ブルーアーカイブ 透き通る青春よ永遠なれ   作:Jon.Do

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今朝、間違えて書き溜めていた分を投稿していたのを慌てて消したので初投稿です


第八話 おじさんとおっさんと

「あ〜、みんなおかえり〜」

 

 扉が開く音と共に四人の少女たちが、校庭での大立ち回りを終えた銀時を取り囲むようにしながら対策委員会の部屋へと戻ってきた。

 その気配を察したホシノは、横たわっていたソファから気だるげに身を起こすと、ひらひらと片手を振って見せる。

 

「ん、ホシノ先輩。やっと起きたんだ」

 

 シロコがいつもと変わらない淡々とした調子で歩み寄る。しかし、その後ろに続く後輩たちの興奮は、未だに冷めやらない様子だった。アヤネは救急キットを机に置きながら、上気した顔でホシノに詰め寄る。

 

「ホシノ先輩! 大変でしたが、本当に凄かったんですよ、この人!」

 

「おかげでこっちはヒヤヒヤしたわよ、もう! 急に窓から飛び降りるんだから、心臓が止まるかと思ったじゃない!」

 

 セリカは怒ったように肩を怒らせつつも、その表情には明らかな安堵が混ざっている。ノノミもまた、手にした端末の動画画面と銀時を交互に見つめながら、弾んだ声を出した。

 

「やっぱり、あの動画はフェイクなんかじゃなかったんですねぇ☆ ホシノ先輩も、今の戦いを見ていれば──」

 

「うへ〜、ちゃーんと見てたよ〜」

 

 口々に話題の中心にある白髪頭の大人を称賛する言葉が飛び交う。だが、肝心の発端となった当の本人はといえば、そんな少女たちの熱視線に照れを見せることなど微塵もなかった。ただただ面倒くさそうに頭をボリボリと掻きむしり、死んだ魚の目を一層だらしなく濁らせて気怠げに告げる。

 

「そんなことよりメシ食わせてくんね、メシ。いい加減、腹に何か入れてェんだけど」

 

 まったく締まらないその態度にセリカが眉根を寄せた、その時だった。

 

「……いやあ、すごい度胸だったよね〜。あんなふうにアイツらを挑発しちゃってさ。……んん、蛮勇の方が正しい、のかな?」

 

「……? ホシノ先輩……?」

 

 微かに棘のある言葉を口にしたホシノに、シロコが小さく首を傾げる。アヤネやノノミも、いつものおっとりとしたホシノの口調に混ざった、妙に冷たい温度に言葉を詰まらせた。

 ホシノは頭の後ろで両手を組んだまま、のっそりとソファから立ち上がり、銀時の目の前へと歩み寄る。そのオッドアイの瞳は、前髪の隙間から、まるで男の化けの皮を剥ぎ取ろうとするかのように鋭く注がれていた。

 

「いやさ〜、おじさん本当にびっくりしちゃった。ヘイローもない生身の身体で、アイツらの前にあんな無防備に立ち塞がるなんてさ。一歩間違えたら、先生ってば今頃きれーにハチの巣だったでしょ? ギャンブルにするには、ちょっと命の価値が軽すぎやしませんかねぇ?」

 

 部屋の空気はホシノのその言葉によって一瞬で張り詰める。その場にいた少女たちが、いつになく真剣なホシノの気迫に呑まれて言葉を失う中、その鋭い視線を正面から突き刺されている対象の銀時はといえば──。

 

 相変わらずの死んだ魚の目のまま、耳に小指を突っ込んで器用にほじくり始めていた。

 

「へいへい、ご忠告身に染み入りました。あと少しすりゃお前らに支援物資が届くだろーし、そしたら銀さんはお前らの背中でのんびり隠居してますよっと」

 

 ふぅ、と指先を吹いて気の抜けた声を出す男に、ホシノは肩の力を抜いて呆れたように目を細める。銀時はそんなホシノの視線を気にする風でもなく、自分のすぐそばに立っていたシロコへと顔を向けた。

 

「シロコ、だっけ。取り敢えず俺ココで暫く過ごすからテキトーな空き教室に案内してくんね? あとあれ、茶菓子も幾らかくれよ。マジで腹減って視界がクラクラしてきたわ」

 

 そう告げると、大きなあくびと共に廊下へと振り返り、その部屋から離れていく。

 

「……シロコちゃん、先生を案内してやって」

 

「……、ん、ん。わかった。ちょうどいいところ見繕ってくる」

 

