ブルーアーカイブ 透き通る青春よ永遠なれ   作:Jon.Do

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銀さんの始めての戦闘シーンなので初投稿です。


第三話 お熱いのがお好き?

「ユウカ、お前は前に出張っとけ! ──── 敵さんが集まってる、スズミはとっておきのをぶつけてやれ! 他は散らばってる奴を仕留めてやれ!」

 

「「「了解!!」」」

 

 銀時が木刀を指揮棒のように振り翳しつつ、少女たちに次々と的確な指示を下してゆく。

 その声に弾かれたように、生徒たちが一斉に動き出した。

 敵が密集している前線へ向けて、スズミが「とっておき」の閃光弾を投げつける。凄まじい爆音と光に敵の足が止まった瞬間、物陰に潜む雑多な不良たちをハスミが狂いのない精密射撃で一人ずつ確実に仕留め、ユウカがその分析力を持って前線小隊の指揮官として突撃を鮮やかに先導してゆく。

 

 そんな怒涛の連携の最中でも、銀時は鋭い視線で不良たちの様子を観察していた。

 やはり、こちら側の銃弾をクリーンヒットさせているにもかかわらず、彼女たちは流血一つせず、ただ派手に吹っ飛んで気絶しているだけだった。

 

「先生はあまり前に出ないように!」

 

「……へいへい」

 

 すぐ側で頼れる護衛として拳銃を構え、周囲を警戒しているチナツに鋭く怒鳴られ、銀時はいつもの気の抜けた返事をする。

 

 そうしているうちに、部室までの道にバリケードを張って激しく抵抗していた不良たちを、驚くほどの短時間で完全に制圧することができた。

 

「……なんだか、戦闘がいつもよりスムーズだった気がします」

 

「……やっぱり、そうよね?」

 

 スズミとユウカが、にわかには信じられないといった表情で、静まり返った道路を眺めていた。

 無駄な動きが一切なく、まるでお互いの呼吸が最初から分かっていたかのような完璧な連携。ハスミは深く頷き、銀時へと真っ直ぐな視線を向けた。

 

「先生の指揮のおかげで、普段よりずっと戦いやすかったです。戦況の隙を突く指示が的確すぎました」

 

「……なるほど、これが先生の力……」

 

 チナツも眼鏡の位置を直しながら感嘆の声を漏らす。

 ヘイローもなく、銃弾一発で血を流していた、あの頼りなげでだらしのない大人──坂田銀時へと、少女たちの眼差しが一斉に集まる。

 しかし、銀時はそんな熱い視線に全く気づかぬ様子で、木刀を無造作に腰へと差し直すと、小指で鼻の穴をほじり始めた。

 

「あー、土煙が鼻に入ったかもしんね。誰かティッシュ持ってなーい? 」

 

「「「…………」」」

 

「……やっぱり気のせいです。ただの偶然よ、偶然」

 

 さっきまでの畏敬の念を秒でドブに捨て、ユウカは再び、心の底から呆れ果てた冷たい眼差しを銀時へと向けるのだった。

 

 ──────────

 

「もうシャーレの部室は目の前……!」

 

 先導するユウカが目的の建物を見つけ、確信を込めた声を上げる。

 すると、ちょうどそのタイミングでユウカが持っていた通信機器から電子音が鳴り響き、リンのホログラムが空間に浮かび上がった。

 

『皆さん、聞こえますか。今、この騒ぎを巻き起こした主謀者である生徒の正体が判明しました』

 

 通信の向こうのリンは、先ほどよりも一段と険しい表情を引き締め、警告するようにその名を口にする。

 

『彼女の名前は────ワカモ。百鬼夜行連合学院で停学処分になった後、矯正局を脱獄した、極めて危険な生徒です』

 

 そして、さらにリンは神妙な面持ちで言葉を続ける。

 

『似たような前科がいくつもある、非常に凶悪で危険な人物です。決して油断しないでください』

 

 画面の向こうの警告を耳にしながら、銀時はフンと鼻を鳴らす。

 

「……ふうん。高杉みてえな奴ってことか」

 

