ブルーアーカイブ 透き通る青春よ永遠なれ   作:Jon.Do

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野生のアリスが現れた!

作者は低気圧によってダメージを受けた!!

低気圧頭痛の呪いがかかった!!!

あたまいたい


第三十三話 AL-1S

 

 モモイとミドリの二人を抱えながら、どうにか古い工場のような建物へと滑り込んだ銀時。

 もしこのままロボット兵たちが建物内にまで侵入してきた時は俺がここで食い止める、と腹を括っていた。銀時は腕の中の二人を少し離れた安全そうな遮蔽物の影へと緩く放り出すようにして着地させると、すぐさま腰の木刀を引き抜き、入り口の扉の傍へと身を隠しつつ外の様子を伺った。

 だがいくら待っても金属の足音は近づいてこない。オートマタたちは工場の入り口の手前でピタリと足を止めると、まるで目に見えない境界線でもあるかのように、そのまま回れ右をして元の巡回ルートへと戻っていった。深追いをしてくる気配は一切ない。

 

「……あのロボット達、追ってこなくなったね……?」

 

 モモイが遮蔽物の影から恐る恐る頭を覗かせ、外の様子を窺う。

 

「うん、工場に入るまではすごい勢いで銃撃してきてたのに……」

 

 ミドリも尻尾をへなり、と下ろしながらホッと胸をな下ろした。

 

「……なるほどねぇ。あくまでも『外のエリアの警備をしろ』って命令でも出てるんかね、あのポンコツどもは。とりまラッキーってやつだ」

 

 銀時は緊張を解き、構えていた木刀を無造作に腰の帯へと差し戻す。そして、改めて埃っぽい工場の内部へと向き直った。

 

「ラッキー、なんでしょうか……。なんでこんな得体の知れない場所であんな物騒なものに追われないといけないんだろ……」

 

 ミドリがスカートについた埃を払いながら、すっかりお疲れの様子でため息をつく。

 

「まあまあ! 生きていればいつかきっといいことあるよ、ミドリ! ほら、雨降って地固まるとか、クソゲーの後に神ゲーが来るとか言うじゃん!」

 

「今日の話をしてるの! それに、元はといえばお姉ちゃんがヴェリタスの情報を鵜呑みにして、こんな危険な場所に突撃したせいなんだからね!」

 

「へいへい、相変わらず仲のいいことで……。姉妹喧嘩は部室に帰ってからポテチの最後の一個を賭けてやってくれや」

 

 キャピキャピと言い合いを始める双子に、銀時はやれやれと肩をすくめる。少し奥へと進んで安全な脱出路でも探そうとした、その時だった。

 

『──接近を確認』

 

 工場の天井、あるいは壁の奥から、くぐもった、けれど明らかな機械音声が静かに響き渡った。

 

「……あ? だれだ? こんな時にロボ声芸やってる奴。モモイ、お前か? 実は腹話術のプロとかそういう設定盛り込んできた?」

 

 銀時が怪訝な顔で振り返り、双子へと問いかける。しかし、

 

「え、先生じゃないの?」

 

「先生の芸じゃないんですか……?」

 

 モモイとミドリも完全に想定外だったようで、目を丸くしてキョトンとしている。

 二人にもしっかりと聞こえていた。そう自覚した瞬間、間髪入れずに続いて無機質な音声が工場内に鳴り響く。ただ事ではない空気を察し、三人は自然と一塊になり、互いの死角を補うように背中合わせになって周囲の暗闇を警戒した。

 

『対象の身元を確認します。──才羽モモイ、資格ありません』

 

『対象の身元を確認します。──才羽ミドリ、資格ありません』

 

「な、何これ!? なんでこんな古びた施設が、私たちの名前を知ってるの!?」

 

 モモイが自分の名前を呼ばれたことに驚き、銃を構え直しながら声を上げる。

 

「部屋全体から響いてるんか。おいおい、ますますバイオハザードみてえな展開になってきたじゃねーか。銀さんそういうグロいの無理よ?」

 

 銀時が冷や汗を流しながら愚痴をこぼしていると、システムの声は、今度は一際明確なトーンで告げた。

 

『対象の身元を確認します。──……坂田銀時先生』

 

『……』

 

 そこでピタリと、音声が途絶えた。

 

