ブルーアーカイブ 透き通る青春よ永遠なれ   作:Jon.Do

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64では何度泣かされたことか。けれどやはり神BGMです。得体の知れない工場の中、という空気が感じられますし。


第四十話 こうじょうけんがく

 ミレニアムサイエンススクールの外縁に位置する、通称『廃墟』。

 

 かつて連邦生徒会によって厳しく立ち入りを制限されていたその区画は不気味な静寂……ではなく、鼓膜を容赦なく破壊するような爆音と、金属がひしゃげる凄まじい破壊音に包まれていた。

 

「オラァァァァ! 何がロボットだコラァァ! 電池で動くおもちゃの分際で、この俺に歯向かうじゃねえぞコラァァ!!」

 

 荒れ果てたアスファルトを蹴り飛ばし、白い着物を翻して大空の下を暴れ回る男が一人。坂田銀時である。

 バキィィィン!! と、鈍い衝撃音が広大な敷地に響き渡る。

 無機質なモノアイを発光させ、規格化されたアサルトライフルを構えていたオートマタ兵の一体が、銀時の一振りを脳天に喰らって文字通り真っ二つに叩き割られた。青空の下、火花とオイルを撒き散らしながら崩れ落ちる鉄屑。しかし、銀時の猛攻はそこでは止まらない。

 

「ふざけやがって! なんだよ俺みたいにさせないための当然の処置って! なんだよちゃらんぽらんフリーター同然って! 正論言えば何でも許されると思ってんのかあの算盤女ァァ!! 世の中にはなァ! 働きたくても働けない、就職活動という名のダンジョンで最初のスライムにすら勝てずに引きこもるピュアな妖精さんたちが五万といるんだよ!! ソレに比べて俺はちゃんと働いてるから! 起業してっから!! それに今は先生だかるァァァァ!!!」

 

 完全に八つ当たりだった。

 

 午後にユウカから喰らった、何でも屋という生き方に対する容赦のない現実の精神攻撃。その鬱憤とストレスを全てぶつけるかのように、銀時は工場前を埋め尽くす防衛ロボットの群れへと単身で突撃し、木刀一本で装甲を叩き割り、電子頭脳を粉砕していた。

 

 そのあまりの猛獣ぶりの後ろで、ゲーム開発部の面々は完全に引き気味に立ち尽くしていた。

 

「……ねえ、ミドリ」

 

「なあに、お姉ちゃん」

 

「先生、めちゃくちゃ強いんだけどさ……なんていうか、一切近寄りたくないタイプの強さだよね。悪鬼羅刹っていうか、あれ完全に逆恨みだよね」

 

「うん……ユウカの言葉、思った以上に効いてたんだね。あそこまでストレートに否定されたら、まあ、荒れるのも分からなくはないけど……」

 

 モモイとミドリは、手にした小銃を構えるのも忘れて、野外の開けた視界の中で鉄の雨を降らせている銀時の背中を眺めていた。

 その隣では、半年ぶりに外の世界へとこれまた這い出してきた部長のユズが、戦闘の衝撃波と銀時の怒号に怯え、モモイのパーカーの裾をぎゅっと握りしめてガタガタと震えている。

 

「ひ、ひぃぃ……! 先生、顔が怖い……! まるでゲームの裏ボスが、バグで序盤の野良エリアに降臨したみたい……!」

 

「パンパカパーン! 先生のステータスに『激昂』および『狂戦士』のバフが付与されました! 攻撃力が三倍、ただし知性と理性が著しく低下しています!」

 

 アリスだけが、その光景を不謹慎なほど純粋な水色の瞳で眺め、独自のゲーム風解釈でうんうんと納得していた。その腕には、エンジニア部でヒビキによって個人携帯用にカスタムされた、あの巨大なレールガンがしっかりと抱えられている。

 

「おいお前ら! そこでのん気に実況プレイしてんじゃねぇよ! こちとら生身一本で鉄板叩いてんだよ! ほら、工場の周りからまた新型のルンバみたいなのがウジャウジャ湧いてきてんだろ! 早くあのアリスのチート大砲でドカンと一発お見舞いしやがれ!!」

 

 銀時がオートマタの包囲網を強引に突破しながら、叫び声を上げる。

 言われたモモイが、ハッと我に返ってアリスの肩を叩いた。

 

「あ、そうだ! アリス、出番だよ! あの工場前に陣取ってる盾を構えたおっきなロボットの集団、まとめて吹き飛ばしちゃって!」

 

「了解しました、モモイ! アリス、これより『範囲攻撃魔法』を詠唱します!」

 

