ブルーアーカイブ 透き通る青春よ永遠なれ   作:Jon.Do

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レールガンと聞いて思い浮かべるのはやはりメタルギアですね。特にピースウォーカーのZEAKが印象的です。ガチガチに強化して派遣ミッションで出撃させた結果、ストーリーの最終ミッションでコテンパンにやられたのはいい思い出です。


第三十八話 どっかん!!!

 エンジニア部による「ビーム砲はロマン!!!」という魂の叫びから、少し。

 ひとしきり盛り上がった後、コトリは興奮冷めやらぬ様子で胸を張って更に言葉を続けた。

 

「そんなロマンの塊である宇宙戦艦搭載用レールガンの正式名称は……『光の剣 スーパーノヴァ』!!」

 

「また無駄に大袈裟な名前を……」

 

 ミドリが呆れた様子で深くため息をつく。しかしその隣では、アリスが限界まで両目をキラキラと輝かせていた。

 

「ひ、光の剣……!? わぁ、うわぁ……!!」

 

「あ、アリスの目が完全に覚醒してる……!?」

 

「まあコイツ、散々RPGのゲームをやってたからな。伝説の武器みてえな名前にブチ抜かれたんだろ」

 

 銀時は、先ほどエンジニア部のハンマーによって作られた絶品のパラパラチャーハンを皿ごと持ち、もぐもぐと器用に平らげながら歩み寄ってきた。呆れ顔でレールガンとアリスを交互に眺める。

 当のアリスは、すっかり興奮で頬を上気させながら、熱い視線をレールガンへと注いだ。

 

「……これ、欲しいです」

 

「……え?」

 

 それまで黙っていたヒビキが、思わず素っ頓狂な声を漏らす。アリスはぐっと拳を握りしめ、エンジニア部の面々を見つめた。

 

「偉大なる鋼鉄の職人よ、私にあの龍の息吹を授けてください!」

 

 ゲームの住人になりきったアリスの熱望に、ウタハは嬉しそうにしつつも、困ったように眉を下げて髪をかいた。

 

「うーん、そこまで気に入ってくれたのは嬉しいんだけどね……」

 

「大変申し訳ありませんが、そればかりは出来ない相談です!」

 

 コトリがすかさず前に出て、両手をバツの字にして拒絶する。すかさずモモイが横から抗議の声を上げた。

 

「えー! この部屋にあるものなら、ガラクタでも試作品でも何でも持っていって良いって言ってたじゃん!」

 

「……それには、明確な理由がある」

 

 ヒビキが静かに遮ると、アリスは捨てられた仔犬のように眉を下げて懇願するような視線を送った。

 

「も、もしかして、私のレベルが足りていないからでしょうか!? 装備可能レベルを教えてください!」

 

「……単純に重いんだ。個人が携行する武器としては、あまりにも重くて大きすぎる」

 

 ウタハが現実的な問題を突きつけると、コトリが手元の端末を叩きながら具体的な数値を補足する。

 

「そうなのです! 基本重量だけでも百四十キロ、さらに光学照準器やバッテリーを付け足して射撃すれば、その瞬間の反動力は二百キロを超えます! 人間が抱えて撃てる代物ではありません!」

 

「これをかっこいいと言ってくれただけで、私たち技術者としては本当に嬉しいよ。ありがとう。持って行けるものなら、本当に譲ってあげたいんだけどね……」

 

 そう言ってウタハが申し訳なさそうに目を伏せると、アリスはトコトコと歩み寄り、ウタハの衣服の袖をきゅっと引きながらじっと見上げた。

 

「……汝、その言葉に一点の曇りもないと誓えるか?」

 

「……あ、ああ。もちろん嘘偽りはないが……まさか、アレを持ち上げるつもりなのかい?」

 

 ウタハの困惑を余所に、アリスはこくりと力強く頷いた。そのまま迷いのない足取りで巨大なレールガンへと振り返り、その取っ手へと静かに手を乗せる。そして、厳かな様子でそっと目を閉じて呟いた。