 その背中を細めた眼差しで見送ったホシノは、自分と先生とを交互に見て落ち着かなさそうにしていたシロコへと告げ、彼女を行かせた。

 ぱたん、と扉が閉まると共に、再びホシノはソファへと腰掛ける。

 

「……ね、ホシノ先輩。一体どうしたって言うのよ。確かにあの人、パッとしないしだらしないけど……」

 

 セリカのその切り出しに、ノノミとアヤネがこくこく、と頷く。いつになくトゲのあった先輩の態度が、どうしても気にかかっていたのだ。

 するとホシノは、いつものように眠たげな手つきで頭を掻きながら、へらっとした笑みを浮かべた。

 

「……あーゆー大人はね、大抵碌でもないの。セリカちゃん達は影響受けちゃダメだよ〜」

 

 ──────────

 

 上履きの音と、木刀が壁にカツカツと当たる軽い音だけが響く校舎。

 前を歩くシロコの隣を銀時はだらしなく歩いていた。すると彼女が歩調を緩め、ぽつりと口を開く。

 

「……その、先生。さっきのホシノ先輩は……」

 

「あー、気にしてねーよ。ありゃアイツなりの心配からだろーし。あーゆーめんどくせえ女って珍しくもねーや」

 

 銀時は頭の後ろで両手を組み、フンと鼻を鳴らした。あのオッドアイの少女が向けてきた視線の「重さ」に心当たりがないわけではない。だからこそ、いちいち目くじらを立てる気にもならなかった。

 

「ほら、それより案内案内。銀さんのライフはもうゼロよ?」

 

「……ん。ここ」

 

 そう言ってシロコが立ち止まり、引き戸を開けたのは、対策委員会の教室から少し離れた日陰となる空き教室だった。埃っぽさはあるものの、直射日光が遮られていて幾分か涼しい。

 銀時は入るなり、教卓にどっこいしょと腰掛けた。シロコはバッグをごそごそと漁ると、小ぶりな袋を取り出して銀時に手渡す。

 

「これ、お茶菓子。クッキー」

 

「お、サンキュ」

 

 銀時は袋を破ると、中から丸いクッキーを取り出し、ぽりぽりと齧り始めた。口の中に広がる素朴な甘さに、ようやく死んだ魚の目が少しだけ人心地ついたように緩む。

 そんな男の様子をじっと見つめていたシロコだったが、少しだけ真面目なトーンで言葉を紡いだ。

 

「……でも、ホシノ先輩の言うことも一理ある。先生、少し無鉄砲すぎ」

 

「うっわ、オカンが増えた」

 

「オカンじゃない」

 

 ぷくー、と頬を膨らませるシロコ。そのどこか幼さの残る不満げな眼差しから視線を逸らすようにして、銀時は開け放たれた窓の外へと目を向けた。

 そこには、容赦なく照りつける太陽の下、じわじわと校舎の足元まで迫りつつある砂まみれの街が、ただ静かに広がっていた。

 

 そこには、容赦なく照りつける太陽の下、じわじわと校舎の足元まで迫りつつある砂まみれの街が、ただ静かに広がっている。

 

「……お前ら以外の生徒は?」

 

 銀時の不意の問いかけに、頬を膨らませていたシロコが寂しそうに目を細め、窓の側へと立った。視線の先では、かつて繁栄していたであろう街並みが、容赦なく砂に飲み込まれつつある。

 

「……みんな離れて行っちゃった。私がここに入学した頃には、もうこんな状態」

 

 ぽつり、ぽつりと落とされる静かな言葉。シロコは遠くを見つめたまま、小さく息を吐き出した。

 

「砂漠化と、それに対応するための出費。もうこの学校には、私たち五人しかいない」

 

「……ふうん」

 

 カリカリ、とクッキーを齧っていた銀時がそう気のない返事をすると、教卓からのっそりと腰を上げ、シロコの隣へと歩み寄って窓の外の景色に目を向けた。

 

「それでもお前らがここにいるってこたあ、大切な場所なんだろ。立派なもんじゃねーか。そこらの都会でキャピキャピ街遊びしたり、彼氏との惚気話しててもおかしくねえようなお年頃の女の子がさ、青春を丸ごと母校のために捧げるなんてよ」

 

 そう言って銀時は窓の縁に背を向け、そこに緩く腰掛けつつ隣のシロコを見下ろした。死んだ魚の目の奥に、ほんの少しだけ温かい光が宿る。

 

「……大切な居場所、守りてえか?」

 

「……ん、もちろん」

 

 シロコは迷うことなく、真っ直ぐに銀時の目を見返して頷いた。その瞳には、どんな砂嵐にも消せない強い意志が宿っている。

 それを見た銀時は、ふっと口元を緩めると、持っていたクッキーの袋をポケットに突っ込んだ。

 