 アリスが巨大なレールガンを構え、工場の重厚な正面門を塞ぐ重装甲オートマタの軍勢へと砲口を向けた。華奢な少女の体躯にはおよそ不釣り合いな、百四十キロを超える鉄塊。それが、彼女の超常的な腕力によって、まるで一本の杖のように軽々と水平に保持される。

 

「出力制限、解除。チャージを開始します──『光よ』!」

 

 キィィィィィン……という、遮るもののない大気を切り裂くような高周波の充電音が野外に木霊した。

 バッテリーから膨大な電流がレールへと送り込まれ、砲身の隙間から青白いプラズマの火花がパチパチと激しく飛び散った。

 

「うわっ、ちょっ、待て!! それいくら外だからってそっちの方向はマズいって! またどこかの建物が──」

 

 それまで荒んでいた銀時が本能的な危険を察知して叫ぶが、アリスの指はすでに引き金を絞り切っていた。

 

 ドォォォォォン!!! 

 

 再び、鼓膜を抉るような放電音が炸裂した。

 超高速で射出されたエネルギーの弾丸は、一直線に工場前の広場を駆け抜け、立ち塞がっていた重装甲ロボットの群れを盾ごと、装甲ごと、文字通り「分子レベル」で消滅させた。それだけにとどまらず、弾道上にあった工場の頑丈な鉄製の外壁を易々とぶち抜き、はるか奥の暗い建物内部まで巨大な風穴を開けてみせる。

 ゴゴゴゴゴ……と、凄まじい暴風が野外を吹き荒れ、銀時のテンパ髪が激しく煽られた。

 

「……おい」

 

 銀時は、完全に消滅したロボットたちの「かつて存在した場所」を見つめ、引きつった顔でアリスを振り返った。

 

「お前、それやっぱり一歩間違えたらこのエリアごと俺たちを塵にする威力だろ。火力の加減ってものを知らねぇの? もっとこう、手加減とか、威嚇射撃とか、そういうのとかさあ……」

 

「はい! アリスの辞書に『手加減』というコマンドは存在しません! 常に最大火力でクリティカルヒットを狙うのが、効率的なレベリングの基本です!」

 

 アリスは煙の立つ砲身をフーフーと口で冷ましながら、満面の笑みでサムズアップしてみせた。そのあまりの無邪気さと凶悪な火力のギャップに、銀時はただただ額を押さえるしかない。

 

「う、うわぁ……。やっぱりアリスちゃんの火力、いつ見ても頭おかしいよね……。これならどれだけ敵が湧いてきても、遮蔽物のない野外なら完全無敵じゃん!」

 

 モモイが目を輝かせながら、アリスが開けたばかりの、工場の「大穴」へとタタタッと駆け出していく。

 

「よし! 入り口は粉砕したんだから、このまま工場の中まで突っ切るよ! ユズちゃんも遅れないで!」

 

「う、うん……っ! 待って、モモイちゃん、そんなに急に走ったら足元のが、瓦礫に、あぅっ!?」

 

 半年ぶりの外の世界で足元が覚束ないユズが、アスファルトの亀裂につまずいて盛大に転びそうになる。それを、すぐ後ろを歩いていたミドリが素早く抱きとめた。

 

「危ないよ、ユズちゃん。大丈夫、焦らなくても先生が前を歩いてくれてるし、アリスちゃんもいるんだから。ゆっくり進もう?」

 

「う、うん……ありがとう、ミドリちゃん。……わたし、やっぱり外が怖くてまだ心臓がバクバクしてるけど……。でも、先生が守ってくれてると思うと、不思議と……少しだけ、安心、するかも……」

 

 ユズはジャージの襟元を少しだけ弄びながら、先行してまた別のオートマタの頭を木刀でスパーンと小気味よく叩き割っている銀時の背中を見つめた。

 普段はあんなに情けなくて、お金もなくて、パフェの小銭をケチるような大人なのに。いざこうして戦場に立つと、誰よりも早く危険を察知し、自分たちを決して死線に晒さないように立ち回ってくれている。

 

「……先生って、やっぱりちょっと、不思議な人、だね」

 

「……そうだね」

 

 ユズの小さな呟きに、ミドリは静かに同意した。

 その瞳は、ただの「部活の臨時顧問」を見るものではなくなっている。昼間の部室で、モモイには内緒で胸の奥にしまい込んだ、あの少しだけ熱くて、少しだけ切ない「異性」としての意識が、銀時の戦う背中を見るたびに、より一層強く、確かにその輪郭を深めていくのを感じていた。

