ブルーアーカイブ 透き通る青春よ永遠なれ   作:Jon.Do

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銀さんがアビドス高校に到着したので初投稿です。


第七話 幻滅≠現実

「──── ただいま」

 

「あ、お帰りなさい。シロコせんぱ……ぃ?」

 

 アビドス高等学校対策委員会の会議室。

 猫耳をぴこぴこと揺らし、先輩の帰還に顔を上げたセリカだったが、その言葉は途中で引きつった。

 彼女の目に飛び込んできたのは、白い着流しを着た見知らぬ男を、事もなげにレンジャーロールで担ぎ上げているシロコの姿だった。

 おんぶならまだ理解できた。微笑ましいとすら思えたかもしれない。しかし、華奢な女子生徒が大の大人を泥嚢か何かのように力強く担いでいる光景は、あまりにも異様だった。セリカは言葉を失い、ただただ唖然とその場に立ち尽くした。

 

「あの、シロコ先輩……? 担いでるの、何……?」

 

 セリカの恐る恐るといった様子の質問に「なんだろう」と顔を上げた、栗色の長髪を揺らすノノミ。彼女はシロコのその姿を見るなり、いつものおっとりとした調子で、にぱっと花が咲いたような笑顔を浮かべた。

 

「わあ! シロコちゃんが大人の人を拉致してきました!」

 

「らち!? まさか死体!? シロコ先輩、ついに犯罪を……!?」

 

「……死んでねーぞー、ピンピンしてるぞー」

 

 ノノミの向かい側に座るメガネをかけた少女──アヤネが、机を叩いて立ち上がり、わなわなと小刻みに震えながらシロコを見やる。

 突如として会議室に持ち込まれた「大人の男」というあまりにも不穏な存在。パニックに陥りかけるアヤネと、顔を青くして冷や汗を垂らしているセリカの視線が、一斉にシロコが担ぐそれへと集中した。

 

「おーい、だから死んでないって銀さんの話を聞こうぜ嬢ちゃん達」

 

 逆さ吊りのまま気だるげに揺れる男の主張は暴走を始めた少女たちの耳には届かない。

 

「みんな落ち着いて! 速やかに死体を隠す場所を探すわよ! 体育館にツルハシとエンピがあるからそれを……」

 

「話聞けよ猫耳娘ェェェ! その耳はただの飾……ふごぉ!?」

 

 最後まで言い切る前に、男の身体が文字通り宙を舞った。

 ぴしっと額に青筋を浮かべたシロコが、担いでいた男を容赦なく床へと叩きつけたのだ。

 そして鈍い衝撃音と共に床へ転がった男は、背中をさすりながら悶絶する。そんな男をじとりとした眼差しで見下ろしながら、シロコは自身の獣耳に指を擦り寄せつつ

 

「……耳元で騒がないで。うるさい」

 

 と冷たく言い放って、男を横切り何事もなかったかのように皆が集う席へと腰掛けた。

 そんな平然としているシロコに対し、セリカは未だ床でうめいている男を警戒しながら、ひそひそと耳打ちをするように尋ねた。

 

「ね、ねえシロコ先輩……! この大人の男は何者なのよ!?」

 

 セリカの詰め寄るような視線を受け、シロコはいつも通りの淡々とした調子で、短く答えた。

 

「……学校に用があって来たんだって」

 

「てことはお客さん……だったんですね。よかったあ、死体じゃなくて……」

 

 シロコの説明を聞いたアヤネが、極度の緊張から解放されたようにヘナヘナと椅子に腰を落として溜息をついた。

 その様子に合わせるように、ノノミは楽しそうに口元に指を添えて微笑みながら言った。

 

「それにしても久しぶりですね、お客さんがこの学校に来るなんて」

 

 アビドス高等学校が抱える現状を考えれば、外部からの訪問者など滅多に現れるはずがない。少女たちの視線が、今度は不審と好奇心の混ざったものへと変わり、床でようやく身体を起こし始めた男へと注がれた。

 客であると聞いたアヤネはふと首を傾げながら、「いってえ……」と呟いて腰を摩りつつ立ち上がる男の身なりを見やる。

 

「来客の予定があるとは聞いてはいませんけど、この人、どこかで……」

 

