ブルーアーカイブ 透き通る青春よ永遠なれ   作:Jon.Do

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あのCM見なくなりましたよね。

てかまたやらかしました。時間設定ってこんな難しかったっけ……


第三十四話 子どもに勉強勉強って言いたくないですよね

「────ンで、どうして部室までお持ち帰りしてやがんですか。やってること完全に事案じゃねーか。拉致じゃねーか」

 

 ゲーム開発部の部室に戻るなり、銀時は大きなため息をついた。その視線の先では、先ほど地下の廃墟から連れてきた長い黒髪の少女が、不思議そうに部室の壁や棚、山積みにされたレトロゲームのケースを眺めながら、あちこちをちょこちょこと歩き回っている。

 

「でもでも! あんな暗くて不気味なところにひとりぼっちにできないって言ったの、先生も同じじゃん! だったら部室に連れてくるのが一番の正解でしょ!」

 

 モモイが腰に手を当てて、ふんすと鼻を鳴らしながら言い返す。その横を少女が通り過ぎ、棚の上に置かれていた白い細長いゲームのコントローラーに目を留めた。少女はそれを無造作に手に取ると、感情の読めない瞳のまま、あろうことか『Weeリモコン』をごりごりと口の中に押し込み、もぐもぐと咥え始めた。

 

「ああっ!? 私のWeeリモコン食べないで! それお菓子じゃないから! ほら、ぺってして! ぺって!!」

 

 ミドリが真っ青になって飛びかかり、少女の口から慌ててコントローラーを引き抜こうとする。少女は少しだけ名残惜しそうにしながらも、素直に口を開けてリモコンをミドリへと返した。

 

「……ね? ほら言わんこっちゃない」

 

 モモイが「私の判断は正しかった」と言わんばかりにドヤ顔で銀時を見上げる。

 

「……前言撤回。マジで一人にしなくてよかったわ。あんな赤ん坊同然な奴あのまま置いてったら、そこらへんの鉄屑やら高圧電流のケーブルやら片っ端から貪り食って、明日の朝には体内からトランスフォームした何かが爆誕してるところだったわ」

 

 銀時は冷や汗を流しながら、完全に生気を失った目でその光景を見つめていた。どうにか大切なリモコンを死守したミドリは、べっとりとついた少女の唾液をハンカチで念入りに拭き取りつつ、心配そうな面持ちでモモイへと視線を向けた。

 

「でも、お姉ちゃん。いくらなんでも身元不明すぎるよ……。今からでも連邦生徒会や、ヴァルキューレ警察学校に連絡して保護してもらった方がいいんじゃないかな?」

 

「それはそうだけど……それはまだ、もうちょっと先! まずは私たちの“やらなきゃいけないこと”に、この子にも参加してもらおっかなって!」

 

「やらなきゃいけないこと……? 」

 

 ミドリが怪訝そうに首を傾げる。モモイは楽しげにニカッと笑うと、歩き回る少女の前に回り込んでその両肩に手を置いた。

 

「じゃあ、これから一緒に活動するなら、まずは名前を決めないとね! いつまでも型番で呼ぶわけにはいかないし。うーん、何にしよっかなぁ……」

 

 腕を組んでうなり始めるモモイ。それを見た銀時は、耳の穴をほじくりながら、心底どうでもよさそうに言葉を投げかけた。

 

「名前ぇ? そんなのパパッと直感で決めちまえばいーんだよ。見た目がカラクリ人形なんだから『たま』とかさ、いっそのこと『定春』でいーんじゃね? 覚えやすくて最高だろ」

 

「──拒否」

 

「みにゃみっ!?!?」

 

 刹那、部室の空気を震わせるような、極めて重苦しい肉撃音が響き渡った。

 

 少女は表情一つ変えないまま、隣に立っていた銀時の鳩尾へと、目にも留まらぬ速さで強烈な裏拳をブチ込んでいた。その一撃の威力は凄まじく、銀時の身体は文字通りくの字に折れ曲がり、そのまま凄まじい勢いで背後のスチールロッカーへと激突した。ガシャーン!!と派手な金属音が部室内にこだまする。

 

「せ、先生!?!? ちょっと大丈夫ですか!?」

 

