二つの風がぶつかり合い、割れた床面から砂塵が吹き荒ぶ。ネルのサブマシンガンによる殴打を銀時は木刀でぎりりっ……と受け止めていた。
「たっぷり楽しませてくれよ、先生ッ!!」
「俺は楽しみたくねえんだけどなッ!!」
言葉の終わりと同時に、ネル二挺のサブマシンガンを振り上げ、その銃口を銀時へと向けて激しい火花を散らした。
ガガガガガガガガガガガッ!!!
狭い廊下に爆音が反響し、猛烈な弾幕が銀時の全身を肉片に変えんと降り注ぐ。だが、銀時はその場から一歩も動かない。
キィィィン!
ガガガガガガッ!!!
暗闇の中で、火花が激しく飛び散った。銀時は凄まじい速度で木刀を斜めに、縦に、横に、まるで生き物のようにうねらせ、正面から迫る弾丸の嵐をピンポイントで叩き落とし、あるいは弾道の角度を正確に変えてことごとく逸らしてみせたのだ。ただの木刀が、まるで難攻不落の盾と化していた。
「ははっ! 本当に木刀で弾いてやがるじゃねーか! アンタの動体視力、どうなってんだ!?」
至近距離での弾幕をすべて防がれたネルは、驚愕するどころか、むしろ待ち望んでいた強者との邂逅に歓喜の声を上げる。
「踏んだ場数の功ってヤツだよ!」
銀時は防戦の一瞬の隙を突き、床を強く踏みしめて前方に突進した。木刀を鋭く振り下ろし、ネルの脳天を狙う。だがネルは瞬時に身体を捻り、紙一重でその一撃をかわすと、鋭く床を滑りながら銀時の死角へと回り込んだ。
「そーかい、でも安心して当たっていいんだぜ!? 何せアンタ用に流通してるゴム弾だからなあ!!」
ネルは回り込みながら、容赦なく銀時の脇腹を狙ってトリガーを引く。
「いらねーお節介ごくろーさん!! ゴム弾だろーと痛えもんは痛えんだよ!!てか俺用ってなに!?誰だよそんなの流通させてる奴!!」
「知るか!!」
銀時は半身を引いて弾道をかわしつつ、返す刀で木刀を薙ぎ払う。
ゴム弾とはいえ、ミレニアムの規格で作られたそれは普通の弾頭と変わらない初速を持つ。しかし銀時の動きにも一切の妥協はなかった。
ガギィィィン!!!
ネルはサブマシンガンのレシーバー部分で木刀の強烈な横薙ぎを受け止めた。凄まじい衝撃が廊下の空気を震わせる。ネルの小柄な身体が床を数メートル滑るが、彼女はすぐに牙を剥いて再び地を蹴った。
「まだまだァ!」
今度はネルが鎖で繋がれた二挺の銃をトリッキーにぶん回しながら接近する。一挺を囮として投げつけ、銀時がそれを弾いた瞬間に、もう一挺の銃口を至近距離から突きつけるという、変幻自在の近接銃撃術。
だが、銀時はその変則的な動きすら、かつて見た数々の奇策と重ね合わせて見切っていた。
投げつけられた銃の鎖を左手で強引に掴み取ると、グイと自分の方へ引き寄せる。
「なっ……!?」
体勢を崩したネルの目の前に、銀時の鋭い眼光が迫る。銀時は引き寄せた勢いのまま、右手の木刀の柄頭をネルの胸元へと叩き込んだ。
ドォン!
「がはっ……!」
ネルの身体が後ろへと吹き飛ぶが、彼女は空中で見事に一回転し、壁を蹴って再び銀時へと向かって跳躍する。その動きには、一切の恐怖も怯えもない。ただ目の前の男をねじ伏せるという、純粋な闘争心だけが満ちていた。
「へへ……やっぱりアンタ、ただの大人じゃねえな! 最高だ、もっと楽しませろよ!!」
「楽しませてるつもりはねーよバカちんが!!」
スカジャンを激しくなびかせ、ネルが空中から再び猛烈な銃撃を浴びせる。
銀時はそれを迎え撃つべく、再び木刀を固く握り直した。
空中から降り注ぐゴム弾の嵐を銀時は辛うじて身体を捻り、あるいは最小限の木刀の軌道で弾き落とす。しかし、真の脅威は弾幕の直後にやってきた。
着地と同時に低空を滑るように距離を詰めてきたネルが、目にも留まらぬ速さでその小さな身体を反転させる。強靭なバネのような腰のひねりから放たれたのは、容赦のない鋭い回し蹴りだ。
──ドガァッ!!