 シロコはバッグから水筒を取り出してドリンクを口に含みつつ、至って平然と告げた。

 

「……その人、連邦生徒会のシャーレの先生だよ」

 

「へえ、この人がシャーレの……え、本当に!? こんなのがシャーレの先生なの!?」

 

 一度は納得しかけたセリカだったが、ワンテンポ遅れて爆弾発言の中身を理解し、目を丸くして信じられないとばかりに叫んだ。その指先は、だらしなく頭を掻きむしっている男へと真っ直ぐに向けられていた。

 

「本当にここの女子ってなんなん? 人のことを寄ってたかってこんなのだとかこんな人呼ばわりするのが礼儀って教わってんの?」

 

 そんな銀時の抗議など聞く耳を持たず、アヤネは手にした携帯端末を操作し、SNSで話題になっていた動画を画面に映し出した。そこに映っているのは、単身で戦車へと襲いかかり、圧倒的な立ち回りで撃破してみせた「シャーレの先生」の姿だ。

 

 アヤネは、画面の中で鋭い眼光を放つ人物と、今目の前で情けなく腰をさすっている男とを交互に見比べる。

 髪型と装いは一緒だ。顔立ちも確かに似ている。しかし、その全身から漂う雰囲気が、決定的に違っていた。

 

「か、格好は似てるけど……」

 

「動画の野生的な雰囲気が微塵もないですね……」

 

 アヤネの端末を背後から覗き込み、同じように画面と実物を見比べるセリカとノノミが、信じられないとばかりに呟く。少女たちの容赦のない視線を受けながら、男は死んだ魚のような目で、ただただ頭をボリボリと掻きむしりつつ口にする。

 

「あのさあ、銀さんがいつまでも100%で動くわけねーだろ。俺はオンとオフはハッキリしてんの。どんなにファンの前ではいい笑顔してるアイドルだってトイレ行くし、裏じゃ彼氏と○○○したりすんの。つまるところいざってときに輝いてりゃいーの。ちなみに今の俺はオフだから」

 

「「「「うっわあ……」」」」

 

 これ以上ないほど幻滅した、というような冷ややかな声が綺麗にハモった。

 夢と憧れの対象であったはずの「シャーレの先生」から飛び出した、あまりにも生々しく品性の欠片もない言葉。それまで好意的だったノノミの笑顔すら完全に凍りつき、会議室の温度が急降下していく。

 

「あの、ちょっと……本当にこの人が先生なんですか? 嘘ですよね、嘘に、……」

 

 アヤネは青ざめた顔のまま、すがるような目でシロコを見つめた。

 手元の端末には、先日からずっと自分が何度も見返し、まるでヒーローかアイドルのように憧れていた男の勇姿。これからのアビドスを救ってくれるかもしれないと、一文字一文字に敬意と期待を込めて誘致の手紙まで綴った、その宛先が目の前にいる。

 しかし、現実は死んだ魚の目をした、下ネタを平然とのたまうだらしない男。

 

 アヤネの心の中で、美化されまくっていた「シャーレの先生」の偶像が、音を立てて粉々に砕け散っていく。彼女は持っていた端末をわなわなと震わせながら、あまりのショックに目の前が真っ暗になるのを感じていた。

 

「け、けど支援要請が受理されたってことですから、ね? ☆」

 

 ノノミは引きつった笑顔に無理やり星を飛ばしながら、極力、銀時を視界に入れないようにしてアヤネの肩を優しく叩いた。

 しかし、床に座り込んだままの男は、そのあからさまな態度を見逃すほど殊勝な性格ではなかった。

 

「おいそこの金持ち風の嬢ちゃん!! さっきから何だその目は!! 完全に俺に目を向けようとしてないよねそれ!! ガッツリ視界からフェードアウトさせてんじゃねーよ!!」

 

 銀時はガバッと立ち上がると、ノノミに向かって身を乗り出して捲し立てる。

 

「ていうか何その不自然な星マーク! 『ね? ☆』じゃねーわ! 可愛い顔して精神的ディスタンスの取り方がエグいんだよ! 銀さん傷ついちゃうの! ガラスのハートが粉々なの! 受理された支援要請ごと粉砕しちゃうぞコラァァァ!!」

 

「もう、うるさいわね! ……ちょっと、隣の部屋で寝てるホシノ先輩起こしてくる。さすがにこの状況はあの人にも見てもらわないと」

 

 銀時の怒涛のツッコミを綺麗なまでにスルーし、セリカが頭を押さえながら席を立った。そのまま隣の執務室へと向かおうと、彼女がドアノブに手をかけた──その瞬間だった。

 

 ──タタタタタンッ!!!  

