眩い青い光が収まり、本来の静寂を取り戻したシャーレのオフィス。
窓の外を見れば、先ほどまで不穏な赤黒い光を放っていたサンクトゥムタワーが、まるで世界の夜明けを告げるかのように、穏やかで透き通るような青い光を天へと伸ばしていた。
遮断されていた電力が一気に復旧し、電子音が規則正しく鳴り響くオフィスの中で、どこかへと通信していたリンが、これまでの張り詰めた表情を劇的に変え、希望を宿したかのようにその瞳を大きく輝かせる。
「──── はい、こちらでも確認しました。……先生、サンクトゥムタワーの制御権の確保、および連邦生徒会への移管を無事に確認できました。これで……先生?」
受話器を置き、安堵の息を漏らしながらこちらへと振り返るリン。しかし、肝心の「先生」からの返答はない。
リンが怪訝そうに、少し声を尖らせて呼びかけると、それまで彫刻のように固まっていた銀時が、びくっ……と大きく体を震わせて、まるで今さっき現世に引き戻されたかのように慌てて周囲を見渡した。
「……あり? あれ、俺今確か……なんか、カステラとかバナナミルクとか、やたらと重いこと言ってくるちんちくりんの女子高生と指切りげんまんしてたような……」
寝ぼけた眼をこすりながら、自分の人差し指の先を不思議そうに見つめる銀時。そのあまりにも緊張感のない、魂が半分抜けたような様子に、リンはこめかみに青筋を浮かべながら深いため息を吐いた。
「……こんな状況、かつキヴォトスの命運を懸けた大一番の最中に、あなたはいままで寝ぼけていたのですか? 全く……呆れた大人です。ですが、先ほど前線の通信網から、タワーの制御権を完全に確保できたとの連絡が入りました。あなたがその端末────『シッテムの箱』を起動させてくれたおかげです。これでようやく、麻痺していたキヴォトスの行政管理を正常に進めることができます」
ふぅ、と眼鏡の位置を直しながら、リンはどこか諦め混じりの、しかし確かな信頼の混ざった視線を銀時へと向けてから、スッと背筋を伸ばして深々とお辞儀をした。
「坂田先生。連邦生徒会を行政官として代表し、あなたに心からの感謝を致します。おかげでキヴォトスの混乱の悪化を未然に防ぐことができました」
いつになく真摯で丁寧なそのお辞儀に、銀時はどこか決まり悪そうに頭をガリガリと掻きつつ首を横に振る。
「なあに、俺ぁ何もやっちゃいねーよ。本当に身体張って頑張ってくれたんは、銃弾の雨ん中で何もわかっちゃいねえ俺をここまで無傷で届けてくれたあの嬢ちゃんたちだろ。感謝するってなら、俺じゃなくてアイツらにそれを言ってやんな」
その言葉を聞いたリンは、驚いたようにゆっくりと頭を上げて目をぱちくりとさせた。この男も男でたった一人で、しかも木刀ひとつでこの学園都市の命運を握るタワーを奪還したというのに、その功績をすべて、当然のように少女たちの頑張りへと帰して見せたのだ。
リンは一瞬だけ、その冷徹な仮面の奥で柔らかな微笑を浮かべたが、すぐにいつものキリッとした冷徹な行政官の眼差しを取り戻して言葉を続ける。
「……分かりました。彼女たちの戦功については、後ほど連邦生徒会から然るべき形で報いると約束しましょう。それから、現在もまだここを包囲している不良たちや、脱獄して停学中の生徒については、徹底的に追跡し、討伐致しますのでご心配なく」
「おう、ケツ拭きごくろーさん。上の人間はそうやって、現場の尻を綺麗に拭くのが一番大事なお仕事だからな」
「……あまり下品な言い方をしないでください、セクハラですよ。これでも一応、私は乙女なのですが」
「それだけでセクハラになるの!? 現代社会のコンプライアンス厳しすぎだろ! ?」
大袈裟に身震いしてみせた銀時に、リンはふん、と冷ややかに鼻を鳴らしてぷいと顔を逸らす。
