『目標の座標近辺に到着! この辺りにホシノ先輩が閉じ込められているはずです……!』
アヤネの必死のオペレーションが響く中、銀時たちの目の前に現れたのは、砂漠のど真ん中に不自然にそびえ立つ、見覚えのある意匠の巨大な建物だった。砂に埋もれ、風化しつつも、かつての威容を遺すその姿に、銀時は小さく目を細める。
「……ここは……学校か?」
「────その通りだ、アビドス対策委員会、そして……忌々しいシャーレの臨時の先生、坂田銀時」
銀時の呟きに応じるように、建物の影から傲慢な足音と共に姿を現したのは、カイザーPMCの理事だった。その背後には、地平線を埋め尽くさんばかりの、先ほどまでとは比較にならない規模の重装甲オートマタ兵の大軍勢が、不気味なカメラアイを赤く明滅させて控えている。
「ここはかつてキヴォトスで最も強大だったアビドス高校の本校舎だ。よくぞここまで来たものだ、……よくもここまで防衛線を荒らし回ってくれたものだ、と言い換えるべきかもしれないがね」
理事は忌々しそうに、しかし勝ち誇ったように銀時たちを見下ろした。対する銀時は、腰の木刀に手をかけ、いつも通りの死んだ魚の目で鼻を鳴らす。
「けっ、てめえらが大金はたいて並べた防衛網なんざ、コイツらJKにとってはただの障害物競走のハードルにもなりゃしなかったっつーことさ。本社への始末書にでも書いとくことだ。たった数人の女子高生にコテンパンにされて、ついでに白髪の甘党のオッサンにケツ引っ叩かれましたってな」
「いや、そんなことにはならない。君たちはここで、一人残らず終わらせる」
理事が冷酷に指をパチンと鳴らす。
その合図と共に、本校舎の屋上や窓、砂の中からも、地響きを立てて無数の近接戦特化型オートマタ兵が展開し、銀時たちを完全に包囲した。
『くっ……! 基地内、および周辺に配置されていた残存戦力をすべてここに集結させています……! 完全に総力戦を目論んでいるようです……!』
アヤネの悲鳴に近い通信が飛ぶ。銀時はやれやれと首を振った。
「けっ、大層な歓迎パーティなことで。これで失敗したら、あんたの立場も始末書じゃ済まねえんじゃねーのか? 割に合わなすぎらぁ」
「なに、あの遺物を見つけ出し、ゲマトリアの実験を完成させればどうにでもなる。そのために必要な投資というものだ。特に……坂田銀時、お前のその理外の命をここで奪えば、カイザーにとっては十分お釣りがくる」
理事が歪んだ笑みを浮かべ、前衛のオートマタたちが一斉に冷たい金属刃を突き出してきた。
「ホシノはあの建物の中にいる。……小鳥遊ホシノを救いたいならば、我々という絶望を押し除けて通るがいい。それができるのであればだがね!」
理事が天を仰いで高笑いし始めた、まさにその瞬間。
ドガァァァァァンッッ!!!!