「うっし、じゃあ先生として、あの口煩い先輩サマに意見具申するとしますかね」

 

 そう言って背をぐ、と伸ばし、身体をパチパチと鳴らす。そして、隣に立つシロコの灰色の髪を、大きな手でわしゃわしゃと緩く撫でてから、再び廊下へと足を向けるのだった。

 

「……撫でられた」

 

 頭を撫でられた感触にポカン、としているうちに、この空き教室でひとり佇んでしまったシロコ。

 いつも通りに結い上げられた灰色の髪。そのてっぺんに残る、大きくて、少し骨張った手の優しい感触を確かめるように、彼女はそっと自分の手を頭へと持っていった。

 

 キヴォトスにおいて「大人」とは、いつだって計算高く、あるいはアビドスを数字と利益だけで切り捨てるような、冷徹な存在ばかりだった。だからこそ、連邦生徒会から派遣されてきたというこの男に対しても、どこか一線を引いて見ていた部分はあった。

 

 けれど──。

 

『大切な居場所、守りてえか?』

 

 そう問いかけられた時の、あの男の優しい眼差し。

 銃弾を一本の木刀で叩き落とすような底知れない強さを持っているのに、驚くほどだらしのない大人。そんな背反した印象ばかりの男が、自分たちの無茶な戦い方をただ咎めるのではなく、その根底にある「アビドスを守りたい」という不器用な願いを、真っ直ぐに受け止めてくれた。

 思いもよらない大人の優しさに、シロコの胸の奥が、不思議とトクトクと静かに高鳴る。それは戦闘の興奮とは全く違う、温かくて、どこかくすぐったいような響きだった。

 

「……不思議な人」

 

 小さく呟き、シロコはふっと口元を緩める。

 いつまでもここで一人で浸っているわけにはいかない。あの先生のことだ、今頃また対策委員会の部屋でホシノ先輩と、しょうもない言い合いでも始めているかもしれない。

 頭に残る微かな熱を名残惜しそうに振り払うと、シロコはいつもの淡々とした、けれど少しだけ弾んだ足取りで、皆の待つ委員会の教室へと向かって歩き出した。

 

 ──────────

 

「──── へえ、先生もおじさんと同じこと思ってたんだねぇ。無鉄砲なことばかりの脳無しかなと思ったよ」

 

「いちいち毒づくんやめてくんない? 俺これでもガラスのハートなの。ドSは傷付きやすい生き物なの」

 

「ドSってなんですかぁ?」

 

「ノノミ先輩は余計なこと聞かなくていいから! もう!」

 

 シロコが教室へと入ると、やはりと言うべきか、銀時とホシノの間には微かな静電気が見えるような、ピリッとした空気が流れていた。ソファに身を任せたまま目を細めるホシノと、パイプ椅子に踏んぞり返って不満げに鼻を鳴らす銀時。

 しかし、その険悪そうな空気の裏で、二人の見据えている戦況は完全に一致していた。

 

「─── ふふ。言ったじゃん。先生の意見はおじさんと同じだって。アイツらヘルメット団の攻撃はまだ続く……」

 

「支援物資は届くようになりましたが、このままでは消耗戦ですからね……」

 

 ノノミが悲しげに俯くと、アヤネが手元の端末を確認しながら言葉を付け加える。

 

「はい。つい先ほど、連邦生徒会からの支援物資がパラシュートで屋上に降下されたのを確認しました。これで弾薬の補給は充分です。ですが、受け身のままではいつかジリ貧になります」

 

「だからこそ、さっきアイツらを打ちのめして、態勢が整ってない状況を見込んで……」

 

「「奴らの前進基地を叩く」」

 

 遮るようにして、銀時とホシノの声が綺麗に重なった。

 思わぬハモり方に、二人は一瞬だけお互いの顔を見合わせ、同時に「げっ」と言いたげに視線を逸らす。しかし、その言葉の重みに、シロコ、セリカ、ノノミ、アヤネの四人は静かに頷いた。

 

 四人が静かに、けれど力強く頷いたのを見届け、ホシノはソファからよっこらしょと腰を上げた。

 

「んじゃ、そうと決まれば善は急げだ。アヤネちゃん、敵の拠点の位置は?」

 

「はい、すでにドローンからの偵察データで割り出しています。ここから北東へ約三キロ、放棄された旧市街のビルを前線基地にしているようです」

 

