コロッサル•バウンティ   作:担々餅

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すっげーって言ったら大体爆破される

 

 

『超空間跳躍座標:──■■-■■■-■■■■』

 

「よし、座標の入力は間違いねえな……」

 

フードを被った頭をガリガリと掻きながら、アルマはスマートフォンの画面とナビゲーションの画面を何度も往復させる。

 

 彼が向かっているのは、偶然見つけた場所ではない。星核ハンターの合算懸賞金『数百億信用ポイント』という天文学的な数字を目にしたその瞬間から、アルマの天才的な脳細胞は「いかにして彼らを効率よく、確実にハメて換金するか」という計算のためにフル回転していた。

 

 元より、他人の動きの『隙』を見抜く天賦の才だ。ネットの海に転がるカンパニーの暗号通信や、各地の賞金稼ぎギルドが流した極秘の目撃情報、その点と点を繋ぎ合わせ、彼らが次に現れるであろう時空座標を完全に割り出してみせたのだ。

 

すべては、一日でも早く労働を辞め、死ぬまでゴロゴロして暮らすため。

 

「待ってろよ、俺の不労所得(星核ハンター)……。大人しく俺のマイホームの土台になってくれ」

 

キィィィィィン、とシャトルのエンジンが限界近い駆動音を鳴らし、超空間(ワープ)の光が弾ける。

 

 光のトンネルを抜けた先に広がっていたのは、先ほどまでアルマが引きこもっていた、ただ緑が広がるだけの田舎星とは文字通り正反対の、欲望と虚飾が渦巻く眩い世界だった。

 

スターピースカンパニーの富豪たちが、夜な夜な星を買い取れるほどの富を賭けて狂う、ネオンと黄金に彩られた超巨大カジノリゾート都市──観光惑星『エルドラド・セカンド』。

 

「うわー……すっげ。どこを見ても金、金、金だな。眩しすぎて目が痛えよ」

 

シャトルを辺境のドックに預け、ストリートに降り立ったアルマは、思わず手で日差しを遮るようにして街を見上げた。時刻は夜のはずなのに、街全体を覆う純金のホログラムネオンと、ビル群から放たれるサーチライトのせいで、まるで白昼堂々のような明るさだ。

 

 道を歩くのは、カンパニーの高級役員や、他の一流惑星からやってきた大富豪、精度高くコントロールされた高級外車がビルの間を滑空していく。

 

 黒いラフなジャケットのフードを深く被り、そのジャケットの裾から覗く腰元に、細身の片手剣『ヘヴンズ』を無造作に差したアルマの姿は、この洗練された高級リゾート地においては完全に浮いていた。

 

だが、本人はそんなこと微塵も気にしていない。むしろ、観光地に来た中学生のように気楽な足取りで、きらびやかな街並みを値踏みするように眺めていた。

 

「よしよし、あいつらを一人でも捕まえて引き渡せば、あの金ピカのタワーの最上階を買い占めてプール付きの別荘にできるわけだ。……いや、待てよ。せっかく隠居するなら、やっぱり人が来ない静かな辺境の星の方がいいか。毎日こんなネオン見せられたら安眠できねえしな。でも、たまにはこういう美味いもんが密集してる星に遊びに来るのも──」

 

捕らぬ狸の皮算用、もとい、捕らぬ星核ハンターの隠居計画を一人でぶつぶつと呟き、脳内で未来のマイホームの間取り図を広げていた、まさにその時だった。

 

突如として、エルドラド・セカンドの美しい夜空が、一瞬だけ『静止』した。

 

直後──ドオォォォォォォン!!!

 

鼓膜を力任せにハジき飛ばさんばかりの、凄まじい大爆発音が街に轟いた。

 

 アルマの目の前にそびえ立っていた、カンパニーの象徴たる超豪華カジノタワー『ゴールド・パレス』の最上階が、まるで内側から巨大な獣に食い破られたかのように爆散したのだ。紅蓮 of 炎がドッと夜空を焼き焦がし、爆風がストリートの木々をなぎ倒していく。純金の装飾片とネオンのガラスが、きらきらと光る残酷なスコールとなって、悲鳴を上げる群衆の上へと降り注いだ。

 

「きゃあああああ!? 爆発!?」 

 

「襲撃だ! テロだ! カンパニーの防衛隊は何をしてるんだ!?」

 