 

 静寂を切り裂くように、校舎の外から激しい銃撃音が鳴り響いた。

 

 校舎を囲む砂漠の向こうから、砂煙を上げて突撃してくるのは、奇抜なヘルメットをかぶった少女たちの集団──カタカタヘルメット団だった。

 

「ヒャッハー!」

 

「攻撃攻撃ィ! 奴らは弾薬が尽きかけてる! さっさと学校を占拠してやれ!」

 

 彼女たちは狂気的な歓声を上げながら、容赦なく校舎に向けてアサルトライフルの引き金を引く。無数の銃弾がガラスを砕き、外壁を削り、アビドスの敷地内は一瞬にして硝煙の立ち込める戦場へと変貌していく。

 

 その音によって消沈していたアヤネがハッと意識を取り戻し、慌てて窓へと身を乗り出して外の様子を確認した。

 

「武装集団の銃撃! カタカタヘルメット団のようです!」

 

 そう叫ぶアヤネの視線の先では、なおも激しい銃撃が続いている。その光景を見たシロコは、いつもの淡々とした表情を険しく歪め、低く冷たい声を漏らした。

 

「あいつら……性懲りもなく……!」

 

 普段の物静かな雰囲気からは想像もつかないほどの苛立ちを露わにしながら、シロコが迷うことなく自身の愛銃へと手を伸ばした瞬間、一条の白い影が少女たちの視界を真横から駆け抜けた。

 

「──おいおい、せっかくのオフだってのに、どいつもこいつも騒々しいねぇ」

 

 あのだらしない声が、なぜか至近距離から響く。驚く少女たちを置き去りにして、銀時はそのまま開いた窓の縁に足をかけると、躊躇なく校庭へと飛び降りた。

 

「えっ、ちょっと!? 先生!?」

 

 セリカの悲鳴のような制止の声が響く中、白い着流しを風にたなびかせ、銀時は砂煙の舞う校庭へと着地すると響く銃撃音に怯む素振りすら見せず、死んだ魚の目を少しだけ鋭く光らせながら、真っ直ぐに武装集団の真っ只中へと歩みを進めていった。

 

「おい、見ろよ……あいつ、ヘイローがないぞ!?」

 

「はあ!? 本当だ、なんで生身の人間がこんなとこ歩いてんだよ!?」

 

 突如として戦場に現れた異物。ヘイローのない民間人を前に、カタカタヘルメット団の少女たちは困惑し、引き金にかかった指を思わず止めた。

 緊迫した空気が流れる中、銀時は彼女たちの数メートル手前まで悠然と歩み寄ると、事もあろうにこれ見よがしに鼻をほじり始め、そしてほじった指をパッと突き出し、気の抜けた声を上げる。

 

「あー、ごめんごめん。楽しそうなとこ悪いんだけどさ。ちょっと今、中の女の子たちが俺のせいで深刻なアイドルロスに陥ってて空気最悪なんだわ。だからお前ら、空気読んで後日にしてくんね?これから俺メンタルケアしてやんねーといけねーの。お前ら暇人と違って忙しいの。わかる?」

 

「……ハァ!?」

 

「何言ってんだこいつ!? ナメてんのか!!」

 

 あまりにも緊張感のない態度と理不尽な物言いに、困惑していたヘルメット団の少女たちの顔がヘルメットの中で瞬時に怒りで真っ赤に染まる。

 

「一般人が調子に乗ってんじゃねぇぞゴラァァァ!!」

 

「蜂の巣にして砂漠のゴミにしてやるわ!!」

 

 逆上した彼女たちの怒号と共に、十数丁の銃口が一斉に銀時へと向けられた。

 

「あーあ、怒っちゃったよ。これだから最近の若い子は沸点が低くて困る」

 

 銀時は無数の銃口を向けられながらも、怯むどころかやれやれと大袈裟に両手を広げてみせた。

 