 

「コラそこ、青空の下で百合百合しい空間作ってんじゃねぇよ! また道の向こうからちょっと機体名に『カスタム』とか『Mk-II』とか付いてそうな、強そうな赤色のやつが滑り出てきてんだろ! モモイ、お前も遊んでねぇでちょっとは銃撃って牽制しろ!」

 

「分かってるってば! よーし、ゲーム開発部の真の力、見せてあげるんだから! アリスちゃん、もう一発チャージお願い!」

 

「了解しました! 光よ、アリスに再びMPを充填してください!」

 

 銀時の怒号に、モモイの快活な笑い声と、アリスの無邪気なセリフが重なりながら。立ち塞がるオートマタ達を薙ぎ払いつつ一行は工場の壁に開けられた大穴へと向かっていった。

 

 ──────────

 

「……ふーう、どうにか工場の中入れたぁ……。もう外のロボット多すぎ! 次から次に湧いてくるんだもん、さすがに疲れたよぉ……」

 

 モモイは手にした銃の安全装置をかけながら、埃っぽい床にごろんと大の字に寝転がった。外の広場で繰り広げられた激しい銃撃戦の緊張から解放され、大きなため息をつく。

 

「侵入成功! ダンジョンの第1層を突破、クエストクリアです!」

 

 アリスは巨大なレールガンを器用に肩に担ぎ直しつつVサインを作ってみせた。

 

「あー、クソロボット相手に暴れたら結構スッキリしたわ……。やっぱ運動って大切なんだな、週一でランニングとか始めちゃおっかな。……いや、続きやしねーな。日記とか三日以上続けられたことねーし」

 

 銀時は腰の帯に木刀を慣れた手つきで差し直した後、両手を高く上げてグーっと大きな伸びをした。首の骨をボキボキと鳴らしながら、うっすらと明かりの差し込む広大な工場内をぐるりと見渡す。

 

「三日坊主が過ぎますよ、先生……。ランニングなんてどうせ最初の角を曲がったところにあるコンビニでアイス買って終わるに決まってます」

 

 ミドリが呆れたようにツッコミを入れつつ、周囲の安全を確認する。工場の重厚なシャッターを閉め切ったおかげか、先ほどまで外であれほど執拗に襲いかかってきていたオートマタ兵たちは、どうやらこれ以上工場の中までは追ってこない様子だった。

 

「……そーいやこの前は『G.bible』探すっつって、アリスを拾って連れ帰ったきりで肝心のモノは見つからず終いだったか」

 

「そうそう、だから今度こそはちゃんと見つけたいんだけど……って、アリス? どうしたの?」

 

 銀時の言葉に頷いていたモモイが、ふと不審な動きを始めたアリスに気づいて声をかける。

 アリスは担いでいたレールガンをそっと地面に下ろすと、まるで何かの電波でも受信しているかのように、首をキョロキョロと左右に振らせながら、おぼつかない足取りで少しずつ工場の奥へと歩き始めていた。

 

「……ここは……どこか、見慣れた景色です。記憶のデータにはありませんが、此方の方に行かないといけない気がして……」

 

「……取り敢えず、アリスちゃんに着いて行ってみよう。あの子がここにいたっていうなら、何かの手がかりが残ってるかもしれないし……」

 

 校舎の外へと出てまだ間もないユズが、おずおずと提案する。

 

 一行は、導かれるように薄暗い通路の奥へと進んでいくアリスの背中を静かに追いかけた。アリスは時折、錆びついた鉄格子の天井や古いパイプの配管を不思議そうに見渡している以外は、一切の迷いなくその小さな足を進ませていく。

 

「……なぜかは分かりません、けど。身体が最初からセーブデータを持ってるみたいに、こっちだって……何度も周回しているお気に入りのダンジョンを、頭じゃなくて指が覚えてる、みたいな不思議な感覚です」

 

「あー、わかるわそれ。忘年会シーズンとかに泥酔して、頭の中じゃ自分が今街のどこを歩いてるか1ミリも分かってねえのに目が覚めたら何故か自宅の布団の中で綺麗に靴下脱いで寝てるみてーな、あのオートマティカルな帰巣本能だろ」

 

「例え方が圧倒的に低俗すぎますよ、先生……。アリスちゃんの神秘的な感覚を、おじさんのドブみたいな私生活と一緒にするのはやめてください。──ん? あれ、あそこに何か……コンピュータが……」

 

 ミドリがため息混じりに銀時を叱責したその時、通路の突き当たりにある、少し開けたオペレーションルームのような小部屋が視界に入った。

 

