「……へ?」
「……はい?」
銀時の突然の突拍子もない告白に、魑魅一座の二人は完全に毒気を抜かれたように、互いに顔を見合わせて首を傾げた。
「……何を言うかと思えば。元いた世界? 忍者は侍と同じくらいに? 強い、だと?……くく、くはははは! これは傑作だ! シャーレの先生というからもっと話が通じる頭のいい男だと思ったんだがな!」
マサムニェは驚きを通り越して呆れたように、大仰にのけぞって冷たい爆笑を屋敷の中に響かせる。
しばらく心底愉快そうに大笑いした後に、彼はゆっくりと顔を上げると、先ほど打ち据えた銀時の腫れ上がった頬へと、ひんやりとした鉄扇の先端を再び優しく添えた。その眼帯の奥の瞳には、一切の慈悲など残されていない。
「話の通じない狂人にこれ以上の会話は不要。じゃあな、シャーレの先生。儂の計画を邪魔したのがおぬしの運の尽きだったな!!」
マサムニェの声音から笑みが完全に消え去り、冷徹な殺意が部屋の空気を支配する。彼は鉄扇を添えていた手を力強く引き絞ると、縛られて身動きの取れない銀時の首の骨を容赦なく叩き折るべく、凶器と化した鉄扇を頭上高くへと一気に振り上げた、その瞬間だった。
──ズドドドドド!!
轟音と共に天井の木板が激しく弾け飛び、立ち込める暗がりの奥から、凄まじい密度の無数の黒い物体が真っ直ぐに、まるで意志を持つ弾丸のように降り注いだ。
銀時やマサムニェ、魑魅一座の肉体には掠りすらしない。ただ完璧な軌道で、マサムニェが振り上げた鉄扇を強烈に弾き飛ばし、魑魅一座の二人が構えていた銃器の銃身を鋭く叩いて手元から奪い去り、そして、銀時の自由を奪っていた分厚い荒縄の結び目を一瞬にして寸断してみせた。
乾いた床に深々と突き刺さり、不気味に びいぃぃん と震える無数の黒い物体──それは、無骨な鉄のクナイだった。
「な、なんだこれは!? 何が起きている、一体!?」
武器を弾かれた右手の痺れを押さえながら、マサムニェが狼狽した声を上げる。
「わ、わからないっす! 天井から何か……っ!」
魑魅一座の一人が悲鳴に近い声をあげて後退り、慌てて床の銃を拾おうとする。
次いで、派手な音を立てて天井の大きな板が完全に崩落した。凄まじい勢いで床へと着地し、銀時を背に庇うようにして、マサムニェたちへと堂々と立ちはだかる小さな影。
激しく立ち込める白煙と木の埃に、マサムニェたちが激しく咳き込んで視界を奪われる中、縛られていた縄を易々と払いのけた銀時は、自分の前にしっかりと立った少女の背中を、ニヤリと不敵に見上げた。
「……よう、遅かったじゃねえか」
「────キヴォトス最強を目指す忍、久田イズナ! 真の主君に並び立つため、今ここに参上しました!」
白煙を割って、きっぱりとした、けれどどこか震える決意を秘めた声が廃墟に響き渡る。立ち込める埃の向こう側で、少女の長い狐耳とふさふさとした尻尾が、怒りと使命感でピンと真っ直ぐに逆立っていた。
「な、イズナ!? 何故ここに!?」
マサムニェが慌てて鉄扇を拾い上げ、信じられないものを見る目で眼帯の奥を歪める。
「全部聞いていました。雇い主の話も……イズナの夢を笑わない、先生の想いも! ついに見つけたのです、最初からずっとイズナの夢を真っ直ぐに応援してくれた先生の……優しくて強くてかっこいい、侍の隣でならば! イズナは本当に、真の忍者になれると!」
イズナは一切怯むことなく、マサムニェへときつく印を結んで叫んだ。
「ぐっ、裏切るのか、イズナ!? 誰のおかげでここまで活動できたと思っている!」
「……裏切ったのはテメーだよ、ニャンコ野郎。テメーの薄汚え金のためにコイツの純粋な夢を利用した挙句、あろうことかコイツの夢をゲラゲラ笑いやがった」
銀時は首の骨をバキバキと鳴らしながら、ゆっくりと、けれど圧倒的な威圧感を放ちながらその巨体を立ち上がらせた。
「俺のことはどんなに笑っても構いやしねえ、俺を殴り殺そうと文句は言わねえ。だがな……」
腫れ上がった頬に溜まった血を、着流しの袖で乱暴に拭い去る。そして、イズナが着地の瞬間に床から鋭く回収していた木刀を受け取ると、その柄を確かな力で握り締めた。
鋭く突き出された洞爺湖の切先が、マサムニェの鼻先へと真っ直ぐに向けられる。