「いいかお前ら。俺ぁここらの女の子らと違って弾一発で致命傷になっちまうか弱い男だぜ? そんなに一斉に撃ちまくったら弾がもったいないだろ。どーせなら一発で済ませた方が色々楽なんじゃねーの?」

 

 わざわざ自身の眉間を人差し指でトントンと叩き、これ見よがしに隙を晒してみせる。

 

「ほら、ここだよここ。ここに綺麗に一発ぶち込んでみろよ。それとも何、お前らテキトーにバカスカ撃つしか能のねえ下手っぴなわけ? 特に俺の目の前にいるお前。すげー銃口ブレてんじゃん。トイレでも行きてえの? 出すモン出しとかねーと体に悪いぜ、嬢ちゃん?」

 

「てんめぇ……! 死ねぇぇぇ!!」

 

 完全に挑発に乗ったヘルメット団の一人が、怒りで顔を真っ赤にしながらアサルトライフルを構え直した。銀時の眉間に狙いを定め、ギリ、と引き金にかけられた指に力がこもる。

 

「……ちょ、ちょっとあのバカ、本気で何やってんのよ!?」

 

 窓から身を乗り出したセリカが、狂わんばかりに叫び声を上げる。

 その隣では、アヤネが血の気の引いた顔で携帯端末の救急要請画面を開き、ノノミもさすがに笑顔を消して息を呑んでいた。

 

「ふわぁ……騒がしいなあもう、一体なに……ん、あの大人、どっかで……」

 

 その時、隣の部屋から桜色の髪を長く伸ばした少女、ホシノが眠そうに目をこすりながら窓から外を伺う。視界に入ったのはボサボサの白髪頭の男。何処かで見かけたような彼にふと首を傾げた。しかし、その彼が目の前の十数人の武装集団を前に自分の眉間を示して挑発している様子を目にし、そのオッドアイの瞳がわずかに細まった。

 

「死ねぇぇぇ!!」

 

 ヘルメット団の怒号が響き渡ると同時に、狙いを定めていた銃口から一条の火が噴き出された。音速を超えて男の眉間へと一直線に肉薄する、殺意の塊のような一弾。

 

 誰もが最悪の結末を確信した、その刹那だった。

 

 カァァァン!!! 

 

 静寂を切り裂くような、高く鋭い金属音が校庭に木霊した。

 

「──え?」

 

 引き金を引いたヘルメット団の少女が呆気に取られた声を漏らす。

 銀時の頭部が弾け飛ぶことはなかった。それどころか、男は一歩も動いてすらいない。ただ、いつの間にかその右手に握られていた『洞爺湖』と刻まれた一本の木刀が、男の顔の前で斜めに構えられていた。

 風圧で銀時の白髪が激しく揺れる。銃弾は、その木刀の刀身によって正確に、そして完璧に弾き飛ばされていた。

 

「おいおい、見惚れてる場合かよレディ達。一瞬の隙が命取りってモンだぜ!」

 

 ニヤリと不敵な笑みを浮かべた瞬間、銀時の身体が爆発的な踏み込みとともに前方へと突き抜けた。

 

「なっ──!?」

 

 ヘルメット団の少女たちが反応するよりも早く、白い残像が彼女たちの真っ只中へと滑り込む。

 

「まずは一本!」

 

「ふにゃっ!?」

 

 カァァァン!! と小気味いい衝撃音が響き、銃を撃った少女のヘルメットが激しく火花を散らした。脳震盪を起こした彼女が白目を剥いて崩れ落ちる。

 

「はい次!」

 

「あうっ!」

 

「そんでもって、お前もだ!」

 

「きゃあっ!?」

 

 残された少女たちが慌てて銃口を向けようとするが、銀時の手早い連撃がそれを完全に上回る。残像を残してしなる木刀が、一人、また一人とヘルメットの脳天を正確に捉えていった。

 

 カァン! カァン! カァン! と、戦場に乾いた打撃音がリズミカルに鳴り響く。一撃喰らうたびに、ヘルメット団の少女たちは反撃の機会すら与えられないまま、吸い込まれるように次々と地面へ倒れ伏し、意識を失っていった。

 

 ──────────

 