 自分たちの行先に置かれていたのは何年も放置されていたのか、一面に白い埃を被った古びたデスクトップパソコン。しかし奇妙なことに、その端末は今もなお息絶えることなく、電源が入っているかのように緑色のモニターがチカチカと不規則に明滅していた。一行は息を呑みながら、ゆっくりとその不気味な画面へと近づいていくと……ぴぴっ、とデジタルな音が響き、画面にテキストが打ち出され始めた。

 

『divi.sion systemへようこそ。お探しの項目を入力してください』

 

 埃を被った古いブラウン管のモニターに、どこか冷淡な電子フォントの文字列が浮かび上がる。

 モモイは顔を近づけて画面を覗き込むと、人差し指を立ててポンと手を叩いた。

 

「これ、本屋さんの在庫検索機みたいなものかな? 『G.bible』って打ち込んでみよっか」

 

「いや、ちょっと怪しすぎない……? ようこそってことは、この工場の名前が『ディビジョンシステム』ってことなのかな?」

 

 ミドリが周囲の不気味な配線を見つめながら警戒の声を上げるが、その横からアリスが迷いのない手つきでキーボードへと手を伸ばしていた。

 

「……キーボード発見。G.bibleと検索してみます」

 

 アリスがパチパチ、と器用にキーボードを叩き始めると、突然モニターの画面が激しくブレを起し、ノイズ混じりの文字列が不規則に羅列され始めた。

 

『……#)#$@#$$%#%^*&』

 

「こ、壊れた!? アリス、何を打ち込んじゃったの!?」

 

「い、いえ、まだエンターキーを押していないのですが……」

 

 モモイが頭を抱えて叫ぶ中、アリスはタイピングを止めて首を傾げる。すると、画面の激しいノイズがピタッと収まり、新たな緑色のテキストがゆっくりと出力された。

 

『あなたはAL-1Sですか?』

 

「……確かコレは、アリスの……」

 

 銀時が懐に手を突っ込んだまま、モニターに映し出されたその形式番号のような文字列をじっと見つめる。アリスの首元に刻まれていた文字列と同じだった。

 

「アリスちゃん、これ以上何も入力しない方が……なんだか嫌な予感がするよ」

 

 ミドリがアリスの肩を掴んで引き留めようとした、その瞬間だった。

 

『音声認識、資格を確認。お帰りなさいませ、AL-1S』

 

「音声認識付きとは便利なこって……。キーボード叩く前から全部筒抜けじゃねーか。これだから最近のメカは油断ならねぇんだよ」

 

 周囲への警戒を強めようとした矢先、完全に逃げ道を塞ぐような形で自律起動を始めたパソコンに対し、銀時はやれやれと深いため息を漏らした。その隣で、アリスは吸い寄せられるようにモニターの一歩前へと踏み出し、画面に向かって静かに問い掛ける。

 

「……あなたは、AL-1Sについて何か知っているのですか? 私は、自分のデータが知りたいです」

 

『…………緊急事態発生。処理中に電力限界到達。メインサーバーの機能停止を感知。この電源が落ちるとともに、私は完全に消失します。残り51秒』

 

「おいおいおい待て待て待て!! 処理落ちすんの早すぎんだろ!? 1分足らずで何ができるってんだ! せめて消える前に『G.bible』のこと教えろって!!」

 

 銀時が思わずパソコンの角を掴んで激しく前後に揺さぶる。

 無情にもカウントダウンの数字が刻まれる中、画面はさらに明滅を繰り返した。

 

『……確認完了、コード:遊戯。人間、理解、リファレンス、ライブラリ登録ナンバー193。──該当データ『G.bible』。廃棄対象データ1号に指定されています。残り35秒』

 

「廃棄!? なんで!? あれは全てのゲームクリエイターの聖典なのに! なんでそんな凄いものがゴミ扱いされてるのさ!?」

 

 モモイが信じられないといった様子で叫び、モニターにすがりつく。

 

『G.bibleが欲しいのであれば、一つ提案をします。データを外部へ転送するための、適切な保存媒体を至急接続してください』

 

「え、やっぱりあなた、『G.bible』がどこにあるのか知ってるの?」

 

 モモイの問いかけに、モニターの緑色の光が一度だけ強く瞬いた。

 

『……あなたたちも、既に知っています。今、まさに目の前に』

 

「なになに!? どういうこと!? 目の前って、この部屋のどこかにあるの!?」

 

『詳しく言うと、G.bibleのデータは現在私の中にあります。しかし先述の通り、私は今から30秒以内に消失寸前。データを残すため、新しい保存媒体への移行を希望します』