 ミドリが悲鳴を上げながら、白目を剥いてロッカーの隙間にずり落ちていく銀時へと慌てて駆け寄る。

 その光景を特等席で目撃したモモイは、全身の毛穴が収縮するほどの戦慄を覚えた。がくがく、ぶるぶる、と生まれたての小鹿のように膝を震わせながら、目の前の無表情な少女を見つめる。

 

(ひ、ひええええええ!? ナニあの破壊力!? もしかして、気に入らない名前をつけようとしたら、私もあんな風に内臓破裂させられるの!? たまも定春も秒で却下されたじゃん!! 死ぬ! 適当なこと言ったら私が死んじゃう!!)

 

 必死に脳細胞をフル回転させながら、モモイの視線は少女の白い首元に刻まれた、あの型番の文字列へと吸い寄せられた。

 

『AL-1S』

 

(エー・エル・ワン・エス……アル、ワン、エス……。1をアルファベットの『I』に変換して、繋げて読んでみたら……あ、これ、いける!!)

「……アリス! 『AL-1S』が『ALIS』って見えるから、アリスはどうかなっ!?」

 

 モモイはごくっ……と大きな生唾を飲み込み、祈るような気持ちで黙り込む少女の顔を見つめた。少女の水色の瞳が、じっとモモイを捉える。数秒の、心臓が止まりそうな沈黙。

 

 やがて、少女は小さく機械の起動音のような息を吐くと、静かに口を開いた。

 

「……本機の名前、アリス……肯定。本機、アリスです。この名前を、プライマリ識別IDとして登録します」

 

「ふうううううう……っ!! 見たか私の超絶ネーミングセンス!! 危機的状況から導き出されたこの完璧な答え! どっかの天然パーマのセンスとは格が違うのだよ、格が!」

 

 アリスが気に入ってくれたのを確認した瞬間、モモイは魂が抜けかけた顔から一転、大歓声を上げて部室の天井へ向かって拳を突き上げた。

 そんな狂喜乱舞する姉の足元で、ロッカーの瓦礫からどうにか這い出してきた銀時が、涙目で腹を押さえながら、震える声で文句を垂れる。

 

「お前……俺のネーミングセンスをディスる前に、まずはこの、哀れに散っていった俺の鳩尾の心配をしろよっ……!! 昼に食ったミレニアムの割安弁当が逆流して全部出るとこだったぞマジで……!!」

 

「犬猫を拾ってきたわけじゃないんだから、アリスちゃんに怒られても当然ですよ、先生……。はい、背中トントンしますから落ち着いてくださいね」

 

 床に這いつくばって呻く銀時の背中を、ミドリが小さな手でさすってやる。そんな介護を受ける銀時を他所目に、モモイはアリスと名付けられたアンドロイドをじっと見つめ、人指し指を顎に当てて真剣な顔でブツブツと独り言を始めだした。

 

「私たちはミレニアムプライスで入賞するのもそうだけど、まずは部活の維持を最優先で考えなきゃいけないんだよね。入賞と、部員の勧誘……。二週間の期限内にどっちをやるべきかって言ったら、どちらかと言えば部員数の確保の方がハードルは低いはず……!」

 

 モモイの瞳の奥で、カチッと不穏な計算のスイッチが入る。その様子を見ていたミドリは、背中をさする手をピタリと止め、嫌な予感を察して顔を引きつらせた。

 

「お姉ちゃん、もしかして……またとんでもないこと考えてない……?」

 

「そう! そのもしかしてだよミドリ! この子、見た目は完全に私たちと同じ可愛い女の子でしょ? だったら、このアリスをミレニアムの生徒に偽装して、ゲーム開発部の部員になってもらうの!」

 

「だ、大丈夫かなあ……。アリスちゃん、今も普通に『本機』とか『データ』とか言っちゃってるし、やっぱり不自然だよ……っ」

 

 ミドリが両手で頭を抱えながら、今にも泣き出しそうな声をあげる。

 

「大丈夫の意味を確認……『状態が悪くなく、問題が発生していない状況』と推定。肯定します。アリスに機能的な不具合は検出されていません。至って大丈夫です」

 

