ブルーアーカイブ 透き通る青春よ永遠なれ   作:Jon.Do

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アリスが感じているあの感動はゲームに触れた人なら誰しもが持ったものでしょう。

私の場合は星のカービィ夢の泉DX。その操作の爽快感もさることながら、ステージの奥にて描写されるポップスターの幻想的な背景に見惚れていました。

私にとってカービィは銀さんに並ぶ最優の主人公だと思っています。


第三十六話 楽しんでくれてありがとう

 1時間後。

 

「こ、ろ、し、て……」

 

 もはやアリスは疲労しきっていた。当初のあの無機質でロボット然とした無感情さはだいぶ薄れ、今や画面に表示されたクリアのリザルト画面を見ることもできず、目を回しながら頭をふらふらとさせていた。

 

「すごいよアリス! 開発者の私たち二人が一緒だとは言え、あの超絶難易度のゲームをたった3時間でクリアできるなんて大快挙だよ!」

 

 モモイが我が事のように大興奮しながら、画面に向かってバンザイのポーズを取る。

 

「それもそうだけど、お姉ちゃん、見て! やっぱりゲームをプレイすればするほど、アリスちゃんの喋り方のパターンがすごく豊かになってる……!」

 

 ミドリがアリスの手元に残るコントローラーをそっと見つめながら、その学習速度の速さに驚きの声を上げた。

 

「おいおい、喋り方の変化よりもまずはコイツの具合の心配をしてやれって。ほら見ろ、頭触っただけで3時間ぶっ続けで3Dグラフィックの重いゲーム起動しっぱなしだった使いすぎたスマホみてえな熱持ってんぞ、コイツ。知恵熱ってレベルじゃねーから」

 

 銀時がアリスの額に手を当て、あまりの熱さに引きながら愚痴をこぼす。すると、アリスは熱を持った顔を少しだけ銀時の方へと向け、力強く拳を握りしめた。

 

「勇者よ、汝が同意を求めるならば、私はそれを肯定しよう。我が内に眠る電算魔力が、今まさにオーバードライブの境地へと達せんとしている」

 

「豊かになったけどだいぶ偏ってるし。どこの中二病全開のファンタジー小説から引っ張ってきたんだよその語彙力は」

 

 少しだけ勇ましい顔になりながら、妙に芝居がかったヘンテコな口調になったアリスに、銀時がジト目を向ける。

 そんな中、モモイとミドリがゴクリと息を呑み、期待と不安の入り混じった眼差しでアリスへと問いかけた。

 

「……と、ところでその……アリスちゃん」

 

「どうだった!? 私たちが作ったゲーム!」

 

 二人の真剣な問いかけに、アリスはゆっくりと瞬きをし、画面に残るエンドロールの輝きを見つめた。

 

「……言語化、不可。既存のデータベースでは説明不可能です。しかし、面白さ……それは確かに、存在していました」

 

「おおっ!?」

 

 モモイの顔がパッと輝く。アリスは胸の前に手を当て、感情を紡ぎ出すようにぽつりぽつりと続けた。

 

「ストーリーを進めれば進めるほど……まるで、別の世界を旅しているような……。夢を見ているような、そんな不思議な気分……アリスは、もう一度……もう一度、あの世界へ……」

 

 そこまで言ったところで、アリスの透き通るような水色の瞳から、大粒の雫がぽろぽろと零れ落とす様子に銀時は目を丸くした。

 

「……お前……」

 

「ええっ!? アリス!?」

 

「どうして泣いてるのアリスちゃん!? どこか痛いところでもあるの!?」

 

 モモイとミドリも弾かれたように椅子から飛び上がり、初めて見るアリスの涙に激しく狼狽えながらその顔を覗き込む。しかし、アリスはふる、と小さく首を横に振った。

 

「わから、ないです……なぜ、か……。この液体が、目から……アリスの電算エラー、でしょうか……」

 

 自身の頬を伝う温かい雫を指先で拭い、不思議そうに見つめるアリス。その健気な姿に、モモイは胸を熱くして両手を握りしめた。

 

「……そんなに感動してくれたんだ、私たちのゲームに……! 魂を込めて作った甲斐があったよぉ!」

 