銀時は咄嗟に木刀の腹を盾にして受け止めたが、衝撃波が廊下の壁をピキピキとひび割れさせる。木刀を通じて両腕に伝わってきたその狂暴な質量に、銀時の脳裏をある強烈な記憶がよぎる。
(なんだ、ちっこいくせにこのキレと重さは……っ!)
思い出されるのは、かつて拳を交え、あるいは背中を預けた、宇宙最強の戦闘種族。神楽のあの理不尽なまでの怪力、星海坊主の隙のない一撃、そして吉原の夜を支配していた夜兎の王・鳳仙の、すべてを圧殺するような圧倒的な武──。
目の前でスカジャンをなびかせ、獰猛な牙を剥いている小柄な少女の動きは、間違いなくあの化物たちの領域に片足を突っ込んでいた。
(おいおいおい、冗談だろおい!! 骨格どうなってんだよキヴォトス!! 各学園の「最強」って言われてる奴らは、どいつもこいつもあいつらと肩並べるレベルの化け物だってか!?)
キヴォトスという世界の異常なまでの天井の高さに、銀時は内心で冷や汗をだくだくと流しながら絶望的な気分になる。
(こんな奴らが街中にゴロゴロいるとか勘弁してくれよ、マジで……!!)
心の中でどれほど愚痴ろうとも、ネルの猛攻は一秒の猶予もくれない。
蹴りを受け止められたネルは、着地した瞬間の反動を利用して、今度は鎖で繋がれたサブマシンガンの重い金属製のストックを、銀時の顎を狙って容赦なく振り上げてきた。
ブンッ! と空気を引き裂く凶悪な風切り音。
銀時は限界まで上体を後ろに反らし、鼻先を数ミリ掠めるような神懸かり的な見切りでそれをかわす。しかし、ネルは避けた銀時の胸元へ、もう一挺の銃の銃口を瞬時に突きつけた。
「死角だぜ、先生ッ!!」
ゼロ距離からの銃撃。だが、銀時は反らした体勢のまま、左手で床を強く突いて独楽のように身体を横に回転させた。放たれたゴム弾が銀時の着物の袖を掠め、背後のコンクリート壁にめり込んで派手な火花を散らす。
「おっと、危ねぇ!!」
回転の勢いをそのまま殺さず、銀時は下から跳ね上げるように木刀を振り抜いた。ネルのガードを崩すための鋭い一撃。だが、ネルは空いた方の銃のストックを強引に叩きつけ、ガギィィィン!! と耳を瞑りたくなるような金属音を立ててそれを力任せにねじ伏せる。
「あはははは! 避けるねえ! 防ぐねえ! クソ眠そうな目してるくせにやっぱりアンタ本物だわ!」
ネルの瞳が、闘争の歓喜でギラギラと輝く。
銃撃、ストックでの殴打、そして視線を誘導してからの容赦ない膝蹴り。それらが洗練されたコンビネーションとなって、絶え間なく銀時を襲う。銀時は木刀を盾にし、時には自身の肉体を極限までしならせてその連撃をいなし続けていた。
──────────
銀時が内心で夜兎の影を見て冷や汗を流していたその時、攻め立てているはずのネルの胸中にもまた、静かな、しかし強烈な戦慄が走っていた。
(……チッ、なんなんだよ、このおっさんは……!)
ネルの二挺の銃から放たれる弾幕は、ただの乱射ではない。ネル自身が数多の修羅場で培った野生の直感による文字通りの「必殺の檻」だ。並の生徒であれば、射線に捉えられた時点で戦闘不能になるか、良くて防戦一方のまま体力を削り取られる。
だが、目の前の白髪の男は違う。
確かに一歩間違えれば致命傷になりかねない紙一重の回避を続けている。死んだ魚の目をしたまま、だらしなく着物をはためかせ、お世辞にも洗練されているとは言えない不格好な体勢で泥臭く避け続けている。
ネルが放つあらゆる打撃、あらゆる銃撃の「最も威力が乗る瞬間」を、あの安っぽい木刀の腹や、絶妙な身体のひねりだけで、完全に死に体にされているのだ。
(あたしの攻撃を……全部、芯から逸らしてやがる。ただ避けてんじゃねえ、これっぽっちも『まともに喰らって』ねえんだ。どんな場数を踏めば、ただの木刀一本で、これだけの銃撃と体術を『いなせる』ってんだよ……っ!)