突如として、アビドス一行を包囲していたオートマタ兵の真っ只中で、何十もの理不尽な爆発が連鎖的に巻き起こった。
吹き飛ぶ鉄屑と砂塵の向こうから、煙を撒き散らしながら堂々と歩み出てくる四つの影。
「……たく、遅いぜポンコツ社長とその一味」
銀時がニヤリと口角を上げると、爆煙の中から聞き馴染みのある、小悪魔的な笑い声が響く。
「やっほー♡ 来ちゃったよセンセー♡ 困ってる大人の前に颯爽と現れるなんて、私たちらしくて最高にハードボイルドじゃない?」
ムツキが両手に自慢のバッグを抱え、クスクスと悪戯っぽく笑う。
「……まったく、何が悲しくてカイザーの本陣に乗り込まなきゃいけないのよ」
カヨコがいつものように大きなため息をつきながらも、アサルトライフルのボルトを静かに引いた。
「お、お邪魔します……! 先生とアビドスの皆さんを邪魔する奴らは、私が一人残らず建物の土台ごと爆破して埋め立ててあげますぅぅ!!」
ハルカが狂気と盲信の入り混じった輝くような眼差しで、ショットガンを構えて叫ぶ。
そして、便利屋68のリーダ──―陸八魔アルは、銃口を理事に向けたまま、銀時の姿を盗み見た。無理な進軍のせいで、彼の巻かれた包帯にも、白い着流しにも、明らかに赤黒い血のシミが広がっている。
(……あの人、あんな身体でまだ戦おうとしてる。生徒のために、命を投げ出すみたいに……)
アルはきつく目を細め、一瞬だけ唇を噛んだ。けれどすぐに顔を上げ、辺りを埋め尽くすカイザーの大軍勢を見渡す。そして、少しだけ俯いて、大切な仲間である三人に静かに謝った。
「……みんな。私の我が儘で、こんな無茶させちゃうけど……許してね」
アルの言葉に、隣のムツキが即座に弾けたような笑顔を返す。
「なーに言ってんの! アルちゃんとセンセーのためなら……私たちは何だってできちゃうよ!」
「アル様のためなら、私は地獄の底までもお付き合いする所存です! たとえこの身が消し炭になろうとも!!」
ハルカが涙目で大真面目に叫び、カヨコも呆れたように、けれど確固たる信頼を込めて首を縦に振った。
「……仕方ないね。社長命令なら、とことん付き合ってあげるよ。ゲヘナに帰ったら、たっぷりボーナス色をつけてもらうから」
仲間の言葉に、アルの胸の奥に熱い勇気が満ちていく。彼女は拳を握りしめ、空気を目一杯に吸い込んで、これ以上ないほど堂々と、戦場に響き渡る声で叫んだ。
「……ここは私たち『便利屋68』に任せて、あんたたちは先に行きなさい!!」
その姿は、いつものポンコツな彼女ではなく、紛れもない一人の立派な「社長」の背中だった。
「……アイツら、やっぱ最高にかっこいーじゃねえか」
銀時は不敵に笑みを浮かべ、木刀を肩に担ぎ直すと、ホシノがいる本校舎の入り口へと足を向けた。
「……っ」
セリカは便利屋たちの戦力が心配なのか、その場に足を止めて後ろを振り返ってしまう。そんな彼女の背中を、銀時の言葉が優しく、力強く押し出した。
「アイツらがああ言ってるんだ。悪党の流儀って奴を……アイツらのことを信じて、俺らはホシノのとこに行くぞ。ここはあのバカ社長の最高のステージだ」
セリカは一瞬だけ目を見張り、それから、涙を振り払うように勢いよく前を向いた。そして便利屋の背中に向かって、全力の声を張り上げる。
「……あー、もう! アンタら! 無事で帰ってきたら、柴関ラーメンの屋台で待ち合わせだからね! 一人でも欠けたり遅れたりしたら、絶対に承知しないんだからね!!」
アビドスの面々と一人の先生は、便利屋68が作り出した鉄火場を、最深部へと向かって一気に駆け抜けていく。
背後で、数条の光条と激しい銃撃戦の音が爆発した。
飛び交う弾丸と爆炎の真ん中で、陸八魔アルはカイザーの大軍勢を真っ向から睨み据え、その不敵な笑みを砂漠の戦場に咲かせる。
「……さあ、最高のショータイムよ!!!」
──────────
『ここです! この建物の中にホシノ先輩が……!』
アヤネの焦燥と期待の入り混じった声が無線から響く。目の前には、周囲の砂を拒絶するようにそびえ立つ、重厚なバンカーの鉄扉。
その入り口へと一歩を踏み出そうとした、まさにその時だった。
ズウゥゥゥゥンッッ!!!!