 アリスは感情の起伏がない澄んだ瞳のまま、淡々と胸を張ってみせる。

 

「や、やっぱ無理だよお! 確かにヘイローはあるけどさ! この口調だと一言喋っただけで怪しまれちゃうよ!」

 

 ミドリがアリスの頭の上に浮かぶヘイローを指差しながら叫ぶ。しかし、それまでどこかお祭り騒ぎのようだったモモイの表情から、ふっとおちゃらけた空気が消えた。彼女はきゅっと唇を結び、部室の片隅を見つめながら静かに、けれど固い決意を込めて呟く。

 

「……私たちの部活が無くなる方が無理だよ。なんとしてもここを守らないと。“ユズ”の居場所を……またあの寮に戻すわけにはいかないんだから」

 

「……ユズ?」

 

 聞き慣れない名前に、銀時が怪訝そうに眉をひそめた。

 

「私たちの、ゲーム開発部の部長なんです。色々あって、今は寮の自室に戻れないというか……今はちょっと、どこかに行っちゃってるみたいですけど……」

 

 ミドリが沈んだトーンで説明を付け加える。

 

「……ふーん」

 

 銀時は短くそう呟くと、視線を背後の、先ほど自分が激突した大きなスチールロッカーへと何気なく走らせた。一瞬だけその頑丈な鉄の扉を見つめ、何かを察したのか、あるいはただの気まぐれか、すぐに何事もなかったかのようにアリスへと視線を戻す。

 

「湿っぽい話はここまで! 取り敢えず服装は、私たちの予備の制服を出してあげよ。あとはヴェリタスに連絡して学生証と登録をお願いして……あと武器も手に入れないと。その辺の裏工作は私が色々掛け合ってみるから、ミドリと先生はアリスに話し方を教えてあげて!」

 

 モモイがパンッと元気よく両手を叩き、テキパキと役割分担を指示していく。

 

「……ま、確かにこんなS○riみてえな、設定画面からいつでも音声変更できそうな喋り方してたら一発で怪しまれちまうからな。まずはそこから直していくしかねーか」

 

 銀時がやれやれと首の後ろをボリボリ掻きながら同意する。

 

「そう! それに、もし何かの拍子にユウカにバッタリ出くわしてさ……」

 

 モモイは急に声を低くし、冷徹に問い詰めるユウカの真似をし始めた。

 

『ちょっと、あなた。本当にゲーム開発部の新入部員なの? 』

 

 そして今度はアリスの正面に回り込み、抑揚のない声で機械的な真似を続ける。

 

『肯定。あなたの質問に対し回答。本機アリスはゲーム開発部の所属であり、現在セミナーの監査に対する回避行動を実行中』

「……なんてなったら目も当てられないし!!」

 

「「あー……」」

 

 容易に想像できてしまう最悪のシミュレーションに、銀時とミドリの声が綺麗にハモった。そんな光景を、アリスはただ不思議そうに見つめ、やはり小さく首を傾げるのだった。

 

──────────

 

 そうしてモモイが「ちょっとヴェリタスにハッキング頼んでくる!」と、方々の知り合いに裏工作の掛け合いへと飛び出していった。

 部室に残された銀時とミドリは、ちょこんと椅子に座るアリスを前に、さてどーしたものか、と腕を組んで頭を悩ませていた。

 

「しっかし、言葉を教えろ、ねえ……。銀さんこれでもベビーシッターの真似事くらいは経験あんだけど、こういう習い事はなあ……」

 

「子供用の教育プログラムとか、インターネットの動画サイトにあったりしないのでしょうか……。ほら、幼児向けの『あいさつのえほん』みたいな……」

 

 ミドリがスマートフォンを操作しながら眉をひそめる。

 その間、アリスは感情の読めない水色の瞳で再び部室を興味深そうに見渡していたが、ふと、ある場所でその動きがぴたと止まった。彼女は床の隅に転がっていた、一枚のROMカセットを小さな手で拾い上げると、不思議そうに掲げてミドリへと問いかける。

 

「……これは?」

 

「え、あ、それは……その。私たちが一緒に一生懸命作ったゲーム……なの。『産業廃棄物』とか『正気がない』って、すっからかんに酷評されちゃったけど……」

 