キヴォトスにおいて、ネルの攻撃を正面から受け止められる肉体の持ち主なら、他にも心当たりはある。だが、この男の強さはそれとは全く異質だった。肉体の頑丈さに頼るのではなく、純粋な「武」の経験値──どれだけの死線を超えてくればこれほどの戦闘勘が身につくのか、ネルの計算では到底弾き出せない未知の領域。
「だったら……これならどうだァ!!」
ネルはさらにギアを上げた。思考を捨て、本能のままに肉体を駆動させる。
鎖を限界まで伸ばし、一挺のサブマシンガンを鞭のようにしならせて銀時の足元へ叩きつけた。コンクリートの床が派手に弾け飛び、立ち上る砂煙。その視界不良の瞬間を突き、ネルはもう一挺の銃を構えて煙の向こうへと肉薄する。
確実に捉えた、そう確信した瞬間。
ガガァァァンッ!!
煙を割って突き出されたのは、銀時の木刀の尖端だった。それも、ネルの銃口を真っ向から塞ぐように、ピンポイントでレシーバーの隙間にねじ込まれてきたのだ。
「なっ……!?」
「おいおい、嬢ちゃん。煙幕なんざ、忍者だったらもうちょっと上手く使うぜ?」
銀時は不敵にニヤリと笑うと、木刀を支点にして強引にネルの銃を跳ね上げた。ガラ空きになったネルの懐。銀時はそのまま一歩踏み込み、今度は木刀ではなく、その太い腕を真っ直ぐに伸ばしてネルのスカジャンの襟元を掴みにかかる。
ネルは驚愕しながらも、即座に空いた左手の銃のストックを銀時の手首に向けて叩きつけ、その拘束を強引に振り払った。バックステップで距離を取りながら、二人の視線が再び正面から激突する。
旧校舎の暗い廊下には、二人の荒い息遣いと、銃撃によって加熱された銃身の熱気だけが漂っていた。ネルの額からは、いつの間にか一筋の汗が流れ落ちていた。圧倒していたはずの彼女の心は、今や冷や汗と、それ以上の獰猛な歓喜で沸き立っていた。
──────────
二人の怪物による超次元の激突を、廊下の隅で肩を寄せ合うゲーム開発部の四人は、ただただ息を呑んで見つめることしかできなかった。
「な、なにあれ……なんなのさ、あれ……!」
モモイが愛用のアサルトライフルを抱きしめたまま、ガタガタと膝を震わせる。
ミレニアムのトップクラスの武力がどれほど異常か、それは同じ学園に通う彼女たちが一番よく知っている。美甘ネルは歩く天災だ。触れれば粉砕され、睨まれればそれだけで敗北を意味するような、そんな絶対的な存在。
だが、今目の前で展開されているのは、その天災と「対等」に、いや、それ以上に泥臭く不気味にいなし続けている、普段は死んだ魚の目をして甘味の値段に一喜一憂している白髪の男だった。
「信じられない……。ネル先輩のあの連撃を、ただの木の棒一本で全部……っ」
倒れたアリスを介抱しながら、ミドリがその攻防を凝視し、戦慄のあまり声をかすれさせる。
計算も、予測も、いかなる戦術アルゴリズムも、あの男の「いなし」の前には意味を成さない。弾丸が弾かれる度、金属製のストックが空を切る度に、廊下の闇に火花が散り、その一瞬の光に浮かび上がる銀時の横顔は、いつもの冴えない姿とはまるで別人のように冷徹だった。
「……せ、先生……ッ」
ユズさえも胸元で小さな拳をぎゅっと握りしめ、瞬きすら忘れるほどに。激しい戦闘の有様への恐怖を通り越した激しい感動がユズの胸を震わせていた。
「……先生」
アリスがごく、と息を呑み、白い髪を振り乱してあの恐ろしいメイドに喰らいつく様子にすっかり魅入っていた。
ガギィィィン!! と、再び鼓膜を震わせる金属音が響き、二人の影が爆風と共に一度大きく距離を取る。
銀時もネルも呼吸を荒げていた。しかし二人とも眼差しの鋭さを衰えさせてはいない。
「……すげーな、アンタ。すげーよ、ホントに。近接戦最強って自負してたが……こんなにあたしに噛みついてきたヤツは初めてだぜ」