 

「……この武器を抜く者……此の地の覇者となるであろう!」

 

 刹那、その場にいた全員が我が目を疑う光景が広がった。

 

「……うっそ」

 

「……まさか、ね」

 

「え、え──ーっ!?」

 

 ヒビキが絶句し、ウタハの目が見開かれ、コトリの叫び声が室内に響き渡る。なんとアリスは、その華奢な両手で、百四十キロを超えるはずの巨大なレールガンを軽々と抱え込んでいたのだ。

 

「……も、持ち上がりました!」

 

 当の本人は重そうな素振りなど微塵も見せず、伝説の武器を手に入れられたことがよほど嬉しいのか、満面の笑みを浮かべている。ヒビキは現実が受け入れられないといった様子で、何度も自分の目を擦った。

 

「……し、し、信じられない……」

 

「えーっ、と……Bボタンはこちら、でしょうか?」

 

「ま、待って……! それは……!」

 

 アリスがふと砲身の横にある発射スイッチに指をかける。慌ててヒビキが駆け寄ろうとするも、時すでに遅く。

 

「……っ、光よ!」

 

「! やべえっ!!」

 

 アリスが引き金を引いた瞬間、銀時の脳裏に最大の危険信号が灯った。銀時は手に持っていたチャーハンの皿を容赦なく後ろへと放り投げると、呆然と突っ立っていたモモイとミドリの首根っこを両腕で強引に抱え込み、そのまま床へと素早く伏せた。

 

 直後──。

 

 鼓膜を容赦なく破壊するような、凄まじい放電音が炸裂した。膨大な電力がバッテリーから砲身へと一気に流れ込み、超強力な電磁力によって加速された砲弾が、狂暴な光の帯となって撃ち出される。

 

 凄まじい轟音と暴風が吹き荒れ、エンジニア部の部室である工場の屋根が、まるで紙切れのように易々と消し飛ばされた。射出された光の弾丸は、そのまま文字通り空の彼方、大気圏の向こう側へと一瞬で駆け抜けていった。

 

「あ──ーっ!? 私たちの部室の屋根が──ーっ!?」

 

 吹き飛んだ天井から虚しく降り注ぐ火花と瓦礫の破片の中で、コトリの悲鳴がこだました。

 しかし、当のアリスはそれほどの絶大な反動を受け止めたというのに、その場から一歩も後ずさることすらしていなかった。ただただ、己の放った一撃の威力に圧倒され、呆然と立ち尽くしている。

 

「……すごい、です。アリス、この武器を装着します!」

 

 煙の立ち上る砲身を抱えたまま、アリスは決意に満ちた目で宣言した。

 地面に伏せたままでいた銀時と、その腕の中で縮こまっていたモモイとミドリも、信じられないものを見るような目で唖然とアリスを見上げている。

 

「い、いや! でも! 開発経費とか諸々を考えたら、できれば他の試作品にしていただけると……!」

 

 コトリが顔を青くして慌ててアリスを説得しようとする。しかし、それを隣からすっと手で制しながら、ウタハが静かに口を開いた。

 

「いや、構わないさ」

 

「部長!?」

 

「……こんな規格外のところを見せられてしまえば、技術者として拒否することなんてできないよ。そもそも、この子以外にこれをまともに扱える人間なんて他にいないだろうしね。それにウチにはこれの試射をするための設備も予算も残っていなかった。彼女に使ってもらえるなら、いい運用データが取れそうだ」

 

 ウタハはそう言って不敵に微笑むと、アリスの元へ歩み寄り、その豊かな髪をそっと優しく撫でた。そして、作業机の方で早くも工具を手に取っていたヒビキへと視線を向ける。

 

「ヒビキ。アリスがより持ち運びしやすいように、個人携帯用の取っ手とスリングを今から取り付けてあげておくれ」

 