「いや、でもこのゲームって、どっちかっていうと意味不明なギャグ寄りのゲームだし……感動要素なんて一ミリもなかった気がするんだけど……」

 

 ミドリが困惑気味にツッコミを入れるが、モモイの耳には届かない。モモイはそのままアリスの前に膝をつくと、優しく微笑みかけた。

 

「それでも、だよ! ありがと、アリス! ネットのクソゲーブロガーとかセミナーの批評家の言葉なんかよりも、アリスが流してくれたその涙の方が、何百倍も何千倍も嬉しい! あーあ、この光景、早くユズにも見せてあげたいなあ!」

 

 モモイが心の底からそう叫んだ、その時だった。

 三人の背後に佇む、先ほど銀時が激突して歪んだスチールロッカーの中から、カサリ、と微かな音が響き、くぐもった声が漏れ聞こえてきた。

 

「ちゃ、ちゃんと……全部、見てた……」

 

「「「え?」」」

 

 銀時、モモイ、ミドリの視線が同時にロッカーへと注がれる。

 ギィ……と錆びついた不気味な音を立てて、ゆっくりと鉄の扉が開いていく。そこから現れたのは、大きなキャリーケースを抱え、ミレニアムの黄色いパーカーのフードを深く被った、小柄な赤髪の少女だった。彼女はすたすた、と覚束ない足取りながらも、真っ直ぐにアリスの元へと歩み寄る。

 

「……?」

 

 アリスが水色の瞳を向け、不思議そうに首を傾げた。

 

「ユズ!?」

 

「あれだけ学園中を探しても見つからなかったのに……いつからそんなところにいたの!?」

 

 ミドリが目玉を飛び出さんばかりに驚き、ロッカーと少女を交互に指差す。

 

「み、みんなが……あの廃墟から、帰ってきたとき、から……ずっと、中に、いました……」

 

「そ、そんな前から!? っていうか銀さんがロッカーに激突した時、お前中にいたの!? よく生きてたな!?」

 

 銀時が冷や汗を流しながら、自分の背中とロッカーの凹みを確認する。どうやら自分のクッションになっていたのは、スチールロッカーの鉄板だけでなく、中にいたこの少女でもあったらしい。

 

「しっかし……お前さんがここの部長さんか。やっと顔出してくれたなぁオイ」

 

 銀時が声を掛けると、ユズはびくりと肩を揺らし、きゅっと唇を噛んで声を詰まらせた。まだ面と向かって話したことのない大人である銀時を前にした緊張と、ゲームを褒められた嬉しさが混ざり合い、今にも泣き出してしまいそうな表情を浮かべる。

 

 銀時は小さくため息をつくと、その場にどっこいしょ、とかがみ込み、ユズと軽く視線の高さを合わせた。その目の奥にどこか年長者としての温かい光を宿しながら、頭の後ろをポリボリと掻く。

 

「……そんなに怯えんなって。ほら、だいじょーぶだ。俺みたいなむさ苦しい大人よりもさ、コイツにお前さんが伝えたいこと、あるんだろ?」

 

 そう優しく告げてから、親指でアリスのことを示す。ユズは小さく息を呑み、静かにアリスへと顔を向けた。

 小刻みに身体を震わせ、一度ぎゅっと目を閉じて緊張をはねのける。そして、意を決したように瞼を開くと、真っ直ぐにアリスの瞳を見つめた。

 

「……えっと、あの……その。あ、あ、……あ、」

 

「あ……?」

 

 緊張のあまり最初こそ言葉がうまく出てこなかったユズだったが、アリスがじっと待ってくれているのに気づくと、胸の前にぎゅっと拳を握りしめて言葉を紡ぎ出した。

 

「……ありがとう。ゲーム、面白いって言ってくれて。もう一度やりたいって言ってくれて。……私たちの作ったゲームで、泣いてくれて、本当に、本当にありがとう……っ」

 

 アリスは不思議そうにユズを見つめたままだ。当のユズは自分の言葉を重ねるごとに、その表情はだんだんと朗らかなものへと変わっていった。その瞳には、うっすらと涙が浮かんでいる。

 

「誰かに……面白いとか、もう一度やりたいとか……そういう言葉を、ずっと聞いてみたかったの。私の作ったゲームで、誰かが楽しんでくれるところを……ずっと、ずっと、見てみたかったの……」

