ブルーアーカイブ 透き通る青春よ永遠なれ   作:Jon.Do

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ターミネーターはシュワちゃんが味方だと安心するので初投稿です


第三十二話 お説教

 モモイによる苦し紛れを叱り終えてから一息をつくと、これは覆らないとばかりにユウカは二人人指し指を突きつけ厳格なトーンで宣告した。

 

「と、に、か、く! 規定の人数に所属者が達するか、ミレニアムの予算に見合うだけの成果を出しでもしない限り、この決定は覆りません! 明日には部室の差し押さえ手続きに入りますからね!」

 

「成果なら出してるじゃない! 私たちゲーム開発部なんだから、ちゃんとゲームを開発してるもん! 遊んでるわけじゃないもん!」

 

 モモイが涙目で拳を握りしめ、必死の形相で声を張り上げた。その横で、ミドリも怯えながらも姉に加勢するように言葉を紡ぐ。

 

「そ、そうですよ……! 私たちが作った『テイルズ・サガ・クロニクル』だって、ゲームコンテストでちゃんと入賞だって、して……」

 

「あー? テイルズ……なに? クロコダイル? 何だお前ら、校庭にバベルの塔建ててギャンブルするだけのトラブルメイカー集団かと思ったら、ちゃんと部活のタイトル通りにゲーム作って実績残してんじゃねーか。やるじゃん、銀さん見直しちゃったわ」

 

 棚のゲームカセットを弄っていた銀時が、意外そうな顔で双子を振り返る。

 だが、ユウカは冷ややかな目を崩さないまま、手元の端末の画面を冷酷にスクロールさせながら語り始めた。

 

「……入賞はしてるんですけどね。確かに実績の数字としては残っています。ですが、彼女たちの唯一の成果とも言えるそのゲーム……中身もさることながら、ネットに上がっている一般ユーザーからのレビューも、セミナーとして大変印象的でした。例えば、これとか」

 

 ユウカは感情を一切排した事務的な声で、端末に表示されたカスタマーレビューを淡々と読み上げ始める。

 

「『私がこれまでやってきたゲーム史上、最も絶望的なRPG。シナリオではなくてゲームとしての完成度が』」

 

「うぐっ……!」

 

「さらに、これ」

「『このゲームに何が足りないのかを挙げたらキリがないけど……一番足りてないのは開発者の正気』」

 

「う、ううぐっ……!」

 

「極めつけはこれです」

「『このクソゲーをプレイした後だと、あの世紀の産業廃棄物と言われた「デッドクリームゾーン」はまだマシな部類なんじゃないかって思う自分がいて辟易する。二度と起動しない』……以上です」

 

「ズタボロじゃねえか!? どんなクソゲー作ったんだお前らは!? プレイヤーの精神にダイレクトアタックして絶望させるタイプのゲームか!? それもうエンターテインメントじゃなくて一種の電子兵器だろ!?」

 

 並べ立てられるレビューの数々。その一つ一つに少しずつ顔を険しくした銀時はモモイ達へと振り返ると思わずそう告げていた。

 

「ね、ネットの、悪意には屈しない……! 時代がまだ、私たちの感性に追いついてないだけだもん……!」

 

 モモイが涙目で震えながらも、負け惜しみ全開で拳を突き上げる。しかし、ユウカは容赦なく追撃のデータを突きつけた。

 

「たくさんのレビューが集まれば、それは一つの客観的な真実になるのよ。それに『入賞』って言ったって、それ、今年のクソゲーランキング第一位のことでしょ?」

 

「あうううっ……!」

 

 今度こそ完全に逃げ道を塞がれ、ミドリが両手で顔を覆ってうめき声を上げる。

 

「とにかく。あなた達のような部活がこのまま活動していても、学校の名誉に泥を塗るだけ。その分の部費を他の、もっと真面目に研究成果を上げている部活に回した方が、意義のある活動をしている生徒達のためにもなるわ。それでももし、自分たちの活動にも意義があるっていうなら、明確な数字で証明なさい」

 

「……はーん。つまりあれか。プロジェ○トXとかどっかのドラマみてえにさ、ドン底からの大逆転劇! みてえなデケー功績を、コイツらが挙げりゃ文句ねーってわけか」

 

 銀時はフーフーとカセットに息を吹きかけながら、退屈そうに話を要約する。

 

「そういうことです。……でも、彼女たちの開発能力はクソゲーランキングが証明済み。普通のコンテストで入賞することさえ、今の彼女たちには不可能に近いと思うけれど」

 

「うぐう……」

 

 畳み掛けるようなユウカの言葉にモモイは俯きながら言葉を詰まらせた。

 

「どうせなら、お互いに楽な方法で済ませちゃいましょうよ。荷物をまとめて、この辺りに散らかっているガラクタも、早く処分して──」

 

「──── ガラクタって言わないで」

 