「……ついてきてください。あなたがこれから籍を置くことになる、連邦捜査部『シャーレ』のオフィスをご紹介致します」
そう告げると、彼女は先ほどよりも高く、小気味よい音でヒールをカツカツと鳴らしながら、オフィスのさらに奥へと続く重厚な扉の方へと向かった。
「……ほーんと、女の子って怖え……。あの狐面の爆弾娘といい、この冷血メガネといい、キヴォトスの女はどいつもこいつも一筋縄じゃいかねーのばっかかよ」
ぼそぼそと小声で、しかし確実に部屋の静寂に響く音量で愚痴をこぼす銀時。
その瞬間、前を歩いていたリンの足がピタリと止まった。
カツ、と一度だけ鋭くヒールが床を叩く。
ゆっくりと、ロボットのように正確な動作で振り返ったリンは、眼鏡の奥の切れ長な瞳を文字通り氷点下まで冷やし、般若も裸足で逃げ出すような笑顔を浮かべていた。
「はい? 何かおっしゃいましたか、坂田先生」
「ヒィッ!? ナニモイッテマセン! 銀さん今、リンちゃんの歩く姿がまるで大和撫子のようで大変美しいなーって心の中でスタンディングオベーションしてただけです!!」
両手を上げて全力で首を横に振る銀時に、リンは「……そうですか」とだけ冷たく返し、再び前を向いて歩き出す。
「……はぁ、寿命が縮むわ。万事屋やってた頃より確実に命の危機を感じるスピードが早ぇんだけど」
冷や汗を手の甲で拭いながら、銀時は今度こそ口を真一文字に結び、大人しくその背中を追って扉の向こうへと足を踏み入れるのだった。
──────────
「……さて。ここがシャーレのメインロビーとなります。長い間空っぽでしたが……ようやく主人を迎えることになりましたね」
そう言って足を止めたリンの視線の先には、これまでの重厚なセキュリティ扉とは打って変わり、どこか既視感のある『空室 近々始業予定』と手書きの張り紙がされた、何の変哲もないガラスのドアが据えられていた。
カチャリ、と鍵の開く小気味よい音。その扉をリンが静かに開けば、そこにはいくつかの事務デスクや、書類資料が雑多に並べられた書棚、そして長い間放置されていたことを物語る、埃を被った段ボール箱などが山積みにされた部屋が広がっていた。
「ここがあなたの拠点となります。いわば一国一城の主ということです」
「ふうん……なかなか眺めがいーとこじゃねーの。ちと埃っぽいのが気になるケド」
銀時は木刀を腰に差し直すと、着流しのポケットに手を突っ込んだまま、部屋の中央にあるパソコンの画面の縁を人差し指でツッと不躾になぞった。そして、白く汚れた指先を目の前に掲げ、ふっ、と息を吹き飛ばしてからリンへと振り返る。
「んで、俺はここで何すりゃいーの? 会ったばかりン時に言ったけど、先生先生って煽られたって勉強なんて教えられねーぞ、俺。ろくに学校も行ってねえし、九九だって怪しいもんだわ」
パソコンから手を離し、部屋の真ん中で両手を頭の後ろに組んで気怠げに尋ねる銀時。
それを聞いたリンは、埃の舞う静かな部屋を見渡しながら、どこか淡々と、しかし含みを持たせたトーンで口にする。
「……シャーレは、権限だけはキヴォトス最高峰のものが与えられていますが、具体的な目標のない組織です。ですから、あなたに『特に何かをやらなきゃいけない』……という強制力は、最初から存在しません」
そして一度ゆっくりと目を閉じ、眼鏡のブリッジを指先で軽く押し上げながら付け加えた。
「キヴォトスのどんな学園の自治区にも自由に出入りでき、その所属に関係なく、先生が希望する生徒たちを自由に部員として加入させ、指揮することができます」
「学園都市公認の合法的な人攫いじゃねーかソレ!? もしくは超法規的キャバクラのスカウトマン!? 」
その銀時の全力のツッコミに、それまで鉄の仮面を崩さなかったリンの口元が、ようやく「くす」と小さく綻んだ。彼女はどこか楽しげに小さく笑って、「確かに、そう言えなくもありませんね」と呟くと、静かに視線を銀時へと戻す。
