノ先輩を──返してもらう!!」」」」

 

 対策委員会の心に再び決して消えない、あのどこまでも眩しい太陽のような大きな火が灯った三人は一斉に立ち上がり、それぞれの銃のグリップを固く握り直すと、銀時が単身で切り開いた乱戦の渦中へと、迷うことなく飛び込んでいった。

 アビドス対策委員会と便利屋68。

 かつてアビドスの寂れた街角で激しく火花を散らしたはずの二つの組織が、一人の侍の下で今や完璧なまでの奇跡的な連携を見せていた。

 セリカの突撃銃が正確な弾幕を張って敵の前進を阻み、それに合わせてムツキがいたずらっぽく笑いながら容赦なくカバンから特製の爆薬を投げ込む。ノノミのミニガンが文字通り敵の正面装甲を強引に削り落として火花を散らせば、生じた一瞬の隙を、カヨコの正確無比な狙撃とアヤネの冷静な戦術支援が確実に仕留めてハイテク兵器の機能を停止させていく。

 そして、戦場の一番槍として敵陣を真っ二つに切り裂く銀時の背後は、シロコとアルの二人が完全にカバーしていた。

 左右から迫るオートマタの別動隊に対し、シロコが電撃的な、無駄の一切ない洗練された射撃で関節の駆動系をブチ抜き、アルが狙撃銃をまるで大鎌のように豪快に振り回して、近づく兵士の頭部を力任せに叩き伏せる。

 

「……仲良いじゃねーか、お前ら。この騒ぎが終わったらあとでみんなでパフェでも食いに行ったらどーよ?」

 

 飛び散る黒いオイルの雨を全身に浴びながら、銀時は木刀を肩に担ぎ直し、隣り合う二人へ視線を向けずにニヤニヤと不敵な軽口を叩いた。

 すると、硝煙が白く立ち込める戦場の向こうで、シロコとアルは、申し合わせたかのように息をぴったり合わせて口を揃えた。

 

「「先生と二人がいい!」」

 

「……は?」

 

 あまりにも寸分の狂いもない見事なハモり方に、当の二人の方が一瞬お互いを驚いたように睨みつけ、それからすぐに自分の言った言葉の意味に気づいて真っ赤になり、気まずそうにプイと顔を背ける。

 戦場のド真ん中、命のやり取りをしている最中に予想だにしなかった少女たちの熱烈な返答に、さしもの銀時も「あ、そっち? 」と呆気に取られたように目を丸くした。

 けれど、直後。

 銀時はククッと喉を鳴らし、いつものだらしない死んだ魚の目に、どこか父親か年の離れた兄のような、果てしなく温かい光を宿して、小さく笑った。

 

「なら約束だ、……このクソッタレな地上げ屋の騒ぎを色々全部終わらせたらさ。どこへだって、お前らの胃袋がはち切れるまで美味いもん食いに連れてってやるさ」

 

 その言葉が、少女たちの引き金を引く指にこれ以上ない確かな、そして絶対の力を与える。

 

「……約束。破ったら、今度は本気で銀行を襲撃する綿密な計画に付き合わせるから」

 

「ちょっと、抜け駆けは許さないわよ! 先生、私の最高のハードボイルドでデンジャラスなデートコース、今から覚悟しておきなさい!」

 

「へいへい、お盛んなことで結構だけどよ、まずは目の前のその物騒なガラクタどもをお掃除してからな!」

 

 銀時はマチェットと木刀を再び固く握り直し、夕闇を切り裂くように、敵の分厚い軍勢へと再びその身を躍らせた。

 そして、二つの組織による怒涛の進撃の前に、あれほど強固だったカイザーPMCの包囲網は文字通り瓦解していった。残されたのは、無残に立ち往生する数台の装甲車と、カイザー理事が搭乗する、あの巨大な主力戦車のみ。

 退路を完全に断たれ、自慢の私設軍隊を蹂躙されて包囲された理事は、戦車のハッチから身を乗り出して屈辱と怒りに顔を激しく歪ませた。

 

「おのれ……おのれ、おのれ!! たかが数人の、社会を知らん子どもと、どこの馬の骨とも知れん男一人に! 我がカイザーグループが、この私が莫大な予算を投じて積み上げてきた精鋭がここまで蹂躙されるなど……あってはならん、絶対にあってはならんのだよ!!」

 

 狂ったように叫ぶと、理事は車内へと引っ込み、コンソールに配された赤く巨大な緊急起動スイッチを乱暴に叩きつけた。

 

 ズウゥゥゥン……ッ!!! 