 低く、けれど芯の通ったモモイの声が部室の空気を震わせた。

 その言葉に宿った、先ほどまでとは違う明らかな熱量に、しれっとレトロゲームを物色していた銀時が、片目を細めて視線だけを双子の姉へと向けた。

 

「必ず、結果で示す。今度の『ミレニアムプライス』で、絶対に受賞して見せるから! 私たちが全力で開発する、テイルズ・サガ・クロニクル2(TSC2)で!!」

 

「……本気で言っているの? それ、高校球児がいきなりメジャーリーグに行ってホームラン王を目指すようなものよ?」

 

 ユウカの目は冷ややかだったが、その奥には驚きが混じっていた。

 銀時は物色していた手を止め、隣でハラハラしている妹の方へ声をかける。

 

「……なぁ、ミドリ……だったか。その、ミレニアムなんちゃらプライスってのは一体なんなん?」

 

「あ、はい……それは、ミレニアムで最も権威のある、最高峰の技術とアイデアを競い合う学園規模のコンテストで……」

 

 ミドリからの説明を聞き終えた銀時は、ミレニアム中の技術者たちがその発明品で本気で殴り合うというその魔境のコンテストに、クソゲーの覇者がTSC2を引っ提げて殴り込むというあまりの無謀さに、思わず「ひゅう」と小さく口笛を鳴らした。

 

「……けっ、夢はでっかくってか。悪くねぇ」

 

 口元に楽しげな不敵な笑みを浮かべる銀時を見て、ユウカは大きなため息を吐き出し、双子に背を向けた。

 

「……まあ、いいわ。そこまで言うなら、私もあなた達がどんな不条理を引っ提げてくるのか楽しみになってきたし。ミレニアムプライスの結果発表までは、廃部の手続きは保留としましょう。せいぜい足掻いてみなさい」

 

 ユウカは書類の束を抱え直すと、部室の出口へと歩き出す。だが、ドアに手をかけたところで、その藍色のツインテールを小さく揺らしながら、誰に言うでもなくぽつりと呟いた。

 

「……はあ。再会して早々お説教もそうだけど、こんな可愛くないところを先生に見せてしまうなんて……。でも、これも生徒会の仕事なので、仕方のないことですし……」

 

 その背中に向けて、銀時は木刀の柄をポンポンと叩きながら、呆れたような、けれどどこか温かい声をかける。

 

「それがお役所勤めの難儀ってもんだろ。それに、お前さん。文句ばっか言ってる割には、結構優しいとこがあるじゃねーか」

 

「なっ……! ……この子たちが、ゲームに対して全力なのは本当のことですから。……では、先生。今度はもっと落ち着いた状況で、ゆっくりお会いしましょう。……色々お話ししたい、ですから」

 

 ユウカは少しだけ顔を赤くして振り返ると、今度こそヒールを小気味よく鳴らしながらバタバタと勢いよく去っていった。

 

 静かになった部室で、ミドリががっくりと肩を落とす。

 

「……お姉ちゃん、本当に大丈夫なの? あんなこと言っちゃって……よりにもよって、あのミレニアムプライスだなんて……」

 

「でも、そのくらい高い目標じゃないとユウカだって納得してくれないでしょ……! だからこそ、私たちはこの難関をクリアするために、シャーレの先生を呼んだんだから!」

 

 モモイとミドリの二人が、すがるような、そして期待に満ちた熱い眼差しを銀時へと一斉に向ける。

 

「……へっ。アイツにあんだけ大口叩いたんだ。たった二週間でメジャーリーグを獲るための策ってのは……最初に言ってた、その『廃墟』ってトコにあるんだろ?」

 

「せーかい! さすが先生、話が早い! そこにはね……伝説のゲーム開発者が残したとされる、すべてのクリエイターの聖典──『G.bible(ジーバイブル)』が眠っているの!」

 

 ──────────

 

「……」

 

「……お姉ちゃん、一体いつまでこうして隠れていればいいの?」

 

 ミレニアム郊外に広がる、太陽の光さえどこか寂しげに遮るような巨大な建造物の残骸。三人は今、連邦生徒会によって出入りを厳重に禁じられた禁足地──『廃墟』と呼ばれるエリアの深部へと足を踏み入れていた。

 崩れ落ちたコンクリートの瓦礫の影に身を潜め、モモイとミドリが息を殺して様子を窺う。その視線の先ではオートマタたちがギシギシ、と金属の外骨格を不気味に軋ませながら、無機質な赤色灯を明滅させて周囲を警戒していた。

 

「……なぁ、俺つくづく思うんだけどさ。キヴォトスって実はこれ、あの未来からサイボーグが攻めてくるターミ○ーターの世界だったりしねえ? やだぞ、銀さん全裸のシュワちゃんがどこからか現れて『アイル・ビー・バック』とか言われたら勝てる気がしねえぞ」