 

 それは、酷評され、廃部の危機に追い込まれ、自信を無くしてロッカーに閉じこもっていたゲームクリエイターの本音だった。その言葉の重みと温かさに、モモイとミドリも胸を打たれたように瞳を潤ませる。

 

「……とにもかくにも、初めまして。アリスちゃん。……それから、先生。私がゲーム開発部の部長、花岡ユズです」

 

 ユズはフードの隙間からぺこりと頭を下げ、照れくさそうに、だけどしっかりと二人の目を見て挨拶をした。

 

「おう、よろしくー」

 

 銀時はコンテナに腰掛けたまま、ひらひらと片手を振って応じる。

 

「……?……よろ、しく……?……新規データの、受信。──理解」

 

 最初こそキヴォトスの一般的な挨拶の概念に戸惑い、水色の瞳をパチパチと点滅させていたアリスだったが、やがて何かを理解したように、ふにゃ、と花が咲いたような明るい笑顔を浮かべた。そうして、手元のコントローラーを天高く掲げる。

 

「パンパカパーン! ユズが新しく仲間になりました!」

 

「あ、うん。ふふ、そんな感じかな。……その様子だと、本当に私たちの作ったゲームを全力で楽しんでくれたんだね。こうして新しい仲間を増やしていくのって、RPGの最高の醍醐味だもんね」

 

 最初はロッカーの奥でガタガタと怯えていたユズだったが、目の前の純粋な少女の反応に、だんだんと表情を緩ませていく。その口元にくすくす、と朗らかな笑顔が戻っていくのを見て、モモイとミドリは「お姉ちゃん、よかったね」「うん、本当に……!」と、お互い顔を見合わせて嬉しそうに胸を撫でおろした。

 

 自分たちの作ったゲームを愛してくれて、さらにゲームそのものに強い興味を示してくれた新しい友人。その存在が、引きこもり部長の胸にあるゲームへの情熱をさらに加速させる。ユズは少しだけ前のめりになり、アリスの手をそっと包み込むようにして言葉を重ねた。

 

「もし、アリスちゃんがこういうRPGの世界が好きなら……私、他にもおすすめのゲーム、たくさん知ってるから教えてあげる」

 

「ちょっと待ったあぁぁ!! 私だってアリスちゃんに教えたい神ゲー、山ほどあるんだからね! 良質な名作レトロゲームをガンガン浴びせて、もっと豊かな言葉を覚えてもらうんだ! そう、例えば『英雄神話』とか『ファイナルファンタジア』の初期3部作とか!!」

 

 モモイが負けじと二人の間に割り込み、腕を組んで鼻息を荒くする。

 

「お姉ちゃん、アリスちゃんはまだ生まれたてのゲーム初心者なんだから、最初からそんなゴリゴリのドット絵ドM仕様のやつはハードルが高いよ。もっと万人受けしてシステムも親切な『ゼルナの伝説・夢見るアイランド』とかから始めた方がいいんじゃない?」

 

 ミドリが人差し指を立てて、極めて冷静で的確なナビゲートを提案する。

 

「おいおいお前ら、青いね、実に青い。最初からそんなミリオンセラーの表舞台のゲームばっかり食わせてたら、ろくな大人にならねーぞ? ここはやっぱりさ、世間の波に埋もれた知る人ぞ知るマイナーどころのクソ……いや、隠れた名作からいくのが通ってもんだろ。その辺りでいくと、やっぱり……」

 

 三人がわいわいとアリスに次のおすすめゲームを紹介し合う中、銀時がニヤリと悪い笑みを浮かべて会話に割り込んだ。

 彼はコンテナから立ち上がると、部室の片隅に無造作に置かれていた、埃を被った古い『ホムコンカセット』が大量に詰め込まれた段ボール箱へと歩み寄る。そのまま躊躇なく箱の奥深くまで腕を突っ込むと、中身を見ることすらなく、しばらくガサゴソと手の感覚だけで探り始めた。

 

「……んー、違ぇな、これは『スウィートファミリー』だし……あ、これこれ」

 

 銀時が「確かな手応え」と共に箱から掴み出したのは、独特の四角い形状をした、いかにも年季の入ったレトロなカセットだった。それを指先で器用にクルクルと回しながら、アリスの前に差し出す。