 

 直後、荒野の地盤そのものが戦車の自重で軋むような、地鳴りを伴う凄まじい地響きが辺りに轟く。

 戦車の重装甲が機械的な駆動音を立てて複雑に組み換わり、砲塔が二つに割れて、中から強固な鋼鉄の上半身がせり上がっていく。それはカイザーグループの軍事技術の粋を集めた巨大人型変形兵器──『ゴリアテ改』への変形プロセスだった。

 胴体部分には戦車本来の凶悪な120mm砲がそのまま鎮座し、そして変形を完了した巨躯の両腕には、空気すらも激しく震わせる高周波駆動音を不気味に響かせる、巨大な高周波ブレードが装着されている。

 

「ハハハハ! 灰になれ、坂田銀時ィィ!!」

 

 圧倒的な質量を誇る鋼鉄の怪物が、眼下の銀時に向かってその巨大な刃を天高く振り上げる。

 周囲の少女たちに一気に緊張が走る中、銀時はただ一人、木刀とマチェットを両手に無造作に下げたまま、その『ゴリアテ改』の巨躯を静かに見上げていた。迫り来る圧倒的な鉄のプレッシャーを前にしてもなお、その背中は驚くほどに凪いでおり、酷く落ち着いている。

 銀時は振り返ることなく、背後に立つシロコやアル、あるいは異変を察知してさらに駆けつけてきた他の少女たちの援軍へ、いつも通りに少し気だるげな、けれど絶対の安心感を与える声をかけた。

 

「……俺はあのデカいガラクタを、いつものように適当に片付けてくるからさ。お前らは俺の楽しいお片付けを邪魔してくる、周りのうるせぇ奴らのハエ叩きでもしといてくれ」

 

 短い言葉。だが、そこには彼女たちへの絶対の信頼と、何があっても生徒を守ってみせるという『先生』としての責任が詰まっていた。

 

「……うん。任せて、先生。先生の邪魔はさせない。近づく奴ら、全部撃ち抜く」

 

「フン、あんなハッタリだけのデカいガラクタ、先生の敵じゃないわ! 周りの有象無象は、この便利屋68が一匹残らず灰にしてあげる!」

 

 生徒たちは力強く頷き、即座に散開した。

 銀時とゴリアテの戦場に手出しはさせない。その決意を体現するように、四方から再び迫りつつあったデサント兵や残存するPMCの歩兵軍勢に向け、少女たちが一斉に苛烈な迎撃陣形を展開する。

 邪魔者は一歩たりとも、あの先生の背中へ近付かせはしない。

 銃声と爆音の盾が銀時の背後を完全に守り抜く中、銀時は一歩、深くアスファルトを踏みしめ、眼前の巨大な鋼鉄の敵へと真っ直ぐに視線を据えた。

 

「死ねェ、坂田銀時ィィ!!」

 

 ゴリアテ改の巨躯から、理事の狂気じみた絶叫が外部スピーカーを通じて荒野に鳴り響く。

 同時に、胴体に据え付けられた砲が容赦なく火を噴いた。同軸機銃と大口径の弾幕が激しい重低音の銃声とともに荒野を真横に薙ぎ払い、銀時の足元を瞬時に抉って凄まじい爆煙と砂塵を巻き上げる。

 だが、その鉄の嵐が地面を噛み砕くより早く、空気を切り裂くように銀時の身体はすでに地を駆けていた。

 もはや自らの血と黒く濁ったオイルに染まった白い着流しを激しく翻し、弾道を紙一重で見切りながらジグザグに肉薄する。常人であれば弾圧の風圧だけで肉を押し潰され、五感を奪われるほどの猛射の中を、銀時は死んだ魚の目を獣のようにギラつかせ、驚異的な歩法で突き進む。