「星核ハンターだ! 星核ハンターが街に火をつけたぞ!!」

 

さっきまで優雅に高級ワインを傾け、チップを積み上げていた富豪たちが、一転して泥を塗られたネズミのように顔を青くして逃げ惑う。パニックは一瞬で伝染し、欲望の楽園は瞬く間に阿鼻叫喚の火の海へと変貌していった。

 

だが、逃げ惑う人々の波、その人の津波に逆らうようにして、一人だけ「よっしゃあ!」と派手にガッツポーズをキメている男がいた。

 

 黒いジャケットのフードを頭からずらし、煤煙を突っ切るようにして、燃え盛るタワーを見上げるアルマである。

 

「本当にいやがった! 俺の計算通り、完全に座標が一致したじゃねえか! ラッキー!」

 

アルマの瞳は、恐怖など微塵もなく、むしろボーナス支給日を迎えた会社員のように輝いていた。

 

「警備が手薄になるのを待つ必要すらねえ。今すぐ引きずり下ろして、俺の残りの人生の養分(キャッシュ)になってもらう!」

 

アルマはジャケットの裾を軽く払い、腰に差した『ヘヴンズ』の柄に手をかけた。

 

 まだ抜かない。だが、その身体はすでに動いていた。上空から降ってくる巨大な瓦礫や、崩落したビルの鉄骨──常人なら押し潰されて即死するような質量を、アルマは天賦の才による圧倒的な動体視力で、まるですべてがスローモーションに見えるかのように見切っていく。

 

 鉄骨を足場にし、爆風を逆に推進力に変えながら、アルマは垂直の壁を一気に駆け上がっていった。重力を無視するかのようなその身のこなしは、まさに規格外の天才そのものだった。

 

タワーの最上階。かつて世界の富の数割が動くと言われた最高級VIPルームは、今や天井が丸ごと吹き飛び、夜空と炎が混ざり合う地獄の特設ステージと化していた。

 

 カンパニーが誇る最新鋭の重装防衛ロボットたちが、文字通り真っ二つのスクラップの山と化してそこら中に転がっている。火花を散らす鉄の死骸の真ん中で、二人の影が静かに佇んでいた。

 

「ふぅ……これでこの星の『星核』の回収は完了ね」

 

ワインレッドの髪を優雅に揺らし、手元の人型サイズの不気味な光を放つ物質──星核を、愛おしそうにケースへと収める女性。星核ハンターのカフカ。

 その隣には、自身の血で汚れ、古びた剣をだるそうに持ち、世界のすべてに飽きたような、死んだ魚のような目で佇む長身の男──刃がいる。

 

「終わったなら早く戻るぞ。ここにいると、不愉快な生の実感が湧く」

 

「焦らないの、刃ちゃん。銀狼のハッキングによる転送ゲートが開くまで、あと2分はあるわ。少し探索でも──」

 

カフカが懐から電子機器を取り出し、優雅に言葉を紡ごうとした、まさにその瞬間だった。

 

メラメラと燃え盛る炎のカーテンを、文字通り力ずくで引き裂きながら、一筋の閃光が猛烈な速度で空間を突っ切ってきた。 

 

 音を置き去りにするような、容赦のない必殺の一閃。

 

「見つけたぞ、俺のマイホーム代ぃぃぃ!!!」

 

「チッ……!」

 

死んだ目をしていた刃の瞳が、その瞬間、獰猛な肉食獣のように鋭く細まった。

 

 刃は剣を凄まじい風圧とともに振り下げ、その突撃を受け止めた。

 

──キィィィィィィィィィィン!!!

 

空気そのものが悲鳴を上げるような、硬質で、あまりにも巨大な金属音が響き渡る。

 

 アルマが腰元から神速で引き抜いた片手剣『ヘヴンズ』と、刃の剣から発生した衝撃波が球状に広がり、周囲の燃え盛る炎を丸ごと一瞬で吹き飛ばした。ガラスの破片が粉々に爆散し、夜空にきらきらと舞い散る。

 

「……ほう?」

 

刃の口から、驚きと、そしてかすかな歓喜の混じった声が漏れる。

 

 無理もない。刃が全力で構えた剣の防御に対し、突撃してきた若者──アルマは、細身の片手剣『ヘヴンズ』を、なんと【右手一本】で突き立てたまま、一切押し負けていなかったからだ。