 

 そんな緊迫感の欠如した男のぼやきに、ミドリは縮こまらせながら声を震わせる。

 

「こ、怖いこと言わないでください、先生……! あんな無骨なロボットたちに囲まれたら、いくら私たちでもひとたまりもないです……っ」

 

 涙目を浮かべるミドリを他所に、銀時は隣で真剣な顔をしているモモイに静かに問いかけた。

 

「てか、ここは一体全体なんなんだ? 廃墟っつーからには、もっとお化け煙突がぽつんと立ってるような静かな場所だと思ってたのに。あんな殺る気満々のロボット兵がうじゃうじゃいるんじゃ、おちおち宝探しもできやしねえ」

 

「んー、ヴェリタスから教えてもらっただけだから詳しくはわからないんだけど。ここは昔から特別な禁足地だって言ったよね? そういうふうに決めて、この場所を隠したのは他でもない連邦生徒会長だったの」

 

「連邦生徒会長が……?」

 

 モモイの口から出た意外な名前に、ミドリが目を丸くする。

 

「そう。あの人が健在だった頃は、連邦生徒会が直々にこのエリアの警備をしてたみたい。だけど、あの人が行方不明になってからはガードナーたちが撤退しちゃって。今は残された古いセキュリティシステムが、プログラムの命令通りにずっと見回りを続けてるみたいなんだよね」

 

「ふうん……失踪した生徒会長が直々にねぇ……。ますますきなくせえ場所ってことか」

 

 銀時は木刀の柄を軽く指で叩きながら、警戒の目をオートマタへと戻す。するとモモイは、かつて天才ハッカー集団の部長が口にしていたという言葉を、どこか神妙な面持ちで思い返す。

 

「それでね、ヴェリタスのヒマリ先輩が言うには……『あそこはキヴォトスから消えて、人々から完全に忘れ去られたものが流れ着く、時代の下水道みたいな場所なのかもしれない』……って」

 

「あの、自分は全知の超天才にして絶世の美少女……とか何とか自分で言っちゃうくらいに頭のいいヒマリ先輩が、『かもしれない』なんて曖昧な言葉を使うくらいに未知の場所なんだ……。って、もしかして! お姉ちゃん、キヴォトスから消えて忘れ去られたものが集まるっていう、そんなオカルトじみた情報だけでここに私と先生を連れてきたの!?」

 

 ミドリが青ざめた顔で姉の肩を揺さぶるが、モモイはフンスと鼻を鳴らして胸を張った。

 

「違うよ! ちゃんと数学的な裏付けがあるの! つい最近、その廃墟の奥から、伝説の『G.bible』が一時的に起動したと思われる特異な信号の反応があったって、ヴェリタスの端末からログを見せてもらったんだもん! その発信源が、間違いなくこの場所ってわけ!」

 

「ちょっと、声が大きいって──!」

 

 興奮のあまり、モモイが思わず声を張り上げてしまったその瞬間。

 カチャリ、と無機質な機械音が響いた。瓦礫の裏から何体かのオートマタ兵が正確に音源を感知し、その不気味なレンズをこちらの影へと向けて睨みつけてくる。銃身が冷たく光り、充填音が響く。

 

「……どうやら、おしゃべりしてる暇はなさそうだな」

 

 銀時の額から冷や汗が一筋流れた。

 直後、オートマタの銃口から無数の弾丸が放たれる。だが、それよりも早く、銀時は迷うことなく動いていた。

 二人を容赦ない銃撃の嵐から庇うようにして、その太い両腕でモモイとミドリを同時にひょいと抱え上げる。そのまま地面を爆発的な踏み込みで蹴り飛ばし、銃弾の軌道をあざ笑うかのようにジグザグにステップを踏みながら猛スピードで駆けていく。

 

「え、え、え!? 先生すごい! ナニこれ、めちゃくちゃ力持ちじゃん!」

 

「は、はわわわっ……!」

 

「喋るんじゃねえ、舌噛んじまうぞ!!」

 

 大人一人の力で自分たち二人が軽々と抱え上げられ、銃撃の中を平然と突破していくその膂力にモモイは興奮で目を輝かせる。一方のミドリは、突然至近距離で男性の身体にがっしりとホールドされたことに頭の処理が追いつかず、一瞬にして顔を真っ赤に染めてパニックに陥っていた。

 銀時は背後で鳴り響く破壊音を置き去りにしながら、一番近くにあった、警備の手薄な古い工場のような建物の錆びついた扉を蹴り開け、滑り込むようにしてその内部へと逃げ込むのだった。




ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。

地元で廃墟と呼ばれるところがあるのですが、埃臭いし咳は止まらなくなるしであまり近づきたくありません。

皆さんは廃墟に行く時はちゃんと装備を整えて気をつけていってください。くれぐれも一人では行かないように。
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