 

「ちょこまかと…… 圧し潰せ!!」

 

 間合いに入った瞬間、ゴリアテ改の右の巨腕が空気を引き裂いて唸りを上げた。不気味な高周波駆動音を響かせる巨大なブレードが、銀時の視界を完全に埋め尽くすほどの速度で頭上から垂直に振り下ろされる。

 直撃すれば、生身の肉体など一瞬で消し飛ぶ質量とエネルギー。

 だが──銀時はそれを避けなかった。左手に逆手で握ったマチェットを斜めに突き出し、強引にその大刃を真正面から受け止めたのだ。

 

 ギギギギギギガガガガッ!!!! 

 

 激しい火花が夜闇の荒野を真昼のように白く照らし出し、強烈な金属の摩擦音が鼓膜を激しく震わせる。生身の人間が受け止められるはずのない鋼鉄の自重が、銀時の左腕に全てかかる。足元のコンクリートが蜘蛛の巣状にひび割れて粉々に砕け散り、両腕の筋肉が引き千切れんばかりに膨れ上がった。マチェットを奪った際に焼けた爛れた皮膚が切り裂かれて鮮血がどっと迸る。

 

「ぐ、うおぉぉぉぉッ!!」

 

 銀時は咆哮を上げると、力任せにマチェットを斜め上方へと滑らせ、巨腕の軌道を強引に横へと受け流した。凄まじい風圧とともに高周波ブレードが地面に深く突き刺さり、大爆発のような土煙が上がる。

 だが敵もカイザーの技術の粋を集めた近代兵器だ。右腕をいなされた刹那、間髪入れずに左の巨腕が真横から銀時の胴体を真っ二つに薙ぎ払うべく迫る。

 銀時は受ける猶予を捨て、その場からバックステップで紙一重に身を引いた。目の前を巨大な刃が通過し、風圧だけで着流しの裾が数筋切り裂かれて宙を舞う。

 

「ハハハ、避けてばかりで何ができる! 数の力、技術の力、大企業の力にひれ伏すがいい!」

 

 ゴリアテ改の胴体から、今度は近接防御用のガトリング砲が展開され、至近距離から容赦のない掃射が銀時を襲う。

 銀時は即座に両手で握る木刀とマチェットを風車のように回転させ、迫り来る弾丸を火花を散らしながら弾き落とした。だが、防ぎきれない衝撃が重い打撃となって肉体を叩き、着流しのあちこちに赤い血の滲みが広がっていく。さらに、至近距離からの弾幕の圧力を利用するように、銀時は敢えて大きく後方へと吹き飛ばされる道を選んだ。

 砂塵の中に着地し、低く身を構える。息をする間も与えない猛攻の中でもその呼吸は酷く整っていた。

 

「まだまだァ!」

 

 ゴリアテ改が巨体を激しく揺らしながら、二本の高周波ブレードを十字に構えて突撃してくる。地響きを立てて迫る鋼鉄の突進。

 銀時は真っ直ぐに突っ込んでくる巨躯を見据え、一歩も引かずに地を蹴って正面から迎え撃った。

 衝突の直前、銀時は驚異的な身体能力で上半身を極限まで逸らし、十字に放たれた一撃の死角へと滑り込む。巨大なブレードが頭上をかすめ、発生した高周波の熱気が白髪をチリリと焦がす。

 そのまま巨体の懐、懐深くへと潜り込んだ銀時は、右手の木刀を固く握り直すとその切先を関節の油圧ポンプの根本へと添え、逆手に握りしめるマチェットの柄を振り上げた。

 

「こいつでどうだァァァァ!!」

 

 狙うはゴリアテ改の右膝関節の隙間、装甲が重なり合う最大の継ぎ目。銀時は全身のバネと、すべての怪力をその一点へと集中させ、渾身の力で振り下ろした。

 

 バキィィィィンッ!!!! 