「うん、了解。……こっちにおいで、アリス。すぐに調整してあげる」

 

 ヒビキがテキパキとスリングの位置や長さを調整し、アリスの体に合わせた特製の取っ手を取り付けていく。その緻密な作業工程を、アリスはまるで新しいおもちゃを待つ子供のようにワクワクした様子で見つめていた。

 

 そんなアリスの背中を、ウタハは少し離れた場所から静かに見つめ、技術者としての冷徹な思考を巡らせていた。

 

(……少なくとも、推定握力は一トン以上。発射時の凄まじい反動にも微塵もブレない体幹。何より、あの至近距離での爆風を浴びてなお、肌全体に傷一つない……機体。最初から、極めて厳しい環境での活動を目的として製造されたのだろう。あの様子だと、ナノマシンによる自己治癒能力を備えている可能性も高い。そうなると、彼女の正体は……)

 

 次々と浮かび上がる仮説と考察の迷路に沈み込んでいくウタハ。その時、彼女の肩を背後からぽんと叩く手があった。

 驚いて振り返ると、そこにはモモイとミドリを無事に立たせ終えた銀時が立っていた。銀時は懐に手を突っ込んだまま、遠くでヒビキに頭を撫でられているアリスを眺め、どこか懐かしむような緩い口調で話し出す。

 

「……あーゆー規格外の奴はさ、俺が元々いた場所じゃ別段珍しくもなかったぜ。銃弾を喰らっても十数分で傷口が塞がっちまうような大飯食らいの酢昆布娘もいたし、どんだけ強烈な攻撃を喰らってもしぶとく戦い続けるどうしようもねえエロジジイもいた。……だからさ、色々と思うところはあるだろうが……アイツはちゃんと、ただの女の子さ」

 

 銀時の言葉はぶっきらぼうだったが、そこにはアリスをただの一人の仲間として受け入れる、確かな温かさがあった。

 ウタハは一瞬だけ呆気に取られたように目を見張ったが、やがて得心のいったように口元を綻ばせる。

 

「……フッ、先生にそこまで言われたらこれ以上深く邪推するのは野暮というものだね。深く考えないでおこうか」

 

 続けてウタハは悪戯っぽく微笑んで釘を刺した。

 

「ただし……これからの戦闘データは、逐一私たちに転送しておくれよ? あのレールガンは私たちの娘も同然なんだからね」

 

「へいへい、了解。ったく、過保護な親御さんだねぇ……」

 

「先生に言われたくはないさ。……そうだ、先生。お近づきの印に何か作って欲しいものはないかな?できるだけリクエストには応えよう」

 

「お、マジで?そんじゃ移動手段に……」

 

 銀時は肩をすくめながら、そしてウタハは小さく微笑みながら。気の抜けた返事のやり取りをするのだった。

 

 ──────────

 

「……ねえ、ミドリ」

 

「なに、お姉ちゃん」

 

 エンジニア部の騒々しい喧騒の端っこ。未だに床に膝をついたままの姿勢で、モモイが隣にいるミドリの制服の袖をそっと引っ張った。

 視線の先では、銀時が相変わらずだらしなく片手を着流しの懐に突っ込んだまま、ウタハと何やら気の抜けた軽口を叩き合っている。さっきまで必死に首根っこを掴んで自分たちを床に組み伏せていたとは思えないほど、いつも通りの、あのやる気のない死んだ魚の目に戻っていた。

 

「先生ってさ……なんていうか、近くで見ると、結構、体が大きいんだね」

 

「……え? 急にどうしたの、お姉ちゃん」

 

「いや、どうしたのっていうかさ……。さっきアリスちゃんがビームぶっ放した瞬間に、グイッて凄い力で引っ張られたじゃん? その時、なんか……すっごい広いっていうか、大きい壁にガッて閉じ込められたみたいだったなーって」

 