「……コイツを泣かせた報いは、きっちり受けてもらうぜ、コノヤロー。これ以上、女の涙でなんか濡れたくねえってのに、コイツを天井裏で泣かせたんだからな」
「……先生」
暗がりの中で、もうとっくに拭い去ったはずの自分の涙の跡にすら気付いてくれていた。その不器用な優しさに触れ、イズナの胸は張り裂けんばかりに高鳴る。
やはり、間違っていなかった。この人こそが、自分が生涯を懸けて探していた──。
「……いえ、主殿! 今からイズナの全てを、真の主君である主殿に捧げます! どこまでも、地獄の果てまでもお伴させてください!!」
イズナはクナイを逆手に構え直し、爛々と瞳を輝かせる。
銀時はそんな相棒の姿に、口元をニヤリと不敵に吊り上げた。
「おーし、じゃあ侍と忍者の夢の共演と洒落込もうじゃねえか!! 」
「な、何をつまらん夢物語を……! 構わん、二人とも排除しろ!儂の計画の邪魔をする奴らは、一人残らずこの街から消し去ってくれるわ!」
マサムニェが怒狂ったように鉄扇を振り下ろすと、廃墟の奥に潜んでいた魑魅一座の構成員たちが、一斉に暗がりから姿を現した。その数、優に数十人。手にしたサブマシンガンやショットガンが、容赦なく銀時とイズナの二人へと向けられる。
「先生!いくら強くても、この人数を一度に相手にするのは無茶だよ!」
「観念して大人しくハチの巣になるっす!」
魑魅一座の少女たちが一斉に引き金に指をかけた、その瞬間。
「──主殿、イズナにお任せを! 忍法・対多人数制圧の術です!」
イズナが懐から素早く取り出したのは、彼女の忍び道具の一つ、彼女の愛用する重厚なサブマシンガンだった。ピンク色のボディが廃墟の薄暗い光を弾く。
ダダダダダダダダッ!!!と、凄まじい銃声が狭い空間に反響した。
イズナはただ闇雲に撃ち合っているわけではない。目にも留まらぬ速さでステップを踏み、敵の射線の僅かな隙間を縫いながら、的確に魑魅一座の武器や手元だけを撃ち抜いていく。
「ああっ!? 銃が、あたしの銃がぁっ!」
「な、何この速さ!? 弾が全然当たらない!」
跳弾と火花が散り、容赦ない銃弾の嵐が魑魅一座を圧倒する。キヴォトス最強を目指す忍の銃撃は、まさに変幻自在。一瞬にして前衛の数人が武器を叩き落とされ、悲鳴を上げて転がった。
「へっ、さすがは俺の見込んだ忍者だ。銃撃戦もお手の物ってか!」
銀時はイズナが開けた突破口を見逃さなかった。木刀を肩に担ぎ、地を蹴る。
「おらよっ!!」
「きゃあっ!?」
一歩で距離を詰めた銀時は、驚愕に目を見開く魑魅一座の懐へと飛び込んだ。
下から振り上げられた木刀が、構成員の天狗の面を正確に捉える。ガツンッ!と仮面を叩き割ると、彼女の襟元を引っ掴んで近づいてきた数人へと投げ飛ばした。
「な、なんなんすかこの人!? 木刀で銃と渡り合ってるっす!」
「囲んで! 囲んで一斉に撃てぇぇ!」
後方から一斉に放たれる銃弾。しかし、銀時は着流しを翻しながら、まるで弾道が見えているかのように最小限の動きでそれを躱し、あるいは木刀の側面で弾き飛ばしていく。
「甘ェ!!たけのこの森よりも甘ェ!!」
横一線に薙ぎ払われた木刀が、三人、四人をいっぺんに打払い、衝撃波すら伴うような一撃に魑魅一座の防衛線が目に見えて崩壊していく。
「主殿、後ろから散弾がっ!」
「おう!」
イズナの声に反応し、銀時は振り返りざまに木刀を突き出した。放たれた散弾の弾道を手前で遮るように、相手の銃身ごと横から引っ叩いて軌道を逸らす。そのまま流れるような動作で、銃を構えていた構成員の額に木刀の柄頭を叩き込んだ。
「うあっ!?」
白目を剥いて倒れる敵を踏み台にし、銀時はさらに奥へと躍り出る。
その後ろでは、イズナがアクロバティックに空中を舞いながら、銃弾の雨を降らせていた。壁を蹴り、梁を飛び越え、忍者らしい縦横無尽な立体機動で魑魅一座の包囲網を完全に攪乱している。
「忍びの道は、主殿を守る道! 誰も、先生に指一本触れさせません!」
銃声を奏でるイズナの瞳には、かつてないほどの強い光が宿っていた。もう迷いはない。騙されていた悔しさも、自分の未熟さへの怒りも、全ては真の主君と共に戦うための力へと変わっていた。