 

アルマの持つ片手剣『ヘヴンズ』。それは彼が天賦の才を振るうための相棒であり、洗練された強者感のある、無駄のない美しい一本の刃。

 

 刃の大剣から伝わる圧倒的な質量と怪力を、アルマは最小限の角度、ミリ単位の剣の傾きだけで完全に『パキンッ』と綺麗にいなし、受け流してみせる。

 

「軽いな、あんた。本当にそんなに高い懸賞金がかかってんのか? 81億だろ? 額面詐欺だったら承知しねえぞ」

 

「カンパニーの猟犬かと思ったが……毛色が違うな。面白い、その軽口、いつまで叩けるか試してやる」

 

刃の死んだ目に、一瞬でどす黒い狂気の火が灯った。

 

 彼は剣を強引に振り抜き、アルマの首を刈り取らんと、常人では視認すら不可能な速度で連続の重撃を繰り出した。黒い剣閃が火の海を何度も一閃する。一撃一撃がビルを両断するほどの破壊力。

 

しかし、アルマはジャケットの裾を軽やかに翻しながら、ステップ一つでその猛攻を紙一重でかわし続けた。

 

 かわすだけではない。アルマは空いた左手でだるそうに自分のフードを直しながら、腰元からしなやかに躍る右手一本の『ヘヴンズ』だけで、刃の予測不可能な軌道から放たれる剣撃を、すべて正確に、そして優雅に弾き返していくのだ。

 

キンッ! カンッ! ギィィン!

 

火花が散るたびに、アルマの『天賦の才』が冴え渡る。刃がどれほど変幻自在に剣を振るおうと、その刃が到達する数瞬前の「隙」が、アルマの脳内にはハッキリと視線として見えていた。だから、最小限の動きで防げる。疲れることもない。

 

「あら、刃の剣とここまで正面から渡り合える人間が、この星にいたのね?」

 

後ろで見守るカフカが、細い眉を驚きに跳ね上げた。

 

 彼女の脳内には、組織のボスであるエリオから授けられた『脚本(予言)』のすべてが完璧に記憶されている。このエルドラド・セカンドでの任務において、星核ハンターは無傷で星核を回収して撤退する──それが「決定された運命」のはずだった。

 

だが、目の前で刃と互角で戦っている、この黒いジャケットの少年についての記述は、脚本のどこをどう探しても、一文字すら存在しなかった記憶がある。

 

エリオの予言が、完全に狂っている。

 

「ハハッ! 良い! 良いぞ小僧!!」

 

刃の笑い声が弾けた。不死の呪いのせいで、どれほど傷つこうが死ねず、退屈で鬱屈とした戦いばかりを強いられてきた彼にとって、アルマのこの「圧倒的な純粋の剣技」は、魂が震えるほど心地よい刺激だった。

 

「もっと来い! 俺を殺してみせろ、小僧! お前なら、俺の彼岸へ──!」

 

さらに踏み込みを強くし、己の命をも顧みない捨て身の特攻をかける刃。

 

「殺さねぇよ! 生け捕りの方が多分だけど賞金が高いんだよ! 大人しく俺の不労所得になれ!!」

 

アルマは叫びながら、一歩前へ踏み込んだ。

 

刃の刺突。そのわずかな脇の甘さを、アルマの天賦の才は見逃さない。

 

『ヘヴンズ』を鋭く斜め下から振り上げる。神速の一閃が、刃の強固な剣のガードを弾き飛ばし、彼の胸元を正確に捉えた。衣服が大きく切り裂かれ、鮮血が舞う。 

 

「──ッ!」

 

 刃の身体が、初めて大きく後方へとよろめいた。

勝負あり。そう確信し、アルマが追撃を仕掛けようとした、その瞬間だった。

 

二人の間に、空間を強制的に歪めるような、ネオンブルーの幾何学模様(ホログラム)が幾重にも出現した。

 

『もしもーし。カフカ、刃、時間切れ。カンパニーの中央本隊がようやく重い腰を上げて動き出したから、強制転送するよー』

 

端末の向こうから、いかにも退屈そうな、しかしどこか楽しげな少女──銀狼の声が響く。

 