「あれ? フリーズした? ……のかな……」

 

 モモイが小首を傾げた、その直後。

 

『──……資格を確認しました。入室権限を付与します』

 

「……は? なんで俺はいいんだよ。この施設はあれか、身長160センチ以上じゃないと入れない大人のアトラクション的なやつか?」

 

「なにそれ! 私たちだってそのうちセミナーのリオ会長みたいにおっきく、ボンッ、キュッ、ボンッってなるんだからね!」

 

「リオ会長ってヤツがどんなボンキュッボンか知らねえけど全然その未来が想像できねーぞお前ら双子からは」

 

「「なんだとクソ天パァ!?」」

 

 双子が銀時に掴みかかり、彼が適当にあしらおうとする中でもシステムは淡々と処理を継続する。

 

『才羽モモイ、才羽ミドリの両名を、先生の“生徒”として認定。同行者としてのアクセス権限を付与します』

 

「……私たちにも入室許可が出たみたいだけど……でも、どこに入ればいいんだろ? 周りは行き止まりの壁ばっかりだし……」

 

 ミドリが周囲を見渡しながら首を傾げた。その疑問に答えるように、無機質な機械音が告げる。

 

『──下部の扉を開放します』

 

「は? 下部? おいちょっと待て、どっからどー見てもただのコンクリートの床────」

 

 ぱかっ。

 

 銀時の言葉が終わるより早く、三人が立っていた足元の床が、まるで舞台の奈落のように唐突に、確実かつ滑らかに左右へと割れた。

足場を失い、一瞬の不気味な無重力感が三人の身体を支配する。

 

「うわああああっ!?」

 

「きゃあああっ!?」

 

「っ、モモイ! ミドリ!!」

 

 落下する闇の中、銀時は瞬時に叫び、自由の利かない空中で強引に身体をひねった。

すぐさま長い腕を伸ばして双子の身体をそれぞれの脇にガシッと力強く抱き寄せ、彼女たちがコンクリートの壁や床に頭を打たないよう、自身の大きな身体で完全に包み込むようにして防壁となる。

そしてそのまま先の見えない床下の深い闇へと、三人の身体は真っ逆さまに落ちていった。

 

──────────

 

衝撃で少しの間気絶していたミドリは重い瞼をゆっくりと持ち上げた。

視界に飛び込んできたのは、見慣れない薄暗い廃墟の天井。徐々に覚醒していく意識の中で、直前の大惨事を思い出し、慌てて辺りを見渡す。

 

「うーん……あ、れ……お姉ちゃん!? 先生!?」

 

「あー、死ぬかと思った……」

 

すぐ近くから聞こえた、どこか緊張感の抜けた聞き馴染みのある声。ミドリがホッとしたようにそちらへ振り返ると、そこには埃を払いながら身体を起こそうとしているモモイの姿があった。

しかし、一緒にいたはずのもう一人の姿が見当たらない。ミドリは周囲の暗がりに視線を走らせながら尋ねた。

 

「お姉ちゃん、大丈夫!? ──って、先生は!?」

 

「……ふぉふぉふぁよ、ふぉふぉ……」

 

「ひゃ!? な、なんで私たちの下にいるんですか!?」

 

足元から聞こえた、潰れたカエルのような濁った声にミドリが飛び上がる。

慌てて視線を落とすと、そこにはモモイとミドリの二人分の体重をその身に浴び、文字通り地面とのサンドイッチになっている銀時が、白目を剥いて埋まっていた。

 

「なんでって……落ちた時、咄嗟に先生が私たちを抱え込んで庇ってくれたからでしょ」

 

モモイがばつが悪そうに頭を掻きながら説明する。

それを聞いた瞬間、ミドリの頬がボッと一気に赤くなった。助けてもらった感謝と、その時の密着感を今更になって意識してしまい、急激に恥ずかしさが込み上げてくる。ミドリはモモイの陰に隠れるように少し俯きつつ、消え入りそうな声で呟いた。

 

「ご、ごめんなさい……その、てっきり『そういう趣味』があって、進んで敷布団になってくれたのかと……」

 

「んなわけねーだろ……」

 

泥まみれの顔でツッコミを入れながら、銀時は二人をそっと抱き起こしてやり、自身もよろよろと立ち上がった。腰のあたりをトントンと叩きながら、モモイが周囲の構造を観察するように見回す。