「面白いですよね。捜査部とは呼んでいますが、その一番の肝である活動目的の部分に関しては、連邦生徒会長も特に触れていませんでした」
そしてメガネをかちゃ、と持ち上げて。
「──── つまり、何でも先生がやりたいことをやって良い、ということです」
「何でも、ねえ……」
リンの言葉を反芻しながら、銀時は窓の外に広がるキヴォトスの街並みをぼんやりと眺めた。
銃弾が飛び交い、ヘイローを持った少女たちが躍動する、一見すれば自分のいた世界とは全く違う、未知の天井。
なのに、どうしてだろうか。
『やりたいことがなかったから、なんでもやることにした』
そんな適当極まりない理由で、あの眠らない歌舞伎町の片隅に居を構え、日々の家賃に追われながら、東奔西走したり、しなかったりしていた日々。
形は違えど、目の前にあるこの埃っぽい部屋は、あの場所と酷いほどに重なって見えた。
それを思い出すと、銀時の口元から、自然と小さく「クス」と不敵な笑みが漏れた。
それを見たリンが、不思議そうに首を傾げた。
「……どうされましたか、先生? 」
「なあに、ちょっとな。前も似たような仕事やってたからさ。何気にここ、銀さんの天職なんじゃね? って思っただけよ」
それを聞いたリンが「なるほど……?」と不可解そうに首を傾げてから、眼鏡の位置を直してゆっくりと目を伏せた。
「現在、私たち連邦生徒会は失踪した連邦生徒会長を捜索することに全力を尽くしています。そのため、キヴォトスのあちこちで日常的に起きる様々な問題に対して、個別に対応できるような余力がありません」
そう言って、リンは視線を窓の外、ガラスに映る広大な都市へと落とした。
「今もなお、連邦生徒会には各学園からあらゆる苦情、陳情、事件解決の要請などが絶え間なく寄せられています……。本来なら私たちが処理すべき案件ですが、恥ずかしながら現状では全く手が回らないのです。ですが……」
と、そこでリンは窓硝子に映る自分の顔を歪め、どこか不敵な、ニヤリとした笑みを浮かべて振り返った。
「もしかしたら。目標もなく、時間だけはたっぷりと有り余っているシャーレの先生なら、この山積する様々な問題を綺麗に解決できるかもしれませんね」
そう言い落とすと同時に、彼女はどこから取り出したのか、持ち上げるだけでも一苦労しそうな、文字通り『ドサッ……!』という地響きのような音を立てて、デスクの上に巨大な書類の山を設置した。それに銀時の目はカッ、と見開かれながら震えた声で問いかける。
「……リンちゃん。ねえ、リンちゃん。え、なにこれ。A4用紙の地層? 書類がちょっとしたタワーマンションみてえなビルになってんだけど」
「現在進行形でキヴォトス全土から寄せられている要請書の、ほんの一部です。すべては先生の自由ですので、気が向いた時にでもお読みください」
すまし顔で制服のシワを伸ばすリンに対し、銀時は身を乗り出して、書類のビルと冷徹な行政官の顔を交互に指差した。
「リンちゃん頼むから一回その冷徹な仮面外して銀さんの話を聞いて。これって自由とかそういう綺麗な言葉でオブラートに包んでるけど、要するに連邦生徒会が抱えきれなくなった面倒事の尻拭い────」
「重ねて申し上げますが、すべては先生の自由ですので。それではごゆっくり。最初の業務、期待しております。必要な時にはまたこちらからご連絡致しますので」
自分の言いたいことだけをマシンのような流暢さで告げると、リンは一礼し、カツカツとヒールを鳴らして鮮やかに背を向けた。廊下の奥へと小さくなってゆくその冷たい背中に向かって、銀時の魂の絶叫が炸裂する。
「リンちゃァァァァァん!?!? 自由って言葉のゲシュタルト崩壊が起きてんだけどォォォ! 結局やりたいことやらせるフリして、自分らの面倒ごと全部俺に丸投げして押し付けただけだよねこれェェェェェ!?!? おい待てコラ背中で語ってんじゃねえよメガネェェェェェ!!」