 ミドリはきゅっと耳を寝かせ、恥ずかしさと悔しさが混ざったように視線を落とした。

 

「へー、コイツがお前らが作ったゲームか。どれ、ちょっと銀さんにも見せてみ──」

 

「……そうだ」

 

 銀時が手を伸ばそうとした瞬間、ミドリが何かを思いついたように顔を上げた。その瞳には、先ほどまでの落ち込みが嘘のような、どこか挑戦的な光が灯っている。

 

「ね、クソゲーランキングでは一位をとっちゃったしアリスちゃんはどう思うかわからないけれど。このゲーム──アリスちゃんも、やってみない?」

 

そのミドリのアイデアに銀時は目を瞬かせた。なるほど、無理に教材をやらせるよりかはこの頭の硬そうな少女にはそちらの方が自然な言語が育つかもしれない。

 

「へえ、ゲームで言葉を覚えさせるってか。結構いいアイデアじゃねーの。お前さん、いい母ちゃんになりそーだな? ほら、子どもがセーブ終わるまでは怒らないで待っててくれる感じの、話のわかるタイプのよ」

 

「も、もう! 揶揄わないでください! とにかく! ……ゲームなら画面のテキストを見ながら、私たちと会話をしながら進められるから、言葉を覚えるのにはいいと思うんだ。どうかな、アリスちゃん……?」

 

 銀時にからかわれたことに気づいて、ミドリはぽっと両頬を赤く染め、不満げに膨れっ面を作ってみせる。しかしすぐに、期待と少しの不安が入り混じった真剣な表情に戻り、椅子の上のアリスを見つめてその反応を窺った。

 

「……ここまでの言動の意図、本機のデータベースでは把握しかねます。しかし……肯定。アリスはゲームをします」

 

「ほ、ほんとう!? じゃあ、ちょ、ちょっと待ってて、すぐに用意するから!」

 

 アリスが感情の起伏がない水色の瞳のまま、こくりと小さく首を縦に振ると、ミドリの顔は弾けたように明るくなった。先ほどまでの落ち込みなど綺麗さっぱり忘れてしまったかのように、嬉々としてモニターの電源やパソコンの配線へと手を伸ばし始める。

 

「……それにしてもお前さん、クソゲーだなんだって散々な言われようだったんだろ? 凹んでた割には、結構嬉しそうに人に勧めたがるもんだな」

 

 銀時はふと疑問に思ったことを口にした。世間の辛辣な評価に深く傷ついていたはずなのに、新しくやってきた身元不明の少女には、真っ先にその作品を差し出そうとする。その健気で、どこか頑なな心理が、少しだけ気になったのだ。

 その問いかけに、ミドリはゲームの起動ディスクをセットしようとしていた手を一瞬だけ止め、自嘲気味に小さく苦笑した。そうしてパソコンの電源を入れ、徐々に明るくなっていく画面の光に照らされながら、胸の奥にある温かい想いをぽつりぽつりと口にする。

 

「……不思議ですよね。あんなにアレコレ酷いことを言われて、すっごく悔しかったはずなのに……。それでも三人で一生懸命作った作品だから、どれだけボロクソに叩かれても、やっぱりどうしても愛おしく思えちゃうんです。だから……アリスちゃんにもやってほしいなあって」

 

「……ふーん」

 

 どこか誇らしげに、そして大切そうにカセットを差し込む彼女の小さな背中を、銀時はいつもの死んだ魚のような目でぼんやりと見つめていた。

 

 こんな十代のうら若き少女に対して、あの江戸の街にいる頑固で偏屈な老人を引き合いに出してしまうのは些か申し訳ないとは思う。思うのだが、周囲からガラクタだの粗大ゴミだのと罵られようが、世間の評価など一切お構いなしに嬉々として妙なカラクリやおかしな発明を続けている馴染みのクソジジイの背中がどうしても脳裏に重なってしまい、銀時は堪えきれずに小さく鼻で笑って、首の後ろをボリボリと掻いた。

 




いつもお読みくださって本当にありがとうございます。

気付けばこんなに評価もお気に入りも感想もいただけてとても嬉しいです。

頑張ってデカグラマトン篇まで行きたいなあ
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