突如として上空から質量兵器が降ってきたかのような、激しい地鳴りと共に巨大な影が立ち塞がった。巻き上がった砂塵の向こうから現れたのは、カイザーの科学力の結晶たる巨大兵器──先日、銀時が沈めたはずの、あの『ゴリアテ』の同型機だった。
「まだだ!!! まだ終わってない!!! 合理的な大人の計画が、このような不条理に阻まれてたまるかぁぁ!!!」
操縦席のハッチから顔を覗かせたカイザー理事は狂気と怒りで血走ったような赤いモノアイを見開いて絶叫していた。
「……しつけーな、テメーも。セリフも相俟ってどこの液体蛇だっつーの。お前それ、最後は全裸で潜水艦の上で殴り合うハメになるからやめとけって。……いやアレは山猫だったか」
銀時は盛大に舌打ちをし、肩をすくめて木刀を構え直す。
「対策委員会、貴様らも目障りだったが……坂田銀時、貴様が、貴様という存在が特に目障りだった! あと少しでコイツらの心を完全に折れたのに、あと少しでアビドスを私のものにできたのに、あと少しで私の計画が、私のキャリアが最高のものになっていたのに!! 私の、私の計画があぁァァァァ!!!」
理事が狂ったように叫びながらレバーを引くと、ゴリアテの巨体から無数の変形アームがガシャガシャと音を立てて展開された。
大口径の機関砲、鉄塊のような钝器、そして陽炎をまとった巨大な高熱の振動刃。そのすべてが、明確な殺意となって銀時一人へと向けられる。
「対策委員会なぞもうどうでもいい! 坂田銀時! 貴様だけは! 貴様だけは絶対にここで肉片に変えて潰してやる!!」
「へーえ、大層なご指名でこって。ストーカーにしちゃあちと図体がデカすぎんだよ。……まあ、売られた喧嘩だ。コイツぁ乗らねえ以外の選択肢はねえな」
銀時は痛む脇腹を強引に無視し、満身創痍の身体で一歩前に出ようとした。執念に囚われた男の相手は、同じく泥をすすってきた大人である自分がやるべきだ、と。
だが──その銀時の身体を追い抜くようにして、三人の少女たちが彼の前に、そして隣に並び立った。
「……お前ら」
銀時が目を丸くする。シロコはアサルトライフルをしっかりとホールドし、その冷徹な青い瞳でゴリアテを見据えていた。
「……勝手に男同士の決闘になんかさせない。私たちは、対策委員会だから。先生一人の我が儘には付き合わない」
「そうよ! あんたばっかり格好つけんじゃないわよバカ先生! アイツらには私たちを舐めたことを後悔するくらいの、徹底した屈辱を味わせてやるんだから!」
セリカが銃口を向け、鋭い八重歯を覗かせて不敵に笑う。
「はい☆……私たちがここまで来られたのは、先生が一緒にいてくれたからです。だから最後も、私たちは先生の隣に立って戦いたいので!」
ノノミはいつも通りの優しい笑顔のまま、ミニガンのバレルをガシャリと回転させた。
『私も全力でサポートしますから!』
インカムの向こうでアヤネが力強く口にし、十数機のドローンが空に浮かぶ。
満身創痍の自分を守るように並び立ち、それでいて一人の戦士としてあまりにも堂々とした少女たちの背中。それを見つめていた銀時は、呆れたように天を仰ぎ、クスクスと、やがて低く笑い声を漏らした。
「……あー、ホント。どいつもこいつも、生意気でいい女になりやがって。勝手にしろよ、もう。言っとくが足手まといは容赦なく置いてくからな」
銀時は包帯だらけの右手で、木刀の柄を爆発的な握力で握りしめた。瞳の奥に、血が滾る。
少女たちは、一寸の迷いもない声を綺麗に揃えて言い放った。
『「「「上等っ!!」」」』
「……行くぞ、てめえらァァァァ!!!!!」
銀時の咆哮が砂漠を揺るがす。
「死ねぇぇぇ!!!坂田銀時ィィィ!!!」
カイザー理事の狂乱の叫びと共に、ゴリアテの巨大な右アーム──超振動をもたらす高熱の巨大な刃が、空気を焼き裂きながら銀時の頭上へと振り下ろされた。まともに喰らえば、いかに頑強な肉体を持っていようとも一瞬で消し炭にされる。
「先生、下がって!」
シロコが砂を蹴り、その軌道上へと割り込んだ。手にしたアサルトライフルから放たれるのは、戦車をも足止めした精密な一連の点射。放たれた弾丸がゴリアテの関節駆動部にピンポイントで直撃し、強烈な金属火花を散らす。
完全に破壊するまでには至らないものの、弾威によって巨大刃の軌道がわずかに右へと逸れた。
ズガァァァァンッッ!!!