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嵐のように去っていった行政官の残した、物理的にも絶望的な高さの書類タワーを前に、銀時はすっかり魂が口から半分飛び出たような顔で事務椅子に深く腰掛けていた。
ハァ、と重いため息とともに、キャスター付きの椅子を左右にキコキコと揺らしていると、ガチャ、と静かに、しかしどこか遠慮がちにオフィスへの扉が開いた。
そこに顔を覗かせたのは、先ほどまで戦場を共に駆け抜けた、ユウカとハスミだった。
「……へえ、結構綺麗な部屋じゃありませんか。あのリン先輩が鍵を握っていたから、もっとこう、お堅い独房みたいな部屋かと思っていました」
「はい。窓も大きくて眺めも良いですし、日当たりも抜群で、とても居心地が良さそうなオフィスです」
ひょっこりと部室を見渡しながら入ってきた少女たちに、銀時は椅子の背もたれにぐったりと背中を預けたまま、死んだ魚の目を向けた。
「おー、お前らか……。なあに、上のお偉いさんに都合よく使われて、挙句の果てに書類のタワーマンションをプレゼントされた哀れな男を笑いに来たん? 良いよ、笑えよ。銀さん今ならどんな罵詈雑言も右から左へ受け流す自信あるわ」
「ふふっ、そんなわけないじゃないですか」
「ええ、私たちは先生を労いに来たんですよ。……それに、笑いに来たどころか、今のキヴォトスはちょっとしたお祭り騒ぎです。先生のあの戦車を叩き割った大活躍、すでにSNSや動画サイトを通じてキヴォトス全域にもの凄い勢いで広がっていますよ!」
ハスミが端末の画面を見せながら誇らしげに言うと、ユウカも「おかげでシャーレの注目度は初日からMAXですね!」と嬉しそうに胸を張る。
しかし、その言葉を聞いた瞬間、銀時の顔が恐怖に引き攣った。
「おい……ちょっと待て。SNSで拡散……? キヴォトス全域に広がってる……? おいそれ、労いどころか、ただの『仕事が増える恐怖のブースト呪文』じゃねえかァァァ!! 宣伝効果抜群じゃねーよ! これ以上厄介事がここになだれ込んできたら、24時間年中無休どころか、どこぞのドーピンググラップラーみてえに『1日に30時間働く』っつー矛盾の生活が起きかねねえってことじゃあねえかコラァァァ!!」
頭を抱えて絶叫する銀時の前で、二人は顔を見合わせ、再び楽しげに声を上げて笑うのだった。
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「それでは、私はもう学園に戻らなければなりませんので。今回はこれでお別れですが、近いうちにぜひトリニティ総合学園へお立ち寄りください。先生を歓迎する準備はいつでも整えておきますから」
それまで高く昇っていた太陽も、窓の外で綺麗な西陽の色を持ち始めた頃。
ハスミが少し名残惜しそうに名刺をデスクに置きながらそう告げると、その隣に立つスズミも「お気をつけて」と短く、しかし温かみのある声でぺこり、とお辞儀をした。
そしてチナツも、救急箱を肩にかけ直しながら軽く会釈をする。
「私も、風紀委員長に今日の顛末を報告しに戻らなければなりません。もしゲヘナ学園にいらっしゃった時は、ぜひ風紀委員会にも顔を出してくださいね」
最後に残ったユウカも、手元の計算機をパチリと閉じると、くす、と悪戯っぽく笑って小首を傾げた。
「ふふ、ミレニアムサイエンススクールに来てくだされば、また計算の合間にでもお会いできるかもしれませんね。会計の仕事は山積みですけど……先生の頼みなら、少しは時間を割いてあげなくもありません。では、また!」