 その脳裏に一瞬だけ浮かび上がったのは、自らの目的のために手段を選ばず、世界を壊そうと過激なテロ行為を繰り返していた、かつての友にして天敵の顔。

 そんな銀時の、どこか遠い目をしたボヤきを、隣にいたユウカの聡明な耳が聞き逃さなかった。彼女は不思議そうに首を傾げる。

 

「タカスギ……? 」

 

「……いや、なあに、こっちの話さ。ただのちょっと過激な中二病の知り合いだよ」

 

 銀時はユルい笑顔を浮かべると、ひらひらと手を振ってそれ以上の追及を煙に巻くのだった。

 

 ……そんな一行を、少し離れた高所から静かに見下ろす影が一つ。

 風にたなびく黒髪と、異彩を放つキツネの面。彼女は面の奥で、実につまらなそうに小さくため息を漏らしつつ、不満げに呟く。

 

「……あらら。連邦生徒会は、直接来ていないみたいですね」

 

 期待外れだとばかりに肩をすくめた彼女は、それから、本来の目的であるシャーレの建物へと視線を流した。

 

「まあ、でも構いません。あの建物に何があるかは存じませんが、連邦生徒会が大事にしているものがあるなら……跡形もなく壊さないと気が済みませんね。ああ……久しぶりのお楽しみになりそうです。ウフフフ……♡」

 

 ゾクリとするほど恍惚とした笑みを零しながら、彼女は愛用のライフルを愛おしげに撫でる。

 そして、眼下で不良たちを次々と制圧していく銀時たち一行のすぐ目の前へと、まるで夜闇に舞う蝶のように、音もなくひらりと飛び降りた。

 

「……! 騒動の中心人物を発見! 対処します!」

 

 不良たちの軍勢の真っ只中へと降り立った狐面の少女を目視したハスミが、鋭い声を上げて愛用のスナイパーライフルを構え直す。

 それを合図に、一歩も引かぬ構えで再び張り詰めた緊張感を纏った一行。そんな少女たちの動向を、当の狐面の少女はどこか楽しげに、悠然と見つめていた。彼女は肩に担いでいた大口径ライフルの銃口を滑らかに一行へと向けながら、艶然と微笑む。

 

「フフ、連邦生徒会の子犬たちが現れましたか。お可愛らしいこと」

 

 その場に響き渡る、どこか浮世離れした、しかし明確な狂気を孕んだ甘い声。

 それを見た銀時は、彼女の直線的な射線から自分を庇うようにして素早く前に立ったチナツの影から、ひょっこりと顔を出してその狐面を見つめた。

 

「アイツが要注意人物、ねえ……」

 

 じっとその佇まいを見つめながら、銀時は小さく呟いた。

 

 しかし、彼女はしばらくの間、手慣れた様子で一行と激しい銃撃を交わしたかと思えば、形勢が不利と見るや、実にあっさりと銃口を収めた。

 

「……私はここまで。あとは任せます」

 

「……!? 逃げられた!? 追うわよ!」

 

 ワカモは周囲の不良たちに後始末を押し付けるようにして、瞬時に戦場から身を翻し、去ってゆく。それを見て、戦闘の熱に煽られたユウカが色めき立ち、深追いをしようと足を踏み出した。

 

 しかし、そんな彼女の肩を、ハスミが大きな手でガシッと掴むようにして引き留める。

 

「いいえ、生半可な行動をしてはなりません。私たちの目標は、あくまでもシャーレの部室の奪還。このままシャーレのビルまで一気に前進するべきです」

 

 その冷静な言葉に、ハッと我に返り、落ち着きを取り戻したユウカは、一度深く息を吸って吐き出した。

 

「……うん、まあいいわ。アイツを追うのは、今の私たちの役目じゃないってことね」

 

「罠かもしれませんし」

 

 と頷いたチナツに返事をしたハスミは、銃口を進行方向へと向け直した。

「はい、建物の奪還を最優先に。このまま引き続き進みましょう─────」

 

 そう言いながら、目的であるシャーレの建物の入り口まで、あと十数メートル……といったところまで迫った、その時だった。

 