 

 木刀が放ったとは思えない、空間を震わせるほどの破壊的な衝撃音が轟く。衝撃波がゴリアテの巨体を内部から駆け巡り、関節の油圧システムが限界を迎えて破裂、大量の黒いオイルが周囲に激しく噴き出した。

 片膝の機能を完全に破壊された鋼鉄の怪物が、凄まじい金属音を立ててその巨体を前のめりに崩す。

 

「 駆動系に異常!? バカな、ただの木刀一本で、ただの男の一撃で我が社の最高技術が──」

 

 コックピット内で狼狽する理事の悲鳴を、銀時は完全に無視した。

 倒れ込む巨躯の頭部、すなわち理事が潜む胸部装甲の真ん前へ向かって、銀時は剥き出しになった敵の脚部鉄骨を足場に、一足飛びで空中へと跳躍する。

 

「ヒッ……!?」

 

 振り乱された癖毛は鬼の角のように。振り翳された両刀は恐ろしく長い爪のように。

 夕闇の空を背景に、銀時の姿が不気味な『夜叉』の幻影と完全に重なった。

 

「──── くたばりな、ガラクタ」

 

 空中で左手のマチェットを役割は終わったとばかりに容赦なく放り投げ、空いた手で右手の木刀の柄をさらに強く、両手で握り締める。

 落ちていく重力の加速をすべてその一撃に乗せ、銀時は剥き出しになったゴリアテ改のメインカメラ、迅速に計算された胸部装甲の急所へと、木刀を真っ直ぐに垂直に突き下ろした。

 

 ドガァァァァァァンッッ!!!! 

 

 鋼鉄の強固な複層装甲を強引に貫通し、内部の電子基板や中央制御システムごと木刀の先端が圧し潰す、破壊的な一撃。

 ゴリアテ改の頭部と胸部から、激しい電気火花と真っ黒な爆煙が派手に吹き上がる。

 巨体は完全にその全機能を停止し、断末魔のような駆動音を漏らしながら、アスファルトへと激しく崩れ落ちた。

 大破したゴリアテ改の胸部装甲が内側からの爆発で弾け飛び、操縦席から無様に地面へと吹き飛ばされた理事は、すぐさま周囲にいた取り巻きのオートマタ兵たちに囲まれ、抱え上げられるようにして保護された。

 

「おのれ、おのれおのれ!! 一度退却だ、体勢を立て直す! ……覚えていろ坂田銀時ィ、この代償は高くつくぞォ!!」

 

 負け犬の遠吠えのような叫びを響かせながら、理事をはじめとしたオートマタ兵の残党は、命からがらHQへと撤退していく。

 それを見届けた端末の向こうから、涙の混じった安堵の声が響いた。

 

『……敵勢力、完全に撤退していきます……! 私たちの、勝ちです……!』

 

 取り巻きの兵士たちを相手取っていた少女たちの間にも、一気に歓喜の声が上がる。

 

「あはは、覚えてろーなんてセリフ、本当に言う人がいるんだね!」

 

「うん、今回は上手くいった。この方法で風紀委員を撃退できるといいんだけど……」

 

 口々に勝利の余韻を語り合う中、戦場の中心にぽつんと佇んでいた銀時は、ゆっくりと得物から力を抜き、木刀が手から滑り落ちた。

 ただでさえ無茶な乱戦を一人で引き受け、赤熱した刃を素手で掴み、巨大兵器と正面から殴り合ったのだ。肉体にかかっていた負荷は、とっくに限界を越えていた。

 ガシャリ、と瓦礫が崩れる音と共に、銀時の巨体がゆっくりとアビドスの地面へ向かって倒れ込む。

 糸が切れたように、深い気絶の闇へと落ちていくその背中を、少女たちが慌てて駆け寄る靴音が包み込んでいった。

 

「先生……!」

 

「しっかりしなさいよ、先生! 先生!!」




ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。

やっぱり銀さんは血まみれになりながら乱戦するのが似合います。マジメロい
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