別れを告げ、次々とシャーレのオフィスを後にしようとする少女たちの背中に向かって、銀時は事務椅子のキャスターをガラガラと鳴らしながら、必死の形相で両手を伸ばした。
「待って! 帰る前にその書類のマンションを数フロア分だけでも解体していってくれたら銀さん嬉しいなあ! たまには仕事手伝いに来てくれたら嬉しいからねまじで! こんな量、万事屋の時ですら見たことねえよ! 一人で片付けられねえからね! 銀さん今なら猫の手どころか、そこらへんの野良犬の肉球すら借りたいレベルだからね!?」
しかし、少女たちはそんな男の情けない泣き言を、まるで心地よいBGMか何かのように綺麗に聞き流した。
「「「「それでは先生、また!!」」」」
パタン、と軽やかな音を立てて閉まるオフィスの扉。
「話を聞けよもぉぉぉぉぉぉ!!! どいつもこいつも引き際だけは一丁前かコラァァァ!!! 先生の尊厳どこ行ったんだよォォォ!!!」
誰もいなくなった夕暮れ時のオフィスに、侍の悲痛な絶叫だけが虚しく木霊するのだった。
……そして一人残された銀時を、向かい側のビルの屋上から見つめる狐面があった。
「……ああ、これは……本当に困りましたね……」
「ふふ……」
「ウフフフフフフ……♡」
胸元をキツく押さえ、身を震わせて一人何やらくすくすと笑ってから、ビルとビルの間を蹴ってワカモは嬉しそうに離れていった。
──────────
「あはは……なんだか慌ただしい感じでしたが……本当にお疲れ様です、先生!」
端末の画面からひょっこりと顔を出したアロナが、どこか同情を誘うような、しかしやっぱり楽しげな笑い声を上げる。
「お疲れ様ですじゃねーよちんちくりん……おい見ろよこの書類のタワマン。これどーすりゃいーんだよ溶かしきれるわけねーだろ……」
デスクに突っ伏したまま、目の前の紙の絶壁を恨めしそうに見上げる銀時に、アロナは胸元で小さな拳をきゅっと握りしめて力強く微笑んだ。
「本当に大変なのはこれからですからね! ……でも安心してください。私も全力で、先生と二人でキヴォトスの生徒たちが直面している問題を解決するお手伝いをさせていただきます!」
「へいへい、期待しないで期待してますよー」
「もー! またそうやってすぐに意地悪を言うんですからー!」
ギャースカと端末の中で騒ぐ少女の画面をパタンと裏返しにしつつ、銀時はゆっくりと立ち上がり、少しずつ夜景へと移り変わっていく窓の外の街を見下ろした。
「なんでも、自由に……ね」
やりたいことがないから、なんでもやる。
やはり自分のやることは、世界が変わろうが、何処へいったところで変わらないのだろう。
それまで疲れた表情を浮かべていた銀時はニヤリ、と小さく不敵に笑うと、近くに置かれていた埃っぽい段ボールを一つ、細長い形となるようにバリバリと開き、デスクに置かれていた黒マジックを手に取った。
「連邦捜査部だのシャーレだの、そんなん堅苦しくて仕方ねえ。俺はやっぱり……」
シュッ。
シュッ。
シュッ。
静まり返ったオフィスに、マジックによって力強く文字が書かれる小気味よい音が響く。
数分後、出来上がったのは即席の段ボールの看板。見窄らしい見た目ではあるが、まずはこんなもんだろう。
「よし」と満足げに頷くと、彼はそれを持って廊下へ出、シャーレの部室のガラス扉の上へと無造作に懸けた。
『万事屋銀ちゃん シャーレ支店』
「やっぱり俺はこうでなくっちゃな。さあて、記念すべき支店第一号の依頼はなーにかな、っと」
山積みの書類を振り返り、銀時は大きな欠伸を一つ噛み殺しながら、一人、夜の帳が下りた部室の中へと戻っていくのであった。
プロローグはこれにて終了です。お見守りいただき本当にありがとうございました。
気付けば6時間パックに延長料金が重なっていました。
感想や評価などをいただけたらとても嬉しいです。
次の話から砂漠の少女達との物語が始まります。