 ズズズ……と周囲の空気を震わせるような地響きと共に、重厚な金属が激しく擦れ合う、重く不穏な音が戦場に響き渡った。

 

「……! この音はまさか!」

 

 その音に気づいたユウカが、弾かれたように音の方向へと目を向ける。ジナジナと地面を揺らす不快な振動に、チナツがその眼差しを鋭くし、額から一筋の冷や汗を垂らしながら叫んだ。

 

「気を付けてください、巡航戦車です……!」

 

 爆煙を切り裂いて姿を現した鉄の怪物を見上げ、ハスミがその美しい眉を戦慄に歪めて警戒を強める。

 

「クルセイダー1型……!? 私の所属するトリニティの制式戦車と同じ型です!」

 

「不法に流通されたものに違いないわ! PMCに流れたのを不良たちが買い入れたのかも!」

 

 そう状況を分析して口にしてから、ユウカはアサルトライフルを改めてガチリと構え直しつつ、自分たちを鼓舞するように声を張り上げた。

 

「つまり、あんなのただの横流しのガラクタってことだから、粉々に壊しても構わないわ!! さあ、みんなで────」

 

「おっと。ちょいっと失礼」

 

 ユウカが先頭に立って一行を先導しようとした、まさにその瞬間。

 彼女のすぐ横を、風を切るような軽やかな足音と共に、ひらひらと揺れる白い着物の背中が素早く駆け抜けていくのが見えた。

 手には、一振りの木刀を握り締めて。

 

 チナツの護衛を大人しく受け、後方から一行を的確に指揮していた男が、いつの間にか自分たちの誰よりも速く、前に出ていたのだ。最もそばにいたチナツにいたっては、止める間もなかった己の不覚と、目の前の自殺行為に唖然として完全に顔を青ざめさせている。

 

「え──────ちょっと、先生!? 何考えてんのよォォォォ!?」

 

 そんな銀時の背中に向かって、ユウカの絶叫が虚しく響き渡り、すでに立ち去ったと思われていた建物の傍の物陰にいたワカモが、その声に狐耳をピコン、と揺らした。

 そして、狐面の奥の瞳を怪しく光らせながら、突如として戦車の方へと向かい始めた異質な存在へと振り返る。

 

「……あら? あれは……」

 

 ワカモの怪しく光る視線の先で、戦車へと向かって猛然と駆けてゆく白髪の男。

 その男の顔には、まるでずっと「待て」をされていたのをようやく解かれ、極上の餌に飛びつく獰猛な狼の如き、凶悪で愉悦に満ちた笑みが浮かんでいた。

 

「ずうっと女の子の背中に隠れてちゃ、かっこいいとこ見せられねえだろ!」

 

 木刀を片手に逆風を切り裂き、戦車へと肉薄する銀時。

 それを戦車の中で潜望鏡越しに見ていた不良は、あまりの無謀さにせせら笑った。

 

「飛んで火に入る夏の虫とはこのことよ! 木刀一本で何ができる! 消し炭にしてや────」

 

「よいしょおっ!!」

 

「なっ────!?」

 

 ユウカたち連邦生徒会側、そして包囲していた不良たち問わず、その場にいた少女たちは皆、その男が魅せた常軌を逸した「跳躍」に呆気にとられ、唖然とした。

 直前まで男を捉えていたはずの重厚な砲口は、いまや完全に虚空を捉えている。

 次の瞬間、引き金が引かれたものの、虚しく放たれた砲弾はターゲットを遥か下に置き去りにしたまま、明後日の方向へと爆音と共に飛び去っていった。

 

 そして銀時は戦車の砲塔へと見事に飛び乗ると、硬く閉ざされたハッチと装甲のわずかな隙間へと向けて、木刀の先端を容赦なく突き下ろす。それを見たハスミが、信じられないものを見るように目を見開いた。

 

「そんな、そんな棒切れでハッチをこじ開ける気ですか!? そんなことできっこ……!」

 

「よっこらせえええっ!」

 

「……え」

 