「くそっ、何をしてるんだお前達!囲んで数の暴力で押し潰せ!」
予想以上の大苦戦に、マサムニェが顔を真っ青にして絶叫する。廃墟のさらに奥、通路の闇から「雇い主を助けるっす!」「これ以上やらせるもんか!」と、次から次へと武器を構えた魑魅一座の増援が波のように押し寄せてくる。しかし、それを見た銀時とイズナは、息を上げながらも怯むどころか同時に不敵な笑みを浮かべた。
「おいおい、まだまだ賑やかになりそうじゃねえか。町内会の集まりにしてはちょっと過密じゃねえの?」
「はい、主殿! 忍びと侍の組手、これからが本番です!」
二人の心が共鳴するように、廃墟の戦場はさらなる激戦へと突入していく。
──────────
目の前で繰り広げられる光景に、マサムニェは己の目を疑い、ただただ愕然と立ち尽くしていた。
(な、なんだ……一体何が起きているのだ……!?)
圧倒的な数の暴力。キヴォトスにおいてはそれが絶対的な優位を意味するはずだった。魑魅一座の少女たちは訓練された兵士ではないにせよ、その手にあるのは火薬と鉄の塊──正真正銘の銃器だ。それを、あの銀髪の男はたった一本の木刀だけで、まるでハエ叩きでもするかのように軽々と無力化していく。
(おかしい……何かがおかしい! 銃弾を躱すなど、いくら白兵戦に秀でたシャーレの先生とはいえ、そんな道理が通るものか! それにあの力……狐の仮面ごと、一撃で意識を刈り取っていくだと!?)
マサムニェの額から、冷たい汗が滝のように流れ落ちる。
さらに恐ろしいのは、自分が愚か者だと吐き捨てていた狐耳の少女、イズナの変貌ぶりだった。先刻まで自分の言葉に騙され、都合のいい道具として踊らされていた哀れな子供。そんな侮蔑の対象でしかなかったはずの少女が、今はあの男の背中を守る盾となり、同時に敵を穿つ鋭い矛となって、恐るべき速度で戦場を支配している。
(儂が……儂が利用していたはずだった。あの愚かで経済的な『忍者ごっこ』のチビを、手のひらの上で転がしていたはずだったのだ! なのに、なぜあいつは、あんなに嬉しそうに銃をぶっ放している!? なぜあんな男のために、命を懸けるような目をしているのだ……!!)
激しい銃声と、木刀が放つ鈍い衝撃音。それらが重なるたびに、マサムニェが築き上げてきた完璧な計画は、文字通り粉々に打ち砕かれていく。
未だ入り乱れる戦場の中央で暴れ回る銀髪の男が、未だ口内で止まらない血と混じった土埃をペッと吐き捨てた。
その死んだ魚のようだった瞳が、魑魅一座の少女達を相手取りながらもゆっくりとこちらを向く。
爛々と輝く赤色の双眸。そこに宿る圧倒的なまでの威圧感と、すべてを噛み砕かんとする狂暴なまでの気配に、マサムニェは恐怖のあまり膝の震えを止めることができなかった。
(な、なにが侍だ!? あれではまるで……)
─────夜叉ではないか……!!
──────────
とはいえ、いくら二人の実力が群を抜いているとはいえ、相手は数十人の大所帯である。一向に減らない魑魅一座の物量と、絶え間なく飛び交う銃弾を捌き続けるうちに、銀時とイズナの身体には確実に疲労の色が濃くなり始めていた。
「ふ、ふんっ! 勢いが良くても疲れには勝てまい! 所詮は二人きりの消耗戦、これで終わりだ!」
二人の動きが僅かに鈍ったことを見逃さず、マサムニェがここぞとばかりに再び気勢を上げる。
「く、うっ……! イズナが、ここで倒れるわけには……! 主殿を、絶対にお守りしなきゃ……!」
肩で激しく息をしながらも、イズナは必死にサブマシンガンを構え直す。しかし、その小さな指先は疲労で微かに震えていた。
「……は、あ……はあ……いや、……じゅーぶんさ」
銀時もまた、額の汗を乱暴に拭いながら、不敵な笑みを崩さないまま木刀を構え直す。
「ふはは! ついに、ようやく諦めがついたか!」
「馬鹿言うな。……テメェ、さっき言ったよな? 歳を取ると用心深くなって困るって。それは俺も同じでね……」
銀時がニヤリと不敵に笑った、まさにその途端だった。廃墟の外から、凛とした少女の声が響き渡る。
「やるじゃない、忍者の子! あとは私たちに任せて!」
──ドガァァァン!!!