 

「……感覚的に、そんなに深いとこに落ちたわけじゃなさそうだね」

 

「ああ、おかげさんで思いっきり尻打ったわ……。って、あれ!? 俺の尻が真っ二つに割れてるんだけど!? これ確実にヒビ入ってるよねこれ!?」

 

「先生それ元からです。もー、せっかく格好よく助けてくれたのに台無しですよ……ん……? あれって……」

 

かっこよかったり急にカッコ悪くなったりする銀時に呆れて溜息をついたミドリだったが、ふと部屋の奥に違和感を覚えて言葉を詰まらせた。

崩落した建物の割れ目から、一本のスポットライトのように日光が差し込んでいるエリアがある。その光の中に、何かがある。

 

「あれ?……あ、」

 

モモイもミドリの様子に気付き、その視線の先へと目を向け――二人は完全に言葉を失った。

薄暗い廃墟の奥、隙間から暖かな日の光が降り注ぐ神秘的な空間。そこに設置された石造りの椅子のような場所に、全裸のまま、静かに腰掛けている長い黒髪の少女を見つけたのだ。

 

「んー? お前ら何見つけ……」

 

「先生は見ちゃダメ!!」

 

「ふごぉっ!?」

 

野次馬根性で覗き込もうとした銀時だったが、モモイが弾かれたように飛びかかり、その両手で銀時の顔面をがっしりとキャッチした。そのまま力任せに、ぐきりっ、と嫌な音が周囲に響き渡るほどの勢いで顔を背けさせる。

 

「ちょ、ミドリ早く!!」

 

「う、うんっ!」

 

モモイの叫び声に弾かれたようにミドリが慌てて駆け出し、取り敢えずその少女の身体を隠すように、自身が着ていた緑色のジップアップパーカーをそっと羽織らせた。

 

「……この子、眠ってるのかな……?」

 

ミドリが上着の襟元を整えてから、恐る恐る少女の白い頬へと触れてみる。

指先から伝わってきたのは、生きている人間のものではない、ひんやりとした冷たさだった。しかしそれは、死体を思わせるような嫌な冷たさではなく……まるで精巧に作られたマネキンを触っているかのような、少し無機質さを感じるもの。

そんな感触に首を傾げていたところで、モモイが駆け寄ってくると一安心、とばかりに溜息をつく。

 

「ふーう……どうにか先生を視姦魔にせずに済んだ……」

 

「なぁ! これ銀さんの首いってない!? いってないよね!? 北斗の拳で秘孔突かれたチンピラみたいになってたりしないよね!?」

 

上着を羽織ったのを確認したモモイが肩から降りてもなお、銀時は寝違えたかのような激痛によって涙目になっていた。それを半ば強引に首を両手で掴んで戻そうとする。

直後、外れかけていた関節が「がこっ……」とはめ直すような、人間の骨からは鳴ってはいけない音を響かせた。

 

「あ〜……現世へ還ってきた……」

 

漸く元の状態になると、こきっ、こきっ、と首を鳴らして生存確認をしつつ、銀時はモモイたちが駆け寄った少女の元へと歩み寄る。そして、眠るように目を閉じる少女を上から覗き込み、ふと首を傾げた。

 

「……こいつぁ、カラクリ人形か?」

 

「え? 先生わかるの?」

 

モモイが不思議そうに顔を上げる。キヴォトスでは珍しくないロボットやオートマタとも、どこか異なる高精度な雰囲気を察したようだ。銀時は首の後ろをさすりながら、遠い目をして呟いた。

 

「いや、キヴォトスに来る前にさ、こーゆーカラクリメイドがいたんだよ。メイド服着て家事全般こなす緑色の健気なやつ。アイツが充電モードに入ってる時とかって、大体こんな感じで死んだように固まってたなあって思ってさ」

 

そう言いながら、銀時がそっと少女の頬へと触れる。

最初こそ冷たく無機質なプラスチックのような感触だった。しかし、指先から伝わる微かな刺激に反応したのか、少女の頬が少しずつ、まるで本物の人間の肌のように柔らかくなってゆくような気がしている最中、銀時はとあるモノに気付いた。

 

「ん?……なんだこれ」

 

少女の白い首元にひっそりと刻まれている、奇妙な識別コードのような文字列。

 