 アヤネが即座に端末のホログラムマップを展開する。そこには赤く点滅するビルと、周囲の警戒ルートが示されていた。

 

「よし。シロコちゃん、セリカちゃん、ノノミちゃん。屋上から物資を回収して、すぐに色々と『お片付け』の準備をしよっか」

 

「ん、了解」

 

「さっさと終わらせてやるわ!」

 

 少女たちがそれぞれの愛銃を手に、一斉に部屋を飛び出していく。その頼もしい背中を見送りながら、銀時は未だにパイプ椅子に深く腰掛けたまま、盛大にため息をついた。

 

「いやいやいや、ちょっと待て。お前らだけで行ってこいよ。銀さんはほら、さっきので今日の分のカロリー使い切ってから通信機でオペレート──」

 

「何言ってるの、先生」

 

 部屋を出ようとしていたシロコが、不意に振り返って銀時の着流しの袖をぐいと引っ張った。その瞳には、先ほど頭を撫でられた時の微かな熱がまだ残っている。

 

「先生も行くの。作戦を立てたのは先生とホシノ先輩なんだから」

 

「おいシロコ人の袖を犬のリードみたいに引っ張るんじゃない。銀さんの大事な衣装が伸びるだろーが! ほら、ホシノ先輩サマも何か言ってやれよ!」

 

 助けを求められたホシノは、自身のショットガンを肩に担ぎ、へらりと笑ってみせた。

 

「うへ〜、先生。うちのシロコちゃんは一度狙った獲物は逃がさないからねぇ。諦めて年貢の納め時だよ〜」

 

「どこの猟犬だよ!?」

 

 銀時は頭をボリボリと掻きむしり、シロコに袖を引かれるまま渋々といった様子でパイプ椅子から立ち上がった。

 

 ──────────

 

 アビドスの広大な砂漠を突き進むこと数十分。

 

 照りつける太陽が砂を焼き、陽炎が揺れる視界の先に、アヤネの言っていた「旧市街のビル」が見えてきた。かつては立派なオフィスビルだったのだろうが、今は砂に埋もれ、カタカタヘルメット団の旗が無造作に掲げられている。

 ビルの周囲には、先ほどの敗戦を補うかのように、数十人のヘルメット団が物々しい警戒態勢を敷いていた。

 

「……敵の数は約四十。正面のバリケードには重機関銃も据え付けられていますね。まともに突っ込めば、いくら私たちでも足止めを喰らいます」

 

 物陰に潜み、双眼鏡を覗くアヤネの声に緊張が走る。

 セリカが銃を構え直し、「やっぱり正面突破は無茶よ。回り込む?」と提案しかけた、その時。

 

「……俺が正面から出て引きつけとくから、お前らはその間にチョチョイと迂回して横からガツンとやってくれや」

 

「ちょっと、バカ先生! 何言ってるのよ!?」

 

「ん、先生……それは危険すぎる」

 

 セリカとシロコが慌てて制止の声を上げる中、のっそりと物陰から出ようとする銀時の前に、一条の影が立ちはだかった。

 

 ホシノだった。前髪の隙間からオッドアイの瞳を鋭く光らせ、銀時を真っ直ぐに睨みつけている。

 

「……また、あの『蛮勇』にでもなるつもりなの? さっきも言ったはずだよ、先生。あんたは弾が当たったらそれでおしまいの弱っちい普通の人間なんだから。大人しく隠れててよ」

 

 冷たいトゲを含んだホシノの言葉。しかし、銀時は怯むどころか、やれやれと大袈裟にため息をついて頭をボリボリと掻きむしった。

 

「おいおい、勘違いすんなよ先輩サマ。俺ぁね、お前らがさっさと位置に着いて、一気に決めてくれるって信じてるからな。だからこそ、安心して囮になってやるっつってんの」

 

「……っ」

 

「信じる信じられるの等価交換だろ、こういうのは。じゃ、行ってくるわ」

 

 ホシノが息を呑む一瞬の隙を突き、白い影がのっそりと遮蔽物の外へと歩み出た。

 

 銀時はおかまいなしに、砂埃を上げて正面のバリケードへと真っ直ぐ歩いていく。当然、ヘルメット団の警戒網がそれを逃すはずがなかった。

 

「おい、あれを見ろ! さっき連絡が上がってたヘイローなしの男だ!」

 

「前哨基地まで攻め込みにきやがったか! 撃て! 蜂の巣にしろォ!」

 

 重機関銃の銃口が火を噴き、アサルトライフルの銃撃が一斉に銀時へと集中する。砂を巻き上げる弾幕の嵐。

 しかし、銀時は走るどころか、木刀を右手にだらりと下げたまま、信じられないほどの最小限の動きで頭を傾げ、上体を逸らし、すべての銃弾を「紙一重」で躱し続けていた。

 

 カツン、カァン! 