「……そりゃどーも。俺もう体力の限界迎えてんだけど。ギシギシとか言ってらんないレベルで体中悲鳴上げてんだけど」
銀時は肩で息をしながらも、木刀の切っ先をぴたりとネルに向けて固定したままだ。
「……次で最後だ。ゼッテーに叩き込んでやる!!」
ネルの咆哮と共に、旧校舎の床が爆散した。
先ほどまでの速度をさらに凌駕する、文字通り音を置き去りにした超突撃。直線上に放たれたネルの双眸は、勝利への純粋な渇望だけで燃え盛っている。
ガガガガガッ! と、突進の慣性を乗せたまま、ネルが至近距離から一対の銃口を銀時の胸元へ真っ直ぐに突き出す。
だが、銀時はその超高速の突きを、限界まで研ぎ澄まされた紙一重の体捌きで滑り込むようにかわした。弾丸が銀時の頬を掠め、白髪を激しく巻き上げる。
体勢を入れ替えた一瞬の交差。
銀時は地面を強く踏みしめ、ネルの無防備な背中に向けて木刀を大きく振り翳した。
(……! やられる!)
極限の連続戦闘による疲労。そして、今の突撃に全てを賭けた代償として、ネルの肉体は次の回避行動にどうしても反応できない。
背後から迫る圧倒的な死線を感じ、ネルは反射的に奥歯をガチリと食いしばった。衝撃に備えて全身の筋肉を硬直させる──。
しかし。
ネルの予測した、肉体を断つような強烈な衝撃は、いつまで経っても訪れなかった。
パキイイイイイイン……!
静かな廊下に、澄んだ金属の破砕音が響き渡る。
ネルが恐る恐る目を開けると、自分の両手に握られていたはずの、愛用の一対のサブマシンガン──その銃身が、レールとトリガーガードの間から、見事なまでに真っ二つに、パックリと叩き割れていた。
肉体には微傷一つ付けず、限界の速度の中で、武器の最も脆弱な結合部分だけを正確に狙い撃ちした一撃。
「……はい、終了」
銀時はぱっぱ、と木刀についた埃を払うような仕草をしてから、それを腰のベルトへと静かに差し直した。その目は、すでにいつもの締まりのない死んだ魚の目に戻っている。
「……アンタ、情けでもかけたつもりか? あたしはまだ素手でも戦える。このあたしが武器を壊されたくらいで……」
ネルが屈辱と困惑の混ざった複雑な表情で、拳を握り締めながら銀時を睨みつける。
「……そんなもんかける暇があったらご飯にかけてるわ。……勘違いすんな、俺ぁちゃんと本気だったよ」
「じゃあなんで……!? なんであたしじゃなく、武器を狙ったんだよ!」
納得がいかないとばかりに声を荒げるネル。そんな少女を銀時は少しだけ面倒くさそうに見下ろした。
「喧嘩ってのは、何かを守るためにやるもんだろ。お前はお前で、メイド部のメンツとか、なんか背負ってるもんを守るため……まぁ、今回はちょっと違ったかも知れねえが」
「……そーゆーアンタは、何を守ってたんだ」
ネルの問いに、銀時はふっと短く息を吐き、旧校舎の窓から差し込む月光を背に受けながら、静かに背中を向けながら告げた。
「俺のルール、ってヤツさ」
そして銀時は、開いた口が塞がらない様子で固まっていたゲーム開発部の方へと、いつも通りのだらしない足取りで歩いていった。
「ほら、さっさと帰るぞ。銀さん疲れて眠たくて仕方ねーし糖分切れて幻覚見えそうだし。明日の正午まで起こすんじゃねーぞ、マジで怒るぞ」
ぶつぶつと文句を言う銀時に、モモイたちが「は、はいっ!」と慌てて返事をする中で、彼はアリスの前に立ち手を差し伸べた。
「あ、アリス、立てます。まだ戦え……」
「戦わなくていーの。勇者の出番はもう終わりだ。ほら、掴まりな」
銀時はまだ膝をついてカクカクしているアリスの前に屈むと、その小さな身体をひょいと背中に乗せた。
「わあ……! 先生の背中、大きくて、とっても温かいです!」
「はいはい、さっさとねんねしてろ」