銀時がいたはずの砂面が爆発的に抉れ、凄まじい砂煙が巻き上がる。だが、その視界不良の煙の中から、既に銀時の姿は消えていた。
「お嬢ちゃんたちの援護を無駄にするほどヤボな大人じゃねーんだわ!」
低い声が響いたのは、ゴリアテの死角である左側面。銀時は傷口から血を噴き出しながらも、低空を這うような凄まじい制動で懐へと潜り込んでいた。
逆手に持ち替えた木刀『洞爺湖』が、ゴリアテの左脚部関節、装甲の継ぎ目へと容赦なく突き立てられる。
ギチチチチィィィ!!!
人間の腕力ではあり得ない強烈な一撃が、駆動ギアを強引に噛み合わせ、火花と共にその動きを強制停止させた。
「生身の人間がこの鋼鉄の巨体に勝てると思うなァァァァ!!」
理事が狂ったようにコンソールを叩くと、ゴリアテの胸部ハッチが開き、近距離用の無数のマイクロミサイルが装填される。一斉に放たれれば、至近距離にいる銀地もろとも周囲は更地と化す。
「そうはさせるかぁぁぁ!!」
そのピンチを救ったのは、側面から回り込んでいたセリカだった。
彼女はダッシュの勢いのまま、ゴリアテの胸部ハッチへと文字通り飛び移る。そして、ミサイルが射出される直前の発射口に向けて、躊躇なく手榴弾のピンを抜いて押し込んだ。
「プレゼントよ、受け取りなさい!!」
「何ぃっ!?」
セリカがバックステップで離脱すると同時に、ゴリアテの胸部でくぐもった大爆発が巻き起こる。
内部での誘爆。黒煙がハッチから噴き出し、ミサイルの発射機構は完全に沈黙した。
「まだです、まだ終わりませんよ〜☆」
間髪入れず、後方でしっかりと腰を落としたノノミがミニガンの銃口をゴリアテの頭部メインカメラへと固定した。
再び砂漠を支配する、空間を切り裂くようなガトリングの咆哮。
ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥンッッ!!!!