凄まじい衝撃と共に、部屋の古びた壁が派手に打ち破られた。
朦朧とする煙の向こうから、一斉に飛び込んできたのは五人の少女たち。シズコ、フィーナ、カエデ、ミモリ、ツバキの五人だった。
「先生、大丈夫ですか!?」
シズコが銃を構えながら、真っ先に銀時の元へと駆け寄る。
「お頭、お待たせしマシタ! 助太刀に参り……っ、顔にお怪我を!? 」
フィーナが銀時の腫れ上がった頬を見て、怒りに表情を歪ませた。
「たく、遅かったじゃねーの。あん時言ったろうが、俺が酒飲みに行くって言った後は俺の後を付けてろって」
銀時はやれやれと首を振りながら木刀を肩に預けた。
「周りの見張りが多くて対処にてんてこ舞いだったんだよう! これでも急いでたんだからね!?」
カエデが小さな信号拳銃をぎゅっと握り締めながら、必死の形相で弁明する。
「お祭り運営委員会、それに修行部の奴らまで……!?」
思わぬ二つの委員会の増援にマサムニェは鉄扇を握り締めたまま後退り、驚愕に眼帯の奥の目をむいた。
「やっぱり犯人はあなただったんですね、会長……いえ、ニャン天丸!」
シズコが銃口をピシャリとマサムニェへ向け、きっぱりと言い放つ。
「ニャン天丸じゃない、マサムニェだ! それにしてもなぜここに、この男の通信手段は絶っていたはず……!?」
「全ては先生の作戦のおかげです! 先生は百鬼夜行に来てから随分派手に魑魅一座とやり合ってました。ヘイトを稼いでいるも同然。きっと黒幕は自分を排除したがるだろうと……そこで敢えて夜中に一人で行動をし、魑魅一座を誘き出して懐に入り込もうと……危険すぎる賭けでしたが、どうにか間に合いました!」
シズコの説明を聞き、マサムニェは顔を青ざめさせながら銀時を睨みつける。
「く、貴様! 自分自身を陽動に使うとは……!?」
「……さっきの言葉、そのまま返してやるぜ会長。『俺がツレもつけずに一人でぶらついてるなんて、裏で罠が張られてるとは思わなかった』んか?」
銀時は腫れた頬を歪め、ニヤリと底意地の悪い笑みを浮かべてみせた。最初から、捕まることすらこの男の手のひらの上だったのだ。
「くう、侮れない奴め……! それにシズコ、お前は『やっぱり』と言ったな!? 儂が黒幕であるとなぜ気付いた!?」
「あら、桜花祭に来てた人に聞いただけですよ?」
「怪しい人を見ていなかったか、聞いただけデス!」
シズコとフィーナが事も無げに言うと、マサムニェはますます狼狽する。
「そしたら会長が魑魅一座と一緒に商店街の裏路地を通って廃墟に入っていくのを見た人がたくさんいたので、それはもうあっさりと」
「そもそも魑魅一座も会長もすごく目立つし……ふわぁ……」
ツバキは大きな欠伸をしながら、眠たげに口にした。
「ぐうっ、会長という役職が裏目に出るとは……!? ええい、もういい! これも計画の範疇だ! おぬしらがここに辿り着くことを計算に入れてなかったとでも!? いいものを見せてやろう!!」
マサムニェが狂ったように叫び、パチンと高らかに指を鳴らす。
さらに隠されていた伏兵、圧倒的な魑魅一座の別働隊が周囲の闇から一斉になだれ込んでくる──。
……こともなく、廃墟の部屋にはただ虚しく指の音が響くだけで、周囲は不気味なほどに静まり返っていた。
「……あれ?」
マサムニェが冷や汗を流しながら、何度もパチパチと指を鳴らすが、誰も来ない。
「……おいおい、さっきカエデが言ったことを忘れたのか? ……見張りを倒し切るのにてんてこ舞いだった、って」
銀時がやれやれと肩をすくめ、呆れたようにマサムニェを嘲笑う。
「ま、まさか……!?」
「外で待機していた魑魅一座の皆さんは、私たちがすべてお片付けしています」
ミモリが上品に微笑みながら、しかし確実に逃げ道を塞ぐように一歩前へ出た。
「残りはもう、この部屋にいる連中だけってワケ!」
カエデが信号拳銃をマサムニェへと突きつけ、勝ち誇ったように胸を張った。
「さあ、どーする? 会長さんよ。どう見ても俺らの勝ち、じゃねーか?」
銀時は木刀をポンポンと肩に叩きつけながら、完全に形勢が逆転した戦場を見渡してニヤリと笑う。