同時に、カフカと、胸を大きく切り裂かれたはずの刃の足元が、眩い青い光の粒子に包まれ、彼らの身体が空間ごと透け始めていく。

 

「あ、おい待てクソガキ! 勝手に空間ハッキングしてんじゃねえ! 俺のマイホーム(数百億)を消すな!!」

 

アルマは焦って手を伸ばし、ヘヴンズを突き出そうとするが、空間転送の光は無情にも二人を包み込んでいく。

 

光の消えゆく寸前、カフカはアルマをじっと見つめた。

 

 その瞳には、計画を邪魔された怒りも、自分たちを襲ってきた者への恐怖もなかった。ただ、生まれて初めて「エリオの予言を力ずくでバグらせた存在」に対する、特大の興味と、そして深い親愛の情が灯っていた。

 

「フフ……私たちのために、そんなに必死に、命を懸けてここまで追ってきてくれたのね。わざわざ座標まで調べて……」

 

カフカは優しく微笑み、アルマに向けて投げキッスを送るような仕草をした。その表情は、まるで自分を命がけで迎えにきてくれた王子様を見るかのように慈愛に満ちていた。

 

「アルマ、って言ったかしら? 素敵な名前。──また会いましょうね、私たちの可愛いバグちゃん」

 

「違うわ!! 誰がお前らのために命懸けてるか! 俺が命懸けてるのは俺のスローライフであって、お前らのためじゃねえ!! 勘違いするな、話を聞けええええええ!!」

 

アルマの必死の絶叫が虚しく響き渡る中、青い光は完全に消失。

 

カフカと刃の姿は、影も形もなく、超空間の彼方へと消え去っていた。

後に残されたのは、ゴトゴトと崩れ落ちるタワーの残骸と、煤で汚れた黒いジャケットを着たアルマ一人だけ。

 

「……あーあ。また無職に逆戻りだ。せっかく引退できると思ったのに……」

 

アルマは『ヘヴンズ』をカチャリと腰の鞘に収めると、がっくりと膝をついて、頭を抱えた。

 

 銀狼のハッキングの余波のせいで、街全体のネットワークが麻痺している。これでは移動用のシャトルを呼び出すのにも一苦労だ。せっかくの最高級観光惑星なのに、カジノで遊ぶどころか、今日のご飯を食べる場所すら怪しい。

 

「世知辛い……マジで世知辛よ、この宇宙……。俺はただ、ゴロゴロしたいだけなのに……」

 

 § § §

 

彼が一人で爆発の煙の中で愚痴をこぼしている、まさにその頃。

 

 星核ハンターの秘密アジトへと帰還したカフカは、静かに佇むボスのエリオに向かって、どこか弾んだ声で報告していた。

 

「エリオ、脚本の修正が必要ね。……予言にはない、最高に強くて、最高に可愛い男の子を見つけちゃったわ。わざわざ私たちの座標を調べて、会いにきてくれたの」

 

その横で、刃は自分の胸の、すでに死生を繰り返して塞がりかけている切り傷を愛おしそうに指で撫でながら、ぼそりと呟く。

 

「アルマ、か……。あの剣、心地よかった。また俺を殺しに……いや、迎えにきてくれるだろうか」

 

アジトのモニターの裏では、銀狼がパチパチとキーボードを叩きながら、「アルマ」の個人データを画面に表示させていた。

 

「へぇ、エリオの脚本をバグらせるなんて最高じゃん。ねえカフカ、今度あいつ私のゲームの対戦相手に誘ってみてもいい? 結構気が合いそうだし」

 

さらに、暗闇の中で重厚な足音を立てて近づいてくる、巨大な機械の鎧──サム。その装甲の内部で、一人の少女(ホタル)もまた、モニターに映るアルマの姿をじっと見つめていた。

 

(予言にない人……。あんなに強いのに、なんだかすごく、必死な目をしていたな……)

 

本人はただ、早く仕事を辞めて、田舎の星で一生遊んで暮らしたいだけ。

それなのに、狙った獲物(星核ハンター)たちからは、文字通り特大の「クソデカ感情」と親愛を向けられてしまった最強の賞金稼ぎ。

 

アルマの不本意極まるスローライフへの道のりは、今、最強の化け物たちを巻き込んで、本格的に加速を始めるのだった。

 

 

 

 





刃はお母さんなので口数多めにしてます。
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