毎分千発の鉄の嵐が、誘爆によって装甲の剥がれたゴリアテの胸部から頭部へと一直線に降り注ぐ。防弾ガラスが粉々に砕け散り、理事の視界を確保するための外部モニターが次々とブラックアウトしていく。
「な、なにも映らん!? どこだ、ネズミどもはどこにいる!!」
視界を奪われ、完全にパニックに陥ったゴリアテが、狂ったように巨大アームを振り回して周囲の砂壁を破壊し始めた。その圧倒的な質量兵器の暴走は、掠めるだけでも命取りになる。
「ええい、どこだ! どこへ行った坂田銀時ィィ!!」
メインモニターの殆どをノノミの銃撃で叩き割られ、火花と警報音が狂ったように吹き荒れる操縦席の中で、理事は狂乱のままに操縦桿を激しく動かした。盲目となったゴリアテは、残された左の巨大アームを周囲の瓦礫ごと、ただ無差別に振り回すことしかできない。
その凶悪な鉄塊が風を切り裂き、防壁の破片を巻き上げて迫る。生身で喰らえば一撃で肉塊に変えられる暴風。
「ん、そこ」
だが、シロコはその破壊の軌道を、まるでスローモーションのように見切っていた。
彼女は砂塵を滑るようにダッシュし、振り下ろされるアームの風圧を紙一重でかわす。それと同時に、手に持ったアサルトライフルの銃身を、ゴリアテが大きく振りかぶった「肘」にあたる露出した油圧シリンダーへと正確に向けた。
バン、バン、バン、と乾いた銃声が三度。
至近距離から放たれた徹甲弾がシリンダーのシャフトを直撃し、内部の作動油が派手に噴き出す。
「ガ、ギギ、ギ……ッ!?」
バランスを崩し、その巨大な左腕が完全に機能を停止してダラリと垂れ下がった。
「アヤネ、お願い!!」
『セリカちゃん! 右前方の足場、崩れるから注意して!』
アヤネの完璧な戦況把握と同時に、セリカがゴリアテの足元へともう一発の手榴弾を転がした。
ただでさえシロコと銀時に脚部を痛めつけられていたゴリアテは、その爆発の衝撃に耐えきれず、ガシャァァンと重々しい音を立てて砂漠の土壌へと片膝をつく。巨体が大きく前傾し、ハッチのある頭部が地表近くまで下がってきた。
「そこを動くんじゃないわよぉぉ!!」
セリカがすかさずアサルトライフルを構え、剥き出しになった機関砲の給弾ベルトを狙って銃弾を叩き込む。ジャムを起こした銃身が激しい火花を散らし、ゴリアテの持つすべての遠距離武装がこれで完全に無力化された。
『ノノミ先輩、最後の弾幕お願いします!』
「はーい☆ 特大のやつ、行きますね〜!」
ノノミがミニガンを構え直し、残った全弾を吐き出すようにトリガーを絞り続ける。
けたたましい銃声が再び砂漠に鳴り響き、ゴリアテの全身の外部装甲が、まるで紙切れのように次々と引き剥がされていく。内部の電子基板が露出し、激しい漏電の光がパチパチと巨体を包み込んだ。
「バ、馬鹿な……! カイザーの誇る最新鋭兵器が、たかが数人の学生相手にここまで……!!」
操縦席の中で、理子は完全にコントロールを失ったレバーを握りしめ、ガタガタと震えていた。
残された武装はなく、センサーは全滅。システム停止までのカウントダウンが、無情にも赤い警告灯と共に点滅している。
「おいおい、終わりじゃねえだろ。まだ、一番重い『報い』って奴を渡してねえぞ俺ァ」
硝煙と砂煙を割ってゆっくりと歩み出てきたのは、白い着流しを真っ黒なオイルと自身の血で汚した、坂田銀時だった。
その手にある木刀の先が、静かに砂の上に軌跡を描いている。満身創痍のはずのその身体から圧倒的な、そして冷徹なまでの覇気が立ち上っていた。
「な、何なんだ……何なんだお前は! 貴様のような理外の人間がなぜそんなボロボロの身体で、たかが数人のガキのためにそこまでできる!!」
火花を散らし、黒煙を吹き上げるゴリアテのコックピットから、理事の絶望に満ちた悲鳴が響き渡る。
しかし、銀時はその問いに答えることすらしない。ただ一歩、また一歩と、鈍い血色を帯びた瞳でゴリアテを見据えながら、静かに間合いを詰めていく。