アリスをしっかりとおんぶした銀時は、ミドリ、モモイ、ユズを従え、壊れたエントランスの向こうへと歩いてゆく。
ネルはその少しだけ丸まった大人の背中を、手元に残った銃の残骸を見つめながら、ただ黙って見送るしかなかった。
冷たい夜気の中に、遠ざかっていく背中が闇に溶けるように小さくなっていく。いつもならその隙だらけの無防備さに舌打ちの一つでも出るところだが、今はただ、暗闇の中でその背中にのしかかっている目に見えない重圧の正体を、ネルは静かに噛み締めていた。
「……大丈夫? リーダー。先生達行っちゃうよ?」
アスナが、いつもの屈託のない笑みを少しだけ心配そうに曇らせてネルの顔を覗き込む。
「今なら背中がガラ空き。これから私が狙撃を……」
カリンが愛銃の重いボルトを静かに引き、夜視スコープ越しに標的を捉えようとした。だが、その銃口を遮るように、ネルはぶっきらぼうに手を振る。
「……やめだ、やめ。今日のところは、だけどな」
ネルはそう言って、一歩後ろに控えていたアカネに告げる。
「この騒ぎの片付けはウチらで受け持つ。メイド部全員で瓦礫の山を処理するぞ」
「本当にいいのですか? 多分彼女達は保健室に向かっています。ミレニアムにはいくつも保健室がありますが、私どもの情報網ならすぐに特定を……」
事務的かつ完璧な代案を提示するアカネの言葉を、ネルは鋭い声で遮った。
「二度も言わすんじゃねえ、終わりっつったら終わりだよ」
ネルはそう言って、乱暴に頭を掻きむしる。カツン、とヒールの踵で転がっていたコンクリートの破片を暗闇の奥へと蹴り飛ばした。
「目的は概ね達成した。リオがゲーム開発部……それと、あの坂田先生に興味を持った理由がなんとなくわかったからな」
大人のくせにだらしなくて、だけど絶対に引かない、あの妙な頑固さ。
思い返すネルの横顔を見て、月明かりの下でアスナの目がいたずらっぽく輝いた。
「あ! 私わかっちゃった! 気に入っちゃったんでしょ、先生のこと!」
「──ッ!?」
アスナのその言葉に、ネルはびくっ、と分かりやすく肩を震わせた。
思わず振り返りそうになるのを必死に堪え、背を向けたまま、夜の闇でも隠しきれないほど急速に赤くなっていく耳を隠すように顔を背ける。
「……そーだよ」
絞り出すような、だが、誤魔化しを一切排除したネルの直球な肯定に、今度はカリンとアカネが目を丸くした。
「認めるんだ……。……まあ、確かに面白い人ではあったけど」
カリンが意外そうに、しかしどこか納得したように息を漏らす。
「まあ、かっこいいもんねえ、坂田先生♡」
「言ってろ。……ほら、さっさと片付けて帰るぞ。今日はいつもより、格段に疲れちまったからな」
ネルはそれ以上追及させまいと、夜の静寂を切り裂くような大声で部下たちに背を向け、瓦礫の山へと歩き出す。その足取りはいつもより少しだけ早足で、何より、その小さな背中は街灯の光に照らされて、隠しきれない熱を帯びているように見えた。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
この戦闘シーンはかなり産み落とすまでに難儀しました。稚拙だとは思いますが……楽しんでいただけてたらいいなあ。
これからもよろしくお願いします。
レトロチック浪漫篇、最終話は明日の20時ごろに更新します。いつもより早い時間なのは……お察しください
ちなみに今大絶賛夏風邪中&繁忙期中です。次章である「天に徒花、地に忍篇」は書き上がっていますがその次の章にはまだ手を出せていません。なるべく投稿頻度が変わらぬよう努力しますが、日跨ぎとなったりしましたらその時は「あー、あの名無しの権兵衛ヒイコラやってんだなあ」と思いつつお待ちくだされば幸いです。
必ず、銀さんと生徒達の物語は完走させます。私が味わったエタりという失望は絶対に味わせません。