 

「ほらこれ。自分の身長よりちょっと高い段差から飛び降りただけで、なぜか骨折を通り越して一発で爆死する虚弱体質ゲーの『スペランナー』とか最高だぞ。理不尽な死に様のエグさからして、お前らのゲームとも親和性が高い」

 

 そのカセットを見た瞬間、モモイは最初こそ納得できないような顔をしたものの……とある事実に気付きアリスにおすすめするのを忘れて、あいた口が塞がらないといった様子で銀時を指差した。

 

「えー! 先生それマイナーすぎるっていうか、完全に一部のカルトファンしかやらないやつじゃん! ……って、え? 待って。先生、なんで箱の中を見もしないで、それが『スペランナー』のカセットだってわかったの!? 触っただけでカセットの形と基盤の重さで見抜いたの!? こわっ!!」

 

 そんな三人の少女と一人の大人の、騒がしくもどこか温かいやり取りをじっと眺めていたアリスは、最初こそキョトンとしていたが、やがてその胸の奥に灯ったワクワクした感情を映すように、ふわりと柔らかな笑顔を浮かべた。

 

「アリス、次のクエストを受領しました。……期待。再び、ゲームを開始します」

 

──────────

 

 2時間後。

『ピッピッピッピッピッ……』

 

 静まり返った部室に、爆速でテキストが送られていく電子音だけが小気味よく響く。アリスの目の前では、先ほど手渡された名作RPGの画面が、目にも留まらぬ速さで目まぐるしく切り替わっていた。

 

「うわ、アリスちゃんってばテキスト読むの早い……! 早いっていうか、これ会話が出力されるのと完全に同時に処理して読んでるみたいじゃん……。もうスクロールの速度が追いついてないよ……!」

 

 モモイが自分のゲーム画面をデバッグしている時以上の衝撃を受けながら、アリスの横顔を凝視する。アリスの言語システムは、ゲームという最高の教材を得たことで、恐ろしいほどの速度でアップデートを繰り返していた。

 

「アリスちゃん! 次はこっちの『伝説のオークバトル』やろ! ターン制のシミュレーションバトルって、じっくり戦略を練られてすごく面白いよ!」

 

 ミドリが次のカセットを抱えながら提案すると、アリスは画面を見つめたままこくり、小さく小気味よく首を縦に振った。もはやコントローラーを握るその手つきは、完全に一人前のプロゲーマーのそれである。

 

『ピッピッピッピッ……』

 

「おーい、ピザの出前が来たぞー。やっぱ夜中に部屋に篭ってジャンクなゲームするなら、炭酸とこれがお約束だろ。ほら、冷めねーうちに食え食え」

 

 銀時がどこからか調達してきた大きなピザの箱を抱え、ガラガラと部室の扉を開けて入ってくる。

 

「「「わーい!」」」

 

 双子とユズが歓声を上げてピザに飛びつく。アリスもまた、一切の手の動きを止めることなく、口元に運ばれたピザを小さな口で器用に「もぐもぐ」と咀嚼しながら、水色の瞳を画面に集中させていた。

 

「……飯、一応食えるんだな、コイツ」

 

『ピッピッピッピッ……』

 

──────────

 

 数時間後。

 

 深夜の静寂が部室を包み込む。モニターの明かりだけが、暗い部屋の中で青白くチカチカと揺れていた。

 あれだけ騒がしかった双子も、体力の限界を迎えたユズも、そして昼間の鳩尾への一撃と長時間の付き合いで疲れ果てた銀時も、床やソファーで行き倒れるようにして深い眠りに落ちている。

 

「「「「……zzz」」」」

 

 それぞれの寝息が重なり合う中、部室の片隅からは、変わることのない規則正しく心地よい音が、いつまでも、いつまでも静かに鳴り響いていた。

 

『ピッピッピッピッ……』

 




ここまで読んでくださりありがとうございます。

銀さんがやって見せたのは声優ネタです。「杉田智和 ゲームソフト」で調べると出てくると思います。

ユズの気持ち、形は違えど趣味でこうして二次創作小説を書いてる身としてはすごくわかります。これからも皆さんの応援を励みに突っ走っていこうと思います。

これからもよろしくお願いします。
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