 モモイは自分の胸のあたりを手のひらでトントンと叩きながら、どこか落ち着かない様子でパタパタと視線を泳がせる。あの凄まじい爆風と閃光が爆発した瞬間、頭の上から降ってきた銀時の太い腕の感触や、鼻をくすぐった着物の洗いざらしのような、どこかお日様みたいな匂い。それが、耳の奥に残るレールガンの残響のせいなのか、それとも別の何かのせいなのか、さっきから妙に心臓をドクドクと早く脈打たせていて、なんだか落ち着かない。

 

「普段は猫背だし、なんかいつも死んだ魚の目をしてるから全然そんな風に見えないのにさ。不意打ちでんなどっしり構えられたら、調子狂うっていうか……」

 

 モモイは首の後ろをポリポリと掻きながら、小さく息を吐き出した。

 そんな姉の横顔を、ミドリは少しだけ目を見開いて見つめた。普段なら「何言ってんのミドリ、早く次のゲーム選ぼうよ!」とでも言い出しそうな自分の姉が今は妙に言葉を濁らせて、自分の手をきゅっと握りしめている。

 ミドリは、自分たちが初めて先生と出会ったあの崩壊しかけた廃墟での出来事を静かに頭の中で反芻した。

 

「……そうだね。アリスちゃんと出会ったあの古い工場でも、床が急に消えた時にあんなふうに真っ先に私たちを体ごと庇ってくれたよね。自分の背中、傷だらけにしながらさ。私たちが危ない目に見舞われると、あの先生、本当に生身の体だってこと忘れてるみたいに突っ込んでくるから……」

 

「そうそう! そうなんだよ! だからさ、なんて言うのかな……あの先生、普段はあんなにダラダラしてて頼りないくせに、こういう時だけずるいよね! なにヒーローの真似事なんてしてんのさって話! 完全に不意打ちだし、なんかちょっと、こう……見ててむかつくっていうか!」

 

 モモイは顔をわずかに赤くしながら、ぷくーっと頬を限界まで膨らませてジタバタと足を動かした。彼女自身、この胸の奥でモヤモヤと渦巻いている、くすぐったいような熱いような感情の正体が何なのか、全く自覚できていないようだった。ただ、いつも通りの先生として見られない今の状態が、気恥ずかしくてたまらないのだ。

 

 けれど、ミドリは違った。

 

 ミドリは、アリスの頭を少し手荒に、だけど優しくワシャワシャと撫で回している銀時の大きな背中をじっと見つめながら、自らの小さな手を胸元でぎゅっと握りしめる。

 

「……むかつく、かな。私は……そんな風には思わない、かな」

 

「え? なに? ミドリ、なんか言った?」

 

「ううん、なんでもない。ただ、先生はやっぱり、私たちが思っている以上に……ちゃんと、男の人の……『大人』なんだなって、そう思っただけ」

 

 あの廃墟で、怖くて震えていた自分を暖かく抱き上げてくれた時から。そして今さっき、有無を言わさぬ力強さでその広い胸の中に引き寄せられた時から。

 ミドリにとっての坂田銀時という存在は、ただの「ゲーム開発部の頼りない臨時顧問」という枠を完全に踏み越えて、明確に、一人の「異性」としての輪郭を帯びて胸の中に居座っていた。

 

「ちょっと、ミドリってば急に真面目な顔してどうしたのさー! 変なの!」

 

「変なのはお姉ちゃんの方だよ。ほら、いつまでも床に座ってないで、早くアリスちゃんのところに行こ?」

 

 まだ恋と呼ぶにはあまりにも幼く、けれど確実に胸の奥深くに根を張ってしまったその甘やかな意識を、ミドリは隣の無邪気な姉に決して悟られないよう、静かに、そして大切に心の中にしまい込むのだった。

 




いつも読んでいただきありがとうございます。

キヴォトスガールズのフィジカルは強いとは言え銀さんって庇っちゃうんだろなあと。

これからもよろしくお願いします。
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