 銀時がフンッと気合を入れた途端、ただの木刀であるはずのソレは、物理法則を無視したかのように確実にその強固な隙間へと深く潜り込む。そしてぐいっ、と万力のような怪力で力を込めた途端、強固なロックがかかっていたはずの鉄のハッチが、悲鳴を上げてガバッと強引にこじ開けられた。

 

「な、ななな、なによコレええええ!?」

 

 中から現れた、唖然として腰を抜かしている不良の首根っこを、銀時は容赦なく鷲掴みにする。

 

「さあ、おもちゃ遊びは終わりだぜ嬢ちゃん。さっさと家に帰ってねんねするこった!」

 

「きゃぁぁぁぁ!? 放してぇぇぇぇ!」

 

 暴れる不良を片手で軽々と引きずり出すと、銀時は近くの土嚢が破れてできた、ふかふかの砂山の方へと彼女を放り投げた。

 

 こうなってしまえば、車内の操縦席にいる不良は何が起きたのか全く分かっていない。ただの移動する視界の狭い重機も同然だった。銀時は間髪入れずに砲塔から操縦席ハッチへと飛び降りると、先ほどと全く同じ手際で木刀をねじ込み、バールのようにハッチをこじ開ける。

 

「ひえっ!? ば、化け物───」

 

「はい、お疲れさん。お家でママのミルクでも飲んでな」

 

 中にいた操縦手の不良も同じように襟首を掴んで引きずり出し、先ほどの砂山へと綺麗に重ねるように投げ捨てた。

 鉄の塊である巡航戦車が、たった一人の男と一本の木刀によって、ものの数十秒で完全に無力化された瞬間だった。

 

 それを目にしたワカモは、建物の入り口のそばで唖然と立ち尽くしていた。

 ヘイローを持たない頼りないはずの男が、一本の木刀で戦車を制圧する暴挙。その圧倒的な理不尽さと剥き出しの強さを目の当たりにした瞬間、彼女の胸の奥で、ドクンと不思議なほど激しく鼓動が跳ね上がった。

 

(……な、なんですの、今の……胸の奥が、こんなに熱くて、苦しい……?)

 

 頬がカッと火照るのを感じ、ワカモは慌てて自分の胸元を片手で押さえる。

 

「……! い、いえ、こんなことをしている場合ではありませんわ!」

 

 ハッ、と我に返ると、彼女は自身の奇妙な動揺を振り払うように、素早い身のこなしでシャーレの建物の中へと滑り込んでいった。

 

 一方、戦車の上に立つ銀時は「ふぃー、いい運動したぜ……」と言わんばかりに首や肩を回して、気怠げにため息をつく。

 そんな彼のあまりにも規格外な背中を前に、連邦生徒会の一行もまた、完全に開いた口が塞がらない様子で唖然としていた。

 

「……ただの木刀一つで、巡航戦車を制圧……!? 私たちの常識では、到底考えられません……」

 

 チナツが眼鏡をずり落としながら戦慄し、ユウカも持っていた銃を落としそうになりながら、激しく頭を振った。

 

「そ、んなのあり得ないわよ……! 何かの見間違いか、あの戦車が最初から信じられないくらいの超不良品だったのよ、きっとそうに決まってるじゃない……!?」

 

 そんな現実逃避の疑問を交わし合う少女たちに向かって、銀時は戦車からひょいと飛び降りると、ヒラヒラと頼りなく手を振った。

 

「おーい、お前らがガラクタって言ったから片付けたんだろーが。邪魔なもんはいなくなったんだしさっさと行くぞー」

 

「……! ま、待ちなさいよー!」

 

 やる気のない調子で呑気に建物へと歩き出す銀時。ユウカたちは未だに困惑と驚愕を隠せないまま、慌ててその後を追いかけていくのだった。




ここまで読んでくださり本当にありがとうございました。

ある程度の文章を綴りつつ少しずつジェミニたんに校正をお願いし、それを更に修正する。時代の趨勢の凄さがよくわかります。

ジェミニたんを始めとし、チャッピー君やグロックさんが我々にとってのスカイアイとなってしまうか、ハレルヤとなってしまうか、ドラえもんとして傍に立つ相棒になるか。これからの発達を楽しみにしています。
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