「……ふふっ、これは困ったな。儂の数年を賭した計画が……たかが学生と……そこの男に破られる、だと? 認められない……認められるものか……!」
マサムニェはガタガタと全身を震わせ、眼帯の奥の瞳を血走らせながら、執念深く鉄扇を握りしめた。そのプライドは完全にズタズタに引き裂かれている。
「大人しく諦めてください、ニャン天丸会長。名残惜しかろうと、これで全て終わりです」
シズコが冷徹に銃口を突きつけ、引導を渡すように言い放った。
「ふふふ……まだだ、まだ終わっていない……! 儂の野望が、このような場所で潰えるはずがないのだ……!!」
狂気じみた笑みを浮かべ、往生際悪く叫ぶマサムニェを前にして、銀時はふぅ、と面倒くさそうにため息をつきながら頭を掻いた。
「……なあ、キヴォトスにいる悪役ってリキッ○スネークが憧れだったりすんの? 喉の人の役的にちょっと困るんだけど。リ○ッドスネークに殺されてるからねミ○ー教官」
「縁起でもないこと言わないでください!?」
緊迫した空気のなか、唐突にぶち込まれた不吉な話にシズコが思わず全力でツッコミを入れた。
「儂の資金の全てを投入して雇ったのだ! その魑魅一座が本当に、これで全部だと思ったか!?」
マサムニェは勝ち誇ったように胸を張り、狂ったように叫ぶ。その必死な剣幕に、シズコとミモリが思わず表情を強張らせた。
「まさか!?」
「まだまだいるというのですか!?」
「その通り! 会長の資金を舐めるな! さあ、まだまだこの街に残っている全ての魑魅一座をここに集めよ! 大量の魑魅一座……文字通りの魑魅魍魎をその目に焼き付け───」
「あー、その件なんだけど……実は元々来るはずだった子たちが、ほとんど『やっぱパス』って……」
マサムニェの演説を遮るように、魑魅一座の一人が申し訳なさそうに手を挙げた。
「『ここで働くより桜花祭をエンジョイしたい』って言って、みんな遊びに行っちゃったんでもうこれ以上はいないっす」
もう一人も、気まずそうにポリポリと頬を掻きながら後に続く。
その途端、マサムニェだけではなく銀時や他のメンバー含めた全員が。
「「「「「「「「……」」」」」」」」
……と、完全に言葉を失い、廃墟の中にシンと静かな空気が流れた。
あまりにもキヴォトスのチンピラ組織らしいユルすぎる理由に、誰もツッコミを入れることすらできない。
「……えーっと、これって……」
「もうダメかもしんないっすね」
「……よし! 解散!」
魑魅一座のリーダー格がパッと手を叩いて号令をかけた、その途端だった。
これまで残っていた魑魅一座の面々は、戦闘モードを完全にオフにすると、床に気絶しているメンバーを大急ぎで肩に担いだりしつつ、蜘蛛の子を散らすようにその場から一斉に逃げ去ってゆく。
「あっ、ここで逃げるとかずるい!?」
「待て〜」
一瞬で逃げていった魑魅一座たちを、カエデが信号拳銃を振り回しながら、そしてツバキが大きな盾を抱えながら、修行部の三人はドタドタと慌てて追いかけていった。
「……」
後に残されたのは、静まり返った部屋。
完全に孤立無援となったマサムニェは、しばらく黙りこくっていたが、やおら片目につけていた眼帯をしゅばばっ、と素早い手つきで取り外した。
そして眼帯の下に隠されていた、猫らしくウルウルと潤んだ可愛らしい両方の瞳を残っている四人に向け、にゃ~ん、とでも言い出しかねないポーズをとった。
「えっと、その……取り敢えず水に流して欲しいなあ、なんて……」
「んなことできるかぁァァァァ!! シズコマジギレ看板娘パンチ!!!」
──ドゴォッ!!!
渾身の怒りを込めたシズコの強烈な一撃が、マサムニェの顔面にクリーンヒットしたのだった。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
おもえば時代劇などがあるあたりキヴォトスにもそうした歴史文化はあったんでしょうね。けれどアビドスには太古の校舎跡地があるし……謎。
これからもよろしくお願いします。