 

「そ、そうは言っても……保存媒体なんて、こんな廃墟で急に言われても持ってないよ! あ、そうだ! 私の『ゲームガールアドバンスSP』のメモリカードはどう!?」

 

 モモイがポケットから、ミレニアムで一昔前に流行ったレトロ携帯ゲーム機を引っ張り出し、必死に差し込み口を探しながら差し出す。

 一瞬の沈黙の後、モニターの文字がどこか間を置いて出力された。

 

『…………まあ、規格のダウングレードは著しいですが、不可能、では、ありません』

 

「……おいこいつ、なんか検索機のくせに感情結構豊かだな。今、三点リーダーの間に『マジでそれに入れるの? 正気?』みたいな特大の拒絶のニュアンス入ったろコレ」

 

 銀時が半目になりながら突っ込む。明らかに不服そうな反応を見せる古いパソコンを横目に、カウントダウンの数字は容赦なく一桁へと向かって減り続けている中、モモイは慌てて手元の携帯ゲーム機と、埃を被ったパソコンの側面に飛び出ていた古い外部端子とを有線ケーブルで強引に接続させた。

 

「こ、コレでどう!? ちゃんと認識して!!」

 

 モモイが祈るように叫ぶと、モニターの画面が激しく明滅し、一気にプログレスバーが伸びていく。

 

『外部ストレージの認識に成功。転送を開始します……。なお、保存領域が著しく不足しているため、空き容量確保を目的として既存のデータを順次削除します。転送完了まで残り9秒』

 

「え、嘘っ!? 待って、それ私のセーブデータ消してないよね!? 違うよね!?」

 

『容量不足のため、不可避の処置です。対象:セーブスロット1、2、および3』

 

「だめえええ! 待って! そこまでレア装備集めるのどれだけ大変だったと思ってんの! あと一歩で実績コンプだったのにぃぃ!!」

 

『──残念、削除されました』

 

「ちょっとおおおおおお!?!? 」

 

 モモイがモニターに向かって絶叫する。その横で、銀時はますます呆れたようなジト目をパソコンへと向けた。

 

「おい、こいつ今ハッキリと『残念』っつったよな、感情込めて残念つったよな。定型文の皮を被ったただの煽りスキルだろコレ。検索機のくせに性格の悪さだけカンストしてやがるわコイツ」

 

 ピピッ、と短い電子音が響くと同時に、古びたパソコンのモニターが完全にブラックアウトし、工場の奥に再び静寂が戻ってきた。それと同時に、モモイのゲーム機の画面に『転送完了』の文字が浮かび上がる。

 

 モモイは涙目で自分の大切なセーブデータが消え去ったゲーム機を操作していたが、すぐに「あれ?」と声を上げ、眉をひそめて画面をミドリたちに見せた。

 

「転送は終わって、なんか怪しい拡張子の『.exe』ファイルが出てきたんだけど……起動しようとしたらパスワードの入力画面が出てきて進まないよ! 何コレ!! 肝心の中身が見られないじゃん!」

 

「パスワード……? データのプロテクトかな……?」

 

 ユズが恐る恐る画面を覗き込む。せっかくセーブデータを犠牲にしてまで手に入れた『G.bible』だというのに、最後の最後で鍵がかかっている状態だった。しかし、ミドリはすぐにハッとした表情になり、モモイの肩を叩いて力強く微笑んだ。

 

「大丈夫だよお姉ちゃん! 普通のパスワードによる暗号化なら、『ヴェリタス』にお願いすれば、きっとすぐに解析できるはずだよ!」

 

 ミドリの頼もしい言葉にユズも、ジャージの袖を握りしめながら深く何度も頷いた。

 

「そ、そうだよね! あの人たちなら、これくらいのプロテクトなんて一瞬でハッキングして崩しちゃうよね!」

 

 モモイは消えたセーブデータの悲しみを無理やり吹き飛ばすように拳を握りしめ、一気に表情を明るく輝かせる。

 

「これさえあれば、ユウカ先輩を驚かせるような、世界で一番面白いゲームが絶対に作れる……! ゲーム開発部は、絶対に廃部なんかさせないんだから!」

 

 ミドリもアリスの顔を見つめながら、確かな希望を胸にしっかりと頷くのだった。




ここまで読んでくださりありがとうございます。

まさかこの検索機があんな風になるとは思わなかったです。

ストーリー上、姿を見せるのはまだまだ先ですが……なんだかんだで銀さんと相性が良さそう。やはり銀さんは少し性格が強めの子が似合います
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