「先生!」
シロコが叫ぶと同時に、アビドス対策委員会の三人が一斉に動き出した。
「これが、アビドスを、私たちをコケにした報いよォォ!!」
セリカが残った弾倉をすべて吐き出すように、ゴリアテのハッチの固定ボルトに向けて猛射を浴びせる。火花が散り、強固に閉じられていた装甲ハッチのロックが衝撃でひしゃげ、強制的に開いた。
「これで、本当の本当に終わりです……!」
ノノミがミニガンの銃身を力任せにゴリアテの足元へと叩きつけ、物理的な衝撃で巨体を完全に地面へと縫い止める。
「ん、先生、行って」
シロコが銀時の背中を強く、そして信頼を込めて押し出した。
「……おうよ」
銀時が砂を蹴った。
傷口から鮮血が激しく飛び散る。包帯が解け、つい先日赤熱した鉄を掴んだ掌から再び生々しい血が滴る。だが、その痛みすら。今の彼にとっては加速のための燃料に過ぎなかった。
──── それは侍、と言うにはあまりにも荒々しい姿で。
「俺ぁコイツらの先生だ。良いことしたなら褒め倒して、悪ぃことしようとすんならゲンコツしてでも止めてやる。背負ってる生徒のためなら国だって転覆できちまうのが先生だ。先生ってのは、そーゆーモンだ。理事だか社長だか知らねェが……」
銀時はゴリアテのひしゃげた装甲を足場に、一気に天空へと跳躍した。
逆光の太陽を背負い、白い着流しが砂漠の風に激しく翻る。
銀時は空中でのたうつゴリアテを見下ろし、木刀を両手で、これ以上ないほどの爆発的な握力で握りしめた。
────その眼差しは、チンピラというにはあまりにもまっすぐで鋭く輝いていた。
「コイツらの家族の、その想いを、居場所を……!! 自分の出世の道具にしようってその汚ぇツラ、二度と俺の生徒に見せんじゃねェェェェ!!!!」
大上段からの、魂を乗せた一閃。
ドガァァァァァァァァンッッ!!!!
木刀がゴリアテの頭部、そして開いたハッチの奥にある操縦席のコンソールへと真っ直ぐに叩きつけられた。
人間の腕力、ましてや木刀が放ったとは到底信じられないほどの、凄まじい衝撃波が炸裂する。鋼鉄のフレームが歪み、電子基板が派手に爆散し、ゴリアテの巨体が内部からの大爆発と共に、砂漠の砂へと完全に沈み込んだ。
「ア、アガ、ガァァァァ……ッ!?」
衝撃でコックピットから放り出されたカイザー理事は、砂の上を何度も無様に転がり、その豪華なスーツを泥と砂で汚しながら、文字通り完全に大の字になって気絶した。
静まり返る砂漠。
ゴリアテの残骸から激しい黒煙が立ち上る中、銀時はよろけながらも、着地と同時に木刀をズボリと砂に突き立てて身体を支えた。
「ハァ、ハァ……っ、クソ……、まーた傷が開いちまったじゃねーか……。アヤネ、おーい、アヤネ……」
通信機に掠れた声を吹き込む銀時。すると、無線機の向こうから、涙を堪えながらも晴れやかなアヤネの声が響いた。
『はい……! はい、先生! 敵戦力、完全に沈黙しました! カイザー理事の無力化を確認しました! 状況はクリアです!』
アヤネの心強い報告に、銀時は木刀を砂から引き抜き、痛む脇腹をさすりながらニヤリと笑みを浮かべた。
「……やーっと眠り姫とご対面出来るわけだ。さっさと起こしに行くぜ、お前ら」
その言葉に、シロコ、ノノミ、セリカの三人が力強く頷く。彼女たちの瞳には、もはや一寸の不安も曇りもなかった。
五人は一歩ずつ、砂を踏みしめながら、目の前にそびえ立つ固く閉ざされたバンカーの前に進み出る。背後では便利屋68が未だに大立ち回りを演じている銃声が遠く響き、ゲヘナやトリニティの面々が繋いでくれた道が、今確かにこの扉の前へと至っていたのだった。
やっぱりね、血だらけで泥臭く戦って勝ちをもぎ取る銀さんはマジでメロいんすよ。脳が焼かれるに決まってるでしょこんなの
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