「────きゅぅぅ……」

 

「……はい、いっちょ上がり」

 

 最後の一人が目を回してとさ、と膝を崩したと同時に銀時は木刀を肩へと乗せ、トントンと自らの肩を叩く。

 そしてそれを眺めていた四人は目を見張った。

 

「う、嘘でしょ……」

 

 呆然と呟いたセリカは、窓枠を掴んだまま固まっている。彼女たちの視線の先には、文字通り全滅して転がっているカタカタヘルメット団の山。

 

「……あの数を一人で」

 

 シロコが小さく息を漏らす。その鋭い瞳は、倒れた少女たちではなく、その中心でだるそうに佇む男の姿に釘付けになっていた。

 

「しかもあんな木刀で……!」

 

 ノノミは信じられないものを見るように口元を押さえる。キヴォトスの常識では、木刀一本で銃火器を持った集団を、しかも無傷で制圧するなどあり得ない光景だった。

 

「やっぱりあの映像は本当だったんですね……!」

 

 アヤネは胸の前で携帯端末を強く握り締め、高鳴る鼓動を抑えきれずに叫んだ。

 

 彼女達が先ほどまで抱いていた幻滅や不審感は、目の前で繰り広げられた圧倒的な「現実」によって一瞬で吹き飛んでいた。画面の向こうのヒーローが今、確かに目の前にいる。

 

 そんな少女たちの驚愕の視線を背中に浴びながら、銀時はフゥとため息をつき、相変わらずの死んだ魚の目のまま、その場にどっこいしょと腰を落とした。そして、気絶して転がっているヘルメットの一人を、手にした木刀の先でツンツンと無遠慮につつく。

 

「ったく、炎天下の中で運動させんじゃねーよ。まだ飯食ってねーんだぞ俺。おかげでお腹と背中がくっつきそーなんだけど」

 

 その姿を窓から見下ろしながら、それまで黙って観察していたホシノだが、その鋭い視線は男の「本質」を正確に射抜いている。

 

(……へぇ。相手の攻撃を『一発』に絞らせたわけだ)

 

 ホシノの脳裏に、先ほどの挑発がフラッシュバックする。

 もしあの時、ヘルメット団が一斉射撃に踏み切っていれば、いくら銃弾を弾く技術があろうとも、ヘイローのない男の身体は流れ弾の嵐に耐えられなかったはずだ。

 

(一斉に撃たれたら危ないから、一番沸点の低そうなやつを煽って『狙い澄ました一発』に状況を誘導した。で、弾道も誘導した上でその一発を完璧に弾いて、相手が怯んだ一瞬で全員の懐に入り込んで一網打尽、か……)

 

 生身の人間でありながら、キヴォトスの戦闘の本質を完全に理解し、言葉一つで戦況をコントロールしてみせた。その卓越した戦闘勘と、冷徹なまでの状況判断力。

 

(……でも)

 

 ホシノは小さく奥歯を噛み締めた。

 一歩間違えれば、あの男の命は無惨に散っていたはずだ。そもそも相手が挑発に乗るとも限らない。何よりもヘイローを持たない生身の身体で、キヴォトスの銃弾を前にしてあんな危うい綱渡りをするなんて、狂気の沙汰としか言いようがない。ギャンブルにも程がある行為だ。

 他人のために平然と命を懸けてみせるそのやり方に、ホシノの胸の奥で、かつて失った「あの人」の面影と、言葉にできない焦燥感がチリリと燻る。

 

 窓の外では、危機を脱したことに感激した四人の後輩たちが、一斉に校庭の男へと駆け寄っていくのが見えた。セリカは相変わらず文句を言いつつもどこかホッとした様子で、シロコやノノミ、アヤネは目を輝かせてはしゃぎながら男を取り囲んでいる。

 そんな彼女たちの姿を部屋から静かに眺めていたホシノは、小さく舌打ちをした。

 全く、あの子達は調子が良いんだから。あんな無茶苦茶な大人に、変な憧れを抱いてほしくない。

 

 ホシノはふぅと一つ大きなため息をつくと、これから戻ってくるだろう五人を待つべく委員会の部屋のソファへと横たわるのだった。




明日試験ですが現実逃避してます。

これを予約してから本気出します。多分。
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