「……AL-1S……?」

 

「エー・エル・ワン・エス……? 何かの型番かなぁ。ゲームの限定版のシリアルコードみたい……」

 

モモイが覗き込む中、その文字列が一瞬、淡いブルーの光を帯びて明滅したように見えた。それと同時に、少女の胸元が小さく上下し、凍りついていた時間が動き出す。

ゆっくりと、しかし滑らかに開かれた少女の唇が、鈴を転がすような透き通る声を奏でた。

 

「……状態の変化、及び接触許可対象を感知。休眠状態を解除します」

 

閉ざされていた瞼が静かに持ち上がると、その奥からどこまでも深く、澄んだ水色の瞳があらわになる。焦点が定まらないまま揺れるその双眸に見入られ、ミドリは息を呑んだ。

 

「め、目を覚ました……?」

 

少女は機械的な駆動音を一切させず、ただ滑らかな動作で、目の前にいるミドリ、少し後ろで首を押さえている銀時、そしてモモイへと視線を巡らせる。 そして、自身の置かれた状況を確認するように小さく首を傾げた。

 

「……状況把握、難航。会話を試みます、説明をお願いできますか」

 

向けられた声に、冷たい無機質さは感じられない。耳に心地よく響く、ごく普通の少女のものだ。しかし、どこか平坦な抑揚や、選ばれる言葉の理路整然とした節々に――銀時はやはり、スナックお登勢でせっせとタバコを買いに走る、あの緑色の髪をしたカラクリ少女の姿を思い出さずにはいられなかった。

 

「せ、説明を聞きたいのはこっちの方! あなたは誰なの!? ここは一体なんなの!」

 

先ほどまでの神秘的な雰囲気に気圧されていたミドリだったが、たまらずそう声を上げた。モモイとミドリは、何かあったらすぐに盾にできるようにと、ごく自然な動きで銀時の背後に回り込み、その羽織の裾を掴んで恐る恐る問いかける。

しかし、少女は感情の読めない水色の瞳で三人を見つめ、静かに首を傾げつつ口にした。

 

「本機の自我、記憶、目的は消失状態であることを確認。データがありません」

 

「……おいおい、一番肝心なとこがすっからかんかよ。……なぁ、いきなりビーム撃ってきたりとかは流石にねーよな……?」

 

得体の知れない少女に対し、銀時は軽く身構えた。キヴォトスに来て以来、何かと不良やら何やらからバイオレンスな歓迎を受けることが多かったため、警戒心から自然と姿勢が低くなる。

だが、少女はそんな銀時の様子をじっと見つめ、ゆっくりと首を縦に振った。

 

「肯定。接触許可対象との遭遇時、本機の敵対意思は発動しません」

 

「ならいーんだけどさ……」

 

ふぅ、と三人の緊張の糸が同時に抜け、ハモるような溜息が空間に響く。

敵意がないと分かれば、根が人懐っこいモモイの行動は早かった。銀時の背後からトコトコと少女の前に歩み寄ると、その小さな手をそっと両手で握りしめる。

 

「……すごい。ロボットの市民なら街でよく見かけるけど、こんなに私たちに似てるロボットなんて初めて!」

 

「うーん……でも、記憶喪失じゃこれ以上は何も分からないですね。先生、どうします?」

 

ミドリが困ったように眉を下げて銀時を見上げる。

銀時はまだ少しパキパキと音の鳴る首の後ろをガリガリと掻きむしり、目の前の無垢な瞳をした少女を見つめた。

 

「……そう言われてもなぁ。こんな薄暗い地下に、右も左も分からねえ女の子を放ったらかしにして帰るわけにもいかねーし。つーか、そんなことしたら後で夢見が悪くて夜も眠れねーわ」

 

あーあ、また面倒事に首突っ込んじまった、と心中で溢す銀時。

そんな大人の苦悩を余所に、少女の手を握ったままのモモイが、何かに気付いたように目を輝かせた。

 

「……工場の地下、裸の女の子、記憶喪失……ね、二人とも。いいこと思いついちゃった!」




ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。

首の骨といえば私、関節をゴキゴキ鳴らすのが癖になっていまして。周りからは度々体に悪いからやめろと言われているのですがなかなか……なんで辞められないんでしょうね、アレ。
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