 

 どうしても避けきれない弾道だけを、最小の太刀筋で弾き飛ばす。弾丸が木刀の刀身に触れた瞬間、滑らかな手首のスナップによって、その軌道はすべてヘルメット団の足元の砂へと逸らされていた。

 

「な、なんだあいつ!? 弾が当たってねぇぞ!?」

 

「バケモノかよ!」

 

 恐怖に狂ったヘルメット団がリロードのために一瞬、引き金から指を離した。

 その刹那、銀時の死んだ魚の目が、ギラリと野獣のそれに変わる。

 

「──今だ、行けぇ! 」

 

 銀時の怒号のような合図が砂漠に響き渡った。

 

「ん、突撃」

 

 遮蔽物から飛び出したのは、シロコを先頭にしたアビドスの少女たちだった。

 銀時が敵の注意と弾幕を完全に引き付け、完璧に敵の意表をつける位置につけたのだ。これ以上の好機はない。

 

「アビドス高等学校対策委員会、お片付けの時間だよ〜!」

 

 ホシノがショットガン構えて突撃し、遮蔽物に隠れた敵を圧倒する。動揺した敵に向けて、ノノミのミニガンが圧倒的な面制圧の弾幕を浴びせた。

 

「お掃除しちゃいますねぇ☆」

 

「この、生意気なヘルメットどもがァ!」

 

 セリカのアサルトライフルが正確に敵の銃器を弾き飛ばし、シロコは流れるような身のこなしで敵の懐へと潜り込み、確実に無力化していく。

 銀時が作った完璧な「起点」によって、アビドス対策委員会の連携はヘルメット団を完全に圧倒していた。数の暴力など、今の彼女たちの敵ではない。

 

「ひ、ひえぇぇ! もうだめだぁ!」

 

 前線が一瞬で崩壊し、ヘルメット団の少女たちは武器を放り出してクモの子を散らすように逃げ惑い始める。

 わずか数分の出来事だった。カタカタヘルメット団の前哨基地は、アビドス対策委員会の圧倒的な猛攻によって、完全に壊滅したのだった。

 

 ──────────

 

 静まり返ったビルの跡地。

 

「ふぅ、これでお片付け終了、かな」と、ホシノが盾を下ろして息をつく。

 セリカやノノミ、アヤネもまた、勝利の余韻に浸りながら笑みを交わしていた。

 そんな中、シロコは真っ直ぐに、ひっくり返った折りコンの上にどっこいしょと腰掛けている銀時のもとへと歩み寄った。

 

「先生、怪我はない?」

 

「あるわけねーだろ。おかげさまで銀さんの大事なカロリーがまた消費されましたよ。あー、腹減った。もう動けん。一歩も動かんぞ俺は」

 

 相変わらずの日常トーンでぶつぶつ文句を言う銀時を見下ろし、シロコはふっと、今日一番の綺麗な笑顔を浮かべた。

 

「ん。先生、ありがと」

 

 その言葉と笑顔に、銀時はほんの少しだけ気恥ずかしそうに鼻をこすり、ふいと視線を砂漠の向こうへと逸らした。

 

「ハン、お前らが強かっただけだろーが。……ほら、帰るぞ。今度こそ銀さんに美味いもん食わせろよな」

 

「ん。柴関ラーメン、お奢りする」

 

「おいおい、ラーメンかよ! パフェは!? 糖分は!?」

 

「ら、ラーメンは今度にしなさいよ!? なにかその、別のものを……!」

 

「ふふ☆みんなで賑やかな夕ご飯にしたいですね☆」

 

『私、ご飯を炊いて待ってますね!』

 

 大騒ぎしながら歩き出す銀時と、その隣を嬉しそうに歩くシロコ。

 その二人の背中を後ろから眺めていたホシノは、担いだ銃の重みを感じながら、小さく口元を緩めた。

 

(……やれやれ。やっぱり、とんでもない大人を引っ張り込んじゃったみたいだねぇ、私たちは)

 

 カンカン照りのアビドスの砂漠の中。だらしないのにどこか危なっかしくて無鉄砲な男の背中を眺め、ホシノは小さく笑みを浮かべるのだった。




午前中は本当に申し訳ありません。実は結構な話数を書き溜めています。来週投稿する分を間違えて更新していました。


それと
土日はこの時間帯にも一話更新することにしました。

これからもよろしくお願いします。
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